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法律記事MONOLITH LAW MAGAZINE

IT・ベンチャーの企業法務

ノルウェーの会社形態と機関設計を弁護士が解説

ノルウェーの会社形態と機関設計を弁護士が解説

近年、再生可能エネルギー、海運、水産、および先端技術分野において、日本企業によるノルウェーへの進出や投資、M&Aが活発化しています。ノルウェーは欧州経済領域(EEA)に加盟しており、その法制度はEU指令との高度な調和が図られていますが、同時に北欧諸国特有の「ノルディック・モデル」と呼ばれる独自の法的・社会的慣行を色濃く残しています。

特に、会社法領域における労働者の経営参加(Employee Representation)や、一定規模以上の企業に義務付けられるコーポレート・アセンブリー(Bedriftsforsamling、企業議会)といった制度は、株主主権を基調としつつも、ステークホルダー(利害関係者)間の対話と合意形成を重視するノルウェーの企業文化を象徴するものです。これらの制度は、日本の会社法(平成17年法律第86号)には直接的な対応概念が存在しないため、現地法人の設立や運営、あるいは買収後のPMI(Post-Merger Integration)において、日本企業が直面する最大の法的障壁となるケースが散見されます。

本記事では、ノルウェーでのビジネス展開を検討している日本の経営者や法務担当者を対象に、ノルウェーの会社法制の全体像を、日本の法実務との比較を交えながら詳説します。2025年の最新判例や、2024年から順次適用が拡大されているジェンダー・バランス義務化などの最新動向を網羅し、実務上のリスクと対応策を提示します。さらに、ノルウェーの二大会社法である「有限会社法(Aksjeloven)」および「公開有限会社法(Allmennaksjeloven)」を主たる根拠法とし、具体的な条文解釈と最高裁判例(Høyesterett)の分析を通じて、日本法との異同を浮き彫りにしていきます。

ノルウェー会社法の基本構造と二元的な法体系

日本の会社法が、公開会社と非公開会社(譲渡制限会社)を一つの法典の中で規律しているのに対し、ノルウェーでは1997年の法改正以降、会社の形態に応じて明確に二つの異なる法律が適用されます。

一つ目は「Aksjeselskap (AS)」、すなわち非公開有限会社です。これは1997年6月13日法律第44号「有限会社法(Lov om aksjeselskaper)」を根拠法とします。日本の「非公開会社」や特例有限会社に近い性質を持ちますが、小規模な家族経営から大規模な非上場企業まで広く利用されています。二つ目は「Allmennaksjeselskap (ASA)」、すなわち公開有限会社です。こちらは1997年6月13日法律第45号「公開有限会社法(Lov om allmennaksjeselskaper)」に基づきます。株式を一般公衆に募集(Public Offer)することが可能であり、オスロ証券取引所への上場を目指す企業や、金融機関などの特定業種はこの形態をとることが義務付けられています。

日本企業が現地法人を設立する場合、90%以上のケースでAS(非公開有限会社)が選択されます。これは、ASの方が資本金要件が低く、運営の柔軟性が高いためです。しかし、将来的なIPOや大規模な資金調達を想定する場合、あるいは法的にASA形態が要求される金融業等への参入の場合には、ASAの選択、あるいはASからASAへの組織変更(Conversion)が必要となります。両者の主な違いと日本の会社法との比較は以下の表の通りです。

比較項目ノルウェー:Aksjeselskap (AS)ノルウェー:Allmennaksjeselskap (ASA)日本:株式会社(非公開/公開)
最低資本金30,000 NOK(約40万円)1,000,000 NOK(約1,350万円)1円
株式の譲渡性原則として取締役会の同意が必要原則として自由譲渡(定款制限可)定款の定めによる(譲渡制限の有無)
証券登録任意(株主名簿での管理可)ノルウェー証券保管振替機関(VPS)への登録義務上場会社は振替制度、非上場は名簿
取締役の人数1名以上3名以上1名以上(公開会社は取締役会設置義務)
ジェンダー枠2024年より順次義務化以前より義務化(40%ルール)法的義務なし(CGコード等で推奨)
代表権者取締役会が決定ゼネラルマネージャー(Daglig leder)設置義務代表取締役(法定)

資本制度と設立手続の実務

ASの最低資本金は30,000 NOKと比較的低額に設定されており、現金のほか、現物出資(tingsinnskudd)も認められています。ただし、現物出資を行う場合は、独立した監査人(Revisor)による評価報告書が必要となり、その資産が「経済的価値を有し、譲渡可能であり、貸借対照表に資産として計上できるもの」である必要があります。日本の会社法における「検査役の調査」およびその例外(少額の場合や市場価格のある有価証券等)と比較すると、ノルウェーでは監査人の関与がより厳格に求められる傾向にあります。

設立に際しては、発起人(Stiftere)が「設立証書(Memorandum of Association)」および「定款(Articles of Association / Vedtekter)」を作成し、署名する必要があります。日本法と同様、定款には商号、本店所在地、事業目的、資本金額などの絶対的記載事項が含まれます。特に留意すべきは、設立登記が完了するまで会社は法人格を取得せず、その間の行為については発起人が個人的に連帯責任を負う点です。これは日本の設立中の会社の実務と同様ですが、ノルウェーでは「Foretaksregisteret(企業登録局)」への登録が効力発生要件として厳格に運用されています。

ノルウェーにおける機関設計の詳細と日本法との決定的相違

ノルウェーにおける機関設計の詳細と日本法との決定的相違

ノルウェーのコーポレート・ガバナンス構造は、一見すると日本のような取締役会設置会社に似ていますが、その内部構造、特に従業員の関与と監督機能の分化において決定的な違いがあります。

最高意思決定機関としての株主総会 (Generalforsamling)

株主総会は会社の最高機関であり、取締役の選任(コーポレート・アセンブリー非設置の場合)、定款変更、増資・減資、合併・解散、配当の承認などの基本的事項を決議します。日本の会社法における「株主総会万能主義」(取締役会非設置会社)と「所有と経営の分離」(取締役会設置会社)の中間的な性質を持ちますが、ノルウェーではASであっても取締役会が必須であるため、総会の権限は法律で列挙された事項および定款事項に限定されます。

招集手続に関しては、AS法では総会の7日前まで、ASA法では原則2週間前(上場企業は21日前)までに招集通知を発する必要があります。特筆すべきは、近年の法改正により、定款に別段の定めがない限り、株主総会の完全デジタル開催(Virtual Meeting)やハイブリッド開催が恒久的に認められた点です。コロナ禍における暫定措置から恒久化されたこの措置により、日本から親会社の担当者が物理的に渡航することなく、適法に総会決議を行うことが容易になりました。

また、少数株主権について、日本の会社法では総株主の議決権の3%以上を有する株主が招集請求権を持ちますが、ノルウェーではその閾値が異なります。AS(非公開)では資本金の10%以上を有する株主、ASA(公開)では資本金の5%以上を有する株主が権利を行使できます。この差異は、流動性の高い公開会社においてはより少数の持分で権利行使を認める一方、閉鎖的なASでは濫用的な請求を抑制し、経営の安定を図る趣旨と解されます。

取締役会 (Styret) における経営と監督の融合

すべてのASおよびASAは取締役会(Styret)を設置しなければなりません。取締役の人数はASでは1名以上、ASAでは3名以上とされています。ここで注意が必要なのは居住要件です。取締役の少なくとも半数(およびゼネラルマネージャー)は、ノルウェー、またはEEA(欧州経済領域)、英国、スイスの居住者でなければなりません。日本企業が現地法人を設立する際、日本からの駐在員のみで取締役会を構成することは法的に認められず、必ず現地居住者(国籍は問われませんが、居住実態が必要)を登用する必要があります。これは、法的責任の追及可能性を確保するための規定です。

権限と代表権に関しては、取締役会全体が会社を代表するのが原則であり、日本の「代表取締役」のように特定の役職者が自動的に単独代表権を持つわけではありません。特定の取締役やゼネラルマネージャーに署名権(Signatur)を付与するには、取締役会決議または定款の定めが必要です。実務上は、登記所(Brønnøysund Register Centre)において「取締役会長とゼネラルマネージャーが共同で署名する」あるいは「取締役2名の共同署名」といった形で代表権の行使方法を詳細に登録します。

業務執行責任者としてのゼネラルマネージャー (Daglig leder)

ASAでは設置が義務、ASでは任意(ただし一般的)とされるゼネラルマネージャーは、取締役会によって任命され、「日常業務(day-to-day management)」を遂行します。日本の「代表取締役社長」に近い存在ですが、法的には取締役会の下位に位置づけられ、取締役会の指示に従う義務があります。「日常業務」の範囲外、すなわち異常な性質を持つ事項や重大な重要性を持つ事項については、取締役会の決議を経なければなりません。また、ASAにおいては、ゼネラルマネージャーは取締役を兼任することができません(取締役と業務執行者の完全分離)。これは、監督機能と執行機能の混同を防ぐための措置です。

ノルウェーにおける労働者の経営参加

ノルウェーの会社法制において、日本企業が最も文化的・法的なギャップを感じるのが、従業員による経営参加の仕組みです。これは「産業民主主義(Industrial Democracy)」の理念に基づき、従業員が経営の意思決定に直接関与する権利を保障するものです。日本の会社法では、従業員代表が取締役会の構成員として議決権を持つことは一般的ではありませんが、ノルウェーでは、従業員数が一定の閾値を超えると、従業員は取締役会に代表を送り込む法的権利を有します。

従業員代表取締役選出のメカニズム

従業員数が30名を超える会社(ASおよびASA)において、従業員の過半数が請求した場合、従業員は取締役1名およびオブザーバー1名(およびそれぞれの代理人)を選出する権利を有します。日本企業が買収した現地法人が30名規模に成長した時点で、取締役会に「従業員代表」が加わる可能性があります。彼らは他の取締役と同等の議決権と情報アクセス権を持ちます。

さらに、従業員数が50名を超える場合、従業員は取締役の最大3分の1(かつ最低2名)を選出する権利を有します。例えば、取締役会が6名の場合、そのうち2名が従業員代表となります。これにより、取締役会での議論は、純粋な株主利益だけでなく、従業員の雇用や労働条件への配慮がより強く求められるようになります。

コーポレート・アセンブリー (Bedriftsforsamling)

従業員数が200名を超える企業においては、さらに強力な経営参加機関である「コーポレート・アセンブリー(Bedriftsforsamling)」の設置が原則として義務付けられます(ASA法 § 6-35)。この機関は12名以上(3で割り切れる数)で構成され、その3分の2は株主総会によって、残りの3分の1は従業員によって選出されます。

コーポレート・アセンブリーは、単なる諮問機関ではなく強力な法的権限を有します。まず、コーポレート・アセンブリーが設置されている場合、株主総会ではなく、この機関が取締役を選任します。これは、取締役選任プロセスに従業員の意思(1/3の議決権)を反映させるための仕組みです。また、取締役会およびゼネラルマネージャーの業務執行を監督するほか、大規模な投資(Investments of substantial scale)労働力の合理化・再編(Rationalization and restructuring)など、労働条件に重大な影響を与える変更については、取締役会単独ではなく、コーポレート・アセンブリーの決議が必要となります(§ 6-37)。

実務上は、多くの大規模企業で労働組合との書面による合意に基づき、コーポレート・アセンブリーを設置しない(オプトアウトする)選択をしています。その代償として、従業員は取締役会において、さらに1名の追加取締役を選出する権利、または取締役会に参加する代表者を2名追加する権利などを獲得します。200名を超える現地法人を買収または運営する際は、コーポレート・アセンブリーの設置状況や労働組合との代替協定を確認することが重要です。

ノルウェーにおけるジェンダー・バランスの義務化

ノルウェーにおけるジェンダー・バランスの義務化

ノルウェーは、2003年に世界で初めて上場企業(ASA)の取締役会における女性比率40%ルール(クオータ制)を導入した国として知られています。そして2023年末、この規制を大規模なAS(非公開会社)にも拡大する歴史的な法改正が行われました。改正AS法(§ 6-11a)により、総営業収益・金融収益が5,000万NOK(約7億円)超、または従業員数が30名超のいずれかを満たすASは、取締役会の構成においてそれぞれの性別(男性・女性)が少なくとも40%を占めるようにしなければなりません。

この規制は、以下の表の通り企業規模に応じて段階的に適用が開始されています。

期限適用対象企業
2024年12月31日まで総収益が1億NOKを超える企業
2025年6月30日まで従業員数が50名を超える企業
2026年6月30日まで従業員数が30名を超える企業
2027年6月30日まで総収益が7,000万NOKを超える企業
2028年6月30日まで総収益が5,000万NOKを超える企業

具体的な必要人数としては、取締役が3〜4名の場合は各性別から最大2名、5〜6名の場合は最大3名と定められており、9名以上の場合は各性別が少なくとも40%を占める必要があります。従来、日本企業のノルウェー子会社では、日本本社から派遣された日本人男性のみで取締役会を構成するケースが一般的でしたが、上記基準に該当する場合、そのような構成は違法となります。違反した場合、会社登記所による強制解散の手続きに移行するリスクがあるため、日本企業は現地法人の規模を確認し、必要に応じて女性取締役を新たに選任する準備を直ちに進める必要があります。

ノルウェーの少数株主権とM&Aにおける評価額論争

ノルウェー法における少数株主保護規定は、M&Aや完全子会社化(スクイーズアウト)の局面で重要な意味を持ちます。親会社が子会社の株式の90%以上(資本金および議決権の両方)を保有する場合、親会社は残りの少数株主に対して株式の強制取得(Squeeze-out)を行う権利を有し、同時に少数株主側からも親会社に対して自己の株式を買い取るよう請求する権利(Sell-out)が生じます(AS法 § 4-26, ASA法 § 4-25)。この手続は取締役会の決議のみで実行可能ですが、対価の公正性が争点となることが多々あります。

強制取得における株式の「適正価格」を巡っては、2016年の最高裁判決(HR-2016-1439-A, Bergshav Holding事件)が決定的な基準を示しています。最高裁は、少数株主には会社の「基礎的価値(underlying values)」の完全な比例的持分を受け取る権利があると判示しました。日本法では非上場株の評価においてマイノリティ・ディスカウント等の適用が議論されますが、ノルウェー最高裁は強制取得の文脈においてこれらのディスカウントの適用を原則として否定し、会社の資産価値(含み益を含む)をベースにした高めの評価額を認める傾向にあります。

また、少数株主(ASでは資本金の10%、ASAでは5%以上)は、会社運営に不正や不透明な点がある場合、地方裁判所に対して「調査(Investigation)」を請求することができます(AS法 § 5-25)。裁判所が「正当な理由」があると認めた場合、独立した調査官が選任され、会社の内部資料等に対する広範なアクセス権を行使して調査を行います。この制度はM&Aの対価や関連当事者取引の妥当性を巡り、少数株主が経営陣に圧力をかける戦術として利用される事例が増加しています。

ノルウェーの役員責任と厳格化する司法判断

ノルウェーの役員責任と厳格化する司法判断

ノルウェーの取締役責任は、日本法と同様に過失責任に基づきますが、特に企業の支払不能(Insolvency)局面における取締役の行動規範については、近年の判例により極めて厳しい責任が課されています。AS法/ASA法 § 17-1は、取締役等が職務遂行において故意または過失により損害を与えた場合の賠償責任を規定しています。

2025年9月、ノルウェー最高裁判所は、倒産状態にある会社の取締役が適時に破産申立(Winding-up petition)を行わなかったことに対する責任について画期的な判決を下しました(HR-2025-1841-A)。この事案では、実質的に支払不能に陥っていたにもかかわらず事業を継続させ、最終的に破産に至った会社の取締役に対し、最高裁は損害額を「適時に破産申立をしていれば会社が失わずに済んだであろう資産額(Operating Loss)」であると判示しました。つまり、無理な延命によって生じた営業損失の全額が賠償責任の範囲となり得るとされたのです。

この判決は、日本企業から派遣された取締役に対し、常に会社の自己資本と流動性を監視し、自己資本が適正な水準を下回った場合には直ちに対策を講じる義務があることを示唆しています。現地法人の業績が悪化した場合、日本本社の支援を待つ間も現地取締役は法的リスクにさらされており、状況によっては法的義務に従って迅速に行動(増資または破産申立)することが求められます。

ノルウェーの監査制度と小規模会社の監査免除

ノルウェーでは、伝統的にすべてのASに会計監査(Audit)が義務付けられていましたが、近年の改正により、一定の要件を満たす小規模会社は監査を免除(Opt-out)することが可能となりました。

具体的には、年間営業収益が700万NOK(約1億円)未満、貸借対照表の資産合計が2,700万NOK(約3.7億円)未満、平均従業員数が10名(フルタイム換算)以下の3つの基準をすべて満たすASは、株主総会の決議により監査人の選任を省略できます。監査免除を選択する場合、株主総会議事録を添付して企業登録局に届け出る必要があります。日本企業が小規模な販売拠点や駐在員事務所(支店ではなくAS形態の場合)を設立する際は、この免除規定を活用することで維持コストを削減できる可能性があります。

まとめ

ノルウェーにおける会社経営は、一見すると欧米型のスタンダードに沿っているように見えますが、その深層には「ステークホルダーの共存」と「厳格なコンプライアンス」を求める独自の法文化が流れています。

モノリス法律事務所として、ノルウェーへ進出する日本企業の皆様へは、以下の3点を特に意識されることをお勧めします。第一に、従業員数が30名、50名、200名を超えるごとに変化するガバナンス要件への事前の備えです。第二に、新たなAS法規制に対応したジェンダー・ダイバーシティの推進です。そして第三に、厳格化する取締役責任を踏まえた、現地法人の財務状況に対する厳格なモニタリング体制の構築です。

モノリス法律事務所では、こうしたノルウェー会社法の複雑な規定や最新の規制動向を踏まえ、現地法人の設立から運営、コンプライアンス対応に至るまで、日本企業の皆様の事業展開を幅広くサポートいたします。

弁護士 河瀬 季

モノリス法律事務所 代表弁護士。元ITエンジニア。IT企業経営の経験を経て、東証プライム上場企業からシードステージのベンチャーまで、100社以上の顧問弁護士、監査役等を務め、IT・ベンチャー・インターネット・YouTube法務などを中心に手がける。

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