弁護士法人 モノリス法律事務所03-6262-3248平日10:00-18:00(年末年始を除く)

法律記事MONOLITH LAW MAGAZINE

IT・ベンチャーの企業法務

アイスランドの会社形態と機関設計を弁護士が解説

アイスランドの会社形態と機関設計を弁護士が解説

アイスランドは、北大西洋に位置する人口約38万人の島国でありながら、豊富な再生可能エネルギーと高度な教育水準、そして欧州経済領域(EEA)の一員としての地位を活かし、国際的なビジネスのハブとしての重要性を高めています。日本企業がアイスランドへの進出や投資、あるいは現地企業との提携を検討する際、最初に直面し、かつ最も根本的な法的課題となるのが、同国における「会社形態の選択」と「機関設計(コーポレート・ガバナンス)」の問題です。アイスランドの会社法制は、他の北欧諸国と同様に、大陸法の影響を強く受けつつも、英米法的な柔軟性も一部取り入れた独自の体系を有しています。特に、1990年代のEEA協定発効に伴い、EUの会社法指令に準拠する形で抜本的な法改正が行われ、法的安定性と透明性が確保されました。

本稿では、日本企業がアイスランドに進出する際に最も一般的に利用される「私的有限責任会社(ehf.)」と「公的有限責任会社(hf.)」という2つの主要な会社形態に焦点を当て、それぞれの法的特徴、設立要件、そして機関設計のルールについて詳説します。日本の株式会社や合同会社との類似点や相違点を比較しながら、現地の法令や重要な判例(Hafskip事件など)に基づき、実務的な観点から解説を行います。また、近年厳格化されている実質的支配者の登録義務や、監査免除の基準、さらには取締役の居住要件に関するOECD加盟国特例など、最新の法改正や運用実態についても触れます。これらの知識は、現地でのコンプライアンスリスクを低減し、効率的な経営体制を構築するために不可欠なものです。

アイスランドにおける会社形態の体系と選択

アイスランドにおいて事業を行うための法的主体は多岐にわたりますが、外国企業が現地法人を設立する場合、有限責任が認められる会社形態を選択することが一般的です。アイスランドの会社法は、資本規模や株主数、株式の譲渡性などの観点から、大きく分けて「私的有限責任会社(Einkahlutafélag – ehf.)」と「公的有限責任会社(Hlutafélag – hf.)」の2つを規定しています。

これらはそれぞれ、1994年法第138号(ehf.法)および1995年法第2号(hf.法)という個別の法律によって規律されています。この区分は、EU法における「非公開会社」と「公開会社」の分類に対応しており、日本の会社法における「公開会社」と「譲渡制限会社(非公開会社)」の区分に近い概念ですが、設立要件やガバナンス構造において明確な違いが存在します。

私的有限責任会社と公的有限責任会社の比較

日本企業が現地子会社を設立する際、最も重要な決定事項の一つが会社形態の選択です。一般的に、中小規模の事業や、親会社が100%出資する完全子会社の場合は「私的有限責任会社(ehf.)」が選好され、大規模な資金調達や株式上場を視野に入れる場合は「公的有限責任会社(hf.)」が選択されます。両者の主な法的要件の差異を以下の表にまとめました。

比較項目私的有限責任会社 (ehf.)公的有限責任会社 (hf.)
根拠法私的有限責任会社法 (No. 138/1994)公的有限責任会社法 (No. 2/1995)
最低資本金500,000 アイスランドクローナ (ISK)4,000,000 アイスランドクローナ (ISK)
株主数最低1名(個人または法人)最低2名
取締役会の構成株主が4名以下の場合は1名で可(要予備役員)最低3名(CEOと取締役会長は兼任不可)
株式の譲渡定款等による譲渡制限が一般的(閉鎖的)原則自由譲渡(証券市場への上場が可能)
監査義務規模により免除規定あり原則として公認会計士による監査が必須
主な用途完全子会社、中小企業、持株会社上場企業、銀行、保険会社

私的有限責任会社(ehf.)の実務的メリット

私的有限責任会社(ehf.)は、アイスランドで最も広く利用されている会社形態です。その最大の特徴は、設立と運営の簡便さにあります。最低資本金が50万ISK(約50万円前後)と比較的低額に設定されているため、初期投資を抑えて事業を開始することが可能です。また、株主が1名でも設立可能である点は、日本企業が単独で現地法人を設立する場合に非常に有利です。日本の株式会社と同様に、株主の責任は出資額を限度とする有限責任ですが、株式を証券市場で公募することはできず、定款によって株式譲渡に先買権などの制限を設けることが一般的です。これは、経営の安定性を保ち、望ましくない第三者の参入を防ぐ効果があります。

公的有限責任会社(hf.)の役割と規制

一方、公的有限責任会社(hf.)は、より大規模な事業展開や、不特定多数からの資本調達を想定した形態です。最低資本金は400万ISKと高く設定されており、設立には最低2名の発起人が必要です。金融機関や保険会社など、特定の業種については、法律によりhf.形態での設立が義務付けられています。この形態の最大の特徴は、株式をNasdaq Icelandなどの証券取引所に上場できる点にあります。そのため、厳格な情報開示義務や、より重層的なガバナンス体制が求められます。例えば、取締役会は必ず3名以上で構成されなければならず、経営の透明性を高めるための法的措置が講じられています。

アイスランド企業の機関設計とコーポレート・ガバナンス

アイスランド企業の機関設計とコーポレート・ガバナンス

アイスランドの会社法における機関設計は、株主総会を最高意思決定機関とし、その下に取締役会(Board of Directors)、そして最高経営責任者(CEO / Managing Director)を置く構造が基本となります。これは日本の取締役会設置会社と類似していますが、業務執行と監督の役割分担において、北欧法特有の考え方が反映されています。

株主総会の権限と運営

株主総会は、会社の基本的な枠組みや重要事項を決定する最高機関です。定款の変更、取締役および監査人の選任、年次決算の承認、配当の決定などは、株主総会の専決事項とされています。公的有限責任会社(hf.)では、株主総会の招集手続きが厳格に定められており、通常は総会の1週間前(上場企業の場合はさらに早まる)までに招集通知を発する必要があります。

一方で、私的有限責任会社(ehf.)においては、全株主の同意があれば、招集手続きを省略して開催することが認められており、実務上、親会社単独株主のケースでは書面決議に近い形で迅速な意思決定が行われることがよくあります。会議は原則としてアイスランド語で行われますが、定款に定めることで英語での開催や議事録作成も可能です。これは国際的なビジネスを展開する企業にとって重要な柔軟性です。

取締役会の構成と居住要件の特例

取締役会は、会社の業務執行を監督し、経営の基本方針を決定する機関です。ここでの大きな特徴は、会社形態によって求められる構成員数が異なる点です。公的有限責任会社(hf.)では常に3名以上の取締役が必要ですが、私的有限責任会社(ehf.)では、株主が4名以下であれば取締役を1名または2名とすることができます。ただし、取締役が1名の場合は、その取締役が不在の場合に備えて必ず「予備役員(Reserve Director)」を選任しなければなりません。

日本企業にとって特に留意すべきは、取締役の居住要件です。アイスランド法(ehf.法第42条、hf.法第66条)は、原則として取締役の過半数およびCEOがアイスランド居住者であることを求めています。しかし、ここには重要な例外規定があります。欧州経済領域(EEA)加盟国、または経済協力開発機構(OECD)加盟国の居住者は、この居住要件を満たすものとみなされます。

日本はOECD加盟国であるため、日本在住の日本人がアイスランド法人の取締役に就任することは法的に可能です。これにより、必ずしもアイスランド現地に日本人駐在員を置かずとも、日本本社からコントロール可能な取締役会を組成することができます。ただし、登記申請時には、居住証明書やOECD加盟国であることの証明など、煩雑な書類手続きが求められる場合があります。

最高経営責任者(CEO)と取締役会の権限分掌

アイスランドの会社法では、取締役会とCEO(アイスランド語でFramkvæmdastjóri)の役割分担が明確に定義されています。CEOは取締役会によって任命され、「日々の運営(Daily Operations)」を担当します。これに対し、取締役会は「異常または重大な措置(Extraordinary or Major Measures)」についての意思決定権限を持ちます。

「日々の運営」とは、通常の商取引や人事管理などを指しますが、長期的な戦略変更や多額の借入、不動産の売買といった重要事項は、CEO単独では決定できず、取締役会の承認が必要です。この権限の線引きは、企業の規模や定款の定めによっても変わりますが、法的な原則として監督機能(取締役会)と執行機能(CEO)が分離されている点は重要です。なお、公的有限責任会社(hf.)では、ガバナンス強化の観点から、取締役会の会長がCEOを兼任することは法律で禁止されています。

アイスランドにおける会計監査と財務報告の義務

アイスランドにおける会計監査と財務報告の義務

アイスランドの企業は、透明性の高い会計報告が義務付けられており、年次財務諸表を作成し、企業局(Register of Annual Accounts)に提出しなければなりません。会計基準は国際財務報告基準(IFRS)およびEU会計指令に準拠しています。

監査義務と免除基準

監査制度に関しては、会社形態と規模に応じた区分が設けられています。すべての公的有限責任会社(hf.)は、国家公認会計士(State Authorized Public Accountant)による監査を受ける義務があります。これに対し、私的有限責任会社(ehf.)については、一定の規模を下回る場合、監査を免除される制度があります。

具体的には、連続する2会計年度において、以下の3つの基準のうち2つを超えない場合、公認会計士による完全な監査は不要となり、より簡易な検査役による確認や査閲で済ませることが可能です。

  1. 総資産が一定額以下(近年の基準では数億ISK程度)
  2. 売上高が一定額以下(近年の基準では10億ISK超程度)
  3. 平均従業員数が50名以下

2024年の法改正やインフレ調整により、これらの金額基準(閾値)は引き上げられる傾向にあります。日本企業が設立する現地法人が、初期段階で小規模な運営を行う場合、この監査免除規定を適用することで、管理コストを大幅に削減できる可能性があります。

アイスランドにおける役員の責任とHafskip事件の教訓

アイスランドにおいて取締役やCEOに就任する場合、その法的責任の重さを認識しておく必要があります。役員は会社に対して善管注意義務と忠実義務を負い、これに違反して会社や第三者に損害を与えた場合、個人的な損害賠償責任を負う可能性があります。

この点に関して、アイスランドの企業法務において頻繁に参照されるのが、1990年代初頭の「Hafskip事件」です。Hafskip社はかつてアイスランドの大手海運会社でしたが、経営陣による不正な資金操作や粉飾決算が明るみに出た後、経営破綻しました。この事件に関する最高裁判決(Hrd. 1991:936等)において、会社のCEOだけでなく、取締役会の会長やメンバーに対しても、十分な監督責任を果たさなかったとして、刑事責任を含む厳しい法的責任が問われました。

この判例は、取締役が単なる「名誉職」ではなく、実質的な監視義務を負うことを明確にしたものであり、現在のコーポレート・ガバナンスの実務にも強い影響を与えています。日本から非常勤取締役を派遣する場合であっても、定期的な取締役会の開催と議事録の確認、財務状況の把握など、実質的な監督を行う体制構築が不可欠です。

まとめ

アイスランドでのビジネス展開は、EEA市場へのアクセスや豊富な資源活用という大きな魅力がある一方で、欧州法と独自法が融合した法規制への適格な対応が求められます。特に、会社形態の選択(ehf.かhf.か)、居住要件をクリアした機関設計、そしてHafskip事件の教訓を踏まえた役員責任のリスク管理は、進出初期における最重要課題です。

モノリス法律事務所では、アイスランドの会社法制や実務に精通した知見を活かし、貴社の事業目的に合致した最適な会社設立スキームの提案から、定款の作成、現地当局への登記申請、そして設立後のガバナンス体制構築に至るまで、包括的なサポートを提供いたします。本稿で解説した法令や判例の詳細、あるいは具体的な設立手続きに関するご相談がございましたら、お気軽にお問い合わせください。

弁護士 河瀬 季

モノリス法律事務所 代表弁護士。元ITエンジニア。IT企業経営の経験を経て、東証プライム上場企業からシードステージのベンチャーまで、100社以上の顧問弁護士、監査役等を務め、IT・ベンチャー・インターネット・YouTube法務などを中心に手がける。

シェアする:

TOPへ戻る