ベトナムの薬機法・医療機器規制を弁護士が解説

ベトナム社会主義共和国(以下、ベトナム)におけるビジネス展開を検討される日本の経営者や法務部員の皆様に向けて、同国の医療機器規制について詳細に解説いたします。ベトナムの医療機器市場は、経済成長と医療インフラの整備に伴い、急激な拡大を続けています。日本の高品質な医療機器に対する需要も高く、絶好のビジネスチャンスが広がっています。しかし、その市場に参入するためには、独自の法体系であるベトナムの医療機器規制を正確に理解し、適切な法務戦略を構築することが不可欠です。
ベトナムの医療機器規制は、ASEAN医療機器指令(AMDD)に準拠して設計されており、保健省(MOH)の医療機器・建設局(DMEC)が中心となって管轄しています。主な規制の特徴として、リスクに基づいたAからDまでの4つのクラス分類が採用されており、ベトナム国内での販売には流通許可(Circulation Number)の取得が義務付けられています。以下に、本記事で解説するベトナムの医療機器規制に関する全体の要点をまとめます。
第一に、リスク分類と管轄当局についてです。クラスA(低リスク)は各省の保健局が管理し、クラスB、C、D(中・高リスク)は主に保健省(MOH)が管理するという構造が基本となっています。政令98号の施行により一部の手続きの簡略化が図られていますが、リスクの高い製品に対する厳格な審査体制は維持されています。
第二に、外国メーカーに対する現地代理人の指定義務です。ベトナムに拠点を持たない日本企業が自社製品を輸出・販売する場合、必ず現地のライセンスを保有する代理人を指定しなければならず、この代理人が流通許可の保有者となります。日本における選任製造販売業者(DMAH)制度とは異なり、現地代理人が強い権限を持つため、契約解除時のトラブルなどを想定したスキーム構築が重要となります。
第三に、流通許可の有効期間に関する変遷と猶予措置です。従来、クラスAは永続的である一方で、クラスBからDの流通許可は5年間有効とされており、定期的な更新手続きが企業にとって大きな負担となっていました。最新の政令ではこれが無期限へと移行する動きがありますが、行政手続きの遅延から、2025年1月1日以降に完全な登録規制の対象となる予定であったクラスCおよびDの医療機器に対する要件が、政令04/2025/ND-CPによって2025年6月30日まで延長されるなど、制度は過渡期にあります。
第四に、厳格なラベル規制です。政令89/2006/ND-CPを出発点とし、現在は改正された法令に基づき、ベトナム語による詳細なラベル表記が必須となっています。原産地の表示方法など、日本法よりも具体的な記載が求められる点に注意が必要です。
第五に、登録申請時の審査要件です。一部の例外を除き、登録申請前には製品の臨床評価レポートやASEAN共通提出書類テンプレート(CSDT)に基づく膨大な技術文書の提出が求められます。
最後に、行政処分と判例から見える法的リスクです。法定要件を満たさない医療機器の取引は、行政からの高額な罰金や製品回収の対象となるだけでなく、民事上の売買契約においても契約不履行とみなされる判例が存在します。
本記事では、これらの要点を踏まえ現在のベトナム医療機器規制の根幹をなす政令98/2021/ND-CP(およびその改正政令である政令07/2023/ND-CP、最新の政令04/2025/ND-CP)を中心に、日本の医薬品医療機器等法(薬機法)との異同を交えながら、日本企業がベトナム市場で成功を収めるための実践的な法的アプローチを詳述します。
この記事の目次
ベトナムにおける医療機器規制の基本構造
ベトナムにおける医療機器の管理規制は、長らく複雑な変遷を辿ってきましたが、2022年1月1日に施行された政令98/2021/ND-CPによって、近代的な規制体系へと大きく刷新されました。この政令は、従来の政令36号や169号を統合および廃止し、ASEAN医療機器指令(AMDD)と整合性を持たせた包括的な法的枠組みを提供するものです。以前の規制下では、保健省による事前承認制度に重きが置かれており、行政手続きの煩雑さが市場参入の大きな障壁となっていました。しかし、新たな政令98号のもとでは、リスクベースのアプローチが明確に打ち出され、一部の低リスク製品に関する事後市場監視への移行が図られました。この政令98/2021/ND-CPに関する公式な解説や英語の条文構成は、以下のウェブサイトで確認することができます。
日本の医薬品医療機器等法(以下「薬機法」)が、国内の薬害の歴史や長年の医療行政の積み重ねの中から独自に高度化してきたのに対し、ベトナムの規制はASEAN域内の経済統合と規制調和という外部からの要請に基づいて、トップダウンで国際基準を取り入れている点に大きな特徴があります。そのため、制度の枠組み自体は欧米や日本の基準に近い合理的なものとなっていますが、実際の行政機関における運用能力が法律の要求水準に追いついていないという課題を抱えています。ベトナムでのビジネス展開においては、法律の条文だけでなく、行政の運用実態や度重なる経過措置の延長をリアルタイムで把握することが求められます。
ベトナムにおけるリスクに基づくクラス分類と管轄当局の相違

ベトナムにおける医療機器は、患者や使用者に対する潜在的なリスクレベルに応じて、クラスAからクラスDまでの4段階に分類されます。クラスAは低リスク、クラスBは低中リスク、クラスCは中高リスク、そしてクラスDは高リスクと定義されています。この分類体系は、日本の薬機法における一般医療機器(クラスⅠ)から高度管理医療機器(クラスⅣ)までの4段階分類と概念的には非常に似通っています。しかしながら、規制当局の管轄と手続きのプロセスにおいて、日本法とベトナム法の間には極めて重要な違いが存在します。
日本の法制度では、クラスⅠの機器は独立行政法人医薬品医療機器総合機構(PMDA)に対する製造販売届出で足りますが、クラスⅡの一部やクラスⅢは登録認証機関による第三者認証またはPMDAによる承認が必要となり、最高リスクのクラスⅣはPMDAによる厳格な承認審査が義務付けられています。これに対してベトナムでは、クラスA(低リスク)の医療機器は製造元または現地代理人が所在する各省の保健局(Department of Health)に対する適用基準の宣言を通じた通知手続きの対象となります。一方で、よりリスクの高いクラスB、クラスCおよびクラスDの医療機器については、原則として中央省庁である保健省(MOH)の医療機器・建設局(DMEC)による管理のもと、正式な製品登録と流通許可の取得が義務付けられてきました。
ただし、最新の政令98号の施行に伴う規制改革の過程において、行政の負担軽減を目的として、クラスBの医療機器についても保健局への通知手続きによる市場投入を認める方向へと制度が移行しつつあります。しかしながら、クラスBからDまでの機器を中・高リスクとみなし、保健省が強い監視権限を維持しているという基本構造を理解しておくことが重要です。
| 比較項目 | 日本(薬機法) | ベトナム(政令98/2021/ND-CP等) |
| 管轄当局 | 厚生労働省・PMDA・都道府県 | 保健省(MOH)・各省保健局 |
| 基準 | 国内独自のJMDN・JIS等 | ASEAN医療機器指令(AMDD) |
| クラスⅠ / A | 一般医療機器(届出) | 低リスク(保健局への通知・永続的) |
| クラスⅡ / B | 管理医療機器(認証・承認) | 低中リスク(保健省管理・通知への移行期) |
| クラスⅢ / C | 高度管理医療機器(認証・承認) | 中高リスク(保健省による厳格な登録審査) |
| クラスⅣ / D | 高度管理医療機器(厳格な承認) | 高リスク(保健省による厳格な登録審査) |
日本においては、中リスク機器であっても民間の登録認証機関を活用した迅速な市場投入ルートが整備されていますが、ベトナムでは民間認証機関へのアウトソースが進んでおらず、中央政府の保健省に審査が集中する構造となっています。この構造的な違いから、ベトナムでは審査プロセスに著しい遅延が生じやすいということが言えるでしょう。
ベトナムにおける登録審査の手続きと優先審査ルートの活用
ベトナム保健省は、審査の透明性と国際基準への合致を推進するため、クラスCおよびDの医療機器の登録申請において、一部の例外を除き、製品の臨床評価レポートやASEAN共通提出書類テンプレート(CSDT)の提出を義務付けています。CSDTは、製品の技術的詳細、設計図、製造プロセス、リスクマネジメント、臨床評価データに至るまで、極めて広範かつ詳細な情報を要求するため、日本企業は申請準備に多大なリソースを割く必要があります。
当初、このCSDTフォーマットでの提出は早期の義務化が予定されていましたが、ベトナム国内の行政および企業の準備不足から、政令07/2023/ND-CPの施行により義務化の時期が2024年1月1日に延期されました。この技術文書の審査は非常に厳格であり、保健省から修正や追加資料の提出を求められた場合、限られた回数(最大3回まで等)で基準を満たさなければ、申請自体が却下され、最初から申請をやり直す必要が生じます。しかしながら、政令98号は外国メーカーにとって非常に有利な優先審査ルート(Fast-track approval)を規定しています。日本の厚生労働省やPMDA、米国食品医薬品局(FDA)、欧州連合加盟国などで既に自由販売証明書(CFS)や市場承認を取得している医療機器については、ベトナムにおける迅速な承認プロセスの対象となります。
日本で既に承認を取得している製品をベトナムに展開する場合、この優先審査ルートを活用することで、大幅な期間短縮が見込まれます。この制度設計から、自国における審査リソースの不足を、先進国の規制当局の審査結果を準用することで補完するというベトナム政府の方針があるということが言えるでしょう。日本の経営者や法務部員としては、日本国内での承認実績を最大限に活用し、ベトナム進出のコストと時間を削減する戦略を立てることが推奨されます。
ベトナムの外国メーカーに義務付けられる現地代理人制度の実務

日本企業がベトナムの医療機器市場に参入する上で、最も注意を払うべき法務上の論点が、現地代理人の指定義務です。ベトナムの法律では、外国の医療機器メーカーが直接ベトナム当局に対して流通許可を申請することは認められておらず、ベトナム国内に拠点を置くライセンスを保有した現地企業を代理人(Marketing Authorization Holder:MAH)として指定しなければなりません。
この制度は、日本の薬機法における選任製造販売業者(DMAH)制度に類似しているように見えますが、実務上の法的リスクには大きな隔たりがあります。日本の場合、外国特例承認制度を利用することで、外国製造業者が自らの名義で製品承認(無体財産権)を取得し、国内の選任製造販売業者は市販後の品質管理や安全管理などの限定的な役割を担うというスキームの構築が可能です。これにより、外国企業は日本の代理人との契約を解除した場合でも、承認という権利を自らの手元に残し、別の代理人に容易に変更することができます。
一方でベトナムの法制度下では、現地代理人が実質的な流通許可の保有者となります。そのため、現地の販売代理店(ディストリビューター)を流通許可の保有者として登録した場合、将来的にその販売代理店とビジネス上のトラブルが発生し、契約を解除しようとした際に、重大なホールドアップ問題が発生します。すなわち、販売代理店が流通許可の移転に同意しない限り、日本企業は自社の製品でありながらベトナム市場での販売が事実上不可能になってしまうのです。このような致命的な法的リスクを防ぐため、日本企業は単なる販売代理店に流通許可の申請を委任するべきではありません。
対応策としては、ベトナム国内に自社の完全子会社(現地法人)を設立し、その現地法人に流通許可を取得させる方法が最も確実です。あるいは、製品の販売には関与しない独立した第三者のコンサルティング企業や規制専門業者をMAHとして起用し、純粋に法務・規制対応のみを委託するという防衛的なガバナンス戦略を採用することが強く推奨されます。契約書を作成する際にも、契約終了時における流通許可の無条件かつ無償での移転義務や、移転手続きへの協力義務を極めて詳細に規定しておく必要があります。
ベトナムにおける流通許可の有効期間と最新の法令に基づく延長措置
ベトナムにおける流通許可の有効期間の取り扱いは、法改正によって大きく揺れ動いている領域です。従来の規制下では、クラスAの医療機器の流通許可は永続的である一方で、クラスB、クラスC、およびクラスDの医療機器の流通許可は「5年間有効」と定められていました。この5年ごとの更新手続きは、膨大な書類の再提出を伴い、企業にとって極めて重い負担となっていました。
しかし、政令98/2021/ND-CPの施行に伴う規制改革により、この有効期間に関する原則が大きく転換されました。行政手続きの合理化と企業の負担軽減を目的として、すべてのクラスにおける医療機器の流通許可(登録番号)が、原則として「無期限」で有効となる旨が法律上明記されました。これは、一度取得した流通許可は、重大な法違反や安全上の問題による取り消し事由が発生しない限り、更新手続きを要することなく永続的に有効となることを意味します。製品ライフサイクルの長い医療機器を取り扱う日本企業にとって、この無期限化は極めて好ましい法的環境の整備と言えます。
しかしながら、ベトナムにおける行政実務は、法律の条文通りに円滑に進まないことが常態化しています。新制度への移行に伴い、保健省にはクラスCおよびDの登録申請が殺到し、審査体制が完全にパンクするという事態に陥りました。当初の計画では、2025年1月1日以降、すべてのクラスCおよびDの医療機器が完全な登録規制の対象となり、正式な流通許可を持たない製品の輸入や販売が禁止される予定でした。この危機的状況に対処するため、ベトナム政府は政令07/2023/ND-CPを公布し、従来の規制下で発行された輸入ライセンスや一部の体外診断用医薬品の登録番号の有効期限を2024年12月31日まで延長する救済措置を講じました。さらに、最新の動向として、期限が迫った2025年1月1日に政令04/2025/ND-CPが緊急で公布され、この猶予期間が「2025年6月30日」まで再延長されることが決定しました。
具体的には、2018年1月1日から2021年12月31日までに発行された医療機器の輸入ライセンス、および2014年から2019年までに発行された体外診断用医薬品(IVD)の登録番号が、数量制限なしに2025年6月末まで輸入に利用可能となりました。この政令04/2025/ND-CPに関する詳細な延長措置の内容は、以下のウェブサイトで確認することができます。
度重なる法令による猶予期間の延長措置から、ベトナム保健省におけるクラスCおよびDの審査実務が未だに正常化しておらず、行政のキャパシティが逼迫しているということが言えるでしょう。日本企業はこの延長措置に安堵することなく、2025年7月以降の完全な登録規制の適用を見据え、CSDTに準拠した技術文書の準備と現地代理人との連携を急ぐ必要があります。
ベトナム語による厳格なラベル規制と原産地表示要件

医療機器をベトナム国内で流通させるにあたり、製品ラベルのコンプライアンスは流通許可の取得と同等に重要です。ベトナムのラベル表記規制は、かつては政令89/2006/ND-CPに基づき運用されていましたが、現在は政令43/2017/ND-CP、およびそれを大幅に改正した政令111/2021/ND-CPに基づいています。この最新の改正政令の施行により、ベトナムで流通するすべての医療機器には、ベトナム語による情報開示が厳格に義務付けられました。
日本の薬機法においても、法定表示事項の記載は厳しく規定されていますが、近年では添付文書の電子化が進むなど、合理化の動きが見られます。しかしベトナムにおいては、依然として物理的なラベル表示が極めて重視されています。具体的には、ラベルには製品名、製品に責任を負う組織または個人の名称および住所、そして原産地を明記する必要があります。特に医療機器においては、輸入ライセンスや流通許可の保有者の名称と住所を記載することが必須とされています。
日本企業が最も注意すべきは、原産地表示に関する具体的な要件です。政令111号では、グローバルなサプライチェーンの複雑化に対応するため、原産地が明確に特定できない場合、製品を最終的に完成させた工程が行われた国や地域を記載することが義務付けられています。その際、「組み立て地」「瓶詰め地」「包装地」といった具体的な工程を示す文言を原産国の前に付記することが要求されます。
また、日本から輸出する医療機器については、日本国内向けのオリジナルラベルを物理的に剥がす必要はなく、輸入通関後にベトナム語の二次ラベル(Supplementary Label)を貼付することが法的に認められています。この二次ラベルには、オリジナルラベルの内容と矛盾しない範囲で、ベトナム法が要求するすべての必須事項をベトナム語で記載しなければなりません。製品のパッケージサイズが極端に小さく、すべての情報を記載できない場合には、警告事項や保管条件などの重要情報のみをラベルに記載し、その他の詳細な情報は取扱説明書などの付属文書に記載するという柔軟な対応も認められています。この政令111/2021/ND-CPに基づくラベル規制の要件は、以下のウェブサイトで確認することができます。
ベトナムにおける医療機器に関する価格申告と広告・行政処分
ベトナム政府は、医療費の適正化と市場取引の透明性確保を目的として、医療機器に対する特有の価格管理措置を導入しています。政令98/2021/ND-CPの施行当初は、ベトナム国内で流通する「すべて」の医療機器に対して、販売前に保健省のポータルサイト上での価格申告が義務付けられ、申告された価格を超えて販売することが法律で固く禁じられました。
しかし、この全件申告制度は企業にとって過度な事務負担となり、サプライチェーンにおける柔軟な価格設定を阻害するとの批判を招きました。これを受けて政令07/2023/ND-CPによる法改正が行われ、すべての医療機器に対する一律の価格申告義務は撤廃されました。現在の法規制下では、市場の供給状況や健康保険基金の支払い能力に異常な変動が生じた場合など、実際の状況に基づいて保健省が価格申告の対象となる医療機器のリストを発行し、調整するという仕組みに変更されています。
広告規制についても厳格なルールが存在します。流通許可の保有者は、医療機器の広告を公に向けて発信する前に、必ず保健省のポータルサイトを通じて広告内容と形式を公開する義務を負います。これは日本の薬機法における誇大広告の禁止規制と目的を同じくするものの、広告展開の事前の手続き的ハードルという点では、ベトナム特有のコンプライアンス事項として認識しておく必要があります。
ベトナムにおいてこれらの医療機器規制に違反した場合、厳重な行政処分や罰則が科されます。医療分野における行政違反の処罰については、政令117/2020/ND-CPおよびそれを補完する政令124/2021/ND-CPにおいて具体的な罰金要件が詳細に規定されています。例えば、法定の価格申告を怠った場合や、不正な価格で取引を行った場合には1500万ベトナムドンから2000万ベトナムドンの罰金が科される可能性があります。また、偽造医療機器の製造や販売といった重大な法律違反に対しては、最大で1億ベトナムドンという高額な罰金が個人に科され、法人の場合はこの2倍の額が適用されます。さらに、違反行為に用いられた偽造ラベルの没収や製品の強制回収といった重い付加的制裁措置も法律に明記されています。この政令117/2020/ND-CPに基づく罰則規定の詳細は、以下のウェブサイトで確認することができます。
実務上留意すべきは、ベトナムの市場管理総局や保健局が不定期かつ抜き打ちの立ち入り検査を実施する権限を有している点です。違反が発覚した場合には罰金だけでなく、流通許可の即時取り消しというビジネスの根幹を揺るがす事態に直面することになります。
ベトナムにおける医療機器の売買契約に関するベトナムの判例分析

ベトナムにおける医療機器の法規制が、実際の民事上の商取引においてどのように機能しているかを理解するためには、実際の裁判例の分析が非常に有益です。ハノイ市人民裁判所において2022年3月24日および25日に審理された判決(判決番号:39/2022/KDTM-PT)は、医療機器の法定書類の不備が契約不履行に直結することを示した重要な判例です。この事案において、原告である医療機器の販売業者VT社と、被告である買い手のB氏は、医療機器の売買契約を締結していました。被告であるB氏は、契約金額の50パーセントにあたる約8億5200万ベトナムドンの支払いを完了し、実際に機器の設置と引き渡しを受けていました。しかし、残りの代金支払いに関して重大な争いが生じました。
被告であるB氏の主張によれば、対象となる商品が単なる機械ではなく法律で厳格に管理される「医療機器」であるため、ベトナム保健省の規制に従って合法的に医療行為を実施するためには、機械の法的書類一式および正式な輸入通関手続きを証明する書類が不可欠でした。原告であるVT社がこれらの法定要件を満たす文書(流通許可や輸入ライセンスに関する書類)を完全に提供しなかったため、被告はベトナムの法律に基づいて医療機器として登録および使用することができず、結果として残代金の支払いを拒否するという事態に発展しました。この判決に関する訴訟記録の要約は、以下のウェブサイトで確認することができます。
この判例から、対象となる機器が物理的に納品されたとしても、ベトナムの医療機器規制が要求する流通許可や輸入ライセンス、原産地証明などの適切なコンプライアンス書類が揃っていなければ、商業的な売買契約としての債務の完全な履行とは見なされないということが言えるでしょう。日本企業がベトナムの医療施設や流通業者と売買契約を締結する際には、単なるインコタームズや支払条件だけでなく、保健省が要求する各種法務書類の提供義務とその責任分界点を契約書上に明確に規定しておくことが、法務リスクを低減する上で不可欠です。
まとめ
本記事では、ベトナム社会主義共和国における医療機器規制の全体像について解説してまいりました。記事全体の要点を総括すると、以下のようになります。ベトナムの医療機器規制は政令98号に基づくASEAN基準への調和や、クラスAおよびBの保健局への通知制度の導入など、国際化と合理化が進められています。一方で、外国メーカーに対する現地代理人への流通許可の紐付けや、政令111号に基づくベトナム語による厳密なラベル表記要件、さらにはCSDTや臨床評価に基づく厳格な審査要件など、日本企業にとって独自の法的ハードルが多数存在します。
また、従来5年間とされていた流通許可の有効期間が無期限化されるという制度上の恩恵がある一方で、行政の審査遅延により、政令04/2025/ND-CPによる2025年6月末までの過渡的な輸入ライセンス延長措置が取られるなど、規制環境は依然として不安定な過渡期にあります。法定要件を満たさない取引は、行政処分を受けるだけでなく、民事上の売買契約違反に問われる法的リスクを孕んでいます。日本の薬機法とは異なるベトナム独自の規制や商慣習を正確に理解し、適切な進出スキームの構築や契約書の作成を行うことが、ベトナム市場での長期的な成功の鍵となります。
モノリス法律事務所では、こうした複雑なベトナムの法体系の解釈から、現地の代理人に関する契約上の法的リスクの排除、各種コンプライアンスの対応に至るまで、貴社のベトナム事業の展開を幅広くサポートいたします。法令の頻繁な改正に迅速に対応し、予期せぬ行政処分や商事紛争を未然に防ぐためにも、事前の綿密な法務戦略の策定をお勧めいたします。
カテゴリー: IT・ベンチャーの企業法務
タグ: ベトナム社会主義共和国海外事業

































