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法律記事MONOLITH LAW MAGAZINE

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ウズベキスタンの物流法務を弁護士が解説

ウズベキスタンの物流法務を弁護士が解説

中央アジアの心臓部に位置するウズベキスタン共和国(以下、ウズベキスタン)は、世界に二つしか存在しない「二重内陸国(Double Landlocked Country)」の一つです。これは、自国が海に面していないだけでなく、カザフスタン、キルギス、タジキスタン、トルクメニスタン、アフガニスタンという国境を接するすべての隣国もまた内陸国であるという、極めて特殊な地理的環境を指します。この地理的制約は、日本企業がウズベキスタンへ進出しビジネスを展開する上で、単なる物理的な輸送コストの上昇やリードタイムの長期化といった実務的な課題をもたらすのみならず、法務上のリスク管理においても独自の視点を要求します。

日本の商社やメーカーにとって馴染み深い「物流法務」は、通常、船荷証券(B/L)や海上保険、国際海上物品運送法を中心とした海事法規がその根幹を成します。しかし、ウズベキスタンにおける物流法務は、もっぱら陸上国境を通過するための「通関法(Customs Law)」と、複数の国を経由して貨物を運ぶための「陸上輸送法(Transit Law)」、およびそれらを規律するTIR条約等の国際条約によって構成されています。特に留意すべきは、法規制そのものの複雑さに加え、その運用の現場における不統一性です。「国境の税関ポストごとに解釈が異なる」といった予測可能性の低さは、予期せぬ課税処分や貨物の差押えといった深刻な紛争を招く要因となり得ます。これに対し、貿易業者の間では、貨物の滞留を避けるために「まず支払い、後で訴訟を起こす」という対応が慣行化しているという厳しい現実があります。

一方で、ウズベキスタン政府は現在、この「二重内陸国」というハンディキャップを克服し、周辺諸国と陸路で結ばれた「ランド・リンク(Land-linked)」国家への転換を国家戦略として掲げています。アフガニスタンを経由してパキスタンの港湾へ至る新鉄道回廊の建設や、国連欧州経済委員会(UNECE)と連携した通関手続きのデジタル化(eTIR)など、急速な法制度の近代化が進められています。

本記事では、日本法の概念と比較しながら、ウズベキスタン固有の物流法務の枠組み、税関実務における法的リスクと対策、そして最新の国家プロジェクトに伴う法的環境の変化について、現地の法令や具体的な判例に基づき詳細に解説します。

(記事全体の要点)

  • 二重内陸国の法的特殊性:海洋法が適用されず、通関法と通過条約が法務の中心となる。日本のB/L中心の実務とは異なり、CMRやSMGS等の運送状が証拠証券として機能するため、決済リスク管理(L/C条件等)に特段の注意が必要である。
  • 法執行の不確実性と対策:税関現場での恣意的な運用が常態化しているが、関税法第4条の「疑わしきは事業者の利益に」規定や、遡及効の例外規定を活用した法的対抗が可能になりつつある。
  • 「Pay First」慣行の変容:従来は支払いを優先せざるを得なかったが、司法改革により行政訴訟での勝訴事例が増加しており、適切な証拠保全を行えば事後的な権利回復の道が開かれている。
  • 国家戦略による機会:eTIR導入によるデジタル化やトランス・アフガン鉄道構想は、物理的・法的な障壁を低減させるものであり、これらを見据えた物流契約の再構築が推奨される。

二重内陸国としてのウズベキスタンの法的・地理的制約と物流法務

二重内陸国(Double Landlocked Country)の定義と法的意味

ウズベキスタンが「二重内陸国」であるという事実は、法務の観点から見ると、貨物の輸出入において必ず「第三国の通過(トランジット)」を伴う法的義務が発生することを意味します。日本からウズベキスタンへ貨物を輸送する場合、あるいはウズベキスタンから日本へ輸出する場合、貨物は少なくとも二つの他国の国境と法域(Jurisdiction)を通過しなければなりません

例えば、典型的なルートとして、中国の連雲港や青島を経由し、カザフスタンを鉄道で通過してタシケントに至るルートや、イランのバンダレ・アッバース港からトラックまたは鉄道でトルクメニスタンを経由するルートが挙げられます。これらのルートを選択する際、荷主である日本企業は、ウズベキスタンの国内法だけでなく、通過国(カザフスタンやトルクメニスタン等)の通過交通権や関税法規、さらにはこれら諸国間を結ぶ二国間または多国間の協定・条約の適用関係を理解する必要があります。通過国における政情不安や法改正は、直ちにウズベキスタンへのアクセスを遮断する法的リスク(Force Majeure)となり得るからです。

海洋国家である日本と異なり、ウズベキスタンには「領海」や「排他的経済水域(EEZ)」に関する法律が存在しません。したがって、日本の物流法務で中心的な役割を果たす「海上物品運送法」や「国際海上物品運送法」の適用余地は極めて限定的であり、代わって「道路運送法」や「鉄道運送法」、そして通関手続きを定めた「関税法(Customs Code)」が物流法務の中核を占めることになります。

海事法務との相違点:船荷証券(B/L)から国際道路物品運送状(CMR)へ

日本の法務担当者が最も意識すべき違いの一つは、運送書類の法的性質です。海上輸送においては、船荷証券(Bill of Lading:B/L)が「有価証券」としての性質を持ち、貨物の引渡請求権を表章する重要な書類となります。B/Lの譲渡により走行中の貨物の所有権移転が可能となるなど、B/Lを中心とした金融・決済実務(L/C決済等)が確立しています。

一方、ウズベキスタンへの物流で主役となるのは、トラック輸送における「国際道路物品運送状(CMR Note)」や、鉄道輸送における「鉄道運送状(Rail Waybill / SMGS)」です。これらは基本的に運送契約の証拠証券であり、B/Lのような「荷物そのものを化体する有価証券性」を有しないのが一般的です(一部の複合運送証券を除く)。

この法的な違いは、代金決済のリスク管理に直結します。B/L原本と引き換えでなければ貨物を受け取れない海上輸送と異なり、CMRや鉄道運送状では、原本が銀行経由で到着する前に、貨物が国境や目的地に到着し、運送人の手元にある書類だけで荷受人に引き渡されてしまうリスクが存在します。したがって、ウズベキスタン取引における物流法務では、物権的な支配(貨物の占有)による担保機能が海上輸送よりも弱くなることを前提に、契約書における支払条件の設定(前払い、T/T送金等)や、信用状(L/C)の条件設定において、特段の注意を払う必要があります。例えば、荷受人を現地の銀行気付にする(Consigned to Bank)などの措置が講じられることがありますが、現地の銀行実務が現金決済中心であることにも留意が必要です。

この点に関して、トルコの法律事務所であるCosmos Legal Law Firmによる解説記事は、ウズベキスタンにおける海事法規の不在と、国際輸送法による間接的な規律について詳細に述べています。

参考:ウズベキスタンにおける海事貿易法の手続きと実務

ウズベキスタン関税法(Customs Code)の構造と重要条項

ウズベキスタン関税法(Customs Code)の構造と重要条項

ウズベキスタンにおける物流法務の最重要法典は、2016年に全面改正され、その後も頻繁に改正が行われている「ウズベキスタン共和国関税法(Customs Code of the Republic of Uzbekistan)」です。この法律は、物品の国境通過、関税の賦課・徴収、通関手続き、税関コントロール、および関税法違反に対する制裁を包括的に規律しています。日本の関税法と比較しても、手続きの細部まで法律レベルで規定されている点に特徴があり、政令や省令に委任する範囲が比較的限定されています。

法源の階層構造と国際条約の優越(第2条)

ウズベキスタンの関税法第2条(Article 2)は、関税法制の構成について定義しています。ここで最も重要な点は、国内法である関税法と、ウズベキスタンが締結した国際条約との間に規定の相違がある場合、「国際条約の規定が優先して適用される」と明記していることです。

Article 2. Customs legislation

The customs legislation consists of this Code and other acts of the legislation. If the international treaty of the Republic of Uzbekistan establishes other rules, than those which are provided by the customs legislation of the Republic of Uzbekistan then are applied rules of the international treaty.

これは、TIR条約(国際道路運送手帳による担保下の貨物の国際運送に関する税関条約)や、日本・ウズベキスタン間の二国間条約が、国内の税関規則よりも優先されることを意味します。実務において、地方の税関職員が国内の細則や内部通達に基づき不当な要求(例えば、TIRカルネを所持しているにもかかわらず追加の保証金を要求するなど)をしてきた場合、この第2条を根拠に国際条約の規定による通過の自由を主張することが、法的防御の第一歩となります。この「条約優位の原則」は、日本国憲法第98条第2項と同様の精神に基づくものですが、現場レベルでの徹底度合いには課題が残るところです。

参考:【法令全文】ウズベキスタン共和国税関法(Customs Code)

遡及効の制限と例外(第3条)

法務リスク管理の観点から次に重要なのが、第3条(Article 3)に定められた「法の時間的適用(Action of the customs legislation in time)」です。原則として、関税法規は遡及しません。つまり、通関申告を行った時点での法令が適用されます。これにより、契約時点と通関時点での税率変更リスクをある程度予測することが求められます。

しかし、特筆すべき例外規定があります。「関税法違反に対する責任を免除または軽減する法令」や、「関税の支払いを撤廃・減額する法令」については、遡及効を持つ(retroactive force)と規定されています。

Article 3. Action of the customs legislation in time

… The acts of the customs legislation eliminating or mitigating responsibility for violation of the customs legislation have retroactive force.

これは、通関手続き中に法令が改正され、より有利な条件(減税や罰則の廃止)が導入された場合、企業側は新法の遡及適用を主張できることを意味します。ウズベキスタンでは、大統領令や内閣決議による関税率の変更や優遇措置の導入が頻繁に行われます。したがって、紛争発生時や通関遅延時には、最新の法令だけでなく、係争中に公布された有利な新法が存在しないかを常にモニタリングする必要があります。

参考:PDF】ウズベキスタン共和国税関法(Customs Code)

「疑わしきは事業者等の利益に」の原則(第4条)

日本の法制度と比較して特徴的なのが、第4条(Article 4)に明記された「対外経済活動参加者の権利の優先(Priority of the rights of the participant of foreign economic activity)」です。この条文は、関税法規における「除去できない矛盾や曖昧さ(unremovable contradictions and ambiguities)」は、すべて「対外経済活動参加者(貿易業者)の利益になるように解釈される」と定めています。

Article 4. Priority of the rights of the participant of foreign economic activity

All unremovable contradictions and ambiguities of the customs legislation are interpreted for benefit of the participant of foreign economic activity.

この規定は、日本法の「疑わしきは罰せず」あるいは租税法における「借方有利の原則」に類似していますが、より広範に、行政手続き上のあらゆる「曖昧さ」を事業者の利益に帰着させることを明文で定めている点で強力です。実務上、税関当局との見解の相違(例:HSコードの分類、関税評価額の決定方法の解釈)が生じた際、この第4条は極めて強力な抗弁事由となります。法規の不備や矛盾を利用して恣意的な課税処分が行われた場合、裁判所においてこの条項を引用し、処分の取り消しを求めることが可能です。

ウズベキスタンの主要な通関体制とリスク管理

ウズベキスタン関税法第25条では、物品の移動目的に応じた多様な「通関体制(Customs Regimes)」が規定されています。日本企業が特に頻繁に利用し、かつトラブルが発生しやすい体制について詳述します。

自由流通への解放(Release for free circulation / Import)と関税評価リスク

これは通常の「輸入」に該当し、関税・付加価値税(VAT)を支払い、物品を国内で消費・流通させる体制です。ここでの最大のリスクは「関税評価(Customs Valuation)」です。

日本の関税定率法と同様に、ウズベキスタンでもWTO評価協定に基づく「取引価格法(Transaction Value Method)」が原則とされています。しかし、実務上は、インボイス価格(取引価格)が税関当局の保有するデータベース上の「基準価格(Reference Price)」よりも低い場合、当局はインボイス価格の真正性を疑い、これを否認してより高い評価額に基づいて関税を算出する傾向が強く残っています。

これに対抗するためには、単にインボイスを提出するだけでなく、売買契約書、銀行送金証明書、輸出国の輸出申告書、価格表、運賃明細書など、価格の真正性を証明する文書群(Evidence Package)をあらかじめ完備しておくことが不可欠です。

参考:ウズベキスタンにおける通関手続きの包括的ガイド

一時輸入(Temporary Import)と転用禁止違反

建設機材や展示会用品などを、一定期間後に再輸出することを条件に関税を免除(または一部猶予)して持ち込む体制です(第65条〜第69条)。日本企業が現地でプラント建設やインフラ整備を行う際、大型重機などをこの制度を利用して持ち込むケースが多く見られます。

この制度の利用において最も注意すべきは、「目的外使用」や「無断譲渡」の禁止です(第67条)。一時輸入許可を受けた物品を、許可なく他者へ貸与したり、別のプロジェクトで使用したりすることは厳しく禁じられています。これに違反した場合、本来支払うべき関税の即時徴収に加え、物品価額に相当する高額な罰金が科される可能性があります。また、再輸出期限の管理も厳格であり、期限を1日でも過ぎると違反となります。

PraeLegal Uzbekistan法律事務所が扱った事例では、税関当局が一時輸入規則違反を理由に約12億スム(約1400万円相当)の支払いを求めた事案に対し、法令の解釈および税額計算の誤りを指摘して勝訴したケースが報告されています。この事例は、税関当局が形式的な手続きの瑕疵を捉えて実質的な課税を行おうとする傾向がある一方で、裁判所による救済も機能し始めていることを示唆しています。

参考:【勝訴事例】税関による12億スムの請求を取り消した裁判事例

保税トランジット(Customs Transit)と輸送責任

二重内陸国であるウズベキスタンにおいて、トランジットは極めて重要です。これは、物品が関税未払いのまま、入国税関から出国税関(または国内の目的地税関)まで移動する体制を指します。

関税法上、トランジット期間中に貨物が紛失した場合、運送人(Carrier)は関税・税金の全額支払義務を負います。日本の法制では、運送人の責任は通常、貨物の価額(商法や運送約款に基づく賠償限度額)に限られますが、ウズベキスタンの関税法では「逸失した関税」についても運送人が直接の納付義務者とみなされる点が大きな違いです。したがって、フォワーダーを選定する際は、十分な資力や賠償責任保険への加入状況を確認することが肝要です。

ウズベキスタンの「輸送に関する法律」とロジスティクス契約

ウズベキスタンの「輸送に関する法律」とロジスティクス契約

2021年、ウズベキスタンは新たな「輸送に関する法律(Law on Transport)」(2021年8月9日制定、No. ZRU-706)を施行しました。この法律は、従来の個別の輸送モード(鉄道、道路、航空)ごとの法規制を統合・整理し、現代的なロジスティクス概念を法制化したものです。

輸送法(Law on Transport)の概要と新概念

この法律の目的は、商業ベースでの輸送活動に関する関係を規律することにあります(第1条、第2条)。特に注目すべきは、以下の概念が法的に定義されたことです。

  1. マルチモーダル輸送(Multimodal transportation):単一の運送書類(Single transportation document)に基づき、異なる輸送モードを組み合わせて行う輸送。
  2. 一貫運送状(Single consignment note):マルチモーダル輸送の全区間をカバーする単一の書類。
  3. 輸送ロジスティクス(Transport logistics):貨物の移動、保管、流通に関連する問題の複合的な解決。
  4. 輸送ロジスティクスセンター(Transport and logistics center):倉庫保管、流通加工などを行うインフラ施設。

日本企業にとって重要なのは、この法律により「フォワーダー(利用運送事業者)」や「ロジスティクス・オペレーター」の法的地位や責任範囲がより明確化された点です。従来は曖昧であった、複数の輸送手段をまたぐ際の責任分界点や、一貫輸送におけるキャリアの責任について、契約上の明確な根拠を持つことができるようになりました。これにより、日本企業は現地物流業者との契約において、国際的な標準約款に近い責任規定を盛り込むことが容易になったと言えるでしょう。

国家による介入の制限

同法第4条には、国家機関およびその職員は、法律に別段の定めがある場合や緊急事態を除き、「輸送組織の経済活動に干渉してはならない」との規定が盛り込まれました。

Article 4….

State bodies and their officials are not entitled to interfere in the economic activities of transport organizations and involve the operational personnel of these organizations for other work, except in cases of emergency situations…

これは、かつて頻発した、地方政府による綿花収穫期における車両の徴用や、恣意的な運行停止命令といった不当な介入を防止するための法的保護条項として機能します。外資系企業としては、不当な行政介入があった場合、この条項を盾に是正を求めることが可能です。

参考:【法令全文】ウズベキスタン共和国 輸送法(Law on Transport)

ウズベキスタンにおける実務上の最大リスク:法運用の不統一性と「Pay First」原則

ウズベキスタンにおける物流法務の核心的課題は、法令の条文そのものよりも、その執行(Enforcement)の段階にあります。

「税関ポストごとの異なる解釈」

多くの調査報告や現地の実務家の指摘によれば、税関法規の解釈が国境の税関ポスト(Border Customs Post)ごとに異なり、担当官の裁量によって判断が左右されるケースが常態化しているとされています。例えば、ある国境では問題なく通過できた同一の製品分類(HSコード)が、別の国境では「誤り」とみなされ、修正申告や追加納税を求められるといった事態です。

これは、法治主義の予見可能性(Predictability)を著しく損なうものであり、日本企業にとってはリードタイムの遅延による損害賠償リスクや、保管料(Demurrage/Detention)の発生リスクに直結します。

「まず支払い、後で訴訟」の慣行とその変化

伝統的に、貿易業者は貨物の迅速な引き取りを優先するため、税関から不当と思われる追徴課税や罰金を科された場合でも、「まず支払い(Pay First)」、貨物を確保した後に「裁判所で争う(Sue Later)」という対応を迫られてきました。貨物が税関管理下に留置されている以上、法的な正当性を主張して交渉を続けることは、ビジネス上の損失(工場のラインストップや顧客への納期遅延)を拡大させるからです。また、長期間の留置は、保管料の増大だけでなく、貨物の劣化や盗難のリスクも招きます。

しかし、近年、この状況に変化の兆しが見られます。2020年6月以降の改革により、関税規則の「初犯」であり、かつ自発的に支払いを行い通関手続きを完了させた場合、刑事責任を免除するという規定が導入されました。これは、過失による軽微な違反が即座に刑事事件化されるリスクを低減させるものであり、実務上の安心材料の一つと言えます。

また、司法改革により、行政訴訟において税関の決定を取り消す判決が出るケースが増えており、司法による行政監視機能が徐々にではありますが機能し始めています。例えば、前述のPraeLegalの事例のほか、ウズベキスタン最高裁判所(Supreme Court)が行政機関の判断を覆す事例も散見されるようになりました。

紛争解決の選択肢:国内裁判所 vs 仲裁

税関当局との紛争は、基本的にウズベキスタンの国内行政裁判所または経済裁判所の管轄となります。

一方で、ウズベキスタンの民間輸送業者との契約紛争については、契約書において仲裁条項(Arbitration Clause)を設けることが一般的です。ウズベキスタンはニューヨーク条約(外国仲裁判断の承認及び執行に関する条約)の加盟国であり、外国での仲裁判断(例えば日本商事仲裁協会やロンドン国際仲裁裁判所など)の執行が法的には可能です。しかし、実務上は公序良俗違反などを理由に執行が拒否されるリスクも残るため、タシケント国際仲裁センター(TIAC)などの国内の国際基準に準拠した仲裁機関の利用も検討に値します。TIACは香港国際仲裁センター(HKIAC)と提携し、国際的な信頼性の確保に努めています。

参考:【HKTDC Research】中央アジアの紛争解決:ウズベキスタンの新仲裁センター

ウズベキスタン国家戦略としての物流改革

ウズベキスタン国家戦略としての物流改革

ウズベキスタン政府は、二重内陸国のハンディキャップを克服するため、物理的なインフラ整備と法制度のデジタル化を両輪とする国家戦略を推進しています。

eTIRと通関のデジタル化

国連欧州経済委員会(UNECE)の支援を受け、ウズベキスタンはTIR条約に基づく国際道路輸送のデジタル化(eTIR)を積極的に進めています。eTIRシステムは、紙ベースのカルネ(手帳)を電子データに置き換え、税関間でのリアルタイムな情報共有を可能にするものです。

これにより、税関職員の恣意的な書類審査の余地を減らし、通過手続きの迅速化と透明性の向上が期待されています。2024年から2025年にかけてのアクションプランでは、eTIRおよびe-CMR(電子運送状)の実装に向けた法整備のレビューが進められています。日本企業としては、現地の物流パートナーがこれらのデジタルプラットフォームに対応しているかを確認することが、コンプライアンス遵守と迅速な物流確保の観点からも重要になります。

参考:【UNECE】ウズベキスタン輸送部門のデジタル化と法整備に関する行動計画

トランス・アフガン鉄道構想

「二重内陸国」から「陸路で繋がる国(Land-linked)」への転換を象徴するプロジェクトが、ウズベキスタンのテルメズからアフガニスタンのマザーリシャリーフ、カブールを経由し、パキスタンのペシャワールに至る「トランス・アフガン鉄道」の建設です。

この鉄道が開通すれば、ウズベキスタンからパキスタンのグワダル港やカラチ港(アラビア海)へのアクセスが劇的に改善され、輸送日数が現在の35日から3-5日程度に短縮されると試算されています。

2024年から2025年にかけて、ウズベキスタン、アフガニスタン、パキスタンの三カ国間でフィージビリティ・スタディ(FS)に関する協定が署名され、具体的なルート選定が進んでいます。このルートは、従来のバンダレ・アッバース港(イラン)ルートや、北方ルート(ロシア経由)に代わる新たな選択肢として、地政学的リスクの分散に寄与します。ただし、アフガニスタン国内の治安情勢や、タリバン政権との法的合意の安定性には依然として不透明さが残るため、利用にあたっては慎重なリスク評価が求められます

参考:【Astana Times】ウズベキスタン・パキスタン・アフガニスタンによるトランス・アフガン鉄道協定の署名

日本・ウズベキスタン投資協定による保護

最後に、日本企業にとっての重要な法的インフラとして、2008年に署名され2009年に発効した「日本・ウズベキスタン投資協定(Japan-Uzbekistan Bilateral Investment Treaty)」が挙げられます。この協定では、内国民待遇(National Treatment)や最恵国待遇(MFN Treatment)に加え、「投資に関連する紛争の解決」手続きが定められています。

もし、ウズベキスタンの税関当局や輸送規制当局による恣意的な措置によって、日本企業の現地法人が著しい損害を被り、国内裁判所での救済が得られない場合、この投資協定に基づく国際仲裁(ISDS条項)が最終的な解決手段となり得ます。物流上のトラブルであっても、それが投資財産(現地法人の資産や権利)に対する侵害と構成できる場合、この協定が強力な保護膜となります。

参考:【PDF】日・ウズベキスタン投資協定の意義(外務省 / 英文)

まとめ

日本法との主な異同の整理

以下の表は、日本の物流法務とウズベキスタンの物流法務における主要な相違点を整理したものです。

項目日本の物流法務ウズベキスタンの物流法務
地理的・法的基盤海洋国家(港湾法、海上物品運送法が中心)二重内陸国(通関法、陸上輸送法、通過協定が中心)
主要運送書類船荷証券(B/L)=有価証券性ありCMR、SMGS=基本的に有価証券性なし(証拠証券)
法の解釈・運用全国一律で予測可能性が高い。行政指導が機能現場(税関ポスト)ごとの裁量が大きく、不統一。「疑わしきは事業者利益」規定(第4条)が重要
紛争解決の初動事前の相談や修正申告が一般的「まず支払い、後に争訟」となる傾向。貨物留置リスク回避が最優先される
通関評価取引価格法(インボイス価格)の尊重基準価格(参照価格)による否認リスクが高い。証拠書類の完備が必須
運送人の責任貨物の損害賠償が中心(商法等)貨物紛失時の「関税納付義務」も運送人が負う(関税法)

結論と弊所のサポート

ウズベキスタンにおける物流法務は、二重内陸国という特殊な環境下で形成された独自の体系を有しています。2016年の関税法改正や2021年の輸送法制定など、法整備は急速に進んでいますが、実務レベルでは依然として「法の運用」に関するリスクが残存しています。特に、税関ごとの解釈の相違や、関税評価を巡るトラブルは、日本企業のビジネスに予期せぬコストと遅延をもたらす可能性があります。

しかし、関税法第4条のような「事業者の権利優先」規定の存在や、近年の司法改革による勝訴事例の増加は、適切な法的知識と準備があれば、不当な処分に対抗し得る環境が整いつつあることも示しています。また、デジタル化やトランス・アフガン鉄道といった国家戦略は、将来的な物流効率の飛躍的向上を示唆しており、早期の進出と適応には大きなメリットがあります。

モノリス法律事務所では、現地の最新の法令改正情報の収集や、具体的な通関トラブル発生時の法的論点の整理、契約書におけるリスクヘッジ条項の策定など、ウズベキスタンでのビジネス展開に伴う物流法務上の課題について、包括的なサポートを提供することが可能です。現地の法実務に精通した知見に基づき、貴社の安全かつ円滑な事業展開をサポートいたします。

弁護士 河瀬 季

モノリス法律事務所 代表弁護士。元ITエンジニア。IT企業経営の経験を経て、東証プライム上場企業からシードステージのベンチャーまで、100社以上の顧問弁護士、監査役等を務め、IT・ベンチャー・インターネット・YouTube法務などを中心に手がける。

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