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法律記事MONOLITH LAW MAGAZINE

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ウズベキスタンにおける会社設立の法的枠組みを解説

ウズベキスタンにおける会社設立の法的枠組みを解説

ウズベキスタン共和国(以下、ウズベキスタン)は、中央アジアにおける経済成長の中心地として、多くの日本企業にとって新たなビジネスチャンスの舞台となっています。しかし、同国への事業進出を検討する際、日本企業が他国で慣れ親しんだ初期進出戦略が、ウズベキスタン特有の厳格な法規制の下では適用できないという重大な事実に直面します。特に、駐在員事務所(RO)や支店といった簡易的な形態による「お試し」の市場参入は、法的に極めて厳しく制限されており、事実上、許容されていません。法律はROによる商業活動を明確に禁止し、これに違反すれば認定取り消しのリスクを負います。

このため、ウズベキスタンで事業活動を行うためには、最初から有限責任会社(LLC)または株式会社(JSC)という現地法人を設立し、完全な法務・税務コンプライアンスにコミットすることが求められる構造になっています。現地法人の設立登記自体は「ワンストップショップ」原則により迅速化されていますが、外国投資家は、進出形態の厳格な二択と、日本法とは異なる厳格な活動制限を深く理解し、戦略を構築する必要があります。

本稿では、ウズベキスタンにおける会社設立の法的枠組みと、日本企業が注意すべき重要な相違点について、具体的な法令根拠に基づき詳細に解説します。

外国投資家が検討すべき主要なウズベキスタンへの進出形態

ウズベキスタンへの事業進出を計画する外国投資家、特に日本企業にとって、進出形態の選択は、法務・税務上のコミットメントの度合いを決定する重要な初期判断となります。ウズベキスタンにおける主要な進出形態は、有限責任会社(LLC)株式会社(JSC)の二つの現地法人格を持つ組織です。実務上、これら二つの形態が外国投資家の間で最も広く採用されており、その選択は、主に求められるガバナンスの柔軟性と規制の厳格さによって左右されます。

実務上の主流:有限責任会社(LLC)の法的構造と柔軟性

ウズベキスタンにおいて外国投資家が最も一般的に選択するのは、LLC(Limited Liability Company)です。LLCは、「有限責任会社及び追加責任会社に関する法律」(Law on Limited Liability and Additional Liability Companies)に基づき設立される現地法人格を有する組織です。

LLCの最大の特徴は、その柔軟な構造と迅速な設立プロセスにあります。LLCは一人または複数名の参加者によって設立され、参加者(出資者)は、その出資額を限度として、会社の債務に対して有限責任を負います。これは日本の合同会社(G.K.)の構造と類似しており、外国親会社が現地での直接的なリスクを限定するための基本的な基盤を提供します。

LLCの運営上の優位性は、ガバナンス構造の簡素さにあります。LLCの統治機関は、最高機関である参加者総会、業務執行を担う執行機関(総支配人など)、そして定款や参加者数に応じて設置される監査役会(Supervisory Board:30名超の場合)などで構成されます。さらに、LLCの設立には最低資本要件が設けられていないため、外国投資家にとって初期の資金調達負担が大幅に軽減されます。参加者数の上限は50名と定められています。

LLCが外国投資家の間で主流となっている背景には、規制が比較的緩やかで、設立が迅速(書類提出後1~2営業日以内)に完了する点にあります。これは、ウズベキスタン政府が、大規模な資金調達を目的としない、一般的な外国企業の直接投資に対しては、迅速かつ柔軟な枠組みを提供していることを示しています。この迅速な設立プロセスの保証は、後述する厳格な駐在員事務所(RO)規制と相まって、外国投資家が最初からLLCを選択せざるを得ない構造を作り出していると言えます。

規制の厳格さが伴う株式会社(JSC)の構造

対照的に、JSC(Joint Stock Company)は、「株式会社及び株主の権利保護に関する法律」に基づき設立される法人です。JSCは、株式の発行を通じて広範な所有権を想定し、より強固な株主保護と情報開示の枠組みの下で運営されます。

JSCのガバナンス構造はLLCよりも遥かに形式的かつ厳格であり、取締役会の設置、株主総会の詳細な運用、および情報開示義務が課されます。JSCは、株主保護を重視し、将来的に現地または国際的な資本市場での資金調達(IPOなど)を目指す、大規模な外国投資案件に適しています。しかし、一般の市場参入を目的とした子会社の設立においては、JSCの設立・運営は実務上「非常に時間がかかり、規制が厳しい」プロセスとして認識されており、経営の柔軟性を求め、迅速な市場参入を図りたい大部分の外国投資家にとっては、過剰なコンプライアンス負担を伴います。これが、外国投資家の大部分がLLCを選択する傾向にある理由です。

日本企業が最も注意すべきウズベキスタン初期進出形態の法的制約

ウズベキスタンへの進出戦略において、日本企業が他国で採用する初期戦略との間に存在する、最も決定的な法的相違点として、駐在員事務所と支店の活動範囲に関する厳格な制限があります。

駐在員事務所(RO)に対する「商業活動禁止」の徹底

日本の実務においては、駐在員事務所(RO)は、恒久的施設(PE)を構成しない範囲で、予備的・補助的な営業活動の準備行為(例:取引先の紹介や市場での製品デモンストレーションなど)を行うことが比較的許容される場合があります。しかし、ウズベキスタン法の下では、この解釈は極めて危険であり、駐在員事務所の活動は極めて狭く限定されています。

ROは、ウズベキスタン民法典第47条に規定される通り、親会社の利益を代表し保護するために設立されますが、現地法人格を持たない認定組織です。ROの設置には、権限のある当局による認定(Accreditation)が必要です。

その活動範囲は、ウズベキスタン閣僚会議決議(例:2024年2月7日付第76号)によって詳細に規律されており、法律はROが「経済的またはその他の商業活動を行ってはならない」と明確に定めています。許容される活動は、市場調査、マーケティング、宣伝、政府機関との交渉、会議への参加、親会社スタッフのサポートなど、真に非取引的なサポートに厳格に限定されます。ROの活動は、承認された定款の範囲内で運用されなければなりません。

もしROが、建設プロジェクトの管理支援や具体的な契約締結に向けた積極的な関与など、わずかでも利益を生む可能性のある活動を実施した場合、それは「商業活動」と見なされ、当局によって認定が取り消されるリスク、および親会社に対する恒久的施設(PE)認定による課税リスクを生じさせます。

この厳格な規制は、ウズベキスタンにおけるROの利用を、真に非取引的な活動に限定することを要求しており、日本企業が「市場のお試し」や営業活動の初期準備ツールとしてROを利用するという戦略は、法的に採用できないことが明確にわかります。

外国企業の支店(Branch)設立に関する法制度の空白

駐在員事務所に加えて、外国企業の支店(Branch)の設立についても、法制度が明確な障壁を設けています。

ウズベキスタン法は、外国企業が支店を設置することを明示的に禁止してはいません。しかし、実務上の問題として、支店の登録手続きを具体的に規律する法規制(例:必要な書類、申請プロセス、管轄当局)がウズベキスタン法に存在しません。

この規制の空白は、外国企業が現地法人ではない形態で事業を行うことを実質的に不可能にする効果を生み出しており、実務上、当局が外国法人の支店登録申請を通常拒否している状況です。この状況は、ウズベキスタン当局が、外国投資家に対し、最初から現地法人を設立し、フルコンプライアンスを求める意図的な構造であると解釈することができます。

ウズベキスタンでの現地法人設立プロセスとコンプライアンス上の重要要件

ウズベキスタンでの現地法人設立プロセスとコンプライアンス上の重要要件

ウズベキスタン法は、駐在員事務所や支店による段階的アプローチを厳しく制限する一方で、現地法人(LLC/JSC)の設立プロセス自体は、外国投資を促進するために効率化されています。

迅速な「ワンストップショップ」登録制度の利用

ウズベキスタン政府は、外国投資を促進するため、法人設立の国家登録を「ワンストップショップ(One-Stop-Service Center)」システムを通じて実施しています。

プロセスの効率性が高く、LLCの設立登記は、提出書類が完璧に揃っていれば、理論上、2営業日以内に完了するとされています。申請書類は、電子政府ポータルを通じてワンストップサービスセンターに電子的に提出することも可能です。この迅速な対応は、世界の多くの国と比較しても特筆すべき点です。

登記の前提条件:現地言語と外国人役員の要件

設立登記プロセスが迅速である反面、その前提条件となる初期コンプライアンス要件が厳格に定められています。

現地法人の法定文書を含むすべての提出書類は、ウズベク語で作成される必要があります。外国語で作成された原本書類は、公証、そして必要に応じて領事認証またはアポスティーユによる合法化を経る必要があります。したがって、迅速な登記(2営業日)を達成するためには、申請前の法務文書のウズベク語翻訳と認証手続きを完全に完了させておくことが不可欠です。

さらに、外国籍の個人が現地法人(LLC/JSC)の最高経営責任者(総支配人、Directorなど)に就任する場合、ウズベキスタン国内で有効な個人識別番号(PINFL:Personal Identification Number of an Individual)の取得が必須となります。このPINFLは、公証済みパスポートコピーなどの提出により、通常1営業日以内にワンストップサービスセンターで取得できます。この番号は、法人の登録申請書に必須項目として記載されなければなりません。

外国投資家に対する法的保護の保証

ウズベキスタンは、「投資及び投資活動に関する法律」に基づき、外国投資家に対し、現地企業を設立し、法律や国際条約によって提供されるすべての権利、保証、および優遇措置を利用する権利を認めています。

特に、利益、賃金、借入金の償還など、投資に関連する資金を海外へ自由に送金できることが保証されています。ただし、企業の破産や債権者の権利侵害、または裁判所による判断に基づき、非差別的な形で一時的に送金が停止される可能性があるという例外規定が存在します。

この法律の概要は、国連貿易開発会議(UNCTAD)の投資政策ハブで確認することができます。

参考:国連貿易開発会議 投資政策ハブ
https://investmentpolicy.unctad.org/investment-laws/laws/328/uzbekistan-the-law-on-investments-and-investment-activity

まとめ

ウズベキスタンへの進出を検討する日本の経営者や法務部員にとって、同国特有の進出形態に関する厳格な法制度を理解することが、成功の鍵となります。

ウズベキスタンの法構造は、簡素な駐在員事務所や支店による市場テストを事実上許さず、外国投資家に対し、市場進出の初期段階から、現地法人であるLLCを通じた完全な法務・税務コンプライアンスへのコミットメントを明確に要求しています。駐在員事務所(RO)を利用する場合、その活動が非取引的サポートに厳格に限定されていることを常に確認し、わずかな商業活動も恒久的施設(PE)認定のリスクを招くという重大な法務・税務リスクを回避する必要があります。

規制の柔軟性と迅速な設立手続きを考慮すると、有限責任会社(LLC)が、ウズベキスタンにおける商業活動の法的基盤として最も推奨される形態となります。現地法人設立の登記プロセス自体は効率化されていますが、外国人CEOのPINFL取得や、すべての文書のウズベク語での作成・合法化など、必須の前提条件が設けられており、事前の法務準備が極めて重要となります。

ウズベキスタン進出における複雑な法規制への対応、最適な法人形態の選定、および迅速な登記手続きの実行に関して、我々の法律事務所がサポートいたします。

弁護士 河瀬 季

モノリス法律事務所 代表弁護士。元ITエンジニア。IT企業経営の経験を経て、東証プライム上場企業からシードステージのベンチャーまで、100社以上の顧問弁護士、監査役等を務め、IT・ベンチャー・インターネット・YouTube法務などを中心に手がける。

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