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ベトナムの資金決済法を弁護士が解説

ベトナムの資金決済法を弁護士が解説

ベトナム社会主義共和国(以下、ベトナム)におけるビジネス環境は、目覚ましい経済成長とともに急速なデジタル化の波を迎えています。その中心にあるのが、国家的なキャッシュレス化の推進とマネーロンダリング対策の強化を目的とした資金決済法制の抜本的な改革です。近年、スマートフォンの普及率の向上や電子商取引の拡大に伴い、ベトナムの決済市場は現金のやり取りから電子ウォレットやQRコードを利用したデジタル決済へと劇的な移行を遂げています。

この変化に対応するため、ベトナム政府は単に技術革新を後押しするだけでなく、金融システムの安定性確保と不正資金の流入防止という観点から、法規制の枠組みをかつてない速度で再構築しています。特に2024年以降、電子決済やフィンテックに関する一連の政令が相次いで施行され、決済手段の定義から事業者の参入要件、さらには税務申告と決済手段の連動に至るまで、極めて広範かつ厳格なルールが導入されました。

まず第一に、ベトナム国内では原則として法定通貨であるベトナムドン建てでの決済が義務付けられており、2025年7月1日施行の政令に基づく500万ドン以上の取引における現金決済の制限が、付加価値税の仕入税額控除と直接的に連動している点が挙げられます。

第二に、フィンテック領域における新たな政令が電子マネーを初めて法的に定義し、決済仲介機関に対しては日本よりもはるかに高額な資本金を要求するなど、市場への参入障壁を引き上げることでシステミックリスクの低減を図っています。

第三に、2022年に改正されたマネーロンダリング防止法により、決済仲介機関を含む幅広い金融事業者に対してリスクベースアプローチに基づく厳格な顧客確認や、極めて短期間での疑わしい取引の報告が義務付けられています。

第四に、外資系企業が直面する資本金口座の利用義務や、利益の海外送金手続きにおける税務当局への報告義務といった厳格な外為管理の実態を明らかにします。そして最後に、これらの関連法規への違反がもたらす刑事罰のリスクについて、実際の判例を交えて検証します。

これらの一連の規制は、日本の法律と比較して国家による資金の流れの監視と統制がより直接的かつ強力であることを示しています。日本企業がベトナムで安全かつ持続的な事業展開を行うためには、こうした日本法との重要な違いを正確に理解し、現地に即した高度なコンプライアンス体制を構築することが不可欠です。

本記事は、ベトナム市場への進出や事業拡大を検討している日本企業の経営者および法務担当者を対象に、ベトナムにおける資金決済関連の規制動向を網羅的かつ詳細に解説するものです。

ベトナムにおける決済の基本ルールと法定通貨利用の原則

法定通貨ベトナムドンの強制と外貨決済の厳格な制限

ベトナム国内で行われるすべての商取引、価格表示、広告、見積もり、および決済は、原則として法定通貨であるベトナムドンで行うことが外国為替管理法規によって厳格に義務付けられています。この規制は、国内経済における外貨への過度な依存を防ぎ、自国通貨の安定性を維持するための国家戦略の根幹をなすものです。例外的に外貨での決済が認められるのは、輸出入取引や特定の保税区内での取引、あるいはベトナム国家銀行から特別に認可を受けた事業者に限られています。

日本企業がベトナム国内で事業を展開する際、親会社との取引慣行や為替リスクの回避を目的として米ドルや日本円での契約や請求を行おうとするケースが見受けられますが、国内企業間の取引において外貨建ての契約を締結することは重大な法令違反となります。契約書上の金額を外貨で記載し、実際の支払いをベトナムドンの換算額で行うという手法も原則として禁止されており、違反した場合には高額な罰金が科されるだけでなく、契約そのものが無効と判断される法的リスクが伴います。

日本の法律と比較した場合、日本の外国為替及び外国貿易法(外為法)では、当事者間の合意に基づいて外貨建てでの契約や決済を行う自由が広く認められています。日本国内の企業間取引であっても、米ドル建てで請求書を発行し、そのまま米ドルで銀行送金を行うことは日常的に行われています。しかし、ベトナムでは国家が自国通貨の流通を強制的に保護しているため、日本国内と同様の感覚で外貨ベースの商取引を行うことは許されません

この厳格な通貨規制から、ベトナム政府が為替相場の変動による国内インフレを極度に警戒しており、経済の基盤をベトナムドンに一元化することでマクロ経済のコントロールを維持しようとしているということが言えるでしょう。

現金決済の制限と税務上の優遇措置の連動

ベトナム政府は、経済活動の透明性を高め、脱税や資金洗浄を防ぐために、キャッシュレス決済への移行を強力に推し進めています。この政策を直接的に担保する制度として、付加価値税の仕入税額控除要件と決済手段を厳格に連動させる法改正が行われました。2025年7月1日に施行される政令により、仕入税額控除を受けるための要件が大幅に強化されています。

同政令の第26条等によれば、付加価値税を含む総額が500万ベトナムドン以上の物品またはサービスを購入する場合、企業は銀行振込などの非現金決済手段を用いて支払いを行わなければ、仕入税額控除を受けることができません。従来の法律ではこの基準額が2000万ベトナムドンに設定されていましたが、新政令によって基準額が大幅に引き下げられ、日常的な小規模取引にまで非現金決済の義務が拡大されました。

この規制の最も厳格な点は、契約書やその付属書で定められた支払期日までに非現金決済が行われなかった場合のペナルティにあります。支払期日が到来した時点で非現金決済の証明書が存在しない場合、企業はこれまでに控除した入力の付加価値税を減額修正しなければなりません。さらに、期日を過ぎた後に非現金決済手段で支払いを行ったとしても、一度失われた仕入税額控除の権利は二度と回復しないという極めて厳しいルールが設定されています。

これは、単に支払いを遅延させないことだけでなく、コンプライアンス要件を満たす決済手段を期日内に完遂することを企業に強く要求するものです。決済手段としては、クレジットカード、銀行振込、電子ウォレット、QRコード決済などが幅広く認められていますが、買主が売主の口座に直接現金を振り込む行為は非現金決済とはみなされない点に注意が必要です。

日本の税法と比較すると、日本にも2023年10月から施行された適格請求書等保存方式が存在し、3万円未満の取引であっても適格請求書等の保存が仕入税額控除の要件となりました。日本の消費税法は適格請求書の保存を要件としているものの、支払い手段が現金であるかキャッシュレスであるかを控除の直接的な要件とはしていません。

これに対し、ベトナムでは取引の記録だけでなく、資金の移動経路の透明化そのものを税額控除の絶対条件としている点に、日本法との決定的な違いが存在します。これらの事実から、ベトナム政府は税務上の優遇措置を強力なインセンティブとして機能させ、企業間取引におけるキャッシュレス化を強制的に定着させるという明確な政策方針を持っているということが言えるでしょう。この政令に関する詳細な解説や要件の原文は、以下の税務情報サイトで確認することができます。

参考:政令181/2025号:500万ドンを超える購入における付加価値税(VAT)控除要件としての非現金決済の義務化

ベトナムにおけるフィンテックおよび電子決済規制の展開

ベトナムにおけるフィンテックおよび電子決済規制の展開

電子マネーの法的定義の創設と暗号資産の排除

ベトナムにおけるフィンテック市場は、スマートフォンとインターネットの急速な普及を背景に、MoMo、VNPay、ZaloPayといった電子ウォレットサービスを中心に爆発的な成長を遂げています。この市場の急成長に対応するため、ベトナム政府は2024年5月15日に非現金決済に関する新たな政令を公布し、同年7月1日より施行しました。この政令の最も画期的な点は、ベトナムの法体系において初めて電子マネーの明確な定義を設けたことです。同政令によれば、電子マネーとは顧客が銀行、外国銀行支店、または電子ウォレットサービスを提供する決済仲介機関に対して前払いした金額に基づき、電子的に保存されるベトナムドンの同等価値と定義されています。

この定義により、電子ウォレットやプリペイドカードは電子マネーを保存するための手段として法的に位置付けられました。同時に、ベトナム国家銀行は、国家の金融当局によって規制されていない暗号資産をこの電子マネーの定義から明確に除外しています。価値の裏付けがない暗号資産と、法定通貨の預託を前提とする電子マネーを法的に切り離すことで、金融システムの安定性を確保しつつ、消費者保護を図る狙いがあります。

日本法における電子マネーの枠組みと比較すると、日本の資金決済に関する法律では、電子マネーは主に前払式支払手段として定義され、自家型と第三者型に分かれています。日本では、一定の要件を満たす限り、非金融機関であっても広く電子マネーの発行が認められており、供託金の納付等の義務を果たすことで事業展開が可能です。

一方、ベトナムの政令においては、電子マネーを発行し保持できるのは、銀行や外国銀行支店、または厳格な要件を満たしベトナム国家銀行から免許を取得した決済仲介機関に限定されており、日本よりも金融機関を中心としたより強固な管理体制が敷かれています。この規制構造から、ベトナム政府が市場の革新性を許容しつつも、通貨発行益に類する機能が民間企業に無秩序に拡大することを防ごうとしているということが言えるでしょう。この電子マネーの定義に関する解説は、以下の記事で詳細に論じられています。

参考:ベトナムが初めて電子マネーを法的に定義、暗号資産(仮想通貨)は対象から除外

決済仲介機関に対する要件の抜本的な厳格化

新たな非現金決済政令は、決済仲介機関に対する認可要件を過去の規制と比較して著しく厳格化しました。特に資本金要件と経営陣の適格性要件において顕著な引き上げが行われています。電子ウォレットサービス、代金回収代行、支払代行などのサービスを提供する決済仲介機関については、最低法定資本金が引き続き500億ベトナムドンに設定されていますが、金融スイッチングサービスや電子資金決済システムを提供する決済仲介機関に対しては、最低法定資本金が従来の500億ベトナムドンから3000億ベトナムドンへと6倍に引き上げられました。また、これらの高度な決済インフラを提供する企業は、決済仲介サービス以外の事業を行うことが明確に禁止され、専業であることが義務付けられました。

さらに、決済仲介機関の法定代表者および総責任者に対する人的要件も強化されています。経済、経営管理、法律、または情報技術のいずれかの分野における学士号以上の学位を有していることに加え、金融または銀行分野の組織において管理者または運営者として少なくとも5年以上の実務経験を持つことが要求されるようになりました

規制要件の項目旧政令の基準新政令の基準
最低資本金(金融スイッチング・電子決済事業)500億ベトナムドン3000億ベトナムドン
最低資本金(電子ウォレット事業等)500億ベトナムドン500億ベトナムドン
兼業に関する規制(インフラ事業)明確な専業義務はなし決済関連以外の事業活動を全面禁止
経営陣の実務経験要件関連分野で最低3年金融・銀行分野で最低5年

日本の資金決済法における資金移動業者と比較すると、日本では第一種から第三種までの資金移動業の区分があり、取扱金額に応じた規制のグラデーションが設けられています。日本ではイノベーションの促進を目的として、比較的資本力の小さいスタートアップ企業でも第三種や第二種の資金移動業者として市場に参入しやすい環境が整備されています。

これに対し、ベトナムの新政令は、市場に参入するプレイヤーに対して強固な財務基盤と高度な専門性を初期段階から要求しています。この法改正から、ベトナム政府が乱立するフィンテック市場を整理し、資本力と信頼性を兼ね備えた少数の堅牢な事業者に市場を集約させることで、システミックリスクを根本から排除しようとしているということが言えるでしょう。

相互運用可能な決済インフラとしてのVietQRの普及

ベトナムの決済市場では、各事業者が独自のQRコード規格を展開していたことで市場の分断が長年の課題となっていました。これを解決するため、ベトナム国家決済機関が中心となり、異なる銀行や電子ウォレット間で相互運用可能な統一QRコード規格であるVietQRの普及が強力に推進されています。VietQRは、EMVCoの基本規格およびベトナム国家銀行の厳格な基準に準拠しており、利用者は自身の契約する銀行アプリや電子ウォレットから、他行の口座に紐づいたQRコードをスキャンして即時送金を行うことが可能です。2024年時点において、VietQRを通じた取引は爆発的に増加しており、加盟店や個人の間での資金移動コストを劇的に低下させています。

日本におけるJPQRと同様の統一規格化の動きですが、ベトナムでは国家決済機関という強力な中央清算機関がインフラを掌握しているため、規格の浸透速度が極めて速いのが特徴です。また、加盟店側においても、静的QRコードだけでなく、注文金額や店舗情報を含んだ動的QRコードを生成するAPI連携が進んでおり、小売業や飲食業におけるレジ業務の効率化に大きく寄与しています。日本企業がベトナムで消費者向けビジネスを展開する場合、このVietQRプラットフォームへの対応は決済手段のオプションではなく、市場に参入するための必要最低限のインフラ要件となっている点に留意が必要です。

ベトナムのマネーロンダリング防止対策とコンプライアンス要件

リスクベースアプローチに基づく厳格な顧客確認

キャッシュレス決済の普及と並行して、ベトナム政府は金融犯罪の防止に全力を挙げています。2023年3月に施行された改正マネーロンダリング防止法は、ベトナムの金融部門を国際的なマネーロンダリングおよびテロ資金供与対策基準、特に金融作業部会の勧告に完全に適合させるための抜本的な法改正です。この法律により、銀行などの伝統的な金融機関だけでなく、電子ウォレットサービスや決済代行サービスを提供する決済仲介機関も正式に報告義務主体として指定されました。

報告義務主体は、国際基準に則ったリスクベースアプローチを採用し、顧客を低リスク、中リスク、高リスクのカテゴリーに分類する内部マネジメントシステムを構築しなければなりません。高リスクと判定された顧客に対しては、単なる本人確認にとどまらず、資産の出所や取引の目的を詳細に調査する厳格な顧客確認の実施が法的に義務付けられています。さらに、法人顧客の背後にいる実質的支配者の特定や、国内外の政治的影響力を有する人物に対する監視も強化されています

日本の犯罪による収益の移転防止に関する法律においてもリスクベースアプローチに基づく厳格な顧客確認は要求されていますが、ベトナムの改正法は、これをフィンテック企業や非金融セクターに対しても広範かつ厳格に適用し、システム構築から内部監査体制の整備までを法律で細かく規定している点に特徴があります。この法整備から、ベトナム政府が国家の信用力を高め、外国からの投資を呼び込むために、金融システムの透明性を国際水準まで引き上げることに注力しているということが言えるでしょう。

疑わしい取引および高額取引の報告義務と時間的制約

改正マネーロンダリング防止法およびその下位法令により、取引の報告義務が極めて厳格に規定されています。具体的には、4億ベトナムドン以上の大規模な現金取引を行う場合、報告義務主体はベトナム国家銀行のマネーロンダリング防止局に対して当該取引を報告しなければなりません。さらに国内の電信送金においては5億ベトナムドン以上、国際送金においては1000米ドル以上の取引が報告の対象となります。

これに加えて最も厳しいのが、疑わしい取引に関する報告の期限に関する規定です。報告義務主体は、取引金額の多寡にかかわらず、マネーロンダリングの疑いがあると認識した時点から3営業日以内、または当該疑わしい取引を発見した日から1営業日以内に報告を行う義務があります。もし顧客が要求した取引が犯罪活動に関与している明白な兆候を発見した場合には、事態の深刻さに鑑み、発見から24時間以内にベトナム国家銀行および関連当局へ報告しなければならないという極めてタイトな時間的制約が課されています。

日本では、疑わしい取引の報告は速やかに行うこととされており、行政庁のガイドライン等で実務的な運用がなされていますが、ベトナムのように24時間以内という具体的な短時間の期限が法律レベルで明記され、違反時に厳しい制裁が科される制度は、現地で活動する企業にとってコンプライアンス上の重大なリスク要因となります。

したがって、日本企業がベトナムで決済関連事業を展開する、あるいは現地の決済サービスを大規模に利用する場合には、取引監視システムの自動化と、異常検知時の迅速なエスカレーション体制の構築が不可欠です。改正マネーロンダリング防止法に基づく報告実務の詳細については、以下の専門レポートで確認することができます。

参考:PwCベトナム:2022年 新マネーロンダリング防止法の解説

ベトナムの外資系企業における外為管理と利益送金規制

ベトナムの外資系企業における外為管理と利益送金規制

外国直接投資における資本金口座の利用義務

ベトナムは厳格な外国為替管理制度を維持しており、国境を越える資金の移動は厳しく制限されています。日本企業がベトナムに現地法人を設立し事業を行う場合、出資金の送金や利益の回収は、ベトナム国家銀行の通達に基づく特別な手続きに従う必要があります。

外資系企業は、投資資金の受け入れ、利益の送金、および外国からの借入金の受け払いを行うための専用口座である直接投資資本金口座を、ベトナム国内の認可された商業銀行に開設しなければなりません。出資金の払い込みはこの資本金口座を通じて行われる必要があり、これ以外の一般の事業用決済口座を経由して出資を行った場合、後述する利益の海外送金や投資元本の回収が不可能になるという致命的なリスクが生じます。

日本の外国為替及び外国貿易法では、事前届出が必要な特定の業種等を除き、対外直接投資や資金の送金は原則として事後報告制が採用されており、資金移動の自由度が比較的高いと言えます。しかし、ベトナムの制度はすべての外国資本の流入と流出を国家が完全に追跡し、統制するための閉鎖的なシステムを採用しているため、日本国内の感覚で資金移動を行うことは許されません。企業は、資本金口座と通常の決済口座の役割を厳格に区別し、それぞれの口座の目的に合致した資金移動のみを行う必要があります。

利益の海外送金手続きと税務上の前提条件

ベトナムの現地法人が事業によって得た利益を日本の親会社へ送金する場合、一定の法定要件をすべてクリアする必要があります。特筆すべき有利な点として、多くの国で採用されている配当に対する源泉徴収税が、ベトナムでは外国法人投資家に対しては免除されています。したがって、日本企業が受け取る利益配当そのものに追加の税金はかかりません。

しかし、海外送金を実行するための実務的なハードルは決して低くありません。利益を送金するためには、現地法人がその年の法人所得税をはじめとするすべての税務義務を完全に履行していることが大前提となります。さらに、独立監査人による監査済みの財務諸表を作成し、それを管轄の税務署へ提出および申告した上で、税務当局からの確認を得る手続きが必要です。これらの厳格な手続きを経て初めて、資本金口座を経由して利益を国外へ送金することが可能になります。

もし、税務申告に不備があったり、前述の非現金決済義務違反による付加価値税の控除否認等によって未納の税金が発生していたりする場合、送金手続きは税務当局によって即座に停止されます。これらの手続き要件から、ベトナム政府が外資系企業に対して国内での納税義務の完全な履行を利益還元の絶対条件として突きつけているということが言えるでしょう。外資系企業の利益送金に関する要件は、以下のコンサルティングファームの解説で詳述されています。

参考:ベトナムの外資系企業(FDI)における利益の海外送金手続き

ベトナムにおける資金決済関連法制の違反に対する罰則と司法判断

法令違反がもたらす行政処罰と刑事責任のリスク

ベトナムにおいて資金決済法制やマネーロンダリング防止法に違反した場合、単なる行政上の是正勧告にとどまらず、高額な罰金、事業免許の取り消し、そして重篤な場合には企業経営者や実務担当者個人に対する刑事罰が科される可能性があります。非現金決済に関する政令の第8条では、匿名や偽名での電子ウォレットの開設、支払い手段の偽造、決済仲介機関の免許の貸与や改ざんなどを厳格に禁止しており、これらに違反した場合には最大1億5000万ベトナムドンの行政罰金が科されるほか、事案の悪質性によっては直ちに刑事訴追の対象となることが明記されています。

さらに、ベトナムの2015年刑法には、銀行業務および銀行業務に関連するその他の活動に関する規定の違反という犯罪が明確に規定されています。この条文は、信用機関や関連する金融・決済業務において法令に違反する行為を行い、他人に1億ベトナムドン以上の財産的損害を与えた者を刑事罰の対象としています。日本の法律においても出資法違反や資金決済法違反に対する刑事罰は存在しますが、ベトナムの刑法は損害額という客観的な数値を基準に犯罪の成立要件を定めており、規定の手続きを少しでも逸脱して損害を発生させた場合、直ちに刑事責任を問われるリスクがあります。

この規定の存在は、金融および決済業務におけるコンプライアンス違反が、法人に対するペナルティを超えて、経営層や実務責任者個人の自由を奪う結果につながることを示しています。

銀行業務規定違反に関する高等人民裁判所の判例分析

資金決済や金融業務に関する法規制の違反が実際にどのように裁かれているかを知る上で、ホーチミン市高等人民裁判所が2024年2月1日に下した控訴審判決は非常に示唆に富む事例です

この事件では、複数の被告人が、銀行業務およびそれに関連する活動の規定に違反したとして、刑法に基づいて起訴されました。第一審の有罪判決を受け、被告人らは量刑の不当を訴えて控訴しましたが、高等人民裁判所は事案の重大性と発生した損害額を厳格に認定しました。一方で、裁判所は被告人らの情状、すなわち法令への無知や損害回復に向けた一定の努力などを考慮し、Phạm Thị VおよびVõ Phước Hの各被告人に対してそれぞれ懲役3年、執行猶予5年の判決を言い渡しました。

判例の概要詳細情報
裁判所名ホーチミン市高等人民裁判所
判決年月日2024年2月1日
当事者名Phạm Thị V, Võ Phước H, Phạm Thị Ngọc T等
適用法条2015年刑法(2017年改正)第206条
判決内容Phạm Thị VおよびVõ Phước Hに懲役3年(執行猶予5年)等

この判決から、ベトナムの司法当局が金融および決済関連の法令違反に対して極めて厳格な態度で臨んでおり、規定の手続きを逸脱した金融操作や決済業務が発覚した場合、実刑判決を含む重い刑事制裁が下される現実があるということが言えるでしょう。執行猶予が付されたとはいえ、懲役刑が宣告された事実は、金融コンプライアンスの欠如が個人にもたらす破壊的な影響を示しています。

日本企業がベトナムで決済関連事業に関与する場合、現地の担当者やパートナー企業に対する法務コンプライアンス教育の徹底と、第三者の視点を入れた内部監査体制の構築が、単なる事業戦略を超えた経営の存続を左右する極めて重要な要素となります。本判決の公式な文書は、以下のリンクで確認することができます。

参考:ホーチミン市高等人民裁判所 刑事控訴審判決 98/2024/HS-PT(銀行業務および関連活動に関する規定違反)

まとめ

本記事では、急速に進化し複雑化するベトナムの資金決済法制について、法定通貨での決済義務という基本原則から、新たなフィンテック規制、厳格なマネーロンダリング防止対策、外資系企業に特有の外為管理、そして違反時に直面する刑事罰のリスクに至るまで、多角的な視点から詳細な解説を行いました。特に、2025年より施行される500万ドン以上の取引における非現金決済の義務化と付加価値税控除の厳格な連動、電子マネーの新たな法的定義の創設、そして決済仲介機関に対する多額の資本金要求など、一連の法整備から読み取れるのは、ベトナム政府がキャッシュレス化の推進と金融市場の健全化を、税制や免許制度を駆使して強硬に推し進めている現状です。

日本の法制度と比較した場合、ベトナムの規制は決済手段の選択に国家が直接介入し、外資の流出入を厳格に監視・統制する点に大きな特徴があります。ベトナムでの事業展開を成功に導くためには、これらの矢継ぎ早に行われる法改正を単なる事業上のリスクとして捉えるのではなく、国家のデジタル化の波に乗るための必須のルールとして正確に理解し、強固な内部統制とコンプライアンス体制を築くことが不可欠です。市場の成長性に惹かれて進出を急ぐあまり、決済や送金に関する法的要件を軽視すれば、税務上の多大な不利益を被るだけでなく、経営陣の刑事責任という取り返しのつかない事態を招きかねません。

モノリス法律事務所では、日本企業の皆様がベトナム市場において直面する複雑な資金決済法制や、それに付随する各種コンプライアンス課題について、最新の現地法務動向を踏まえた適切な法的アドバイスを提供し、安全かつ円滑なビジネスの展開をサポートいたします。現地法令の解釈や実務対応に不安をお持ちの経営者や法務担当者の皆様は、ぜひ一度ご相談をご検討ください。新たな市場での挑戦が強固な法的基盤の上に成り立つよう、尽力いたします。

弁護士 河瀬 季

モノリス法律事務所 代表弁護士。元ITエンジニア。IT企業経営の経験を経て、東証プライム上場企業からシードステージのベンチャーまで、100社以上の顧問弁護士、監査役等を務め、IT・ベンチャー・インターネット・YouTube法務などを中心に手がける。

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