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法律記事MONOLITH LAW MAGAZINE

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モンゴル国における外国人による不動産利用と土地法による土地利用権

日本においては土地の私有が広く認められ、外国人も原則として土地を所有できるのに対し、モンゴル国憲法は、全ての土地が国家の所有に属すると規定しています。このため、外国投資家がモンゴルで不動産を利用する際に取得可能なのは、「所有権」ではなく「利用権」となります。

すなわち、外国の法人や個人は、土地を直接所有することはできず、特定の目的のために土地を「占有」し「利用」する権利を、国家との契約に基づき取得することになります。この「占有権」および「利用権」は、日本の地上権や賃借権に類似する側面を持つ一方で、モンゴル独自の法体系の下で運用されるため、その詳細な内容、取得方法、期間、そして権利の移転可能性などについて正確な理解が求められます。

本記事では、外国人がモンゴルで土地を所有できない法的根拠、外国人に認められる土地の占有権および利用権の具体的な内容、その取得手続や許容される利用期間、そして権利の移転や担保設定の可能性といった論点について解説します。

モンゴル国における土地所有の原則と外国人の土地所有制限

モンゴル国における不動産に関する法制度を理解する上で、最も根幹となるのは、その土地所有の原則です。日本においては、憲法が財産権を保障し、土地の私有が広く認められているのに対し、モンゴル国では土地の国家所有が憲法上の原則として確立されています。

モンゴル国憲法第6条第1項は、「モンゴル国の土地、その地下、森林、水資源、動植物及びその他の天然資源は、国家の財産である」と規定しています。この規定は、モンゴル国内の全ての土地が、その表面、地下、土壌を含め、国家の所有に属するという原則を示しています。この原則は、モンゴル土地法第3条第3項第1号によっても再確認されています。

一方で、モンゴル国憲法第6条第2項は、「放牧地及び牧草地を除く土地は、モンゴル国市民に私有財産として与えることができる」と定めており、モンゴル国民に対しては一定の条件の下で土地の私有が認められています。これは、モンゴル国民が「土地所有権」という、法律で定められた範囲内で土地を占有、利用、処分する権利を持つことを意味します。

しかし、外国の法人や個人に対しては、この国民に認められる土地所有権は一切付与されません。モンゴル土地法第3条第3項第3号は、「外国の国家、国際機関、外国の法人及び外国の市民は、モンゴル国において土地を所有することを禁止される」と明確に規定しており、外国人がモンゴル国内で土地を直接所有することは法的に禁じられています。

この土地の国家所有原則と外国人の土地所有制限は、日本の不動産法制との最も顕著な相違点であり、モンゴルへの投資を検討する日本企業が最初に理解すべきポイントとなります。日本法では、原則として外国人も日本人と同様に土地の所有権を取得できますが、モンゴルではそれが認められないため、外国投資家は土地の利用権という形で不動産にアクセスすることになります。

また、モンゴル国憲法第6条第1項が「土地」の定義に「地下」を含むと明記している点は、鉱業プロジェクトとの関係では重要な意味を持ちます。モンゴル土地法第3条第2項第2号は、地下およびその資源の所有、占有、利用に関する関係が別途の法律によって規律されることを規定しています。外国投資家が鉱業プロジェクトに関わる場合は、土地の利用権だけでなく、鉱業法に基づく採掘権などの別途の権利取得が必要となること、すなわち、土地利用権が地下資源の利用権を含まないという、土地と地下(地下資源)の区別が行われているわけです。したがって、日本企業がモンゴルで資源開発や、地下利用を伴うインフラプロジェクト(例えば、トンネルや地下パイプラインなど)を検討する際には、土地利用権の取得に加えて、関連する地下資源法や鉱業法に基づく追加の許認可や権利取得が必要となることを前提にする必要があります。

モンゴル国において外国人に認められる土地利用権の性質と種類

モンゴル国において外国人に認められる土地利用権の性質と種類

モンゴル国において外国人が土地にアクセスする唯一の手段は、土地の所有権ではなく、「占有権」および「利用権」といった土地利用権を取得することです。これらの権利は、モンゴル土地法および投資法に基づき、特定の目的と期間に限り付与されます。

モンゴル土地法第3条第3項第4号は、「外国の法人及び市民は、契約に基づき土地を占有し、利用することができる」と明記しており、これが外国投資家にとっての土地利用の法的根拠となります。ここでいう「占有」とは、法律および関連契約の範囲内で、特定の目的のために土地を管理し、占有する権利を指し、一方「利用」とは、土地の有用な特性を、その原状を変更することなく利用する活動を行う権利を意味します。これらの定義から、占有権と利用権が組み合わさることで、外国人は土地を物理的に支配し、その経済的価値を享受できることが理解できます。

これらの土地利用権は、国家行政機関によって付与され、その権利は土地台帳に登録されることで法的な効力を持ちます。この登録制度は、権利の公示と保護の観点から非常に重要であり、日本の不動産登記制度と同様に、第三者対抗要件としての役割を果たします。

土地利用権には、その性質上、以下のような特徴があります。

  • 目的の特定性: 土地利用権は、必ず特定の目的のために付与されます。例えば、工業用地、商業用地、住宅用地、農業用地など、契約で定められた用途以外に土地を利用することは原則としてできません。用途変更が必要な場合は、新たな契約締結や既存契約の変更手続きが求められる可能性があります。
  • 期間の制限: 土地利用権は、期間が限定された権利です。一般的な土地の占有・利用権の初期期間は最長15年とされ、その後、10年ごとの延長が可能ですが、総期間は40年を超えてはならないとされています。ただし、外国投資プロジェクトについては、より長期の利用が認められています。投資法第7条第2項および土地法第3条第6項第3号に基づき、「外国投資プロジェクトの実施のために土地を占有し、利用する期間は、最長60年とし、さらに最長40年まで延長することができる。ただし、総期間は100年を超えてはならない」と規定されており、大規模な長期投資を誘致するための優遇措置が講じられています。鉱山開発や大規模な工場建設、インフラ整備など、初期投資が大きく回収に長期間を要するプロジェクトにとって、十分な事業継続性を保証するための措置だと言えるでしょう。
  • 契約に基づく付与: 土地利用権は、国家行政機関と利用希望者との間で締結される契約に基づいて付与されます。この契約には、土地の目的、期間、面積、場所、利用条件、当事者の権利義務、責任などが詳細に規定されます。
  • 移転可能性と担保設定: 重要な点として、土地の占有権および利用権は、法律の規定に従って、譲渡、抵当権設定、相続、または担保として利用することが可能です。この規定は、土地利用権が単なる使用権に留まらず、一定の流動性と資産価値を持つことを意味します。これにより、プロジェクトファイナンスにおける担保としての利用や、事業売却・承継時の権利移転が法的に可能となります。これは、単なる賃借権に留まらず、日本の「地上権」や「永小作権」といった物権に近い、より強力な性質となります。

モンゴル投資法は、外国投資家がモンゴル国内で事業活動を行うための法的な枠組みを提供しており、その中で土地利用権の取得に関する規定も用意されています。投資法第3条第1項第5号は、外国投資によって設立された法人を「投資企業」と定義しており、これらの投資企業が土地法に従って土地の占有権および利用権を取得できることが、投資法第7条第1項で規定されています。また、外国投資家は、法律で禁止されていない限り、いかなる分野にも投資することができ、国内投資家と原則として同等の権利義務を持つとされています。

モンゴル国の土地利用権に関連する契約実務と留意点

モンゴル国における土地利用権の取得は、国家行政機関との間で締結される契約がその基盤となります。この契約実務においては、日本の契約慣行とは異なる留意点がいくつか存在します。

土地利用権の付与は、土地法第3条第7項第1号に基づき、国家行政機関と土地の占有者または利用者との間で契約が締結されることによって行われます。この契約は、土地の利用目的、期間、面積、場所、そして利用に関する具体的な条件、当事者の権利、義務、責任といった重要な事項を詳細に規定する必要があります。

契約締結に際しては、以下の点に特に留意する必要があります。

利用目的の明確化と遵守

土地利用権は特定目的にのみ付与されるため、契約書において利用目的を極めて明確に定めることが重要です。利用目的が厳格に定められるということは、事業計画の柔軟性が制約される可能性があることを意味します。例えば、当初の工場建設から、将来的に倉庫や商業施設への転用を考える場合、契約の再交渉や追加の許認可が必要となるリスクがあります。将来的に利用目的を変更する可能性がある場合は、その変更手続きや条件についても契約に盛り込むか、事前に確認しておく必要があります。目的外利用は、権利の解除事由となり得ます。

期間設定と延長手続

契約期間は、プロジェクトの性質に応じて慎重に設定する必要があります。外国投資プロジェクトの場合、最長60年の初期期間と最長40年の延長(合計100年)が可能ですが、これは自動的に付与されるものではなく、申請と承認が必要です。

期間設定は、事業のライフサイクルと密接に連携させる必要があり、特に長期プロジェクトにおいては、100年という最大期間を最大限に活用するための戦略的な契約交渉が求められます。延長手続きの具体的な要件やタイミングを契約書に明記し、計画的に対応することが求められます。期間満了時の土地の返還義務や、その時点での施設・設備の取り扱いについても、事前に明確な取り決めをしておくことが、将来的な紛争を避ける上で極めて重要となります。

権利の登録

土地利用権は、土地台帳への登録によってその効力が発生し、第三者に対抗できるようになります。契約締結後、速やかに登録手続きを行うことが、権利保全のために不可欠です。

権利の移転・担保設定に関する条項

土地利用権は譲渡や担保設定が可能であるため、これらの行為を行う際の条件や手続きについても契約書に明記しておくことが望ましいです。この規定は、プロジェクトファイナンスにおける担保としての利用や、事業売却・承継時の権利移転が法的に可能となるという機会をもたらします。

ただし、モンゴルの金融機関がこれらの権利をどのように評価し、担保として受け入れるか、また、譲渡に際して国家の承認が必要となるか否かなど、実務上の詳細な確認が必要となります。特に、抵当権を設定して資金調達を行う場合は、その権利がモンゴル法の下で適切に保護されるか、金融機関との間で十分な確認が必要です。

契約解除事由と補償

土地利用権は、利用目的の不達成、2年以上の不使用、期間満了など、特定の事由によって解除される可能性があります。これらの解除事由、特に国家による公共の必要性に基づく早期解除の場合には、土地改良物に対する補償が規定されていますが、補償の範囲や評価方法について、契約書で明確にしておくことが重要です。また、投資法は、外国投資に対する非収用と法的環境の安定性を保証しており、紛争解決手段として交渉、調停、仲裁が認められています。これらの保護措置を理解し、活用することも重要です。

まとめ

日本企業は、モンゴルでの事業計画を策定する初期段階から、土地の利用目的と期間を具体的に想定し、将来的な事業展開の可能性も視野に入れた上で、契約書のドラフトに臨むべきです。単に現時点の必要性だけでなく、拡張性や転用可能性も考慮に入れた、柔軟性を持たせるための条項(例えば、目的変更に関する協議条項や優先交渉権など)を検討する必要もあるでしょう。また、土地利用権を単なるコストではなく、バランスシート上の資産として認識し、資金調達戦略や出口戦略(M&A、事業売却など)に組み込むことができますが、その実現可能性と条件については、モンゴルの不動産市場や金融慣行に詳しい専門家との連携が不可欠だと言えるでしょう。

モノリス法律事務所の取扱分野:国際法務・モンゴル国

弁護士 河瀬 季

モノリス法律事務所 代表弁護士。元ITエンジニア。IT企業経営の経験を経て、東証プライム上場企業からシードステージのベンチャーまで、100社以上の顧問弁護士、監査役等を務め、IT・ベンチャー・インターネット・YouTube法務などを中心に手がける。

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