失敗しない!「個人M&A」のために知っておきたい法律について
「M&A」という言葉を耳にしたことがある方は多いでしょう。近年では、「個人M&A」という小規模なM&Aが増加傾向にあります。
個人M&Aは、比較的少額で会社や事業を売買することを指します。ビジネスマンでも貯蓄金額で買えることもあり「“副業社長”になるチャンス」などともてはやされていますが、その取引にあたっては注意すべき点もあります。
本記事では、個人M&Aを行おうとしている方向けに、関連する法律や手続について解説します。
この記事の目次
個人M&Aとは
個人M&Aとは、個人間で数百万円から一千万円ほどの少額で売買されるM&Aを指します。M&Aマッチングサイトが増えてきたことにより、こうした個人M&Aも増加傾向にあります。以前であれば、後継者不足などにより廃業せざるを得なかったような小さな企業も、個人M&Aにより会社や事業を譲渡し、承継させることができるようになってきています。買い手側にとっては、起業するよりも少ないリスクで事業を始めることができるなどのメリットがあります。
サイトM&AやアプリM&Aについては、以下の記事をご参照下さい。
案件の探し方
個人M&Aの案件は、M&AマッチングサイトやM&A仲介会社で見つけることができます。M&Aマッチングサイトに希望する買収・売却条件などの情報を登録しておけば、マッチする案件が届きます。サイトによっては、専門家によるサポートが受けられるものもあります。
また、中小機構が各都道府県に設置している「事業引継ぎ支援センター」では、中小企業・小規模事業者に対してマッチング支援を行っています。ただ、このセンターで扱われているのは小規模のM&A案件が多いものの、個人向けというわけではないため、事前に個人である旨を伝えてマッチングが可能かどうかを相談してみましょう。
個人M&Aの流れ
個人M&Aを行う際の流れは、以下の通りです。
- マッチングサイトや仲介会社を通して、相手先を見つける
- 秘密保持契約書の締結・面談
- 基本合意書の締結
- デューディリジェンスの実施
- 条件交渉
- 最終契約書の締結・決済
このうち、特に秘密保持契約書、基本合意書や最終契約書等の作成やデューディリジェンスについては、さまざまな法律の知識が不可欠ですので、経験豊富な弁護士へ依頼しましょう。
個人M&Aに関連する法律とは
個人M&Aを行うにあたり、知っておいた方がよい法律にはどのようなものがあるのでしょうか。自分や相手方の業種によっても異なりますが、基本的に関連する法律を以下に挙げます。
会社法
会社を対象とするM&Aを行う際には、会社法に基づいて取引を進める必要があります。会社法には、M&A(合併、分割、株式交換・株式移転、事業譲渡)を行う際にどのような手続が必要になるのかが規定されています。ここでは、個人M&Aで多く使われるスキームである株式譲渡や事業譲渡について説明します。
株式譲渡の場合
株式譲渡は、株主の保有者が買い手へ株式を譲渡することにより、経営権を移転する方法です。株式譲渡を行う場合、会社法上、
- (譲渡制限株式の場合)株式譲渡承認請求
- 取締役会または株主総会の開催
- 株式譲渡契約を締結
- 株主名簿を書き換え
が必要となります。なお、譲渡対象となる会社が、株券発行会社である場合は株券の交付が必要になりますので、ご注意ください。株券発行会社であるかどうかは、登記簿謄本で確認できます。
事業譲渡の場合
事業譲渡は、会社の全部または一部の事業を譲渡するスキームです。会社法上、事業譲渡をする際に株主総会の特別決議が必要となる場合と不要の場合が定められています。また、会社法第21条には、事業を譲渡した会社の競業の禁止が定められており、譲渡会社は、同一の市町村の区域内及びこれに隣接する市町村の区域内においては、譲渡日から20年間(特約により30年間まで延長可能)は、同一の事業を行ってはならないものとされています。こうした内容も事業譲渡契約書に記載しておくことができます。
なお、個人事業主が事業譲渡を行う場合には、税法関連の手続が必要です。
税法
個人事業主がM&Aを行う場合、個人事業主は会社ではないため、会社法の適用はありません。その代わりに、税法上の手続が必要となります。
事業を譲渡する側は、以下の届け出を税務署へ行います。
- (事業の全てを承継させる場合)個人事業の開業・廃業等届出書
- (青色申告をしていて、取りやめる場合)所得税の青色申告の取りやめ届出書
- (消費税の課税事業者だった場合)事業廃止届出書
- (予定納税額の減額をしたい場合)所得税および復興特別所得税の予定納税額の減額申請書
事業を譲り受ける側が個人の場合、以下の届け出を税務署へ行う必要があります。
- 個人事業の開業・廃業等届出書
- (青色申告を行う場合)所得税の青色申告承認申請書
- (家族などを青色事業専従者にする場合)青色事業専従者給与に関する届出書
- 事業を譲り受ける側が法人の場合は、また別の手続が必要となりますが、ここでは割愛します。
その他
上記の他、適用される可能性がある法律として、独占禁止法、労働法、金融商品取引法、産業競争力強化法、民事再生法などがあります。また、M&Aの対象となる企業、売り手や買い手の業種によっては、また別の法律の対象となることがあります。
まとめ
個人M&Aは小規模なM&Aですが、関連する法律は一般のM&Aと同じように多岐にわたります。個人でその全てを把握して、トラブルなく取引を進めるのは難しいかもしれません。特に、各種契約書の作成やデューディリジェンスについては、専門家のアドバイスなしに進めると思わぬトラブルに発展するおそれもあります。
個人M&Aをご検討の場合は、個人M&Aを多く手がける弁護士へ早めに相談するのが安心です。
カテゴリー: IT・ベンチャーの企業法務