M&Aの中でも簡単なスキーム「株式譲渡」のメリットと契約の流れ
M&Aには、会社分割、合併、株式譲渡などさまざまなスキームがあります。この記事では、国内のM&Aで多くの割合を占めるスキーム「株式譲渡」について、メリット・デメリットを含め解説します。
この記事の目次
株式譲渡とは
M&Aにおける株式譲渡とは、対象会社の株主が買い手側の企業に保有株式を売却することにより、経営権を承継させる手続です。株主は、株式譲渡の対価を現金で得ることができます。他のM&Aスキームに比べると手続が簡単なため、特に中小企業のM&Aでは株式譲渡が選択されるケースが多いです。
株式譲渡の方法
株式譲渡の方法としては、大きく分けて「公開買付(TOB)」、「市場買付」、「相対取引」の三つがあります。
株式公開買付(TOB)
株式公開買付とは、TOB(Take-Over Bid)ともよばれ、買付の詳細(買付期間、買付価格、株式数)を公告し、証券取引所を通さないで大量に株式を買い付ける手法です。金融商品取引法に基づき、買付後の株券等所有割合が3分の1を超える場合は、公開買付によらなければならないものとされています(3分の1ルール)。TOBで提示される買付価格は、より多くの株式を買い付けるために市場での取引価格より高めに設定されることが多いです。
TOBには、友好的TOBと敵対的TOBがあります。友好的TOBとは、対象会社の経営陣の合意を得ている場合を指し、敵対的TOBとは、対象会社の経営陣が反対している場合を指します。敵対的TOBに対しては、ポイズンピルやゴールデンパラシュートなどさまざまな対抗策があります。
市場買付
市場買付とは、対象会社が上場企業である場合に、証券取引所で株式を買い集める手法です。ただし、大量に買い注文を出せば株価が上昇する可能性が高いため、株式の過半数以上を取得する目的で行うことはあまりないといえるでしょう。
相対取引
相対取引とは市場外で取引を行うことを指し、非上場企業の場合は相対取引のみとなります。当事者間で合意すれば、価格などの取引条件を自由に設定することができます。
株式譲渡のメリット
譲渡会社にとってのメリットは、主に以下の2つです。
- 会社をそのまま存続できる
- 株主は、株式を現金化できる
一方、譲受会社にとってのメリットには、以下の2つがあります。
- 許認可や契約を原則的には継承できる
- 他のスキームと比べて、手続が簡素である
株式譲渡の場合、許認可や契約を継承できるケースがほとんどです。ただし、取引基本契約や賃貸借契約には、大株主が変更された場合には契約が解除されるという旨の条項が含まれている場合もありますので、その点には注意が必要です。実務上は、この条項があるからといって必ずしも解除されるわけではなく、新たな株主の信用度などによっては契約を継続できるケースも多くあります。
株式譲渡のデメリット
譲渡会社の株主が多くなければよいのですが、多数の株主がいる場合は株式のとりまとめに手間がかかります。
また、譲受会社にとっては、負債や簿外債務などもまとめて引き継がなければならないというデメリットがあります。そのため、事前のデューディリジェンスを慎重に行う必要があります。
株式譲渡の前に確認すること
株式譲渡を行う際には、以下の点を確認しましょう。
株券が発行されているか
株券発行会社の場合は、株式譲渡の際に株券の受け渡し手続が必要です。会社法施行(平成18年5月)以前に設立された会社の場合、定款に株券を発行しない旨の規定がなければ、株券発行会社です。逆に、平成18年5月より後に設立された会社の場合は、定款に株券を発行する旨の規定がなければ株券不発行会社となります。
株券不発行会社の場合は、株式譲渡契約を締結して株主名簿の名義書き換えを行えば権利移転ができますが、株券発行会社の場合は、株券を交付しないと権利移転ができませんので注意が必要です。
株式に譲渡制限があるか
譲渡対象となる株式に譲渡制限が設けられている場合は、株式譲渡承認請求を行い、承認を得る必要があります。株式に譲渡制限があるかどうかは、定款または登記事項証明書で確認することができます。
株式譲渡の流れ
相対取引による株式譲渡は、譲渡人と譲受人との合意があれば行うことができますが、効力を発生させて第三者に対抗できるようにするためには会社法に基づいた手続を経る必要があります。以下に相対取引による株式譲渡の大まかな流れをご説明します。
(株式に譲渡制限がある場合)株式譲渡承認請求
譲渡制限株式を譲渡しようとする場合、株主は譲渡承認請求書を会社に提出し、承認を得る必要があります。譲渡承認請求書には、以下を記載します。
- 譲渡する株式の種類及び数
- 譲渡の相手方の住所、氏名または名称
(株式に譲渡制限がある場合)株式譲渡承認
取締役会設置会社の場合は、取締役会で株式譲渡の承認をします。取締役会設置会社であっても、定款に規定があれば株主総会で行うこともできます。取締役会非設置会社の場合は、株主総会で承認を得ます。承認・非承認が決まれば、会社は請求者へ通知を出します。
譲渡承認請求日から2週間以内(定款で短縮可能)に通知をしなかった場合は、会社法上、会社は譲渡を承認したものとみなされますので注意が必要です。
株式譲渡契約の締結
譲渡承認が認められれば、株式譲渡契約を締結します。なお、株式譲渡契約を締結する前には、デューディリジェンスを行い、リスクを把握しておく必要があります。
株主名簿の書き換え
譲渡人と譲受人は、会社に対して株主名簿の書き換え請求を行います。株券不発行会社の場合は、譲受人は株主名簿記載事項証明書の交付を請求できます。上述しましたが、株券発行会社の場合は株券の交付がなければ株式譲渡の効力が発生しないため、株券を交付する必要があります。
まとめ
株式譲渡は、他のM&Aスキームと比べると簡便な手続ですが、スムーズに手続を進めるためには法務や税務に関する専門知識が欠かせません。株式譲渡をお考えの場合は、豊富な経験を持つ弁護士へまず相談しましょう。
カテゴリー: IT・ベンチャーの企業法務