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法律記事MONOLITH LAW MAGAZINE

風評被害対策

会社や団体への名誉侵害における慰謝料と無形損害とは

風評被害対策

会社や団体にへの名誉侵害での慰謝料と無形損害とは

名誉を侵害する行為がなされたとき、被害者が個人であれば、精神的苦痛を慰謝するために慰謝料という損害賠償が認められるのですが、被害者が会社や団体のときにはどう考えればいいのでしょうか。

会社や団体については、精神的苦痛というものを考えることはできないので、名誉が毀損されても、精神的苦痛を慰謝する慰謝料は考えられない、だから、売り上げの低下等の有形的損害に限って賠償を認めればよいという判断があり得ます。しかし、現実には、侵害行為による売り上げの減少分を正確に算出することは困難なので、これでは、会社や団体の権利救済は行われないことになってしまいます。

そこで、会社や団体が名誉侵害行為を受けた場合、売り上げの低下等の有形的損害以外の損害、つまり慰謝料のような無形の損害が認められるか否かが問題となります。

会社や団体と無形の損害

最高裁判所は1964年1月に、医療法人が求めた名誉権侵害に対する損害賠償請求について「無形の損害即精神上の苦痛と解し、延いて法人には精神がないから、無形の損害はあり得ず、有形の損害すなわち財産上の損害に対する賠償以外に法人の名誉侵害の場合において民法723条による特別な方法が認められている外何等の救済手段も認められていないものと結論するのは全くの謬見」であるとし、

法人の名誉権侵害の場合は金銭評価の可能な無形の損害の発生すること必ずしも絶無ではなく、そのような損害は加害者をして金銭でもって賠償させるのを社会観念上至当とすべき

最高裁判所1964年1月28日判決

と判示し、法人が被った名誉侵害について、「無形の損害」として賠償請求を認めました。この最高裁判所判決は、法人の精神的苦痛を認めるものではないと解されますが、法人について金銭評価可能な無形の損害の存在を認めるものであり、「法人は名誉侵害による無形の損害については賠償請求をなし得ない」とした原判決を破棄し、東京高等裁判所に差し戻したものです。

その後、様々な法人や法人格のない政党、労働組合、事業者団体等においても、無形の損害が認められてきました。

会社に対する名誉毀損と無形の損害

法人に対する「無形の損害」により、損害賠償支払いとなったケースもあります。

大手有名会社会長の職務執行等を非難する週刊誌の記事について、会社に対する名誉毀損の成立を認め、損害賠償の支払いと謝罪広告の掲載を命じた事例があります。

鐘紡の代表取締役会長であり、日航の代表取締役会長でもあったIに経営者としての能力がなく、日航会長として適格を欠くだけでなく、本体の鐘紡で粉飾決算を続けてきたと週刊新潮が報道しました。東京高等裁判所は、1994年9月、この記事が真実に合致するかどうかについての証拠はないとし、

本件記事は控訴人が粉飾決算を行った等の控訴人にとって極めて重大、深刻な内容を含むものであって、控訴人の名誉、信用がこれによって著しく毀損されたことは明らかであり、また、週刊新潮の発行部数が約60万部に及ぶことは当事者間に争いがなく、本件記事が控訴人に与えた衝撃はこの点からしても重大であるものというべきであって、控訴人は、本件記事によって、具体的計数には積算できないものの、相当の無形の損害を被ったものと認めることができる。

東京高等裁判所1994年9月7日判決

として、週刊新潮に無形の損害に対する損害賠償500万円と謝罪広告の掲載を命じました。一方、控訴人(鐘紡)の売上減による「得ることができなかった利益の喪失」については、

控訴人の子会社である化粧品販売会社及びカネボウ薬品株式会社の昭和61年7月ないし8月の売上高が前年同期に比較して相当減少していることが認められる。しかし、売上高は、その時々の経済情勢など複雑でかつ多岐にわたる諸要素によって変動するものであるから、控訴人の子会社の売上高の減少が本件記事が掲載されたことによるものであるということはできない。なお、子会社の損害がそのまま控訴人の得べかりし利益の喪失となるとする点も首肯することができない。

同上

として、認めませんでした。この売り上げ減少による営業損失等の財産的損害は、理論的には認められても、損害の発生の立証や名誉毀損行為との相当因果関係の立証が困難とされており、裁判で認められるのは稀なのです。

無形の損害と名誉回復のための費用

いくつかの裁判で、原告の多くは、

  1. 売上減少による営業損失等の財産的損害(営業損害)
  2. 名誉回復措置を講じるために支出を余儀なくされた費用(営業損害の拡大防止及び社会的信用回復のために行った社告及び意見広告掲載費用)
  3. 社会的信用失墜等の無形の損害

という3種類の損害を主張してきました。

このうち1が認められるのは稀ですが、2も認めてもらうのは困難です。これに関して、バブル経済崩壊後の不動産不況に関するテレビ番組において放映された不動産業者へのインタビューが、編集により当該業者も苦しい経営状態にあるとの印象を与えるものと変えられたことについて、信用毀損による不法行為が認められた事例があります。

番組はバブル経済崩壊後の、販売中止に追い込まれたマンション、販売中止に追い込まれた業者、販売事務所の悲惨な状況を映し出し、ナレーションによってハイタウン吉川というマンションを販売中の原告企業も他の不動産業者と同様に資金面において非常に苦しく、ダンピング競争にも耐えきれず、在庫もさばけなくなり、借入金が増えている状況にあるとの印象を抱かせるものでした。

しかし、東京地方裁判所は1994年11月、原告企業は現実には極めて良好な経営状態にあり、「原告が本件番組放送前には相当の社会的評価を得ていたことが明らかである。したがって、このような会社に対し、前記のような印象を一時視聴者に抱かせるという本件放映部分の放送は、原告の信用を毀損するものであると認めるべきである」とし、無形損害については、テレビ局と番組制作会社に300万円の支払いを命じました。

一方、原告企業は「本件放映部分の放送により原告の信用が毀損され、ハイタウン吉川の販売に悪影響が出ることを懸念し、通常であればせいぜい40万部のチラシを配布すれば足りるところを、追加として62万部のチラシを配布し、加えて読売新聞紙上に広告を2回掲載し、信用回復のための追加広告費用として合計741万9347円を余分に支出し同額の損害を被った」として、支出を余儀なくされた追加広告費用を請求したのですが、

当時の不動産の市況にかんがみると、本件番組の放送がなければ、確実に販売が可能であったとも認めることはできず、むしろハイタウン吉川などのマンションの販売は非常に困難な状態であったと考えられ、そうであるにもかかわらず本件番組の放送後約6か月経過後にはハイタウン吉川の全33戸が完売されたことが認められる。したがって、原告が前記追加広告を行わなければ、ハイタウン吉川が売れなかったと認めることはできない。そうすると、原告の支出した追加広告費用については、本件全証拠をもっても、原告が主張する右損害と被告らの共同不法行為との間に相当因果関係を認めることができない。

東京地方裁判所1994年11月11日

とし、請求を認めませんでした。しかし、「原告が前記追加広告を行わなければ、ハイタウン吉川が売れなかったと認めることはできない」といわれても、追加広告を行わずにハイタウン吉川が売れなかったら、追加広告費用を請求することはないのですから、おかしな理屈です。

会社と代表者に対する名誉毀損

会社等の代表者に対する誹謗中傷は個人に対する名誉毀損として、慰謝料を請求される事例もあります。

会社や団体に向けられた誹謗中傷等が同時にその代表者等に対しても向けられているとき、会社や団体等の名誉とは別に、その活動に携わっている個人の名誉を考えることができます。

のん(芸能事務所在籍時は能年玲奈)と当時所属していた芸能事務所レプロエンタテインメントとのトラブルについて週刊文春は、彼女が表舞台から姿を消した理由は、レプロの待遇にあると報じました。記事では、2013年以降、彼女がおかれていた状況を、「『あまちゃん』時代の月給は5万円」「お金がなく、パンツも買えなかった」「現場マネージャーが次々に替わった」などと詳報し、証言者は当事者に「ごく近い人物」を取材したと思われる具体的な内容でした。

記事に対し、レプロおよび同社社長は「事実に反する」として、2015年6月に発行元の文藝春秋と当時の同誌編集長を名誉毀損で提訴しましたが、その判決が、2019年4月に東京地方裁判所で下されました。判決で、東京地方裁判所は、記事内容のほとんどを否定し、「被告らは、報道機関としての使命を忘れ、レビュー報道しようとする内容が真実であるか否かについて客観的な⾒地から調査し検証することをおろそかにし、その裏付けもないまま、単なる主観的な主張にすぎない内容を訴え流布させることを優先して、本件記事の報道に及んだものと断ぜざるを得ない」とし、

芸能事務所である原告会社について、所属タレントに対し、低額の報酬しか⽀給せず、合理的な理由なく仕事を与えないなどの評価が世間に広まれば、原告会社の信⽤は⼤きく傷付き、タレントを発掘し育成するという業務に⼤きな⽀障が⽣じることになるから、原告会社の被った無形損害は重⼤である。また、原告Aについては、原告会社の代表取締役であり⾳事協の常任理事を務める者でもあるから、原告会社の所属タレントに対し⼈格を否定する⾔動に及んでパワハラをする⼈物であるという評価が世間に広まれば、原告Aの名誉や信⽤は傷付き、業務にも⽀障が⽣じるものと考えられる。

東京地方裁判所2019年4月19日判決

として、週刊文春と文芸春秋社に、代表取締役に対する慰謝料100万円と芸能事務所に対する無形の損害500万円、弁護⼠費⽤を含めた合計660万円の支払いを命じました。

なお、この判決を受けて週刊文春と文芸春秋社は即日控訴をしています。

また、インターネット上での風評被害対策を弁護士に依頼した場合の弁護士費用や賠償フローについては、下記記事にて解説しています。

まとめ

会社や団体の名誉が毀損されたとき、その権利救済は有形的損害以外にも、無形の損害として、請求することができます。

民法第710条には、「他人の身体、自由若しくは名誉を侵害した場合又は他人の財産権を侵害した場合のいずれであるかを問わず、前条の規定により損害賠償の責任を負う者は、財産以外の損害に対しても、その賠償をしなければならない。」とありますが、これを無形の損害についての賠償を認めた規定とし、会社や団体についても現実的に妥当な結論が導かれています。

個人の場合には慰謝料を請求し、会社や団体の場合には無形の損害を請求して、加害者に損害を補償させましょう。

弁護士 河瀬 季

モノリス法律事務所 代表弁護士。元ITエンジニア。IT企業経営の経験を経て、東証プライム上場企業からシードステージのベンチャーまで、100社以上の顧問弁護士、監査役等を務め、IT・ベンチャー・インターネット・YouTube法務などを中心に手がける。

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