弁護士法人 モノリス法律事務所03-6262-3248平日10:00-18:00(年末年始を除く)

法律記事MONOLITH LAW MAGAZINE

風評被害対策

ネット上の誹謗中傷行為とプライバシーの侵害

風評被害対策

ネット上の誹謗中傷行為とプライバシーの侵害

プライバシーの侵害

名誉毀損や侮辱罪などの刑事責任が発生する場合だけではなく、投稿内容が対象者のプライバシーを侵害している場合にも、ネット上での書き込みが問題になり、投稿者に法的な責任が発生することになります。

刑法では、プライバシーの侵害を罰する規定はありません。しかし、刑事上の責任は発生しなくても、民事上の責任が発生するのです。

プライバシーの侵害では、投稿する内容が真実であっても法的責任が発生

騒ぎになった後で、「本当のことを書き込んだだけなのに」と戸惑う加害者も多いのかもしれませんが、プライバシーの侵害の場合には、投稿する内容が真実であっても法的責任が発生します。

むしろ、真実である方が、情報を公開された被害者にとってはダメージが大きくなってしまい、損害賠償の請求額が高額となる可能性すらあります。このとき、名誉毀損とは異なり、社会的評価の低下は関係ありません。被害者が不快、不安に感じたかどうかが関係するだけです。

「『宴のあと』事件とプライバシー権」「『石に泳ぐ魚』事件とプライバシー権」等については別記事でも解説していますが、ここでは、「ネットにおけるプライバシーの侵害の範囲」について解説します。

プライバシーの認容と侵害を満たす4要件

『宴のあと』事件の判決文中(1964年9月28日)で東京地方裁判所は、プライバシー権を「私生活をみだりに公開されないという法的保障ないし権利」と認容し、プライバシーの侵害を満たす4要件を、

  1. 私生活上の事実またはそれらしく受け取られるおそれのある事柄であること
  2. 一般人の感受性を基準にして当該私人の立場に立った場合、公開を欲しないであろうと認められる事柄であること
  3. 一般の人々に未だ知られていない事柄であること
  4. 公開によって当該私人が実際に不快、不安の念を覚えたこと

としました。

プライバシーの侵害が認められた例

裁判での判例による、プライバシーの侵害の範囲とは

プライバシーの侵害は、インターネットが普及する前から、数々の裁判で取り上げられて判例が蓄積され、プライバシーの侵害の範囲が明らかにされてきました。

『宴のあと』事件で認められた侵害例

上の判断を示すとともに、東京地方裁判所は「私生活における様々の出来事の叙述」により、「原告がとくに不快ないし羞恥、嫌悪の念を覚えた」ことをもって、プライバシーが侵害されたと認めました。

『石に泳ぐ魚』事件で認められた侵害例

東京高等裁判所は平成13年2月15日、「個人の障害や病気の事実は、個人に関する情報のうちでも最も他人に知られたくない類のものである。特に外貌に関わる障害の事実は、その障害が本件のような類症例が少ないものである場合、その人物の他の属性と合わせて公表されれば、それ自体が周囲の好奇の対象になる」としてプライバシーの侵害にあたるとし、「顔面に腫瘍の障害を負った者に対する配慮に欠ける」としました。最高裁は口頭弁論を開かないまま、上告棄却の判決を下しました。

ノンフィクション『逆転』事件で認められた侵害例

最高裁判所は1994年2月8日、「本件著作が刊行された当時、被上告人は、その前科にかかわる事実を公表されないことにつき法的保護に値する利益を有していたところ、本件著作において、上告人が被上告人の実名を使用して右の事実を公表したことを正当とするまでの理由はないといわなければならない。そして、上告人が本件著作で被上告人の実名を使用すれば、その前科にかかわる事実を公表する結果になることは必至」であるとして、著者の損害賠償責任を認め、上告を棄却しました。

逮捕歴や前科に関する情報がプライバシー侵害に該当するか否かは、インターネット上でも問題となるケースが非常に多い話です。

早稲田大学江沢民講演会事件で認められた侵害例

最高裁判所は2003年9月12日、早稲田大学が警視庁の要請を受けて、中華人民共和国江沢民国家主席の講演会に参加した学生の名簿を提出したことに対し、「学籍番号、氏名、住所及び電話番号は、早稲田大学が個人識別等を行うための単純な情報であって、その限りにおいては、秘匿されるべき必要性が必ずしも高いものではない」が、「このような個人情報についても、本人が、自己が欲しない他者にはみだりにこれを開示されたくないと考えることは自然なことであり、そのことへの期待は保護されるべきものであるから、本件個人情報は、上告人らのプライバシーに係る情報として法的保護の対象となるというべきである」と判示しました。

インターネットとプライバシーの侵害

上にあげた例は、インターネット普及以前から取り上げられてきたものですが、インターネット普及後にも、様々なプライバシーの侵害の範囲を明らかにする判例が蓄積されています。

画像及び氏名が投稿された例

インターネット上のサイトに画像及び氏名が投稿されたことについて、経由プロバイダに対する発信者情報開示請求の裁判で、東京地方裁判所は2009年2月27日、「人の氏名及び容貌が分かれば容易に特定の個人を識別することが可能であり、両者を併せて示す情報は重要な個人識別情報であるといえる。また、氏名は、人格権の一内容を構成するものであり、容貌も、正当な理由なく、撮影され、あるいはそれが画像として公開されるべきものではない」とし、「このような情報は、 人のプライバシーに属するものであり、これを公開するか否か、公開するとして 誰に対してどのような態様で公開するかを決する本人の自由は尊重されるべきであり、そのような情報が、正当な理由なく、本人が欲しない第三者に対し、欲しない態様で公開されない利益は法的保護の対象になるといえる」としました。

職業、診療所の住所・電話番号が書き込まれた例

眼科医が、ニフティの掲示板で論争していた相手から、職業、診療所の住所・電話番号を、原告に対する攻撃的対応(原告がその後実際に受けたと認められるような嫌がらせ電話等を含む)が生じることが十分ありうることを認識、予見しながら掲示されたとして、賠償責任を求め、裁判を提起しました。 眼科医の診療所の住所や電話番号は、地域別の職業別電話帳に広告掲載されているので、純粋な私生活上の事柄であるとはいい難い面があるのですが、神戸地方裁判所は1999年6月23日、「個人の情報を一定の目的のために公開した者において、それが右目的外に悪用されないために、右個人情報を右公開目的と関係のない範囲まで知られたくないと欲することは決して不合理なことではなく、それもやはり保一されるべき利益であるというべきである。そして、このように自己に関する情報をコントロールすることは、プライバシーの権利の基本的属性として、これに含まれるものと解される」とし、原告の損害賠償請求を認めました。

配偶者の氏名・住所等が書き込まれた例

被告が管理している掲示板に、原告配偶者の氏名・住所及び原告らの親族の氏名・親族の経営する会社の本支店の所在地・電話番号などを内容とする書き込みがなされたことについて、原告が損害賠償を請求した裁判で、東京地方裁判所は

被告は、誰でも容易にアクセスできるインターネット上の掲示板において原告らに係る上記情報を書き込んだものである。これにより、被告は、原告らが欲しない他者にはみだりにこれを開示されたくないと考える情報を、不特定多数の第三者が閲覧可能な状況に置いたものである。他方、本件掲示板において原告らに係る上記情報を公開する必要性を認めるに足りない

東京地判平成21年1月21日

として、原告の損害賠償請求を認めました。

このように、法人登記などの形で公開されている情報であっても、インターネット上の掲示板等で不特定多数に対して晒されることを、無制限に受け入れらなければいけないという訳ではありません。破産情報なども同様です。

匿名ブログの運営者情報とプライバシーの侵害


匿名で運営している様々なソーシャルアカウント情報などの公開も、今後の論点に

掲示板等への書き込みがプライバシーの侵害とされた例は、他にも多くあるのですが、インターネット独特の問題が、他にもあります。

例えば、匿名で運営しているブログやTwitterやInstagram等のアカウント情報などを公開されてしまった場合、プライバシーの侵害を問えるのでしょうか。

ある女性が若年性乳がんの闘病記録であるブログを匿名で運営していたのですが、実生活においては、自分が本件疾病に罹患していたことを親族や親しい友人などの親しい間柄にある人物以外の者に対しては隠していました。ところが、被告の投稿により氏名等を特定され、若年性乳がんに罹患していた事実を一般の人に知られてしまい、プライバシーを侵害されたとして、慰謝料等の損害を求めて提訴した案件があります。

原告はブログに、東京都A区立小学校に音楽教諭として採用され、かつ、同小学校には金管バンドがあり、自分がその金管バンドの指導を行っている旨の記載をしたことがあります。

また、原告は、本件ブログ上に自分の顔を隠した写真や目だけを出したプリクラ写真を掲載したことがあり、本件小学校の金管バンドの顔を隠した全体写真を掲載したことがありました。

一方、本件小学校のホームページの「学校だより」の中の「お知らせ」欄において、「〇〇教諭が音楽の指導にあたります」との記載がなされ、原告の氏名が明示され、また、同ホームページにおいて、同小学校の金管バンドの写真が掲載されており、その中には原告の姿が写ったものがあったのです。

このこと等により原告の氏名、年齢、勤務先小学校名が特定され、被告によって本件疾病の闘病ブログを原告が運営していることが晒されてしまいました。

裁判所は、原告が若年性乳がんに罹患していた事実は一般の人には知られていなかった事実であり、勤務先小学校の場所についても大まかなエリアの指定にとどめており、原告の写真が掲載されてはいるが顔の部分に加工されていたり、後ろ姿であるなど、被写体が原告であると特定できるものとはいえないとした上で、

本件ブログは、本件疾病の闘病記録であり、原告が本件疾病に罹患した事実やその治療の経緯などの情報が掲載されていたことが推認でき、かかる推認を覆すに足りる証拠はない。本件疾病は、その疾患の多くが女性であり、本件疾病に罹患した事実や治療経過及び結果などは、私生活上の事柄であり、また通常人の感受性を基準にしても公開されることを望まない事実であると解される。

東京地方裁判所2014年6月13日判決

そして、「被告による本件投稿は、軽率かつ悪質なもので、原告のプライバシー権を侵害するものである」と認定し、慰謝料等の相当損害額を認め、その支払いを被告に命じました。

匿名で運営しているブログやTwitterやInstagram等のアカウント情報などの公開という行為そのものを裁いた判決ではありませんが、現代における、とりわけインターネット上でのプライバシーを巡る、興味深い判例と言えるでしょう。

弁護士 河瀬 季

モノリス法律事務所 代表弁護士。元ITエンジニア。IT企業経営の経験を経て、東証プライム上場企業からシードステージのベンチャーまで、100社以上の顧問弁護士、監査役等を務め、IT・ベンチャー・インターネット・YouTube法務などを中心に手がける。

シェアする:

TOPへ戻る