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法律記事MONOLITH LAW MAGAZINE

風評被害対策

2ちゃんねる(2ch.sc)書込の削除方法とは

風評被害対策

2ちゃんねる(2ch.sc)書込の削除方法とは

2ちゃんねる(2ch.sc)は、かつて存在した2ちゃんねる(2ch.net)とは異なる、2014年に西村博之氏が創設した新しい「2ちゃんねる」です。2ちゃんねる(2ch.sc)のスレッドに誹謗中傷に該当するような書込が行われた場合、2ちゃんねる(2ch.sc)内にある削除依頼スレッドを使う方法と、裁判所による仮処分という手続を使う方法があります。どちらも癖のある方法であり、後述するように

  • 削除依頼スレッドを使う方法は、削除依頼スレッドへの書込は公開される上に、削除依頼が内容・形式的に2ちゃんねる(2ch.sc)の定める基準に適合していないと対応して貰えず、単に「削除して欲しがっている」ということが公開されるだけになってしまう
  • 仮処分を使う方法は、様々なノウハウが必要で、風評被害対策を日常的に手がけている弁護士でないと実際問題として難しいと思われる

という問題があります。

2ちゃんねる(2ch.sc)の書込の削除方法について、全体像を解説します。

2ちゃんねる(2ch.sc)と5ちゃんねる(5ch.net)

なお、本記事で解説するのは、あくまで2ちゃんねる(2ch.sc)の削除方法です。非常に分かりにくいのですが、2ちゃんねる(2ch.sc)とは、URLが「http://***.2ch.sc」で始まる掲示板サイトであり、かつて存在した2ちゃんねる(2ch.net)とは別系統のサイトです。

かつて存在した、日本インターネット最大の掲示板サイトであった2ちゃんねる(2ch.net)は、2014年頃の運営権の争いを経て、現在は5ちゃんねる(5ch.net)と名前・URL(ドメイン)を変えています。2ちゃんねる(2ch.net)の運営者であった西村博之氏は、この運営権争いで5ちゃんねる(5ch.net)の運営権を失い、その後に「2ちゃんねる(2ch.sc)」を開設した、という経緯です。この経緯、及び、2ちゃんねる(2ch.net)と5ちゃんねる(5ch.net)の違いに関しては、下記記事にて詳述しています。

また、さらに分かりにくいのですが、「ログ速」など、ぱっと見は2ちゃんねる(2ch.sc)のように見えても、URL(ドメイン)が「2ch.sc」でも「5ch.net」でもない、「コピーサイト」と呼ばれるサイト群も存在します。これらもまた、2ちゃんねる(2ch.sc)ではなく、削除請求の方法も2ちゃんねる(2ch.sc)の場合とは異なります。

本記事で解説するのは、5ちゃんねる(5ch.net)でもコピーサイトでもなく、あくまで2ちゃんねる(2ch.sc)の場合の削除の方法です。

削除依頼スレッドを使う場合

削除用掲示板と削除ガイドライン

まず、削除依頼スレッドを使う方法です。

2ちゃんねる(2ch.sc)内には、「削除整理@2ch掲示板」と「削除要請@2ch掲示板」という2個の掲示板が存在しており、それぞれ「通常削除対象」と「重要削除対象」が対象となっています。

http://macaron.2ch.sc/saku/

また、郵送や電話、メール等、掲示板以外での削除依頼は一切受付がありません。いずれの掲示板も、その他の2ちゃんねる(2ch.sc)掲示板と同様、一般に公開されています。つまり、削除要請を行うと、「削除要請があったこと」は一般の2ちゃんねる(2ch.sc)ユーザーの目に触れる状態となってしまいます。

  • 2ちゃんねる(2ch.sc)の定める削除要請の形式に従っていない
  • 2ちゃんねる(2ch.sc)の定める削除基準に照らして、削除されないことが明らか

といった削除依頼を行ってしまうと、2ちゃんねる(2ch.sc)ユーザーによるツッコミなどが入ってしまい、かえって再炎上のリスクがあります。自分で削除依頼を行う場合は、削除ガイドラインを熟読し、

  • どのような形式で削除要請を行えば良いのか
  • 問題の投稿が、どの理由で削除されるべきなのか

をきちんと考えてから依頼を行うべきです。

2ちゃんねる(2ch.sc)の削除ガイドラインとは

2ちゃんねる(2ch.sc)の削除ガイドラインはかなり複雑なので、全体像を解説する事はできないのですが、概説すると、一般私人、有名人、法人で、大きく取扱が異なります。

http://info.2ch.sc/guide/adv.html#saku_guide

一般私人の個人情報等は削除対象

2ちゃんねる(2ch.sc)の定義では、個人は、下記の3通りに分類されます。

一群
 政治家・芸能人・プロ活動をしている人物・有罪判決の出た犯罪者
二類
 板の趣旨に関係する職業で責任問題の発生する人物
 著作物or創作物or活動を販売または提供して対価を得ている人物
 外部になんらかの被害を与えた事象の当事者
三種
 上記2つに当てはまらない全ての人物

http://info.2ch.sc/guide/adv.html#saku_guide

そして、この三種、つまり、政治家等でも前科関係でも、同人作家等でもない完全な意味での一般私人の場合、

  • 個人特定を行う記載、攻撃目的で記載されている記載
  • 電話番号の記載
  • 攻撃を目的としたメールアドレスの記載
  • 不利益が発生し得るプライバシー情報

といったものは削除対象である旨が規定されています。厳密なルールに関しては上記の削除ガイドラインを確認して下さい。

有名人に対する書込は削除されにくい

これに対し、上記の定義の一種又は二種の場合、削除はかなり厳しい条件が必要です。例えば

  • 「有罪判決の出た犯罪者」については、公開されているものや情報価値があるものは削除しない
  • 同人作家などの場合も、「直接の関係者や被害者による事実関係の記述」が含まれているものは削除しない

といった具合です。

ただ、これはあくまで、2ちゃんねる(2ch.sc)が独自に定めている削除基準であり、「この基準に適合していない書込は、法的にも削除できない」という訳ではありません。例えば

  • 逮捕や前科情報は、一定期間の経過など、いくつかの条件が充足されれば、「更正を妨げられない利益」の侵害として、削除可能です
  • 同人作家などの場合であっても、その「被害者による事実」なるものが虚偽であれば、名誉毀損として削除可能です

というのが、法律上の帰結です。つまり、

  • 2ちゃんねる(2ch.sc)の削除ガイドライン上は削除対象となっておらず、削除要請では削除できないが
  • 法律上は違法であり、後述する仮処分手続を用いれば削除できる

という領域が存在する、ということです。なお、逮捕記事や前科情報の削除に関しては、下記記事にて詳述しています。

法人・団体・公的機関の場合は原則削除不可

法人や団体、公的機関、つまり会社など個人以外の場合は更に2ちゃんねる(2ch.sc)の削除ガイドラインは厳しく、原則放置、とされています。

法人・団体については、カテゴリによって扱いが違いますが、原則として放置であるとご理解ください。  社会・出来事カテゴリ内では、批判・誹謗中傷、インターネット内で公開されている情報、インターネット外のデータソースが不明確なもの、は全て放置です。
その他のカテゴリ内では、掲示板の趣旨に関係があり、客観的な問題提起がある・公益性のある情報を含む・その法人・企業が外部になんらかの影響を与える事件に関係している・等の場合は放置です。学問カテゴリ内では、この判定を厳しくいたします。

http://info.2ch.sc/guide/adv.html#saku_guide

この基準は、かなり厳しいものであると言えます。例えば、いわゆるブラック企業批判は、その内容が虚偽である限りは名誉毀損として現実に削除可能なはずなのですが、上記の通り、2ちゃんねる(2ch.sc)では原則放置とされてしまうため、削除要請を行っても基本的に対応して貰えません。会社に対する誹謗中傷の場合は、削除要請という方法自体、ほぼ使う事ができず、最初から後述する仮処分手続のみを検討することになってしまいます。

なお、ブラック企業批判が名誉毀損であり仮処分手続によって削除可能であるか否かについては、下記記事にて詳述しています。

裁判所での仮処分手続による削除の場合

仮処分手続による削除はスピーディーで現実的です。

仮処分は非常にスピーディー

以上のように、2ちゃんねる(2ch.sc)では、違法であり、法的には削除できるはずなのに、削除依頼スレッドでは削除できない、というケースが存在します。こうしたケースでは、裁判所を用いた削除を行うしかありません。

なお、2ちゃんねる(2ch.sc)に限らない一般論として、裁判所を用いる削除手続は、訴訟(裁判)ではなく、仮処分という手続によって可能です。仮処分には、訴訟に比べて非常にスピーディーであるというメリットがあります。

訴訟は、書面(訴状)を完成させて提起を行うと、初回期日が約1ヶ月後、期日と期日の間も約1ヶ月、期日が終わって判決が出るまで約1ヶ月、というスピードで進み、弁護士への依頼から削除がなされるまでには、最低でも数ヶ月、長引くと1年程度が必要です。

これに対し、仮処分は、書面(申立書)を完成させて申立を行うと、初回期日は数日から1週間後、期日と期日の間も1週間程度、期日が終わって決定(判決とほぼ同機能)が出るのは最短翌日、といったスピード感で、弁護士への依頼から削除が行われるまで、早ければ1ヶ月以内、長引いても2-3ヶ月程度で済みます。

「裁判所を使う手続は時間がかかり、被害を迅速に除去するという目的との関係で、あまり現実的でない」というのは訴訟に対するイメージであり、仮処分は、非常に迅速な手続だと言えます。

2ちゃんねる(2ch.sc)相手の仮処分の特殊性

ただし、2ちゃんねる(2ch.sc)相手の仮処分には、これらの手続を日常的に手がけている弁護士でないとなかなか難しい、様々なノウハウが必要です。

シンガポール法人登記の取得

まず、そもそも、一般論として、訴訟や仮処分といった裁判所手続を行う場合、相手方である企業の法人登記を資格証明として裁判所に提出する必要があります。そして、2ちゃんねる(2ch.sc)は、シンガポール法人である「PACKET MONSTER INC,PTE.LTD」という法人が運営者であるとされています(「されています」と記載した趣旨は後述します)。そこで、資格証明として、シンガポール法人「PACKET MONSTER INC,PTE.LTD」の法人登記が必要になります。

日本国内の法人であれば、その登記は法務局で取得可能であり、少なくとも弁護士は日常的にこうした登記取得を行っているのですが、では、シンガポール法人の法人登記は、どのように取得すれば良いのでしょうか。これもまた、一つの「ノウハウ」です。付言すれば、シンガポール法人の外国(日本)からの登記取得方法はここ数年内でも変わっており、こうした情報変化を追い続けていないと、最新の登記取得方法が分からない、という構造になっています。

無審尋上申など上申書の作成

次に、2ちゃんねる(2ch.sc)相手に仮処分を行う場合、「対象とする書込が何故違法と言えるのか」「何故削除されるべきなのか」といった、削除仮処分で常に必要となる書面に加え、以下のような内容を含む上申書を作成し、その証拠(資料)と共に提出する必要があります。

  • 国際裁判管轄:シンガポール法人という海外法人を相手方とするにもかかわらず、日本国の裁判所がその仮処分を担当すべきである理由について。
  • 国内裁判管轄:日本国の裁判所に国際裁判管轄があるとして、なぜ東京地裁が担当すべきなのかについて。2ちゃんねる(2ch.sc)の実質的な運営権は、「PACKET MONSTER INC,PTE.LTD」がペーパーカンパニーであり、現在も西村博之氏にあり、その西村博之氏のフランス転出前の住所が東京都内にあったことから、東京地裁に管轄が認められるべき、という主張になります。
  • 無審尋上申:外国送達には長期間が必要であることから、無審尋、つまり「PACKET MONSTER INC,PTE.LTD」を裁判所に呼び出さずに仮処分手続を行うべきであるという主張です。
  • 送達上申:かなり専門的なので割愛します。
  • 資格証明書:シンガポール法人の法人登記がどのような仕組みになっているのか、添付した登記資料が正式なものであることについて。
  • 代表者不在:かなり専門的なのですが、「PACKET MONSTER INC,PTE.LTD」の代表者は、少なくとも2019年12月現在、資格を欠格(disqualification)しています。そうであるにもかかわらず仮処分手続がなされるべきことについて。

これらの書面作成は、非常に専門的です。例えば、インターネット上には、「2ちゃんねる(2ch.sc)相手の削除仮処分は、相手方が海外法人であり、送達という、書面や証拠を相手方に送る手続に時間がかかるので、どうしても期間が必要」といった記載を行うサイトもありますが、この記載は上記の通り、誤っています。2ちゃんねる(2ch.sc)相手の削除仮処分では、上記の通り、「無審尋上申」が可能であり、外国送達を行う必要はありません。非常に専門的なのでやむを得ないのですが、2ちゃんねる(2ch.sc)相手の仮処分では、こうしたノウハウが多数必要となり、それらが欠けていると、いつまで経っても裁判所が手続を受け付けてくれない、不必要に時間がかかってしまう、といった問題が発生します。

代表者不在の上申書の作成

また、付言すれば、上記の「代表者不在」という問題は、2019年に発生した、新たな問題です。代表者が資格を欠格していると、その会社相手の仮処分は行えない、というのが原則なのですが、一定の主張を行う上申書を作成することで、この問題を回避できるようになりました。この代表者不在に関する上申書は、おそらくいくつかのパターンが存在し、風評被害対策を手がける法律事務所間で共有されているものと思われますが、その中の一つは、当事務所が、この問題が発生した直後に外資系事務所と共同で作成したものです。このように、2ちゃんねる(2ch.sc)相手の仮処分に関する特殊性、それを解決するためのノウハウは、日々更新され続けています。

違法な書き込みであれば削除可能

ノウハウさえあれば、2ちゃんねる(2ch.sc)の削除は決して不可能ではありません。

上記のような特殊性・ノウハウがある事が2ちゃんねる(2ch.sc)相手の仮処分の特徴ではあるのですが、こうした点を除けば、削除の可否は、法律の原則通りです。当該書込が違法であれば、裁判所は削除を認めてくれます。

「違法」というのにもいくつかパターンがあるのですが、代表的なのは、名誉毀損です。単純に言うと、

  • 当該書込が間違いなく世界に一つ・一人の、自社・自分のことを指しており(同定可能性)
  • 当該書込の内容が具体的であり(事実の摘示)
  • それが自身にとってネガティブで(社会的評価の低下)
  • 内容が虚偽である(非真実性)

といった条件が充足される場合に、名誉毀損は成立します。名誉毀損の要件は実際にはもう少し複雑なので、別記事にて詳述しています。

また、プライバシー侵害や、名誉感情の侵害というのも、2ちゃんねる(2ch.sc)相手の仮処分で用いられることの多い違法性主張です。

ノウハウさえあれば削除は難しくない

2ちゃんねる(2ch.sc)相手の仮処分は、既に述べたように特殊性や求められるノウハウが多く、このため「難しい」と言われがちなのですが、ただ、そうしたノウハウを有している法律事務所から見ると、実は、他のサイトより難易度が低いケースが多いものと言えます。2ちゃんねる(2ch.sc)相手の仮処分は、上記で述べた通り、無審尋、つまり、相手方である2ちゃんねる(2ch.sc)運営者の代理人弁護士を裁判所に呼ばずに行うことが可能です。どういうことかというと、

  • 通常のサイトの削除仮処分:削除を求める側と、サイト運営者側の弁護士が、相互に「違法であるという主張や証拠」「違法でないという主張や証拠」を出し合い、双方の主張や証拠を踏まえて裁判所が判断を行う
  • 2ちゃんねる(2ch.sc)の削除仮処分:削除を求める側のみが「違法であるという主張や証拠」を出し、裁判所が判断を行う

という構造です。もちろん、だからといって、違法性のない書き込みであっても裁判所が違法と認めてくれる、という訳ではないのですが、やはり、相手方による反論やその証拠が出されない、というのは、一般的に言って削除を求める側にとって有利です。また、これも一般論としていえば、相手方が反論を行うから再反論が必要となり、したがって決着がつくまでに期間が必要になるケース、というもの多く、相手方が反論を行わない2ちゃんねる(2ch.sc)相手の仮処分は、他のサイトに対する仮処分より、短期間で終わる場合も少なくありません。

前述の「ノウハウ」というのは、基本的には、「2ちゃんねる(2ch.sc)に対する仮処分一般に関するノウハウ」であり、「2ちゃんねる(2ch.sc)相手の仮処分を日常的に手がけている法律事務所であれば持っている」というものではあります。そうした事務所に依頼を行う方が、スピーディーですし、「ノウハウ」で解決できるような問題で躓いて失敗するリスクもなく、また、そうした部分に無駄な工数を使わない分、費用も結果的に抑えられる可能性が高いと思われます。

削除決定を削除依頼スレッドにアップして削除

一般論として、仮処分は、裁判でいう「判決」のような役割を持つのが「決定」です。裁判所の出す「仮処分決定」という書面のスキャンPDFを、2ちゃんねる(2ch.sc)の削除用掲示板にアップすることで、当該書込の削除が行われます。つまり、例えば法人に対する誹謗中傷は、上述のとおり、削除ガイドライン上は「原則放置」なのですが、裁判所が削除の仮処分決定を出した場合は、書面を適切にアップすれば削除して貰える、ということです。

なお、仮処分手続を用いない削除請求の場合と同様、仮処分決定をアップして削除を求める場合も、削除請求には形式的なルールが用意されています。このルールに従わないと、削除の仮処分決定を取っていても無視されるので注意が必要です。

まとめ

以上のように、2ちゃんねる(2ch.sc)書込の削除は、削除用掲示板を用いる場合も、仮処分という裁判所手続を用いる場合も、非常に癖が強く、ノウハウがないとなかなか難しいところがあります。ただ、逆に言えば、特に仮処分手続による削除は、ノウハウさえあれば可能ですし、かえって他のサイトより難易度が低いケース、短期間で終わるケースもあります。

2ちゃんねる(2ch.sc)の削除は難しい、不可能に近い、お金や時間が多くかかる、と決めつけず、こうしたノウハウのある法律事務所に一度相談してみることが重要だと言えます。

弁護士 河瀬 季

モノリス法律事務所 代表弁護士。元ITエンジニア。IT企業経営の経験を経て、東証プライム上場企業からシードステージのベンチャーまで、100社以上の顧問弁護士、監査役等を務め、IT・ベンチャー・インターネット・YouTube法務などを中心に手がける。

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