投資契約における表明保証条項とは
投資契約に表明保証条項(Representations and Warranties)が規定されていることがあります。企業法務では、とりわけM&Aの場合、例えば、事業譲渡契約書や株式譲渡契約書などで表明保証条項が規定されている場合があるかと思います。また、著作権の譲渡契約やライセンス契約の場面においても、表明保証条項が問題となることがあります。このように、様々な契約との関係で問題となる表明保証条項ですが、表明保証条項について、そもそもどのような条項であるか、また、法的にどのような意味があるかについて、必ずしも十分に理解がされていないように思います。そこで、本記事では、表明保証条項一般について説明し、投資契約における表明保証条項について説明をします。
この記事の目次
表明保証条項とは
表明保証条項とは、契約締結時などの一定の時点において、契約の一方当事者が相手方に対して、契約当事者に関する事実、契約内容に関する事実、契約に関係する事実または企業活動に関する事実等、一定の事実を表明し、かつその内容を保証する条項のことをいいます。表明保証条項は、もともと英米法に由来するものであり、レップ・アンド・ワランティ(Representations and Warranties)と呼ばれることもあります。
表明保証条項の意義
上記のように表明保証条項は、英米法に由来するものであることから、まず、英米法における表明保証条項の意義を説明し、次に、日本法における表明保証条項の意義を説明します。
英米法における表明保証条項の意義
英米法における表明保証条項の始まりは、契約の相手方に対して誤解を与えるような虚偽の表示である「不実表示」(misrepresentation)に関する理論であると考えられています。不実表示は、契約内容に直接関係のない事実(契約に誘因に関する事実等)について行われることもあるため、必ずしも契約内容について不実表示がなされるとはいえません。そこで、不実表示の理論は、契約上の義務違反ではなく、詐欺や錯誤の一種と考えられ不法行為上の救済を図る必要があるために展開された理論であり、不実表示を行った者の故意・過失を問わず、相手方の保護を図ることが目的とされました。そのような状況の下、不実表示を契約条項に盛り込んで、不実表示を行った当事者に担保責任(warranty)を負わせるための理論が実務上発展し、表明保証条項という理論が発展したと考えられています。
日本法における表明保証条項の意義
上記のような英米法の理論が、日本の契約実務にも取り入れられるようになり、M&A、金融取引や投資契約等において、表明保証条項が規定される例が多くなりました。日本法における表明保証条項の意義についても、基本的には英米法における表明保証条項の意義と同様に考えることができます。すなわち、ある契約の当事者の一方が、相手方当事者に対して、ある契約に関連性を有する前提事実について、特定の時点における真実性及び正確性を表明し、それを保証するという意義があるものと考えられます。
表明保証条項の機能
契約書内に表明保証条項が規定されているにも関わらず、表明保証に違反することが明らかになった場合、当該違反についての違反者の故意・過失に関わらず、違反をした当事者は、損害を被った相手方当事者に対し、その損害の賠償を行う義務を負うことになります。
また、表明保証に違反した場合、以下のようなペナルティが認められることも考えられます。
- 契約の解除事由となりうる
- 前提条件が異なっていることを理由に、相手方当事者に契約上の義務の履行を拒絶される可能性がある
- 株式譲渡契約の場合には、株式の譲渡金額の調整事由となりうる
- 金銭消費貸借契約の場合には、期限の利益喪失事由となりうる
投資契約における表明保証条項
以上、表明保証条項について説明をしましたが、投資契約の場合には、投資契約という契約の性質にあわせて表明保証条項を規定する必要があるため、以下では投資契約における表明保証条項について説明をします。
投資契約における表明保証条項の内容
投資契約における表明保証条項の内容については、投資家が投資をする上で必要な前提条件について表明保証がなされることとなります。
具体的には、企業は以下のような内容を表明保証することとなります。
- 企業が投資家に開示した財務諸表が公正な会計基準に基づいて作成されていること
- 企業に財務諸表に記載がされていない隠れた債務が存在しないこと・企業が他社から訴訟の提起をされていないこと
- 株式の発行に関する企業内の手続が適法かつ有効に行われたこと
- 企業が投資家に開示した定款、株主名簿、事業計画書、登記事項証明書(登記簿謄本)その他企業の事業運営、財務、人事等に関連する書類に記載されている情報が、最新の内容を正確に反映しており、重要な点について適切かつ十分であること
- 企業が投資家に開示した事実以外に、投資家に重大な影響を与えるような事実は存在せず、今後発生する可能性もないこと
- 企業が反社会的勢力等と一切の実質的な関係を持っていないこと
投資契約における表明保証条項の機能
投資契約における表明保証条項の機能として以下のような機能があります。
デュー・ディリジェンス(DD)補完機能
投資家、特に投資家がベンチャーキャピタル(VC)の場合には、投資先の企業についてDDを行うことが通常です。ただ、DDで調査できる範囲については限界があり、また、時間や費用の問題もあります。そこで、投資家がDDで調査がしきれなかった事項について、企業が表明保証をするということが考えられます。
デュー・ディリジェンス(due diligence)
投資家が投資を行う際や金融機関が引受業務を行う際等において,投資対象の価値等を適正に評価すること等を目的として,事前に行われる一連の詳細な調査のことをいう。企業買収や再生等の案件で行われることが多い。デュー・ディリジェンスの実施により,投資家は,投資先の状況を事前に把握することができ,例えば,企業買収においては,そこで判明した事実を基礎に買取価格や買収条件に関する交渉等が行われる。
高橋和之他編『法律学小辞典』963頁(有斐閣,第5版,2016)
表明保証条項違反についてのペナルティ発動機能
これは上記の表明保証条項の機能と基本的には同じものです。ただ、表明保証違反の法的性質について、そもそも表明保証が、企業が契約上の義務を負っているわけではないため、債務不履行の問題ではないと考える見解もあります。
そのため、表明保証条項違反があった場合には、違反者がどのようなペナルティを負うかということを投資契約書の中で具体的に記載しておくことが必要です。
投資契約における表明保証条項例
投資契約における表明保証条項例として、以下のようの条項が考えられます。
第5条(表明及び保証)
一般社団法人コンピュータソフトウェア協会,「投資契約書 シード・ラウンド用(競合避止義務なし)」,https://www.saj.or.jp/documents/activity/project/startup/Contractsample_3-1.pdf,(2024.09.18)
発行会社及び経営株主は、連帯して、投資者に対して以下の事実が真実であることを表明し、保証する。
(1)発行会社が適法に設立され、有効に存続していること。
(2)発行会社は、本契約の締結及び義務の履行並びに本契約に基づく本件株式の発行について、必要な能力及び権限を有し、本件株式の発行を行うために必要な内部手続をすべて完了しており、かつ、本契約の締結及び履行並びに本件株式の発行が、法令、政令、規則、通達、発行会社の定款もしくはその他一切の諸規則または自己が当事者である契約に違反せず、また本契約の締結及び履行並びに本件株式の発行につき必要な許認可、届出等の手続を要する場合には当該手続が完了していること。
(3)発行会社の事業運営が適法、適正に行われており、事業運営に免許、許可及び認可、登録及び届出を要する場合には適正に実施されていること。
(4)発行会社が発行する株式[及び新株予約権]の内容は、発行会社が投資者に対して提出した資料のとおりであること。
(5)発行会社について法的手続、労働争議または行政上もしくは税務上のその他の手続は現在係属しておらず、そのおそれもないこと。
(6)発行会社の事業計画書、財務諸表、潜在株式を含めた株主の状況、その他発行会社の事業運営、財務、人事等に関連して、発行会社が投資者に提示、交付した書類の記載及び情報が真実かつ正確であること。
(7)発行会社はこれまでに適法に納税申告書を作成、提出しており、支払うべき税金の不払い、滞納等の事実は過去及び現在において存在しないこと。
(8)発行会社の関連当事者(会社計算規則第 112 条 4 項に定義する)または株主がいわゆる反社会的勢力またはこれに準ずるもの(以下「反社会的勢力等 反社会的勢力等」という。)ではないこと、反社会的勢力等に資金提供もしくはそれに準ずる行為を通じて、反社会的勢力等の維持、運営に協力または関与していないこと、または反社会的勢力等と交流をもっていないこと。
まとめ
以上、投資契約における表明保証条項について説明をしました。投資を行う前提条件は、企業にとっては投資を受ける上で重要であり、投資家にとっては投資をする上で重要なものとなりますので、投資契約を締結する際には、表明保証の内容をしっかり検討する必要があります。また、投資契約における表明保証条項については、企業がすでに開示している情報、投資家が行ったDDの内容、投資契約の内容等により表明保証の内容が異なるものであり、表明保証の内容は、定型的に定まるものではありませんので、必ず専門家である弁護士に作成してもらうか、弁護士によるリーガルチェックを受けるようにしてください。
カテゴリー: IT・ベンチャーの企業法務