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法律記事MONOLITH LAW MAGAZINE

風評被害対策

Yahoo!ファイナンスの風評被害の削除や投稿者特定

風評被害対策

ahoo!ファイナンスの風評被害の削除や投稿者特定

Yahoo!ファイナンスは、ヤフー株式会社の運営する「Yahoo! JAPAN」の中の1サイトであり、上場企業の株価やニュース等を掲載するサイトです。各上場企業毎に専用ページが用意されているのですが、その中には、株価チャートやニュース、企業情報や株主優待の情報などに加え、Yahoo!ユーザーが書き込みを行うことの出来る「掲示板」が用意されています。そして当該掲示板では、その企業の株の値動きなどに関する投稿が行われています。

ただ、そうした投稿のみならず、当該企業に対する誹謗中傷、風評被害と言えるような投稿が行われてしまうケースもあります。掲示板の性質上、そうした投稿は、個人投資家などの目に触れやすく、企業にとっては、最悪株価に悪影響が生じる可能性もあります。したがって、こうした投稿について、風評被害対策を行う必要が生じます。

裁判外交渉による削除請求

Yahoo!ファイナンスにおける、風評被害に該当するような投稿の削除を、裁判所を用いずに実現するには、大きく2個の方法があります。

利用規約違反

Yahoo!は、「Yahoo!ファイナンスヘルプ」の「【掲示板】禁止行為、投稿に注意が必要な内容について」において、個人情報や著作権侵害、わいせつな情報や広告、カテゴリ違いやスレッド違いの投稿を禁止しています。さらにこれらに加えて、「誹謗、中傷」「批判や論争」「事実に反すること」も、禁止事項に挙げられています。

誹謗、中傷
他人を誹謗、中傷する発言を行うと、法的な責任を問われる可能性があります。他の人に誹謗、中傷されたからといって同じことをしてはいけません。
批判や論争
批判や論争自体を禁止してはいませんが、何のために行うのかを考えましょう。不快感を表明したり、恨みを晴らすために掲示板を利用することは正しくありません。公共性のない、個人的な批判の投稿はしないでください。
事実に反すること
虚偽の事実を投稿したり、架空の出来事をでっちあげてはいけません。

Yahoo!ファイナンスヘルプ

つまり、企業や役員、従業員などに対する単なる誹謗中傷、株価に関係のないような無意味な罵詈雑言などを行う批判や論争、真実に反する虚偽事実、極端な例を挙げれば、存在しない事故をでっち上げて「この会社はこんな事故を起こしたから株価が下がるはずだ」などと書くこと等は、「法的に」という以前に、利用規約上、禁止されているのです。

そして、こうした投稿を行うと、投稿後に削除されることがあり得る旨も規定されています。
つまり、こうした投稿を行われてしまった被害者である企業は、当該投稿は利用規約に違反しているのであって削除されるべきであると、Yahoo!に対して求めることが出来ます。

違法であるとの主張に基づく送信防止措置請求

「利用規約違反」という構成を行わなくても、法律に違反している、という理由で削除を求めることも出来ます。これは他のサイトの場合と同様であり、いわゆる「送信防止措置請求」による請求となります。法律の条文、その解釈、当該投稿内容のあてはめ、それが違法である旨の論証。そうした書面を作成し、ヤフー株式会社に対して郵送するという方法になります。

ただ、風評被害対策を手がける弁護士の実務感覚として、Yahoo!は、掲示板等における風評被害に該当する投稿について、削除を積極的には行ってくれません。違反報告を行っても、残念ながら、「社内にて利用規約等に照らして検討した上で、必要と判断された場合には、当該刑事を送信防止するなどの適切な措置を講じております。」「ご指摘頂いて掲示につきましては、社内にて慎重に検討致しましたが、現在のところ削除等の措置が相当との判断には至っておりません。」などという回答が返ってくるケースが多いものといえます。

対Yahoo!の裁判外交渉は難易度が高い

こうした削除請求は、いかに「説得的」に行うかがポイントです。

利用規約違反を主張する場合、利用規約は、あくまでYahoo!が独自ルールとして定めているものであり、法律ではありません。Yahoo!が定めているルールに反しており、Yahoo!の判断によって削除されるべきであることを、どのように説得的に論述し、自主的な削除を促すか。これは、純粋な意味での「法律知識」ではありませんが、日々風評被害対策を手がけている者でないと、なかなか難しいところがあります。また、残念ながら、プロの手を使っても、確実に成功するとは言い難い、難易度の高い業務です。

違法であると主張する場合は、よりこの傾向が顕著です。後述するように、ヤフー株式会社は、裁判所における手続においても、削除を求める側の主張や証拠に関して、かなり踏み込んだ反論を行ってくるケースが多いものといえます。ましてや裁判外の場合、こちらの主張を認めて記事削除を行ってくれるケースは、残念ながら、決して多くはありません。それでもどうにか主張を認めさせるためには、法的に筋の通った、隙のない書面を作成しなければなりません。

IT企業や広告代理店等による削除は違法

なお、こうした削除請求を、外部のIT企業や広告代理店等が行うことは、違法です。
弁護士法の第72条には、

弁護士又は弁護士法人でない者は、報酬を得る目的で訴訟事件、非訟事件及び審査請求、異議申立て、審査請求等行政庁に対する不服申立事件その他一般の法律事件に関して鑑定、代理、仲裁若しくは和解その他の法律事務を取り扱い、又はこれらの周旋をすることを業とすることができない

弁護士法 第72条

という規定があります。そして、名誉毀損等を理由にヤフー株式会社に対してYahoo!ファイナンスの投稿の削除など、記事削除を求めることは、「法律事件」に関する「法律事務」であると考えられているからです。この点に関して、既に東京地方裁判所の判決も存在します。これは「非弁行為」と言われており、当サイト内の別記事でも詳しく解説しています。

したがって、記事削除(や、後述する仮処分)を弁護士以外の業者に対して発注し、お金を払ってしまうと、当該契約や支出は「違法行為の依頼にかかる契約や支払」ということになってしまいます。特に上場企業の場合、これらが監査や株主総会などの場面で取り上げられると、会社のコンプライアンス意識に対する重大な疑義が発生してしまうことになります。

仮処分による削除請求

記事削除には仮処分手続きが必要です。

話を戻しますが、ヤフー株式会社は、裁判外交渉だとなかなか記事削除を行ってくれません。

しかし、ヤフー株式会社は日本の法律に従う日本の会社であり、裁判所からの命令が出た場合には、当該投稿を粛々と削除します。そこで、裁判外交渉による削除に失敗した場合は、裁判所を通じて当該投稿の削除を求めることになります。Yahoo!ファイナンスの記事の削除は、裁判手続ではなく、仮処分手続によって可能です。専門的な話で少しややこしいですが、裁判における「訴状」とほぼ同じ機能を果たす「仮処分申立書」を作成し、裁判の場合と同様に証拠などを添付して裁判所に仮処分命令の申立続を行い、裁判における「裁判期日」とほぼ同じような機能を果たす「審尋」という手続を経て、裁判における「判決」とほぼ同じような機能を果たす「仮処分決定」を得る、という流れです。

仮処分手続は裁判より迅速

裁判との最大の違いは、スピードです。裁判は、一度期日を行うと次回は1ヶ月後、といったスピード感ですが、仮処分の場合、審尋と審尋の間は約1週間程度。非常にスピーディーな決着が可能なのです。

ただしその分、審尋と審尋の間の書面や証拠の準備は、大変です。裁判を経験されたことのある方は理解して頂けるかと思いますが、裁判の場合の「1ヶ月」というスパンは、決して「長すぎる」というものではありません。裁判では、とにかくあらゆる事について、それを時系列や論理構造などが明確な文章にすることが必要で、また、あらゆる事について「証拠」が求められます。相手の反論を受け、その反論が適切ではないと再反論をするには、書面と証拠をしっかり整えなければなりません。その作業に必要な時間として、「1ヶ月」といった期間は、決して「長すぎる」というものではないのです。

書面や証拠は精緻に整える必要がある

仮処分の場合も、基本的には同様です。仮処分は確かに迅速な手続ですが、だからといって、書面や証拠がいい加減でも勝たせて貰える、というものではありません。そして、ヤフー株式会社は、もちろん内容にもよると思われますが、掲示板投稿の削除について、その投稿内容の深い部分に踏み込んで反論を行ってくるケースが少なくありません。その反論に対する再反論を、1週間といったスパンで用意しなければならないのです。これは、仮処分の経験が豊富な弁護士でないと、なかなか難しいものといえます。

また、そもそも、そうした再反論の部分で「重い」作業が必要とならないように、最初の段階で、相手方であるヤフー株式会社からの反論を想定し、入念に「隙」がない仮処分命令申立書を作成する必要があります。

このように、Yahoo!ファイナンスの記事投稿の削除を求める仮処分は、内容的に困難ではあります。ただ、これに勝つことが出来れば、ヤフー株式会社は当該投稿を削除してくれます。

仮処分による投稿者特定

Yahoo!ファイナンスにおける風評被害に該当する投稿を行った者の身元を特定する、投稿者特定の場合も、同様に、仮処分手続を求めることになります。

削除と投稿者特定を同時に求めることも可能

この仮処分は、削除請求を求める仮処分と同時に行うことも出来ます。つまり、「この掲示板投稿は違法だから、削除して欲しい、そして投稿者特定のために投稿者の情報を開示して欲しい」と、一度の仮処分で求めることができるのです。

ただ、ヤフー株式会社は、Yahoo!ユーザーについて、その個人情報を保持していないケースがほとんどです。Yahoo!ファイナンスなどのサービスは、実名や住所等をYahoo!に登録しなくても利用できてしまうからです。そこで、住所氏名ではなく、投稿時に用いられたIPアドレスの開示を求めることになります。IPアドレスの開示を受ければ、当該投稿に用いられていた回線のプロバイダ、つまり、固定回線の場合のニフティやソフトバンクBB、スマホ回線の場合のdocomoやSoftBankが判明します。

そしてその次の段階として、判明したプロバイダを相手方に、「当該日時に当該IPアドレスを使っていたユーザーの住所氏名を開示せよ」という裁判を行えば、プロバイダから住所氏名の開示を受けることができ、投稿者特定を実現できる、という流れです。

ただ、投稿者特定には、タイムリミットがあります。古い投稿に関しては、プロバイダ側にアクセスログが残っておらず、追跡を断念せざるを得なくなってしまうのです。これは、Yahoo!ファイナンスに限らない、投稿者特定一般に妥当する問題です。

また、「タイムリミット」との関係で、投稿者特定を行う場合には特に、仮処分手続を迅速に終わらせることが重要です。なるべく少ない審尋の回数で仮処分を終わらせるには、結局、入念な準備と法律的に隙のない書面作成が重要である、ということになります。

裁判外交渉での投稿削除後に行うことも可能

なお、付言すれば、IPアドレス開示の仮処分は、裁判外交渉で記事を削除した後であっても可能です。記事削除の後であっても、Yahoo!は、「削除済みの記事を投稿した者のIPアドレス」という情報を保有しているからです。ただ、「かつてその記事がYahoo!ファイナンス上に投稿されていた(そしてそれが違法だからIPアドレス開示を求めたい)」という証拠を、削除前に保全しておかなければなりません。裁判所を用いる手続で有効な証拠保全の方法は、少し専門的です。ご自身で削除を実現された案件について、弁護士に投稿者特定を依頼しても、有効な証拠保全が行われておらず断念せざるを得ない、となってしまう危険があります。投稿者特定を行う可能性のある場合は、削除請求などを行う前に弁護士に相談するべきだと言えます。

弁護士 河瀬 季

モノリス法律事務所 代表弁護士。元ITエンジニア。IT企業経営の経験を経て、東証プライム上場企業からシードステージのベンチャーまで、100社以上の顧問弁護士、監査役等を務め、IT・ベンチャー・インターネット・YouTube法務などを中心に手がける。

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