書き込みした犯人を特定する「発信者情報開示請求」とは?
ネット上に、名誉毀損に該当するなど、風評被害・誹謗中傷の書き込みが行われた場合は、弁護士に依頼するなどして、迅速に対処する必要があります。
ネット上での違法な書き込みについて、弁護士に依頼を行うとできることは、大きく言って、当該書き込みの削除と、その書き込みを行った犯人の特定です。書き込みを行った犯人である「発信者」の「情報」の「開示」を「請求」する、という意味で、「発信者情報開示請求」といいます。
発信者情報開示請求とは、プロバイダ責任制限法(正式名称「特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律」:平成14年5月27日施行)第4条に基づく情報開示請求です。これは、ネット上で 名誉毀損など他者を誹謗中傷するような表現を行った発信者、つまり犯人の情報(住所・氏名・登録された電話番号等)について、情報を保有しているサイト管理者などに対し、開示するよう求める手続です。
この記事の目次
書き込みを行った犯人を特定する必要性
ネット風評被害を受けた場合、書き込みや記事を削除しただけでは問題を解決したことにならない場合が多くあります。書き込みや記事が削除されただけでは、その書き込みや記事の投稿をした犯人は痛くもかゆくもないからです。
一般に、インターネット上の違法な書き込みにより名誉毀損や誹謗中傷を受けた場合、そのような記事や書き込んだ犯人、書き込みを掲示板などのサイトに掲載した犯人は、被害者に対して、民法上、不法行為に基づく損害賠償責任を負います。「損害」とは、その犯人を特定するために要した費用(弁護士報酬など)や、個人の場合は慰謝料等です。つまり、名誉毀損や誹謗中傷の被害を受けた被害者は、犯人に対して、不法行為に基づく損害賠償請求をすることができます。また、書き込み内容によっては、名誉毀損罪や業務妨害罪等の刑事上の犯罪が成立します。この場合、犯人は刑事上の責任をも負うことになります。
しかしながら、個人サイトなどのネット上の記事は匿名の場合が多く、掲示板への書き込みも、匿名で行われることがほとんどです。犯人が現実世界のどこの誰なのか、分からないのが通常です。そして、犯人を特定できないとなると、名誉毀損や誹謗中傷を受けた被害者は、犯人に対して損害賠償請求をすることができません。
また、仮に名誉毀損や誹謗中傷をする書き込みが削除されたとしても、別のサイトや掲示板等に次々と同じ内容の情報の書き込みが行われるようなケースも、実際問題として多いものです。個別の書き込みを削除しても、いたちごっこになってしまい、被害者の損害回復には役立ちません。
この点、犯人の特定を行い、きちんとペナルティを科すという方法を採れば、事件の再発を効果的に防ぐことができ、それによって発生する無駄なコストを省くことも可能となります。故に、 プロバイダ責任制限法第4条は、こうした匿名性の強いインターネット上での被害者に対して、 犯人、つまり発信者の特定を可能とする手段を規定しているのです。
書き込みを行った犯人の情報開示を求めるプロバイダ責任制限法とは
プロバイダ責任制限法とは、インターネット上で名誉毀損や著作権侵害などの問題が生じた際の、プロバイダや掲示板管理者に問われる責任を規定した法律のことです。プロバイダ責任制限法では、管理下のインターネットサービスにおいて法や諸権利に抵触する悪質な書き込みがあった場合に、サービスを提供するプロバイダがその書き込みを削除できる権利や、書き込みについて管理責任を問われる範囲などが規定されています。そして、プロバイダ責任制限法上、「プロバイダ」とはインターネット・サービス・プロバイダとは限らず、電子掲示板(BBS)の管理者などを広く指し示す言葉として用いられています。分かりやすさを優先した不正確な表現としては、
- その書き込みの情報流通に関与しているが
- 書き込みを行った投稿者自身ではない
という者を、プロバイダ責任制限法は「プロバイダ(特定電気通信役務提供者)」と定義しています。
例えば、あるサイトのブログのコメント欄において、ある個人を誹謗中傷する、名誉毀損に該当するような書き込みが行われた場合、そのサイトの運営者は、投稿者ではありません。その意味で「犯人」ではありません。しかし、サイト運営者はその書き込みを消すことができますし、サイト運営者という立場上、名誉毀損に該当するような違法な書き込みを、削除し、その犯人について知っている情報を開示する義務を負うべきでしょう。プロバイダ責任制限法は、そうした立場の者を「プロバイダ(特定電気通信役務提供者)」と定義しているのです。
プロバイダ責任制限法が施行されたことにより、名誉毀損等に該当するような書き込みを行われた被害者は、書き込みを行った投稿者についての情報開示を、プロバイダ、つまり上記のサイト運営者などに対して求めることができると規定されています。
(プロバイダ責任制限法)
第四条 特定電気通信による情報の流通によって自己の権利を侵害されたとする者は、次の各号のいずれにも該当するときに限り、当該特定電気通信の用に供される特定電気通信設備を用いる特定電気通信役務提供者(以下「開示関係役務提供者」という。)に対し、当該開示関係役務提供者が保有する当該権利の侵害に係る発信者情報(氏名、住所その他の侵害情報の発信者の特定に資する情報であって総務省令で定めるものをいう。以下同じ。)の開示を請求することができる。
一 侵害情報の流通によって当該開示の請求をする者の権利が侵害されたことが明らかであるとき。
二 当該発信者情報が当該開示の請求をする者の損害賠償請求権の行使のために必要である場合その他発信者情報の開示を受けるべき正当な理由があるとき。
書き込みを行った者を特定できる場合とは
プロバイダ制限責任法には、書き込みを行った犯人の情報の開示を求めるための要件として、「権利が侵害されたことが明らかであるとき」との文言があります。一般に「権利侵害の明白性」と呼ばれる要件で、この要件が充足されているか否か、多くのケースで問題となります。
発信者情報開示請求の対象となるインターネットでの違法行為には、いくつかの類型があります。 累計ごとに解説します。
名誉毀損(名誉権の侵害)が成立するか
名誉毀損(名誉権の侵害)の場合には、問題の書き込み等により、被害者の品性、名声、信用などの人格的価値について社会的評価が低下したという客観的な事実があるかどうかがポイントとなります。さらに、違法性阻却事由(公共性・公益目的性・真実性)の存在をうかがわせるような事情が存在しないことが必要です。インターネット上の言論についても当然、表現の自由(憲法21条)が保障されますから、問題の表現行為の違法性よりも表現の自由が優越し、その表現が違法とはいえなくなる場合があるのです。問題とされている表現行為が、特定人の社会的評価を低下させるものであっても、公共の具体的な利害に関係があることを事実をもって摘示するもので(公共性)、その目的が専ら公益を図ることにあり(公益性)、摘示した事実が真実(真実性)または真実であると信ずるについて相当な理由のあるとき(真実相当性)には名誉毀損は成立しない、とされています。
名誉毀損は、書き込みを行った犯人を特定すべき場面の典型です。実務感覚としては、投稿者特定を求めるケースでは、およそ半分程度は名誉毀損を主張することになります。
プライバシーの侵害があること
プライバシーの侵害の場合には、被害者である個人について、私生活上の事実や他人に知られていない個人情報等が公開されてしまっている事実が必要です。氏名や住所、生年月日や電話番号、メールアドレスなどの個人情報、また少年時代に犯罪を犯した事実や私生児である事実などは、通常他人に知られたくないプライバシー情報だと言えます。写真やビデオ画像等も、個人を特定できる状態でインターネットに掲載されていれば、プライバシーの侵害といえるでしょう。
著作権侵害があること
著作物の著作権侵害については、発信者情報開示請求ができるのが、権利侵害をされた著作権者だけとなっています。したがって、発信者情報開示請求の前提として、まず著作権者は自身に著作権があることを証明する必要があります。著作権は、原則としてその文章や写真、画像等を作成した個人に帰属しますが、「職務著作」といった形で会社に権利帰属が行われているケースもあります。
また、問題の行為について、それが著作権を侵害しているといえるかどうかについてが大きなポイントです。例えば、問題行為が著作物の丸写し(デットコピー)であれば、著作権侵害ありとなるケースが多いでしょう(著作権法所定の複製権、公衆送信権等の侵害)。その他、ライセンス(利用権)の有無の争い、著作物が改変されている場合にそれが著作権(翻案権)の侵害といえるかなど、問題の行為に応じた争点がある場合が多いので、これについては、専門性を有する弁護士にご相談されることをお勧めします。
著作権侵害は、いわゆる「なりすまし」などの場面でも問題となります。例えば、ある個人に「なりすまし」を行う犯人が、その個人の撮影した写真を無断でInstagramなどのSNSに投稿している場合、その写真投稿は著作権侵害だと言えるからです。なりすまし犯人の特定の場面では、著作権侵害の有無も検討することになります。
なりすましに関する犯人の特定に関しては下記記事にて詳細に解説しています。
肖像権などその他の権利の侵害があること
プロバイダ責任制限法のいう「権利」は特に限定されていないので、いわゆる「肖像権」など、その他の権利の侵害を主張することも可能です。
結局、名誉権やプライバシー権から、肖像権やその他の権利まで、何らかの権利の侵害を主張できれば、この要件は満たされる、ということです。
書き込みの犯人特定を求める「正当な理由があるとき」とは
プロバイダ制限責任法には、「発信者情報の開示を受けるべき正当な理由があるとき」との文言もあります。この要件は、開示請求者が、犯人に関する発信者情報を取得することの合理的な必要性があることを意味しています。
- 発信者に対する削除要請に必要であるため
- 民事上の損害賠償請求権の行使に必要であるため
- 謝罪広告などの名誉回復の要請に必要であるため
- 差止請求権の行使に必要であるため
- 刑事告発などの法的手段をとるにあたり本人を特定するのに必要であるため
このような場合に、「正当な理由がある」と認められます。つまり、発信者情報開示請求の制度趣旨をそのまま実現しようとする場合、犯人に対して損害賠償請求を行うために情報の開示が必要であるという場合が、認められる典型的なケースとなるわけです。 一方、私的制裁など不当な目的のために開示を受けようとする場合や、すでに賠償金が支払い済であるなど、法的手段をとる必要性がなくなっている場合などには、これは認められません。
書き込みに関する「発信者情報」とは
上の要件がすべて満たされたとき、発信者情報の開示を受けることができます。これによって、書き込みを行った犯人の特定が実現するというわけです。
なお、「法律第4条第1項に規定する侵害情報の発信者特定に資する情報であって総務省令で定めるもの」は、次の7つとなっています。
- 発信者の氏名
- 発信者の住所
- 発信者のメールアドレス
- 侵害情報に係るIPアドレス
- 侵害情報に係る携帯電話端末等からのインターネット接続サービス利用者識別符号
- 侵害情報に係るSIMカード識別番号
- 侵害情報が送信された年月日及び時間(タイムスタンプ)
この中で特筆すべきは、IPアドレスです。
書き込みを行った犯人のIPアドレスとは
IPアドレスとは、ネットに接続しているPCやスマホが、原則として固有に保有している識別子です。このIPアドレスが判明すると、その書き込みを行った犯人が使っていたプロバイダを特定することができます。
匿名掲示板などの場合、書き込みを行う犯人は、自身の住所や氏名をサイトに対して登録する必要がありません。サイト運営者は、そもそも書き込みを行った犯人が誰なのか、特定していません。これをサイト運営者から見れば、サイト運営者は、そもそも書き込みを行った犯人が誰なのか、把握していません。したがって、サイト運営者に対し、書き込みを行った犯人の氏名や住所を開示せよ、と求めても、「不明である」という回答が来るのみです。これでは、犯人を特定することができません。
しかし、そうであったとしても、サイト運営者は、投稿を行った者について、IPアドレスは把握しているケースがほとんどです。
匿名掲示板などにおける犯人特定の方法
したがって、
- まず匿名掲示板などのサイト運営者に対し、書き込みを行った犯人のIPアドレスの開示を求める
- 開示されたIPアドレスから判明したプロバイダに対し、書き込みを行った犯人の住所や氏名の開示を求める
という手順で、匿名掲示板などであっても、犯人の特定を行うことが出来るのです。この手順に関しては下記記事にて詳細に解説しています。
まとめ
誹謗中傷記事の削除と同様、発信者情報開示請求は、複雑で専門的な手続きが 必要であり、専門性の高い領域です。投稿者特定の必要がある場合には、ネット問題に詳しい弁護士に依頼すれば、スムーズ かつスピーディーに解決することができます。
また、書き込みを行った犯人の特定は、どうしてもタイムリミットがあります。犯人に関するログが、一定の期間の経過で消えてしまうからです。なるべく早い段階で弁護士に相談されることをお勧め致します。また、弁護士費用に関しては下記記事にて詳細に解説しています。
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