弁護士法人 モノリス法律事務所03-6262-3248平日10:00-18:00(年末年始を除く)

法律記事MONOLITH LAW MAGAZINE

IT・ベンチャーの企業法務

Amazon上で横行する「虚偽の知的財産権侵害の申し立て」とは?法的対応と裁判例を解説

知的財産

昨今、Amazon(ECサイト)上での「虚偽の知的財産権侵害の申し立て」が横行しています。この「虚偽の申し立て」は実際には知的財産権侵害がないのにも関わらず、業務妨害目的や同業者を潰す目的で行われます。こうした嫌がらせ目的の虚偽の申し立ての結果、販売者のアカウント停止・販売不能に追い込まれてしまうこともあり、深刻な問題になっています。

本記事では、Amazon上で横行している業務妨害の態様や、どのような対応が可能かについて、裁判例を交えながらわかりやすく解説していきます。

Amazonでの虚偽の知的財産権侵害の申し立てによる業務妨害

近年流行しているAmazonにおける業務妨害とは

近年、Amazonの知的財産権侵害の申し立てを悪用した業務妨害が横行しています。ここでは、その仕組みについて解説します。

Amazonの知的財産権侵害の申し立てとは

Amazonでは、知的財産権の所有者またはその代理人による知的財産権侵害の申し立てをすることができます。この手続きは、著作権や商標権の権利者が、Amazonサイトでその権利を侵害されたと思われる場合に、その旨を申告するためのものです。

参考:知的財産権侵害についての申し立てとその手続き

知的財産権侵害の申し立てがなされると、Amazonから警告メールが届きます。

そして、警告を受けると、当該商品の出品がキャンセルされます。つまり、当該商品を売ることができなくなります。この場合に、FBA倉庫(Amazonが所有する倉庫で倉庫で、出品者が自らの商品を保管しておくことのできる倉庫)に自らの商品を預けている場合、保管料が継続的に取られてしまうので注意が必要です。

また、上記の警告がされた場合に、出品者が警告をそのまま放置してしまうと、アカウントの健全性の数値が下がってしまい、最悪の場合アカウント停止に至ることがあるため、さらに注意が必要です。

業務妨害として悪用されるケースが多発

知的財産権侵害の申し立ては、本来は著作権や商標権等の権利者を守るための制度ですが、実際の申し立ての中には自らに知的財産権侵害がないのにも関わらず、業務妨害目的や同業者を潰す目的のために知的財産権侵害の申し立てがなされることがあるのが現状です。

昨今、特に流行しているのは、同業者が出品者と似通った商品説明画像を掲載し、その画像を理由として著作権侵害の申し立てを行うようなケースです。多数のアカウントを動員して、知的財産権侵害の申し立てを行い、出品者のアカウントの健全性の数値を下げることで、出品停止・アカウント削除に追い込むケースが頻発しています。

虚偽の知的財産権侵害の申し立てへの対応

実際に、虚偽の知的財産権侵害の申し立てがなされた場合には、まずはAmazon上で申し立ての取下げの依頼、若しくは異議申し立てをすることが考えられます。

しかし、このような取下げの依頼や異議申し立てをしたとしても、それらが認められるとは限りません。また、出品者に損害が生じてしまった場合、生じてしまった損害を填補することはできません。

そこで、ここでは損害が生じてしまった場合に、出品者が採り得る法的主張について解説していきます。

参考:知的財産、欺瞞的行為、スパムに関するポリシー

虚偽の知的財産権侵害の申し立てへの民法上の主張

ここでは、虚偽の知的財産権侵害申し立てがあった場合の対応として、民法上のとりうる主張について解説します。

民法とは

民法とは、私人間の法律関係について規律する基本法と言われ、一般市民の法でもありますが、むしろ経営者や出品者などの事業活動の基本的な法としても重要です。

民法は、経済活動における日常的な取引等を規律するもので、特別な法律がない場合には、常に民法に立ち返って検討する必要があります

業務妨害を受けた場合の民法上の主張

虚偽の知的財産権侵害の申し立てを悪用した業務妨害を受けた場合、実際に民法上採り得る主張としては、民法第709条を根拠に、不法行為に基づく損害賠償請求をすることが考えられます。

(不法行為による損害賠償)第七百九条 故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。

民法第709条

民法第709条は、不法行為に基づく損害賠償請求権を定めています。社会生活を送っていくうえでは、さまざまなトラブルが生じることが考えられます。そこで、民法第709条では被害者が受けた損害を加害者に対して賠償請求できる場合について定めています。

本件であれば、虚偽の知的財産申し立てにより、出品者が正当な理由なく掲載していた商品の情報を削除されてしまった場合、以下を損害として主張することが考えられます。

  1. 出品が停止されてしまったことにより販売したかったのに販売できなかったため、実際に販売できていれば得られた利益(逸失利益)
  2. 対応のための人件費(経費)
  3. 訴訟手続を弁護士に依頼した際に生じた費用(弁護士費用)

これら全ての主張が裁判所に損害として認められる場合は限られていますが、裁判では上記を損害として主張することが考えられます。

虚偽の知的財産権侵害の申し立てへの不正競争防止法上の主張

不正競争防止法上の主張

不正競争防止法(不競法)とは

不正競争防止法(以下、「不競法」)は、事業者間の公正な競争を確保して市場経済を正常に機能させることを念頭に、さまざまな法律を補完する法律として制定されたものです。

まさに、事業者間の不適切な競争を防ぎ、不適切な競争がなされた場合には、罰金や懲役などのサンクションを課した法律といえます。

業務妨害を受けた場合の不正競争防止法上の主張

虚偽の知的財産権侵害の申し立てを悪用した業務妨害を受けた場合に実際に採り得る主張としては、不競法第2条第1項第21号、第4条を根拠に、信用毀損行為がなされたことによる損害賠償請求をすることが考えられます。

第二条 この法律において「不正競争」とは、次に掲げるものをいう。

二十一 競争関係にある他人の営業上の信用を害する虚偽の事実を告知し、又は流布する行為
第四条 故意又は過失により不正競争を行って他人の営業上の利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責めに任ずる。ただし、第十五条の規定により同条に規定する権利が消滅した後にその営業秘密又は限定提供データを使用する行為によって生じた損害については、この限りでない。

引用:不競法第2条第1項第21号、第4条

不競法第2条第1項は、不正競争に該当する類型を複数挙げており、同項第21号は信用毀損行為を不正競争該当行為と定義づけています。

そして、不競法第4条は、不正競争該当行為につき、損害賠償請求できる場合を定めています。

以下に掲載する裁判例においても、虚偽の商標権侵害を申し立てた行為は、「被告と競争関係にある原告の営業上の信用を害する虚偽の事実であり、不競法2条1項21号の不正競争行為に該当する」と認定されています。

損害については、上記の不法行為に基づく損害賠償請求と同様、逸失利益等が認められる可能性があります。

虚偽の知的財産権侵害申立てに関する裁判例

最後に、Amazonにおいて虚偽の知的財産権侵害の申し立てがなされた場合において、出品者が損害賠償請求を行ったところ、当該請求が認められた裁判例を2つご紹介します。

▶大阪地判令和5年5月11日判決(令和3年(ワ)第11472号)

■事案

Amazon上で韓国アイドルグッズを販売している原告が、同様の商品を販売している被告に対し、被告が原告がAmazon上で用いている画像が被告の著作権を侵害すると申し立て、原告が取引停止に陥ったが、これが虚偽であったとして、不競法2条1項21号、民法709条に基づき損害賠償請求をしたところこれが認容された事案

■判示内容

・被告画像にはそもそも著作物性がない

・原告が被告の著作権侵害をしている旨の虚偽の申立ては、被告と競争関係にある原告の営業上の信用を害する虚偽の事実を申告する行為であり、不競法2条1項21号の不正競争行為に該当する

▶東京地判令和2年7月10日判決(平成30年(ワ)第22428号)

■事案

Amazon上で枕、マットレス等の商品を販売している原告が被告に対し、被告が原告商品の販売は被告の商標権を侵害すると申し立てたが、これが虚偽であったとして、不競法2条1項21号、民法709条に基づき損害賠償請求をしたところこれが認容された事案

■判示内容

・原告商品は、被告各商標権を侵害するものではない

・本件申告は、原告商品が本件各商標権を侵害していることを趣旨とするものであり、その内容は、被告と競争関係にある原告の営業上の信用を害する虚偽の事実であり、不競法第2条第1項第21号の不正競争行為に該当するので、原告は、被告に対し、原告商品の販売が被告の有する商標権を侵害するとの虚偽の事実を第三者に告知または流布することの差止めを求めることができる

まとめ:知的財産権については専門家に相談を

まとめ:知的財産権については専門家に相談を

本記事では、近年多発しているAmazonにおける虚偽の知的財産申し立ての概要と、その場合に可能な法的主張について解説しました。

もっとも、Amazonにおける業務妨害の態様は近年多様化が進んでおり、さらに専門的な対策が必要不可欠となっております。そのため、出品者の個別具体的な事案に応じて主張できる内容や解決の方法はさまざまです。どのような主張が可能か、どのような対策が必要かなどは、IT・デジタルに強い弁護士にご相談ください。

当事務所による対策のご案内

モノリス法律事務所は、IT、特にインターネットと法律の両面に高い専門性を有する法律事務所です。近年、意匠権や商標権といった知的財産権は注目を集めています。当事務所では知的財産に関するソリューション提供を行っております。下記記事にて詳細を記載しております。

モノリス法律事務所の取扱分野:各種企業のIT・知財法務

弁護士 河瀬 季

モノリス法律事務所 代表弁護士。元ITエンジニア。IT企業経営の経験を経て、東証プライム上場企業からシードステージのベンチャーまで、100社以上の顧問弁護士、監査役等を務め、IT・ベンチャー・インターネット・YouTube法務などを中心に手がける。

シェアする:

TOPへ戻る