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新聞記事のイントラネットへの転載はOK?新聞記事の著作権について判例を解説

新聞記事のイントラネットへの転載はOK?新聞記事の著作権について判例を解説

新聞記事を転載する行為にはどのような法的な問題が生じるのでしょうか?自社に関する新聞記事を、社員への情報提供のために社内専用のイントラネットに掲載すること行為は、場合によっては著作権侵害に該当するかもしれません。実際に新聞記事を転載する行為が「著作権侵害」であるとして、新聞社が損害賠償を請求した事例があります。

問題になった事例では、中日新聞社と日本経済新聞社の2社が原告になりました。どちらの訴訟も相手方となったのは都内のある鉄道会社で、同社が新聞記事の画像データを作成し、会社のイントラネット上にアップロードして従業員等が閲覧できる状態に置いたことが発端です。

ここでは、この2つの新聞記事の著作権をめぐる裁判の判決について解説します。

新聞記事に著作権は認められるか

新聞記事に著作権は認められるか

著作物とはどのようなものを指すかを例示した著作権法第10条第1項では、第1号で「小説、脚本、論文、講演その他の言語の著作物」を、第8号で「写真の著作物」を定めています。新聞・通信社が新聞や電子メディアで発信する記事などの情報、報道写真はこれに該当すると考えられます。

一方で、第10条第2項で「事実の伝達にすぎない雑報及び時事の報道は、前項第1号に掲げる著作物に該当しない」と規定しています。新聞記事の「事実を忠実に伝達する」という側面に注目すると、「新聞記事には著作権はない」と解釈することも可能と考えられます。

ここでは、「事実の伝達にすぎない」という形容詞が付いていることに注意する必要があります。「だれが、いつ、どこで、どんな死因で、死去した。何歳だった」というだけの死亡記事と異なる、記者によって表現に差が出るような記事は、著作物に該当すると考えられます。

また、著作権法では、一定の「例外的」な場合に著作権等を制限して、著作権者等に許諾を得ることなく利用できることを定めています(第30条〜第47条の8)。第30条の「私的使用のための複製」は、比較的幅広く認められています。例えば、自分の好きなテレビ番組を、家族と一緒に見るために録画する場合などはこの規定に該当します。では、企業や団体などのイントラネットで新聞記事を利用する場合はどうでしょうか。限定された企業内で社員が見るだけなので私的使用だ、という主張も考えられます。

関連記事:特許・商標・著作権などの知的財産権侵害リスクとその対策とは

新聞記事と著作権の判例①:中日新聞社が原告である事案

新聞記事と著作権の判例①:中日新聞社が原告である事案

中日新聞社は、鉄道会社に対し、自社の著作物である新聞の記事をスキャンして画像データを作成し、それを社内イントラネット用の記録媒体に保存し、従業員が同イントラネットに接続してデータを閲覧できるようにしたことは、複製権及び公衆送信権を侵害したことに当たるとして、民法709条又は同法715条に基づき、損害賠償を請求しました。

鉄道会社には、2005年8月に533名の従業員・役員が在籍し、2019年には728人の従業員・役員が在籍しており、2005年には、4つの駅務管理所に1つずつのアカウントを設定し、乗務管理所には7つのアカウントを設定して、2015年までに、合計39台、2019年までには57台がイントラネットにアクセス可能なパソコンとして設置されていました。

参考:日本経済新聞|首都圏新都市鉄道に賠償命令 中日新聞記事無断使用で

中日新聞社の主張

中日新聞社は、2018年3月までに鉄道会社のイントラネットの掲示板に載せた記事が具体的にどれであるかは不明だとしています。しかし、掲載された新聞記事は、通常、記者が事実の選択、情勢分析、評価などを加え、創造的に思考や感情を表現するものなので、著作物として認められると主張しました。また、これらの記事は、中日新聞社が職務著作として著作権を保有していると主張しています。

関連記事:職務著作とは?4個の要件と法人が著作権を得る方法を解説

鉄道会社の主張

鉄道会社の主張

これに対し、被告である鉄道会社は、原告は2005年9月1日から2018年3月31日までについては被侵害記事を個別に特定しておらず、侵害行為の主張立証責任を全く果たしていないとしました。その上で、2018年度掲載記事のうち、いくつかを除く記事は、いずれも著作物性があることを争う、としました。

鉄道会社は、被侵害記事が特定されていない点について、「原告が具体的にどこに創作性があるのかを明示しない限り著作物であることについての主張責任を果たしたとはいえない」と主張しました。さらに新聞記事が著作物であるかどうかについては、「原告は、新聞社に対して提供された事実(情報)を新聞記事としているが、このとき各新聞社に提供された事実(情報)そのままの新聞記事が著作物に当たらないことはもちろん、提供された事実(情報)に原告が何らか加工したとしても、加工によって直ちに当該記事が著作物になるものではない。時事問題を扱っている週刊誌や月刊誌は、事実の分析を行い、評価を加えるなどされていることが多く、著作物に当たる記事が多いといえるが、新聞の記事はこれと異なる」と、主張しました。

裁判所の判断

裁判所は、まず、一部の記事について、鉄道会社が著作物性を争っている2018年度掲載記事につき、

2018年度掲載記事は、事故に関する記事や、新しい機器やシステムの導入、物品販売、施策の紹介、イベントや企画の紹介、事業等に関する計画、駅の名称、列車接近メロディー、制服の変更等の出来事に関する記事である。そのうち、事故に関する記事については、相当量の情報について、読者に分かりやすく伝わるよう、順序等を整えて記載されるなどされており、表現上の工夫がされている。また、それ以外の記事については、いずれも、当該記事のテーマに関する直接的な事実関係に加えて、当該テーマに関連する相当数の事項を適宜の順序、形式で記事に組み合わせたり、関係者のインタビューや供述等を、適宜、取捨選択したり要約するなどの表現上の工夫をして記事を作成している。したがって、2018年度掲載記事は、いずれも創作的な表現であり、著作物であると認められる。

東京地方裁判所2022年10月6日判決

とし、原告従業員が職務上作成したことが認められ、当該記事が著作物であることを認めました。そして、これらの記事を切り抜くなどした上で、その画像データを作成しイントラネットに掲載したことは、これらの記事に対して有する原告の複製権及び公衆送信権を侵害した、と認めました。

また、被告鉄道会社は、記事の利用が非営利で公益性のあるものであり、原告新聞社の個別規定によれば無料になると主張したのですが、裁判所は、株式会社である被告の事業が非営利であることはありえないし、記事の利用は最終的に被告の収益向上につながるものであり、被告の主張には理由がない、としています。

そして、2018年度以前については、原告が著作権を有する記事が458本掲載されたと認めるのが相当であるとして、損害は137万4000円とし、2018年度掲載記事については、139本として、損害は39万9000円とし、合わせて177万3000円、これに弁護士費用相当損害金15万円を加えた合計192万3000円の支払いを、鉄道会社に命じました。

新聞記事と著作権の判例②:日本経済新聞社が原告である事案

日本経済新聞社は、2005年8月~2019年4月までの間に鉄道会社のイントラネットに合計829件の記事が掲載されたことは、各記事に係る著作権(複製権及び公衆送信権)を侵害する旨を主張して、鉄道会社に対し、不法行為に基づく損害賠償請求(民法第709条。損害額につき、著作権法第114条3項)の支払いを求めました。

参考:日本経済新聞|つくばエクスプレス側に賠償命令 本社記事を無断使用

日本経済新聞社の主張

日本経済新聞社は、「各記事は、選択された素材の内容、量、構成等によって、その記事の主題についての著作者の賞賛、好意、批判、断罪、情報価値等に対する評価等の思想、感情が表現されているものであり、著作物といい得るほどの内容を含む記事であって、単純な死亡記事、人事異動、叙位叙勲の記事など事実の伝達に過ぎない雑報などではない」と主張し、

「したがって、本件各記事は、いずれも著作物といえる」と、主張しました。

鉄道会社の主張

これに対し、鉄道会社は、「新聞の記事のうち、事実の伝達に過ぎない雑報・報道は著作物ではない」とし、雑報・報道記事であっても文芸・学術の領域に入る記事であり、創作的に思想又は感情を表現するものであれば著作物になるが、創作とは、芸術的感興を文芸・絵画・音楽などの芸術作品として独創的に表現すること又はその表現された作品を意味することであるから、思想の表現なら思想を、感情の表現であれば芸術的感興を創作的に表現したものが著作物である、と主張しました。

そして、「一般の新聞報道記事は、本質的に事実を伝達するものであり、正確性を使命とし、創作があってはならないものである。このため、一般の新聞報道記事は、アプリオリには創作性がなく、著作物とはいえない。記者による記事化の際の作業が高度な知的作業だとしても、そのことと創作性は直接関連するものではない」としました。

「創作的に思想又は感情を表現するもの」が著作物であるのに、新聞記事は「正確性を使命とし、創作があってはならないもの」なので、著作物ではないという主張です。

裁判所の判断

裁判所はこれらに対し、各記事はいずれも、「担当記者が、その取材結果に基づき、記事内容を分かりやすく要約したタイトルを付し、当該記事のテーマに関する直接的な事実関係を端的に記述すると共に、関連する事項として盛り込むべき事項の選択、記事の展開の仕方、文章表現の方法等についても、各記者の表現上の工夫を凝らして作成したものであることがうかがわれる」とし、したがって、各記事は、いずれも「思想又は感情を創作的に表現したものであって、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するもの」すなわち著作物(著作権法第2条1項1号)であると認め、「事実の伝達にすぎない雑報及び時事の報道」(著作権法第10条2項)には当たらない、としました。

裁判所は、

著作物といえるための創作性の程度については、高度な芸術性や独創性まで要するものではなく、作成者の何らかの個性が発揮されていれば足りる。このような意味での創作性は、内容における虚構性を当然の要素ないし前提とするものではないから、新聞記事がその性質上正確性を求められることと何ら矛盾せず、両立し得るものであることは論を俟たない。

東京地方裁判所2022年11月30日判決

として、著作権(複製権及び公衆送信権)侵害の不法行為につき、掲載された合計829件の記事による損害額414万5000円、相当因果関係のある弁護士費用相当損害金45万円、合計459万5000円の支払いを、鉄道会社に命じました。

まとめ:著作権については専門家に相談を

いずれの件も第一審の判決ではありますが、新聞記事は著作物であること、新聞記事を社内のイントラネットで利用することは著作権(複製権及び公衆送信権)侵害に当たることが認定されています。

また、社内での利用であったとしても、私的使用とは認められない可能性が高いことにも注意が必要です。たとえ、社内イントラネットなどに転載する場合であっても、著作権者である新聞社から許諾を得る必要があります。著作物の使用には、他者の著作権を侵害することがないよう注意しなければいけません。

新聞と同様に社内でコピーして利用されることの多い住宅地図の著作物性については、以下の記事で解説しています。あわせてご参照ください。

関連記事:住宅地図は著作物か?令和4年のゼンリン訴訟を解説

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弁護士 河瀬 季

モノリス法律事務所 代表弁護士。元ITエンジニア。IT企業経営の経験を経て、東証プライム上場企業からシードステージのベンチャーまで、100社以上の顧問弁護士、監査役等を務め、IT・ベンチャー・インターネット・YouTube法務などを中心に手がける。

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