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暗号資産(仮想通貨)は差押えできる?法的問題点について解説

暗号資産(仮想通貨)は差押えできる?法的問題点について解説

ビットコイン等の暗号資産(仮想通貨)の普及に伴い、資産の一部を暗号資産として保有している人が増えてきています。ただ、暗号資産の法的な性質については、いまだ議論が続いているのが現状です。

本記事では、債務者が暗号資産を保有している場合に、債権者はその暗号資産を差し押さえて債権回収することが可能なのかについて解説します。

暗号資産(仮想通貨)の法律上の定義

暗号資産(仮想通貨)の法律上の定義

暗号資産は、資金決済法第2条第5項により、

この法律において「暗号資産」とは、次に掲げるものをいう。ただし、金融商品取引法(昭和二十三年法律第二十五号)第二条第三項に規定する電子記録移転権利を表示するものを除く。

一 物品を購入し、若しくは借り受け、又は役務の提供を受ける場合に、これらの代価の弁済のために不特定の者に対して使用することができ、かつ、不特定の者を相手方として購入及び売却を行うことができる財産的価値(電子機器その他の物に電子的方法により記録されているものに限り、本邦通貨及び外国通貨並びに通貨建資産を除く。次号において同じ。)であって、電子情報処理組織を用いて移転することができるもの

二 不特定の者を相手方として前号に掲げるものと相互に交換を行うことができる財産的価値であって、電子情報処理組織を用いて移転することができるもの

資金決済法第2条第5項

と定義されています。この定義によって、暗号資産に財産的価値があることは認められます。

関連記事:暗号資産(仮想通貨)とは?法律上の定義や電子マネーなどとの違いを解説

ただし、暗号資産に対して差押え等の強制執行が可能かどうかについては、民法等の私法において暗号資産がどのように定義されるのかを検討する必要があります。

暗号資産(仮想通貨)の私法上の性質

暗号資産が民法上の「物(有体物)」に該当するならば、所有権が発生し、所有権に基づく引き渡し請求が可能となります。

株式会社Mt.GOXの破産手続きにおいて、ビットコインの取戻し権があるかどうかについて争われた際の判決(平26年(ワ)33320号)で、東京地裁はビットコインの有体物性を否定する旨の判断を行っています。この判決により、ビットコインは民法上の「物(有体物)」には該当しないものとされ、取戻し権についても否定されています。

そこで、暗号資産は債権にあたるのかが問題となりますが、暗号資産自体は債権とは言えません。

ただし、株式会社Mt.GOXの破産に関する破産債権査定異議事件において、

ビットコインを仮想通貨として認める場合においては、通貨類似の取扱を求める債権(破産法103条2項1号イの「金銭の支払いを目的としない債権」)としての側面を有するものと解され

東京地裁平成30年1月31日判決

とされていることから、暗号資産の保有者が取引所に対して持っている権利は破産債権にあたると認められていると言えます。

暗号資産(仮想通貨)の保有者への強制執行

暗号資産(仮想通貨)の保有者への強制執行

債権者は債務者が弁済に応じない場合、民事執行法に基づく強制執行を行い、裁判所の決定により債権回収をすることができます。民事執行法は、債務者の財産の種類(不動産、動産、債券その他の財産権等)によって強制執行の方法を定めています。

暗号資産を保有・管理するにはウォレットサービスを利用することになります。ウォレットや暗号資産交換業については、以下の記事にて詳しく説明しています。

関連記事:カストディ業務とは?暗号資産交換業者に対する規制について解説

債務者が暗号資産以外に財産を持っていない場合には、以下の方法で債権回収を目指していくことになります。

債務者のウォレットで暗号資産(仮想通貨)を保有している場合

暗号資産は、民事執行法上の「その他財産権」にあたるものとされるため、「その他財産権」に対する強制執行を行います。民事執行法第167条により、その他財産権に対する強制執行は債権執行の例によるものとされています。

債務者のウォレットで暗号資産を保有している場合には、第三債務者が存在しないため、執行債務者である暗号資産の保有者に対してのみ差押え命令が出されることになります。差押え命令が出されたとしても、暗号資産の保有者が秘密鍵を差押債権者に教える等の協力がない場合、実効性のある差押えはできないため、債権の回収は難しいでしょう。

暗号資産交換業者に預託している場合

債務者が自分のウォレットではなく、暗号資産交換業者に暗号資産を預託している場合、利用者は、業者に対して、その保管している暗号資産について、返還請求権に準じた債権を有しているものと考えられます。

そのため、債権執行の例によって強制執行を行うことができます。

利用者が債権差押を受けた場合、暗号資産交換業者がどのように対応すべきかについては、法令等に特に定めがあるわけではないため、個々のケースに応じた対応となります。

暗号資産交換業者は、利用規約等に基づき一旦サービスを停止し、裁判所の命令に従って暗号資産を法定の通貨に換算した上で債権者に支払っているケースが多いようです。そのため、債務者が暗号資産を業者に預託している場合は、債務者が秘密鍵を管理している場合に比べると差押えできる可能性が高くなると言えます。

暗号資産(仮想通貨)の差押えに関する問題点

債務者が秘密鍵を管理している場合、差押命令が送付されてから、債務者が秘密鍵を第三者に送付する等の方法で差押えできなくなる可能性があります。暗号資産には登記のような公示方法がないため、その送付が差押命令に違反していることを善意の第三者に対抗できない(=暗号資産を返すよう債権者が主張できない)おそれがあります。

これを防ぐため、差押えの前に債務者に対して秘密鍵の開示を請求し、開示されない場合は民事執行法第172条に基づく間接強制という方法を取ることも考えられます。

間接強制とは、一定の期間内に債務を履行しなければその債務とは別の間接強制金を課す旨を警告することにより、自発的な履行を促すものです。ただし、間接強制をしたとしても債権を回収できるとは断言できないのが現状です。

まとめ:暗号資産(仮想通貨)の差押えについては弁護士へご相談を

上で見てきたように、暗号資産の差押さえにはさまざまな法律的な論点が存在し、また、実効性のある強制執行を行うのは難しいケースもあります。

債務者に暗号資産以外の財産がほとんどない等、暗号資産の差押えを行う必要がある場合には、早めに弁護士へご相談ください。

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モノリス法律事務所は、IT、特にインターネットと法律の両面に高い専門性を有する法律事務所です。当事務所は暗号資産やブロックチェーンに関わるビジネスの全面的なサポートを行います。下記記事にて詳細を記載しております。

弁護士 河瀬 季

モノリス法律事務所 代表弁護士。元ITエンジニア。IT企業経営の経験を経て、東証プライム上場企業からシードステージのベンチャーまで、100社以上の顧問弁護士、監査役等を務め、IT・ベンチャー・インターネット・YouTube法務などを中心に手がける。

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