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法律記事MONOLITH LAW MAGAZINE

IT・ベンチャーの企業法務

独自発行ポイントが資金決済法の前払式支払手段に該当する場合とは

独自発行ポイントが資金決済法の前払式支払手段に該当する場合とは

大手シンクタンクによる調査によると、2014年度に国内11業界の主要企業が2014年度に発行したポイントやマイレージの発行総数は少なくとも8,000億円以上にも上り、2022年には1兆円を超える規模になると推計されています(株式会社野村総合研究所2016年10月5日公表記事より)。

従前は、販売促進のためにごく少額な規模で付与され、「おまけ」の要素が強かったポイントは、いまや物品購入や役務を受けるうえの割引感を十分感じられるほどに大きな存在となり、ときには現金によって追加購入れ、ときにはポイント発行業者間で交換されるほどの流通性が高まっています。IT企業やベンチャー企業が、自社アプリや自社ウェブサービス上で「ポイント」のシステムを作り運用することも、既に一般的になってきたと言えるでしょう。

もはや、社会生活上不可欠な位置づけともなりつつあるポイントは、もはや金銭と同等の経済的価値を有すると言っても過言ではありません。このため、ポイント発行事業者の破綻などによる不測の事態への備えや、利用者へのわかりやすさの確保など、一定の利用者保護政策が実現されるようになってきています。本記事では、独自発行ポイントが服する、いわゆる資金決済法上の「前払式支払手段」に関する法規律について解説します。

資金決済法と独自発行ポイント

「資金決済に関する法律(資金決済法)」における「前払式支払手段」に関する法制度は、従前は「前払式証票法(通称プリカ法)」というもので、主に商品券やギフトカードやプリペイドカードを想定した法律でした。しかし、今日では冒頭に述べたポイントサービスの拡大化にとどまらず、日々電子マネーチャージなどの進化、オンラインゲームの多様化などを受け、2010年には、広く「前払式支払手段」という定義が生み出され、規制範囲が広がっております。

なお、同法は、前払式支払手段だけでなく、資金の移動や仮想通貨の取扱い等の規制を含め、新しい金融サービスの適正化の担い手として、年々進化を繰り返しています。独自発行ポイントとの関係で問題になり得るのは、資金の移動に関する問題です。単に独自ポイントを発行してユーザーに使わせるのみならず、そのポイントをユーザー間で移動させたり、現金化させたりすると、その行為は「資金移動」となるケースがあり、この場合には同法は特に厳しい規制を敷いています。この問題に関しては下記記事にて詳細に解説しています。

関連記事:自社ポイントの移動・交換と資金決済法の資金移動業

独自発行ポイントと消費者保護

「元本保証」行為を法規制し、消費者保護を図ります。

企業が新たなる価値を生み出し、それが目覚ましく普及すると、社会として無視できない存在となります。そうすると、特に利用者保護などの観点で社会規範が求められるようになり、これに国家権力による強制規範が付与されて法制度となっていくのが常です。ポイントについても、このような過程を踏まえて、資金決済法の中で「前払式支払手段」として位置づけられることとなり、こうした独自ポイントを発行する行為には、一定の法規制が行われるようになりました。

この法規制は、金銭の預かりに関する規制と近しいものであると言えます。ときどき怪しい業者が言葉巧みに大勢の人々からお金を集めたものの、結局破綻したり行方をくらましてしまい、出資者に多大な損害が生じるような事件が報道されることがあります。このような業者の行為については、詐欺罪など刑法の適用を考える以前に、そもそも不特定多数者から出資を集めた時点で、出資法違反となるケースがあります。同法は元本保証を行う金銭預かりを、その第1条にて禁止しているからです。元本保証を行って金銭を預かる行為は、消費者に「元本が保証されているから安心である」という錯覚を与えやすく、そうして金銭を預かった会社が破綻し、消費者が被害を受けることについて、法律は警戒を行っているわけです。

前払式支払手段に関する法規制とは

お金と同等の経済的価値

出資法の預り金規制で防止したいリスクは、商品券、プリペイドカード、電子マネー、ポイントなど、金銭と同等の経済的価値を発行する業者においても同じことがあてはまると言えます。つまり、「現金を独自発行ポイントに代えることには、元本保証を行う会社にお金を預けるのと同様、リスクがない」という錯覚を与えかねないからです。

むしろ、現金のように現物流通を前提とせず、主には電磁的な記録の存在を拠り所とする経済的価値を適切に運営するためには、その脆弱性を踏まえ、一層利用者保護政策が重要とも考えられます。資金決済法は、このようなお金と同等の経済的価値に対して以下のような規制を課しています。

前払式支払手段とその規律とは

資金決済法は、第2章に「前払式支払手段」という方式を定義し、この方式に該当する業者について、

  • 監督行政が及ぶように財務局長への届け出や登録をさせ、
  • 顧客が分かりやすいように法定表示や情報提供を課し、
  • 法令で定められた基準日に未使用残高の1/2の額の保証金を供託すること

などを義務付けています。

銀行法などの許可制度と比べれば、いくぶんかハードルは低いと言えますが、当局の監視のもと一定の行為を義務付けられ、残高の半分の「保証金」を安定的に確保させられることは、相応に大きい負担がかかる厳しい規制と言うことができます。

「前払式支払手段」に該当する条件とは

まず、資金決済法ではどのような場合に「前払式支払手段」に該当するのか、その基本要件を見てみましょう。これは、資金決済法3条をそのまま掲載してもわからないことはないのですが、なかなか一般にはわかりづらい表記となっているため、本記事では以下に箇条書きで記載します。

  • 金額や、物品購入や役務提供の数量が、記載されたり記録されたりしていること
  • 上記記載・記録が、証票や記号などで発行されていること
  • 上記発行が、対価を得てされていること
  • 上記発行されたものが、物品購入や役務提供の支払いに使用できること

この4点です。これらすべてを満たした場合に「前払式支払手段」に該当し、法の規制を受けることとなります。

ただ、いわゆる独自発行ポイントは、金銭等の対価を得て発光されるものであり、何らかの商品購入や役務提供などに利用できるものである限り、これら4条件には、基本的に該当することになります。

一定の条件を満たせば非該当になる

しかし、この4点だけで一律に規制をかけてしまうと、相当の広範囲に規制が及んでしまい、かなりビジネスが息苦しくなってしまいます。そこで、以下のようなものは、上記の4条件を満たしているとしても、前払式支払手段には該当しない、と定められています。いわゆる「除外条件」です。

  • 利用期間が6ヶ月以内に限定される場合:破綻リスクが比較的低いと考えられることにより、除外されています(法4条1号、政令2条2項)
  • 乗車券・乗船券・航空券、映画・演劇ライブ等のチケット、馬券・車券の類、利用者のために商行為となる取引のみに使用されるもの:用途が限定的であることや、短期間で失効することより、除外されています(法4条1号、政令2条1項)
  • 収入印紙や切手、ゴルフ会員証など:当局の示すガイドライン等によって、そもそも「該当しないもの」として示されているもの:法律上明確に除外されています

特に重要なのは、一つ目、利用期間が6ヶ月以内のものです。ポイントは、有効期間が6ヶ月以内であれば、前払式支払手段には該当せず、前述のような法規率を受けなくなる、という建付になっているのです。

第三者型と自家型の区別

また、前払式支払手段によって発行された証票等の流通範囲によって、利用者保護の度合いが異なりますので、この点も法令に盛り込まれています。具体的には、

  • 流通範囲が発行者以外の第三者に及ぶ場合(第三者型):例えば、Suicaポイントは、電車のみならずコンビニ等でも利用できるので、第三者型です
  • 流通範囲が発行業者自社に限定される場合(自家型):例えば、ゲーム事業者などが発行しているポイントは、当該企業のゲームのアイテム購入にしか使えないのであれば、自家型です

とで規制が異なっています。「緩和条件」といい、以下のように、自家型であれば法規律が「緩和」される、という建付です。

  • 第三者型の場合:金融庁の登録を受けない限りは前払式支払手段による証票等の発行をすることができません。そして、この登録には様々な条件が求められており、例えば業者の財産的基礎要件は、原則として純資産額1億円以上とされています。お金を預かる場合と同様に、破綻リスクの防止に向けて、業者に一定の体力が要求されていることの現れと言うことができます。
  • 自家型:金融庁の登録は不要です。法令で定められた基準日において未使用残高が1,000万円以下であれば規制を受けません。残高がこの金額を超えた場合は規制を受けますが、金融庁に対しては登録ではなく「届出」で足ります。

第三者型に該当した場合、純資産額1億円などの条件を満たした上で、金融量の登録を受ける必要があります。このレギュレーションは、少なくともシードステージのベンチャー企業等にとっては、なかなかに重いものであると言えます。この規律の適用を避けるためには、例えば、

  • 有効期間を6ヶ月に設定する(除外条件)
  • 自家型かつ未使用残高が1000万円以下になるようにポイントを設計する(緩和条件)

といった設計を検討することになります。

ポイントの付与は「前払式支払手段」に該当し、規制を受けるか

「前払式支払手段」に該当する要件・条件とは?

以上を踏まえ、ここからは、独自発行ポイントについて具体的に考えていきます。まず、今まで述べた資金決済法の「前払式支払手段」の基本要件、除外条件、緩和条件にナンバリングして、イメージしやすいように具体例を記載いたします。そのうえで、いくつかのポイント付与の典型的なケースに当てはめていきたいと思います。

さて、各ケースは、「前払式支払手段」に該当し、規制を受けるのでしょうか。

<基本要件>
① 金額や、物品購入や役務提供の数量が、記載されたり記録されたりしていること
例)Webサイトや利用明細やレシート等において、「保有ポイント〇〇ポイント」や「当社商品・サービス〇〇円分」などと表示されていること
② 上記の記載・記録が、証票や記号などで発行されていること
例)ICカードやスマホアプリなどによって、保有ポイントをいつでも行使できるような状態に置かれていること
③ 上記の発行が対価を得てされていること
例)おまけでもらうのではなく、現金、クレジットカード、プリペイドカード、商品券、ポイント等で買うことによって取得されていること
④ 上記の発行されたものが物品購入や役務提供の支払いに使用できること
例)商品やサービスの購入に充当などができること
<除外条件>
⑤ 6ヶ月以内の期間限定その他除外条件に合致すること
例)「6ヶ月以内」、「〇月〇日まで」などの期間が限定されているなど
<緩和条件>
⑥ 第三者型ではなく自家型に該当する場合は金融庁の登録は不要
例)自家型:百貨店が発行する当該百貨店限定で利用できる。
第三者型:自店舗だけでなく、ファーストフード店、コンビニエンスストア等で幅広く利用できる。

事例1:利用金額や条件に応じて一定数のポイントを付与するもの

クレジットカード会社等がカード会員の利用金額や条件に応じて一定数のポイントを付与するもの(例:JCBカードのOki Dokiポイントブログラム等)

カードの利用明細等に具体的なポイント数が記載・記録されたうえで交付されますが(①②充足)、あくまでも利用金額や条件に応じておまけとして付与されるものであって、ポイントの付与に対価を支払うものではないため(③不充足)、「前払式支払手段」には該当しないものと考えられます。

事例2:ショッピングモール等の全体で使えるもの

インターネットショッピングモールを中心として、同モール運営企業のグループ企業全体において、同企業グループ会員の一定の利用金額や条件応じて一定数の企業グループ共通ポイントを付与するもの(例:楽天ポイント等)

企業グループ共通のポイント管理サイト(例:楽天ポイントクラブ等)において具体的なポイント数が記録されたうえで交付されますが(①②充足)、あくまでも利用金額や条件に応じておまけとして付与されるものであって、ポイントの付与に対価を支払うものではないため(③不充足)、「前払式支払手段」には該当しないものと考えられます。

事例3:コンビニの店頭などで購入するギフトポイント

コンビニエンスストアの店頭などでギフトポイントを購入した金額と同等のポイントを上記企業グループ共通ポイントに算入できるもの(例:Amazonポイントギフトカード等)

具体的なポイント数が記載されているギフトカードを(①充足)、コンビニエンスストア等で交付を受けるものであり(②充足)、実際に同ポイント数相当額を対価として支払うことで交付を受け(③充足)、当該ポイントを企業グループ内での物品購入やサービス提供に使用することができるため(④充足)、「前払式支払手段」に該当するものと考えられます。

有効期間設定で前払式支払手段非該当にする手も

しかしながら、当該ギフトカードによる算入ポイントの有効期間によっては、除外条件に該当することとなります。

ここで、例として「楽天ポイントギフトカード」(2022年5月末で販売を終了しています)について見てみますと、同サービス紹介サイトには以下の記載があります。

このカードにより獲得される楽天スーパーポイントの有効期間は、このカードが店頭で購入された日から6ヶ月間となります。

楽天ポイントギフトカード

このため、少なくとも、「楽天ポイントギフトカード」については、除外条件に該当するため(⑤不充足)、「前払式支払手段」には該当しないものと考えられます。

楽天ギフトカードは有効期限が6ヶ月に設定されています

ちなみに、この期間制限がない場合は、算入ポイントも楽天に参加する各店舗で利用できる以上、第三者型前払支払手段に該当し(⑥非該当)、金融庁への登録が必須となるものと考えられます。

事例4:いわゆるポイントサイトのポイント

企業ポイントサイトなどで、登録会員が広告をクリックしたりゲームをしたりすることによって一定数のポイントを付与するもの

ポイント管理サイトにおいて具体的なポイント数が記録されたうえで交付されますが(①②充足)、あくまでも広告のクリックやゲーム利用に応じておまけとして付与されるものであって、ポイントの付与に対価を支払うものではないため(③不充足)、「前払式支払手段」には該当しないものと考えられます。

事例5:A社ポイントをB社ポイントに交換する場合

まず、どのような場合かを補足しますと、A社ではA社グループでのショッピング利用金額に応じてA社独自のポイントを付与し、その累積ポイントについて、A社グループ内でのショッピングに利用できる場合を想定します。この場合は4-2で解説したとおり、対価の支払いを受けてポイントが付与されているわけではないため(③不充足)、「前払式支払手段」には該当しないということとなります。ここで、例えば、A社が自社ポイントの利用範囲が狭いため、A社がB社と提携し、一定の交換比率で、A社ポイントをB社マイレージに交換できることとしたと仮定しましょう。本ケースは、この場合のB社における論点です。

通常、B社では、通常、利用者の利用実績に応じてマイレージを付与し、その累積マイレージを無料チケットに交換できるなどのサービスを提供しているとすれば、これも対価の支払いを受けてマイレージが付与されているわけではないため(③不充足)、「前払式支払手段」には該当しないということとなります。

しかし、マイレージがA社ポイントとの交換によって付与される場合にも同じことが言えるのでしょうか。ここは注意が必要と考えられます。なぜなら、交換には、A社のポイントの充当が必要なわけですから、この充当について、A社ポイントという「対価」の支払いが伴っていると考える余地があるからです。この「対価」という用語の解釈は様々だと考えられますので、一概には言えませんが、もしこのようなポイント交換も「対価」の支払いに該当する考えた場合、「前払式支払手段」に該当する可能性がありますので、資金決済法の適用外で運営を行うためには、B社においては、当該交換部分の効力を6ヶ月以内とする等の検討が必要でしょう。

まとめ

このように、ポイント付与には、その運営によっては、資金決済法における前払い式手段に関する厳しい規制に服することとなりますので、ポイント制度を設計には留意が必要です。今回は典型的なポイント付与の場面をいくつか紹介しましたが、各ケースで分かれ道となるのは、“対価の支払いを伴うかどうか”、伴う場合においては“有効期間の短期化”であることがお分かりいただけたと思います。この2点について、しっかりと設計することで、必ずしも厳しい規制の適用を受けずに済むこととなります。なお、本記事では割愛しましたが、ポイントを付与するにあたっては、仮に資金決済法の適用はなかったとしても、景品規制等については留意が必要です。

弁護士 河瀬 季

モノリス法律事務所 代表弁護士。元ITエンジニア。IT企業経営の経験を経て、東証プライム上場企業からシードステージのベンチャーまで、100社以上の顧問弁護士、監査役等を務め、IT・ベンチャー・インターネット・YouTube法務などを中心に手がける。

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