賠償5億円判決も…ファスト映画の法的責任は?刑事・民事責任を弁護士が解説
映画を10分程度に編集した違法な動画「ファスト映画」が問題になっています。「ファスト映画」は映画の映像を無断で使い、字幕やナレーションとともに約10分の動画に編集して、結末までのストーリーを明かす違法な動画コンテンツです。こうした「ファスト映画」をネット上に公開したことで、2021年には逮捕者も出ています。
2022年11月17日には、東京地方裁判所が著作権侵害による損害賠償金5億円の支払いを命じたことでも注目を集めました。
本記事ではファスト映画の法的な問題点と、法的責任について解説していきます。
この記事の目次
ファスト映画が侵害する著作権はどのようなものがあるか
著作権法第10条第7項により、映画は著作物として保護されます。したがって、映画を無断で編集してファスト映画を作成し、YouTubeに投稿する行為は著作権侵害となります。
では、ファスト映画は、具体的にどのような形で著作権を侵害しているのでしょうか。
翻案権
著作権のひとつに著作物を翻訳、編曲、変形、脚色等をする権利である翻案権があります。
著作権法(翻訳権、翻案権等)
第27条 著作者は、その著作物を翻訳し、編曲し、若しくは変形し、又は脚色し、映画化し、その他翻案する権利を専有する。
映画作品を編集して作成されたファスト映画は、各映画の映像そのものを用い、ナレーションにより各映画のあらすじを説明するというものです。ですが、その作成行為は、既存の著作物に依拠し、その表現上の本質的な特徴の同一性を維持しつつ、具体的表現に修正、増減、変更等を加えて、これに接する者が既存の著作物の表現上の本質的な特徴を直接感得することができる別の著作物を創作する行為です。各映画の著作権者の翻案権を侵害していると言えるでしょう。
公衆送信権
著作権には、著作物を公衆向けに送信することに関する公衆送信権という権利があります。
著作権法(公衆送信権等)
第23条 著作者は、その著作物について、公衆送信(自動公衆送信の場合にあつては、送信可能化を含む。)を行う権利を専有する。
ファスト映画の動画データをインターネットを介して、接続された自動公衆送信装置であるGoogleLLCまたはYouTubeLLCが管理するサーバーコンピュータの記録装置に記録保存し、YouTubeに公開設定し、不特定多数の者に自動的に公衆送信し得る状態にする行為は、各映画の著作権者の公衆送信権を侵害していると言えるでしょう。
ファスト映画は「引用」に該当するか
著作権法上で引用に該当する場合には、著作権者の承諾を得ずに著作物を使用しても違法とはなりません。
ただし、引用とは、自分の著作物の中に他人の著作物を利用することをいいます。引用といえるためには、引用の目的上正当な範囲内で行われる必要があり、自らの著作物の中でサブ的に第三者の著作物を利用するということが前提です。ファスト映画は、他人の著作物がメインで利用されているものです。したがって、適法な引用とは到底言えません。
関連記事:動画の引用が許される場合とは?著作権法上の要件と裁判例を解説
ファスト映画に対する法的措置
ファスト映画に対して、どのような法的措置が取られたのかを、刑事と民事の両方でみていきましょう。
刑事上の罰則
2021年、ファスト映画を公開して広告収入を得ていた3人が逮捕・起訴されました。本事案において、仙台地方裁判所は被告人に対し、翻案権侵害、公衆送信権侵害に当たるとして著作権法違反の有罪判決を言い渡しました。
映画の著作物を短時間のものに編集し、ナレーションを付するなどしてあらすじを紹介する動画を作成し、インターネット上で公開するという、いわゆるファスト映画の作成及び公開は、映画の著作権者が正当な対価を収受する機会を失わせ、映画の収益構造を破壊し、ひいては映画文化の発展を阻害しかねないものであり、厳しい非難に値する。また、被告人らは、役割を分担し、常習的、職業的に著作権侵害行為を繰り返す中で各犯行に及んでいる。
著作権を侵害された著作権者は21社にのぼり、各動画の再生回数に照らすと、その被害額も相当多額になることが窺われ、結果は重い。
仙台地方裁判所2021年11月16日判決
著作権法違反は、著作権法第119条第1項より、「10年以下の懲役若しくは1000万円以下の罰金、又はこれを併科する」となりますが、3人の被告にはそれぞれ、懲役2年執行猶予4年及び罰金200万円、懲役1年6月執行猶予3年及び罰金100万円、懲役1年6月執行猶予3年及び罰金50万円が言い渡されました。
なお、判決文では、
犯行は動画の再生回数に応じた広告収入目当てで敢行されたものであり、利欲的な犯行動機に酌むべき事情はない。
もっとも、ファスト映画の作成及び公開について、これまで刑事責任が問われた事例はなかったと窺われることなどを踏まえると、本判決等によりその違法性が一段と周知されるにもかかわらず、その後もファスト映画の作成及び公開が横行するのであればその量刑傾向を重い方向にシフトすべきであるとはいえても、現時点においては、本件のような規模の事案の量刑としては、相応の懲役刑と罰金刑を併科した上で、前科がない者などについては、その懲役刑の執行を猶予するのを原則とするのが相当である。
仙台地方裁判所2021年11月16日判決
と、しています。今後は、ファスト映画を投稿する著作権侵害者に対しては、さらに重い刑事罰が科されることも考えられます。なお、ファスト映画と似た構造を持つ「漫画村」事件では、著作権法違反と犯罪収益隠匿の罪で、サイト運営者に懲役3年の実刑、罰金1,000万円、追徴金約6,200万円の判決が出ています。
民事上の損害賠償額
刑事裁判の判決後、一般社団法人コンテンツ海外流通促進機構(CODA)および一般社団法人日本映像ソフト協会(JVA)の会員企業13社は、損害賠償請求の訴訟を提起しました。原告は、ファスト映画による損害額を20億円と算定し、このうち最低限の損害回復として5億円の支払いを求めました。なお、この裁判において被告となったのは逮捕された3人のうち国内にいた2人です。
これに対し、東京地方裁判所は2022年11月17日、被告2人に対し、著作権侵害による損害賠償金総額5億円以上の支払いを命じる判決を言い渡しました。
この裁判では被告らは著作権法違反(翻案権侵害、公衆送信権侵害)の事実を認めていたので、損害賠償額が争われましたが、著作権法第114条第3項に基づき、損害額の推定が行われました。
著作権法(損害の額の推定等)
第114条3 著作権者、出版権者又は著作隣接権者は、故意又は過失によりその著作権、出版権又は著作隣接権を侵害した者に対し、その著作権、出版権又は著作隣接権の行使につき受けるべき金銭の額に相当する額を自己が受けた損害の額として、その賠償を請求することができる。
裁判所は、YouTubeの利用者が YouTube上でストリーミング形式により映画を視聴するためには所定のレンタル料を支払う必要があり、映画の著作権者は当該レンタル料より著作権の行使につき受けるべき対価を得ることを予定している点に着目しました。
つまり、YouTubeで映画を見ようとすると約400円程度の金額が必要なことから、「(被害額は)再生1回あたり200円とするのが相当」と算出しました。400円ではなく、200円と算出したのはデジタルプラットフォームに支払う手数料や、映画が丸ごとアップされたわけではないことを考慮したと考えられます。
損害額の20億円の算定についても「再生1回あたり200円」がベースになっています。被告らがアップしたファスト映画64本の再生回数は計約1千万回に上っていることから、1000万×200=20億円相当の損害と算定されたわけです。
こうした算定の根拠について、判決は映画会社側が主張した被害額の算定方法は妥当だと判断しました。このうち最低限の損害回復として原告が求めていた5億円を連帯して支払うよう、被告2人に命じました。
参考:読売新聞オンライン|「ファスト映画」投稿、3人に計5億円賠償命令…所在不明だった男にも判決
まとめ:ファスト映画等の著作権侵害は弁護士に相談を
このように、ファスト映画のような悪質な著作権侵害行為に対しては、刑事・民事の両方で重い責任が課されることとなります。
YouTubeの場合には、投稿者の住所や本名等を調べるのに時間がかかります。著作物が無断でファスト映画等に使われるなどの著作権侵害に遭った場合には、早急に法的措置を検討する必要があるでしょう。
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