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法律記事MONOLITH LAW MAGAZINE

風評被害対策

写真投稿における著作物性と著作者

風評被害対策

写真投稿における著作物性と著作者

個人が撮影し、InstagramなどのSNSにアップロードした写真について、撮影者は「著作権」という権利を有しています。そして、他人が撮影した、つまりその人に著作権がある写真を無断転載すると、著作権侵害の問題が発生します。これは、撮影者がプロカメラマン等の場合に限りません。一般個人が撮影した写真であっても、その写真には著作権がある、ということです。

著作権とは「人間の思想や感情を創造的に表現した文化的な創造物を保護」するもので、著作権法という法律によって守られていますが、ここでいう文化的な創造物には、文芸、芸術、音楽などのジャンルが含まれており、ネット上に投稿されている写真や文章なども対象となります。著作権を得るための手続きは特に必要ではなく(無⽅式主義)、著作物を創造した時点で、著作者には自動的に著作権という権利が発生しています。

では、写真においては、どのような作品が著作物とされ、誰に著作権が認められているのでしょうか。

商品を正面から写した写真の場合

以下、どのような写真が著作物とされ、誰に著作権が認められたのか、いくつかの事例を取り上げました。

シックハウス症候群対策商品の広告販売をインターネット上で行うA社から営業権を譲り受けたX社が、Y社がこの商品の紹介写真2枚(固形据え置きタイプと霧吹きタイプの商品写真)を無断利用して自社のホームページに掲載したとして、著作権(複製権及び公衆送信権)侵害に基づく損害賠償を請求した事例があります。原審(横浜地裁2005年5月17日判決)は、商品を正面から写しただけの平凡なものであるとして本件各写真の著作権を認めずに請求を棄却したので、原告が控訴したのですが、控訴審は、

ある写真が、どのような撮影技法を用いて得られたものであるのかを、その写真自体から知ることは困難であることが多く、写真から知り得るのは、結果として得られた表現の内容である。撮影に当たってどのような技法が用いられたのかにかかわらず、静物や風景を撮影した写真でも、その構図、光線、背景等には何らかの独自性が表れることが多く、結果として得られた写真の表現自体に独自性が表れ、創作性の存在を肯定し得る場合があるというべきである。

知的財産高等裁判所2006年3月29日判決

とし、各写真には、「被写体の組合せ・配置、構図・カメラアングル、光線・陰影、背景等にそれなりの独自性が表れているということができる」として、創作性の程度は極めて低いとしつつも、著作物性を認め、著作権侵害を認めました。商品容器を正面から写しただけの写真でも、構図、光線、背景等には何らかの、それなりの独自性が表れるわけですから、著作物になるという結論です。

Y社も「商品を正面から写しただけの平凡なものである」として、著作物だと認識していなかったのでしょうが、そんなに誰でも写せるような平凡なものであるというのなら、Y社は手間を惜しまずに自分達で撮影すればよかったのです。当サイトの別記事「承諾なしでの写真等の公表と著作権の関係」でご紹介した、氏名不詳者がインターネット掲示板に自分が撮影した写真を投稿したことにより著作権(複製権及び公衆送信権)を侵害されたとして、経由プロバイダに対して発信者情報の開示を求めた事例があります。

原告の自撮り写真の場合

自撮り写真は個人の著作物であるため、著作権者が存在します。

原告は、自身を被写体とした写真を自撮り撮影したのですが、被告である経由プロバイダは本件写真が著作物であるか否かは争わず、原告のツイッターのアカウント画面へのリンクを張っているにすぎないから、同画面に表示されている顔写真を、本件記事を投稿した者が複製しているわけでも、公衆送信しているわけでもないとして争ったのですが、裁判所はこれを否定しました。

そして、裁判所も著作物であることを前提として、自撮り写真であるから原告が原告写真の著作者であると認め、「原告は、本件発信者に対して原告写真の複製権及び公衆送信権侵害を理由とする損害賠償請求権等を行使することができるところ、その行使をするためには、その発信者情報の開示が必要であると認められる」として、発信者情報開示を、経由プロバイダに命じました(東京地方裁判所2017年6月9日判決)。

スマートフォン等による自撮り写真も著作物として認められるのであり、著作権者が存在するのです。

屋外建築物の撮影の場合

当サイトの別記事「他人の所有物を勝手に撮影して公開することは許されるか」で記したように、「屋外の場所に恒常的に設置されているもの又は建築の著作」に関して禁止行為として定められているのは、全く同じ意匠の建築物を作る行為と、土産物のような複製物を作って公衆に販売する行為等に限られています。つまりこれ以外の目的であるなら、自由な利用が認められていて、写真を撮影することも、その写真を広告に使用することも、問題ないことになります。

自分が投稿した記事内に自分で撮影した横浜ベイブリッジの写真をアップしたところ、氏名不詳者に無断でサイトに転載されたことに対し、著作権者である原告が損害賠償を求めるため、経由プロバイダに発信者情報開示を請求した事例があります。

経由プロバイダは、本件画像には創作性がなく、著作物に該当しない。本件画像の被写体である横浜ベイブリッジは屋外に恒常的に設置され、これを被写体として撮影しようとすれば、焦点距離や撮影位置、構図等の表現の選択の幅は自ずと限定されるところ本件画像それ自体は特異なものではなく、個性が現れたものとはいえないので、創作性がなく、著作物に該当しない。

東京地方裁判所2019年6月26日判決

と主張し、開示を拒否しました。これに対し裁判所は、

本件画像は、夕方に横浜ベイブリッジを中心とする風景を撮影した写真であるところ、手前の陸地が映らないようにされ、横浜ベイブリッジの背後の風景や月が取り込まれるなど、構図、アングル等を工夫して撮影されたものと認められるから、写真の著作物であると認められる。

同上

とし、「原告は、本件画像を撮影した著作者であり、本件画像の著作権を有する者と認められる」として損害賠償権を認め、経由プロバイダに発信者情報の開示を命じました。どのように判断して著作物性を認めているか、参考になります。

無断で転載した氏名不詳者も、屋外建築物だから撮影して投稿しても構わないし、屋外に恒常的に設置されたものを被写体として撮影しようとすれば、焦点距離や撮影位置、構図等の表現の選択の幅は自ずと限定されるから、画像それ自体には創作性は現れず、著作物に該当しないと考えたのかもしれません。しかし、誰が撮っても似たようなものだと思うのなら、自分でも撮れると思うのならばこそ、実際に現場に行き、適切な構図やアングルを決め、相応しい時間まで待ち、自分で撮影すればいいのです。

ヘアスタイルコンテストのモデル写真の場合

最後に、著作権の帰属について争われた事例を紹介します。

写真が著作物として認められた時、誰が著作者と認められるのでしょうか。著作者は誰かということが争われた事例があります。著作者の権利は、財産的な利益を保護する著作権(財産権)と⼈格的な利益を保護する著作者⼈格権との2つに分かれますが、財産的な意味の著作権は、その⼀部⼜は全部を譲渡したり相続したりできます。ですから、そうした場合の権利者(著作権者)は著作者ではなく、著作権を譲り受けたり、相続したりした⼈ということになります。

ヘアスタイルコンテストにおいてモデル写真を撮影した3人のカメラマンからそれぞれの写真の著作権を譲渡され、これを有すると認識する原告出版社が各写真を掲載した雑誌を出版したのですが、被告出版社が自社の雑誌にこれを複製して掲載しました。この行為が著作権(複製権)侵害に当たると主張し、被告出版社に写真掲載許諾料相当額の支払を求めた事例があります。原告出版社はそれぞれの写真の著作者は3人のカメラマンでありそれを譲渡されたと主張し、被告出版社は原告出版社は著作権を有しておらず、それぞれの写真はカメラマンとそれぞれのヘアドレッサー(美容師)の共同著作物であると主張し、誰が著作権者であるかが裁判で争われることとなりました。

裁判所は、

原告各写真は、被写体の組み合わせや配置、構図やカメラアングル、光線・印影、背景の設定や選択等に独自性が表れているということができ、これらは原告各写真を撮影したカメラマンにより創作されたものであると認められる。

東京地裁2015年12月9日判決

とし、「ヘアスタイルは被写体の一部にすぎず、所定のヘアスタイル、化粧、衣装を施して所定のポーズを取っているモデルという被写体を写真の中に選択・組合せ・配置することを行ったのはカメラマン」であり、「ヘアドレッサーは被写体を写真の中に選択・組合せ・配置することに関与しておらず、原告各写真の表現行為を構成する要素のいずれも行っていない」として、原告各写真の著作者は撮影した3人のカメラマンであって、ヘアドレッサーは共同著作者ではないとしました。

そして、原告出版社が3人のカメラマンから本件各写真の著作権の譲渡を受け、その著作権を有することを認め、被告には著作権(複製権)侵害についての故意ないし過失を認めて、写真掲載許諾料相当額の支払いを命じました。被写体のうちの、独特のヘアスタイルや化粧等を施されたモデルに関連して、別途何らかの著作物として成立する余地があるものとしても、写真の著作権はあくまでもカメラマンにあるというのが、裁判所の判断です。

また、判決文では、

写真は、被写体の選択・組合せ・配置、構図・カメラアングルの設定、シャッターチャンスの捕捉、被写体と光線との関係(順光、逆光、斜光等)、陰影の付け方、色彩の配合、部分の強調・省略、背景等の諸要素を総合してなる一つの表現である。こうした写真の表現方法のうち、レンズの選択、露光の調節、シャッタースピードや被写界深度の設定、照明等の撮影技法を駆使した成果として得られることもあれば、オートフォーカスカメラやデジタルカメラの機械的作用を利用した結果として得られることもある。

同上

ともしています。そして、「結果として得られた写真の表現にこうした独自性が表れているのであれば、そこに写真の著作物の創作性を肯定することができるというべきである」としていますが、すると、写真の著作物性はかなり広く認められることになります。

まとめ

気に入った写真をダウンロードしたり、スクリーンショットをとって個人のデバイスで保存したりしているだけでは著作権法違反とはなりません。それをネット上で転載したり複製したりすると著作権法違反となるのですが、これをつい行ってしまう人も多いようです。自分の撮った画像しか載せない、他人の著作物を無断で利用しないというのが鉄則ですが、どうしても他人の著作物を利用したい場合は、著作者に許可を取り、決められたルールの中で利用するようにしましょう。

弁護士 河瀬 季

モノリス法律事務所 代表弁護士。元ITエンジニア。IT企業経営の経験を経て、東証プライム上場企業からシードステージのベンチャーまで、100社以上の顧問弁護士、監査役等を務め、IT・ベンチャー・インターネット・YouTube法務などを中心に手がける。

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