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法律記事MONOLITH LAW MAGAZINE

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アイスランドの外国直接投資(FDI)規制を解説

アイスランドの外国直接投資(FDI)規制を解説

北大西洋の要衝に位置し、豊富な再生可能エネルギーと水産資源を有するアイスランド共和国(以下、アイスランド)は、基本的に外国投資に対して開放的な姿勢を維持している国です。しかし、その投資環境は「原則自由」という建前の中に、国家の存立基盤に関わる特定産業に対する極めて厳格な「参入障壁」が組み込まれているという二面性を持っています。特に漁業、エネルギー、および航空産業においては、1991年に制定された「事業における非居住者による投資に関する法律(以下「1991年外国投資法」)」に基づき、外国資本の所有比率に対して明確かつ厳しい数値制限が課されています。これらは単なる行政指導ではなく、法令による絶対的な禁止事項として機能しており、投資スキームの構築において最も注意を要する点です。

本稿では、アイスランドへの進出や投資を検討する日本の経営者および法務担当者を対象に、これらの法的規制の詳細を解説します。とりわけ、欧州経済領域(EEA)協定に基づく「EEA居住者」と「第三国居住者(日本を含む)」との扱いの差異、および2025年にかけて導入が議論されている国家安全保障に基づく新たな投資スクリーニング制度の動向は、日本企業のリスク管理において決定的な意味を持ちます。また、日本の「外国為替及び外国貿易法(外為法)」との比較を通じて、アイスランド独自の規制アプローチを浮き彫りにし、適法かつ戦略的な参入の方策を論じます。

アイスランドの投資環境と法的枠組みの基礎

アイスランドの外国投資規制を理解する上で、まず押さえるべきは同国が欧州連合(EU)には加盟していないものの、欧州自由貿易連合(EFTA)および欧州経済領域(EEA)協定の加盟国であるという事実です。EEA協定により、アイスランドは「人、物、サービス、資本」の自由移動が保障される欧州単一市場の一部として機能しています。

この国際法上の地位は、アイスランドの国内法である1991年外国投資法に直接的な影響を与えています。同法は、外国投資を原則として自由としながらも、特定の例外分野を設けています。重要なのは、エネルギーや航空といった重要インフラ分野において、EEA加盟国の市民や法人に対してはアイスランド国民と同等の権利(内国民待遇)を認める一方で、日本を含むEEA域外の第三国からの投資に対しては厳格な制限を維持している点です。

したがって、日本企業がアイスランドへ投資を行う場合、直接投資を行うか、あるいはEEA域内の子会社を経由して投資を行うかによって、適用される規制の厳しさが根本的に異なってくる可能性があります。ただし、後述するように「漁業」分野に関しては、EEA協定の例外とされており、EEA居住者であっても厳格な外資規制が適用される「聖域」となっています

アイスランドの漁業および水産加工業における厳格な参入規制

アイスランドの漁業および水産加工業における厳格な参入規制

アイスランド経済の根幹を支える漁業については、国家による資源管理の観点から、世界でも類を見ないほど厳格な外資排除の論理が貫かれています。1991年外国投資法第4条は、アイスランドの漁業管轄水域内で漁業を行う企業、および水産加工業を営む企業の所有権について、原則として「アイスランド国民」または「アイスランド人によって支配される法人」に限定しています。

直接所有の禁止と間接所有の25パーセントルール

外国投資家(EEA居住者を含むすべての非居住者)は、漁業または水産加工を行うアイスランド法人に対して、直接的に株式を保有することは原則として禁止されています。外国投資家が参入可能な唯一のルートは、アイスランドの法人が親会社(持株会社等)となり、その親会社を通じて間接的に出資する形態に限られます。

この間接所有においても、法は厳しい数値基準を設けています。漁業会社を支配するアイスランド法人(親会社)に対し、外国投資家が出資する場合、その出資比率は「25パーセント」を超えてはならないと規定されています。さらに、その親会社自体が「アイスランド人によって支配されている」ことが要件とされており、単に数値上の株式保有比率が25パーセント以下であればよいというわけではありません。株主間契約による拒否権の付与や取締役の選任権などを通じて、外国投資家が実質的な経営支配権を行使できるような構造となっている場合、法の潜脱とみなされ無効とされるリスクがあります。

33パーセントまでの例外規定とその条件

ただし、法には極めて限定的な例外規定が存在します。外国投資家が出資するアイスランド法人(親会社)が、漁業会社の株式の「5パーセント以下」しか保有していない場合に限り、その親会社に対する外国投資家の出資比率は「33パーセント」まで許容されます。これは、漁業会社への影響力が極めて限定的なポートフォリオ投資や、純粋な財務的投資を行うケースを想定した緩和措置といえます。

しかし、日本企業が事業提携や技術供与を伴う戦略的投資を行う場合、対象となる漁業会社への出資比率を5パーセント以下に抑えることは稀であるため、実務上はこの「33パーセントルール」ではなく、前述の「25パーセントルール」が事実上の上限として機能することになります。

規制対象となる「水産加工」の定義

M&Aや合弁事業の検討において特に注意が必要なのが、「水産加工」の定義です。法は規制対象となる加工を「腐敗を防ぐための加工」と定義しており、具体的には冷凍、塩蔵、乾燥、魚油・魚粉の生産などがこれに該当します。一方で、燻製、酢漬け、缶詰、小売用の包装、あるいは消費・調理に適した状態にするための二次加工は、この規制の対象外とされています。

この区分から、例えば日本企業がアイスランドで「獲れた魚を冷凍して輸出する事業」に出資する場合は25パーセント規制の対象となりますが、「現地で原材料を買い付け、レトルト食品や缶詰を製造する工場」に出資する場合は、100パーセントの出資が可能となる余地があることが読み取れます。このように、事業内容の法的な該当性を精査することが、参入可否を判断する第一歩となります。

アイスランドのエネルギーセクターにおける所有権制限とEEA例外

地熱や水力といった豊富な再生可能エネルギー資源もまた、アイスランドが戦略的に保護している分野です。1991年外国投資法は、家庭用を除く「エネルギー利用権(滝や地熱の利用権)」および「エネルギーの生産・配給を行う企業」の所有を、アイスランド国民およびアイスランド法人に限定しています。

EEA居住者への開放と「国内利用」の解釈

エネルギー分野における最大の特徴は、漁業とは異なり、EEA居住者(EU加盟国等の市民・法人)に対して市場が開放されている点です。法は、EEA加盟国に住所を有する個人および法人が、エネルギー利用権の保有やエネルギー企業の運営を行うことを明示的に認めています。これは、日本企業がオランダやドイツなどのEEA加盟国に設立した子会社を通じて投資を行う場合、法形式上はエネルギー事業への参入が可能であることを示唆しています。

また、法文上「家庭用(domestic use)」以外の利用権が規制対象とされていますが、これは正確には「自家消費」を超える商業利用を指すものと解釈されます。工場や事業所が、その敷地内にある地熱エネルギーを自社の暖房や生産活動のために直接利用する場合(自家消費)については、別途土地法などの規制に従う限りにおいて認められる余地がありますが、発電して売電を行うようなエネルギー事業については、非EEA企業による直接参入は厳しく制限されています

アイスランドの航空産業および不動産所有に関する規制

航空会社への49パーセント出資制限

島国であるアイスランドにおいて、航空輸送は極めて重要なインフラです。1991年外国投資法は、アイスランドの航空会社に対する外国人の持株比率について、合計で「49パーセント」を超えてはならないと定めています。この規制についてもEEA居住者は例外とされており、彼らの保有分はこの49パーセントの枠外として扱われます。したがって、実質的には日本を含む非EEA資本に対する過半数所有の禁止規定として機能しています。

不動産所有と法務大臣の許可

不動産については、1966年の「不動産の所有権および使用権に関する法律」が適用されます。原則として、アイスランドに住所を持たない個人や法人は、不動産を所有・使用することができません。ただし、事業活動に直接使用する不動産(工場用地やオフィス等)を取得する場合などにおいては、法務大臣の許可を得ることで例外的に所有が認められます。近年、農地や自然資源を含む土地取引については監視が強化されており、法人の実質的支配者の開示などが厳格に求められる傾向にあります。

国家安全保障に基づく新たな投資スクリーニング制度

国家安全保障に基づく新たな投資スクリーニング制度

これまでアイスランドの投資規制は、漁業やエネルギーといった特定産業ごとのセクター規制が中心でしたが、近年、世界的な経済安全保障の潮流を受け、より包括的な「投資スクリーニング制度」の導入が進められています。

2024年初頭、当時の首相により、重要インフラや技術に対する外国投資を審査するための法案が提出されました。この法案は、国家安全保障、公の秩序、公安を脅かす恐れのある投資について、事前に政府への届出を義務付け、審査を行う権限を強化するものでした。この法案は一度廃案となりましたが、2025年にも修正の上で再提出される見込みであり、成立すれば、エネルギー、通信、データセンター、メディア、重要技術などの分野において、日本企業を含む外国投資家に対し、新たな届出義務(マンダトリー・ファイリング)が課されることになります。これは従来の「所有比率制限」に加え、「取引そのものの審査」という新たなハードルが出現することを意味します。

日本法(外為法)との比較と相違点

日本の投資家にとって、アイスランドの規制を日本の「外国為替及び外国貿易法(外為法)」と比較することで、その法的性質の違いがより鮮明になります。以下の表は、両国の規制の主要な相違点を整理したものです。

比較項目アイスランド(外国投資法等)日本(外為法)
規制の基本構造禁止・制限(ネガティブリスト)方式
特定の産業(漁業等)について、法律で「25%」「49%」といった明確な上限値を定め、それを超える投資を実体的に禁止する。
事前届出・審査方式
国の安全等に関わる「指定業種」への投資について、事前に届出を求め審査を行う。原則として禁止ではなく、審査により問題がなければ認可される。
漁業分野厳格な参入障壁(聖域)
非居住者による直接所有は不可。間接所有も25%未満に制限され、例外の余地は極めて限定的。
指定業種(コア業種)
農林水産業は事前届出の対象であるが、審査を通れば外資による100%所有も法制度上は排除されていない。
エネルギー分野所有権者の国籍制限
利用権や企業の所有はEEA/国内法人に限定。非EEA企業は直接保有できない(EEA子会社経由なら可)。
コア業種(電力・ガス等)
インフラの安定供給確保の観点から審査されるが、外資の参入自体は広く認められている。
安全保障審査導入過渡期(2025年法案)
従来はセクター規制が中心だったが、包括的なスクリーニング制度の導入に向け法整備中。
運用定着
2019年改正により、1%以上の取得に対する事前届出や事後報告制度などが詳細に整備・運用されている。
適用除外EEA居住者への優遇
エネルギー、航空、不動産等において、EEA域内投資家は内国民待遇を受ける。
包括的免除制度
適格機関投資家等に対する事前届出免除制度はあるが、特定の経済圏(EU等)に対する一律の適用除外規定はない。

この比較から明らかなように、日本の外為法が「手続き的な審査」を通じて個別の投資案件をコントロールしようとするのに対し、アイスランドの規制(特に漁業・エネルギー)は「所有権そのものの制限」という、より強力で硬直的なアプローチを採用しています。したがって、日本企業がアイスランドへ投資する際には、行政との交渉で解決できる範囲と、法令により絶対的に不可能な範囲(ストラクチャー上の限界)を明確に区別して検討する必要があります。

まとめ

アイスランドへの投資は、再生可能エネルギーの活用や欧州市場へのアクセスという大きな魅力がある一方で、法制度上の明確な境界線が存在します。

第一に、漁業および一次水産加工業は、外国資本(EEAを含む)に対して強固に閉ざされた領域であり、間接出資比率25パーセントという厳格な上限が存在します。第二に、エネルギーおよび航空分野は、EEA域内企業には開放されているものの、日本からの直接投資には制限があり、EEA域内拠点を活用したスキーム検討が不可欠です。第三に、現在議論されている新たな投資スクリーニング法案は、重要インフラや技術分野への投資手続きを複雑化させる可能性が高く、2025年以降の法改正動向を注視する必要があります。

モノリス法律事務所では、こうした複雑な法的環境下における適法な投資ストラクチャーの構築や、当局への届出・折衝、さらには最新の法改正に対応したデューデリジェンスの実施について、専門的な知見に基づきサポートいたします。アイスランドでの事業展開をご検討の際は、ぜひお気軽にご相談ください。

弁護士 河瀬 季

モノリス法律事務所 代表弁護士。元ITエンジニア。IT企業経営の経験を経て、東証プライム上場企業からシードステージのベンチャーまで、100社以上の顧問弁護士、監査役等を務め、IT・ベンチャー・インターネット・YouTube法務などを中心に手がける。

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