弁護士法人 モノリス法律事務所03-6262-3248平日10:00-18:00(年末年始を除く)

法律記事MONOLITH LAW MAGAZINE

IT・ベンチャーの企業法務

モンゴルのコーポレートガバナンスを弁護士が解説

モンゴルのコーポレートガバナンスを弁護士が解説

モンゴル国(以下、モンゴル)のコーポレートガバナンスは、2000年代以降の急速な経済発展と市場経済化への移行に伴い、経済協力開発機構の原則に基づき国際的なベストプラクティスを取り入れる形で法整備と制度構築が進められてきました。金融規制委員会が主導する形でコーポレートガバナンス・コードの制定と改訂が行われ、特に上場企業や金融機関に対して透明性の確保、少数株主の保護、そして取締役会の機能強化が強く求められています。法的枠組みの中核をなすのは1999年に概念が導入され2011年に大幅に改正された会社法であり、株主総会を最高意思決定機関と位置づけた上で、経営の監督と執行の全般に責任を持つ一元的なボードシステムを採用している点が最大の特徴です。

日本の会社法が監査役会設置会社や指名委員会等設置会社など複数の機関設計の選択肢を提供しているのとは異なり、モンゴルでは取締役会を中心とした単一の構造が基本となっており、最高経営責任者と取締役会議長の兼任が禁じられているなど権力の集中を防ぐ仕組みが法定されています。また、上場企業には独立取締役で構成される監査委員会や指名委員会などの設置が義務付けられており、企業統治の実効性を高める努力が続けられています。

しかしながら、実務においては多くの企業で創業家や親会社が過半数の株式を保有する高い株式集中度が見られ、支配株主による経営が行われる傾向が強いため、少数株主の権利保護が極めて重要な課題となっています。これに対し、会社法では利益相反取引の承認手続きに関する厳格な規定が設けられており、適法な手続きを経ずに会社に損害を与えた場合には役員や支配株主に個人責任を問う法的メカニズムが用意されています。実際の司法の場においても、2017年の最高裁判決に見られるように、少数株主の権利や民間資本の財産権を国家の不当な介入から保護する画期的な判断が下されるなど、法の支配を確立しようとする動きが定着しつつあります。

一方で、近年は豊富な地下資源を背景とした鉱業部門における規制強化が顕著です。2024年に可決された国富基金法や改正鉱業法により、戦略的価値のある鉱床を持つ企業において民間主体の株式保有割合を原則として最大34パーセントに制限し、国家の資本参加を強制する規定が設けられました。この法改正から、モンゴルが資源の恩恵を国家に還元する資源ナショナリズムの政策を急速に推し進めているということが言えるでしょう。さらに、環境や社会およびガバナンスへの対応を求める持続可能性報告の義務化も進んでおり、モンゴルへのビジネス展開を検討する日本企業にとっては、現地の最新の法的枠組みと政治的動向を正確に把握し、コンプライアンス要件を満たす強固なガバナンス体制を構築することが成功の鍵となります。

本記事では、こうしたモンゴルのコーポレートガバナンスの現状と法的構造について、日本法との異同や具体的な判例を交えながら極めて詳細に解説します。

モンゴルの法的枠組みとコンプライ・オア・エクスプレイン原則

モンゴルにおけるコーポレートガバナンスの基盤は、主に会社法と金融規制委員会が定めるコーポレートガバナンス・コデックスによって形成されています。すべての企業は、その所有形態や資産規模に関わらずモンゴル会社法の適用を受け、企業の設立から組織構造、株主の権利義務に至るまで包括的な規制に服することになります。現行の会社法は2011年に大幅な改正が行われ、株主総会を最高意思決定機関と位置づけた上で、取締役会および執行機関の権限と責任を明確に規定し、企業統治の近代化を図りました。

金融規制委員会は、上場企業や保険会社、非銀行金融機関向けのガイドラインとしてコーポレートガバナンス・コデックスを策定し、市場の健全性維持に努めています。このコードは2007年に初めて導入された後、2014年および直近では2022年3月23日の金融規制委員会決議第145号によって大幅な改訂が行われ、国際的に広く受け入れられている「コンプライ・オア・エクスプレイン(遵守か、さもなくば説明か)」の原則が本格的に導入されました。この原則の下では、証券発行体などの規制対象企業は、コードに定められた各原則を完全に遵守するか、あるいは企業の規模や発展段階の特性によって遵守できない場合には、その理由を詳細に説明する義務を負います。

具体的には、企業はコードの条項を実施しなかった場合、なぜ実施できなかったのか、代替としてどのような構造的または組織的措置を講じたのか、そして将来的にいつまでに目標を達成するのかを年次活動報告書内の独立したセクションにおいて詳細に説明し、自社のウェブサイト上で公衆に向けて公開しなければなりません。金融規制委員会は、上場企業のコード遵守状況を毎年厳格に評価しており、取締役会の構造と組織、取締役会傘下の委員会とその責任、報告と透明性、監査と管理システム、リスク管理、権限のある役員の報酬、利害関係者の利益、企業文化、株主の権利という9つの主要な指標に基づき採点を行っています。この評価において90パーセント以上のスコアを獲得した企業はリスクのない正常なガバナンス体制とみなされる一方で、49パーセント以下のスコアとなった企業には規制措置の対象となる重大なリスクがあるとの評価が下されます。

この評価基準や運用状況に関する公式な文書は、金融規制委員会の公式ウェブサイトで確認することができます。

参考:金融規制委員会の公式ウェブサイト

モンゴル取締役会の構造と委員会制度における日本法との比較

モンゴル取締役会の構造と委員会制度における日本法との比較

モンゴルのコーポレートガバナンス体制を深く理解する上で、その機関設計の構造を日本法と比較することは極めて有益です。モンゴル会社法第75条1項は、取締役会を株主総会間の会社の最高統治機関として明確に位置づけており、経営の監督と執行の全般に責任を持つ一元的なボードシステム(単層制取締役会)を採用しています。

以下の表は、モンゴル法と日本法におけるコーポレートガバナンスの主要な機関設計の違いを要約したものです。

比較項目モンゴル法(会社法およびコーポレートガバナンス・コード)日本法(会社法)
機関設計の選択肢一元的なボードシステムのみに限定され選択の余地はない監査役会設置会社、監査等委員会設置会社、指名委員会等設置会社の3種類から選択可能
取締役会の役割経営の監督と執行の全般に対する最終責任を統合して負う選択した機関設計により、監督特化型から業務執行決定型まで柔軟に設定可能
トップの分離取締役会議長と最高経営責任者(CEO)の兼任は厳格に禁止されている取締役会長と社長(代表取締役)の兼任は法律上禁止されておらず慣行として多い
独立取締役の要件法律により取締役の少なくとも3分の1以上を独立取締役とする義務がある機関設計により異なるが、社外取締役の要件は段階的に強化されている
委員会の設置義務上場企業等には監査、指名、報酬委員会の設置が義務付けられる指名委員会等設置会社および監査等委員会設置会社を除き、法定委員会の設置義務はない

日本の会社法では、企業が自社の規模や業態に合わせて複数の機関設計から最適なものを選択できる柔軟性が確保されています。特に、監査役という独自の機関を設ける監査役会設置会社が日本の伝統的な企業形態として広く採用されており、業務執行と監査の機能が制度的に分立しています。これに対し、モンゴルでは機関設計の選択肢は用意されておらず、公開会社は必ず取締役会を設置しなければならないという単一の構造が法的に強制されています。

また、モンゴルのコーポレートガバナンス・コデックスでは、権力の集中を排除し監督機能を実効的に機能させるため、最高経営責任者と取締役会議長の職務を兼任することが明確に禁じられています。日本においては、代表取締役社長が取締役会の議長を務める慣行が依然として多く見られますが、モンゴルに進出する日本企業は、現地の法人において経営トップと監督トップの分離を厳格に実施する体制を構築しなければなりません。

さらに、モンゴルの上場企業においては、取締役会の内部に監査委員会、指名委員会、および報酬委員会の3つの小委員会を設置することが義務付けられています。監査委員会の委員長は独立取締役が務めなければならず、過去3年間に当該企業の外部監査法人で勤務した経験がないことが求められ、経営陣からの独立性が強く担保されています。また、指名委員会はジェンダーポリシーの策定や後継者計画の立案、取締役候補者の倫理や犯罪歴の調査を担い、報酬委員会は役員報酬の基準を策定します。これらの委員会の委員長も同様に独立取締役が務める必要があり、外部からの客観的な視点を通じて経営陣の暴走を監視し、透明性の高い企業運営を強制するメカニズムが法定されている点にモンゴル法の大きな特徴があります。

モンゴルにおける少数株主の保護と利益相反取引の厳格な規制

モンゴルの企業環境においては、多くの企業で創業家や親会社が過半数の株式を保有する高い株式集中度が見受けられます。こうした支配株主による経営が行われる環境下では、少数株主の利益が不当に侵害されるリスクが構造的に高まります。そのため、モンゴル会社法は利益相反取引に対して極めて厳格な承認プロセスと責任追及のメカニズムを定めており、日本法以上に事前の手続き要件を厳格化しています。

会社法第89条から第92条にかけては、利益相反取引を締結する際の手続きが詳細に規定されています。企業の取締役や執行役員のみならず、その配偶者や親族などが関係する取引を行う場合、当該役員は利益相反関係にある者として定義されます。極めて重要な点として、利益相反の当事者となる役員や株主は、当該取引を承認するための取締役会や株主総会の決議において議決権を行使することが固く禁じられています。取引の承認は、利益相反関係にない完全に独立した取締役または株主の過半数の賛成によってのみ行われなければなりません。

万が一、適法な承認手続きを経ずに利益相反取引が実行され、結果として会社やその子会社に損害が生じた場合、会社法第90条に基づき、違反した当事者は自身の個人資産をもってその損害を賠償する絶対的な責任を負います。さらに、普通株式を保有するいかなる株主であっても、単独でこの損害賠償を求めて裁判所に直接訴えを提起する権利が法律上明確に保障されています。日本の会社法においても利益相反取引の制限や株主代表訴訟の制度は存在しますが、モンゴルでは企業統治の未成熟さを補い、支配株主による資産の流出を防ぐために、法律の文面上、支配株主に対する牽制機能が非常に強く意識された法的構造となっています。

モンゴルの司法判断における株主権の保護と重要判例

モンゴルの司法判断における株主権の保護と重要判例

モンゴルにおけるコーポレートガバナンスの実効性を測る上で、司法が少数株主の権利や民間企業の財産権をどのように保護しているかを理解することは不可欠です。外資系企業や民間投資家にとって、国家や多数派株主による恣意的な介入から自身の権利が法的に守られるか否かは、投資決定における最大の関心事の一つです。この点において、モンゴルのコーポレートガバナンスと財産権保護の歴史において極めて重要な意味を持つ最高裁判決が存在します。

2017年12月7日にモンゴル国最高裁判所において下された、モンゴル・コッパー・コーポレーション対モンゴル国政府(国家財産政策調整庁など)の判決です。この事件は、モンゴル最大級の銅・モリブデン鉱山を運営するエルデネト鉱業会社の株式49パーセントの所有権を巡る国家と民間企業間の法的闘争でした。2016年に民間企業であるモンゴル・コッパー・コーポレーションは、ロシアの国営企業ロステックからエルデネト鉱業会社の株式49パーセントを適法に買収しました。しかし、翌2017年2月、モンゴル国議会および政府はこの買収が国家の事前承認を得ていないとして取引の無効化を宣言し、当該株式を強制的に国有化して100パーセント国家所有とする強硬な決議を行いました。さらに政府は、同年3月に一方的に株主総会を開催し、民間株主側が指名した取締役を全員解任し、国家の代表者のみで取締役会を再構成する措置を取りました。

これに対しモンゴル・コッパー・コーポレーションは、政府の一連の措置は会社法に基づく株主の権利および憲法が保障する私有財産権の重大な侵害であるとして提訴しました。第一審および控訴審を経て最高裁判所に持ち込まれた本件において、最高裁判所は政府および議会による強制的な国有化措置と一方的な取締役の解任決議を明確に違法と断じました。そして、原告であるモンゴル・コッパー・コーポレーションが49パーセントの正当な株主であることを確認し、失われた株主としての権利と取締役の地位を完全に回復させる最終判決を下しました。

この歴史的判決に関する公式な見解や事案の経緯は、モンゴル・コッパー・コーポレーションの公式ウェブサイトで確認することができます。

参考:モンゴル・コッパー・コーポレーションの公式ウェブサイト

この最高裁判決から、モンゴルの司法機関が政治的な圧力から独立して会社法を厳格に解釈し、少数株主の保護や民間資本の財産権を毅然として擁護する機能を有しているということが言えるでしょう。日本の投資家にとっても、現地の合弁会社において政府や多数派株主との間で重大な紛争が生じた際、適法な手続きを踏んでいれば現地の独立した司法制度を通じて法的救済を求めることが十分に可能であるという事実は、投資リスクを評価する上で極めて重要な安心材料となります。

モンゴル鉱業分野における規制強化と2024年法改正のインパクト

モンゴルの経済成長を牽引する中核産業である鉱業部門においては、近年、国家の関与を飛躍的に高める法整備が進行しています。特に2024年4月に議会で可決され同年5月11日に施行された国富基金法およびこれに伴う改正鉱業法は、モンゴルでビジネスを展開する外資系企業に根本的なガバナンス戦略の転換を迫る内容を含んでいます

改正鉱業法の第5条4項および5項には、戦略的価値のある鉱床に関する極めて強力な国家権限が新たに規定されました。第一に、国家予算を用いて探査が行われ埋蔵量が確定された戦略的鉱床については、当該鉱床のライセンスを保有する法人の株式の最大50パーセントまでを、国家が無料で取得できる権利を有することが明記されました。第二に、民間資金によって探査が行われた戦略的鉱床であっても、単一の民間主体またはその関連当事者が、当該鉱床のライセンスを保有する企業の株式の34パーセントを超えて所有することを法的に禁止する所有上限条項が新設されました。この34パーセント要件を満たさない既存の企業に対しては、2025年5月11日までの1年間の猶予期間が設けられており、期限までに超過分の株式を国家や他者に譲渡するなどの大幅な資本再編が義務付けられています。

これらの抜本的な法改正から、モンゴル国政府が地下資源の莫大な恩恵を一部の企業から国家と広く国民に還元するための資源ナショナリズムの政策を急速に推し進めているということが言えるでしょう。投資家にとっては、自社が過半数の株式を取得して経営権を完全に掌握するという従来のビジネスモデルが、鉱業分野においてはもはや通用しなくなることを意味します。外資系企業は、最大でも34パーセントの少数株主としての地位に留まらざるを得ないケースが増加するため、取締役会への役員派遣の権利確保、重要な意思決定に対する拒否権の付与、配当政策の事前合意など、少数株主としての権利を最大化し投下資本を回収するための精緻な株主間協定や合弁契約の締結がこれまで以上に重要になります。また、ライセンス移転時の法人所得税率が従来の10パーセントから30パーセントへと大幅に引き上げられた点も、M&A戦略に重大な影響を与えます。

モンゴルにおける持続可能性とESG情報開示への対応

モンゴルにおける持続可能性とESG情報開示への対応

モンゴルのコーポレートガバナンスにおけるもう一つの重要な近年の潮流は、環境、社会、ガバナンス(ESG)への対応の制度化です。金融規制委員会は、国際金融公社やアジア開発銀行、国連開発計画などの国際的な開発機関と緊密に連携し、主要銀行のガバナンス体制向上を支援するとともに、モンゴルの企業に対する持続可能性報告の包括的なガイドラインを策定しました。

このガイドラインの導入により、上場企業は従来の財務情報の開示やコーポレートガバナンス・コードの遵守状況に関する定型的な報告に加えて、気候変動リスクへの具体的な対応策、労働環境の改善状況、サプライチェーンを含めた人権の尊重などに関する非財務情報の開示が強く推奨されるようになりました。国連環境計画などが主導するグリーンファイナンスプラットフォームの支援を受け、モンゴルの証券取引所を通じた持続可能な投資を促進するための情報の透明性向上が図られています。

日本企業がモンゴルで信頼できるパートナー企業を選定する際や、現地法人を設立して国際的な基準での資金調達を行う際には、単なる法令遵守を超えて、こうしたサステナビリティに関する現地の最新の開示要件を完全に満たす高度な社内体制の構築が不可欠となっています。

まとめ

これまで詳細に見てきたように、モンゴルのコーポレートガバナンスは、国際的なベストプラクティスを積極的に取り入れることで透明性と説明責任を持続的に向上させる法整備が進められています。会社法やコーポレートガバナンス・コデックスに基づく一元的な取締役会制度、最高経営責任者と議長の分離、独立取締役による委員会の設置義務、そして厳格な利益相反取引の規制は、多数派株主の専横を防ぎ少数株主を法的に保護するための強力な基盤を提供しています。司法の場においても、不当な国家介入から民間企業の正当な権利を守る最高裁判例が確立されており、法の支配に基づく予測可能なビジネス環境の土壌が形成されていることは外国投資家にとって高く評価できるポイントです。

その一方で、実体経済の中核を支える鉱業分野においては、2024年の国富基金法および改正鉱業法に見られるように、戦略的資産に対する民間資本の保有制限や国家資本の強制的な介入というビジネス上の極めて重大なリスクが新たに浮上しています。日本企業がモンゴルにビジネス展開する際には、日本の会社法とは異なる一元的な機関設計の制約を深く理解し、現地の法規制が求めるコンプライ・オア・エクスプレインの原則に実務レベルで対応できる柔軟かつ強固なガバナンス体制を構築する必要があります。特に、過半数出資が制限されるような事業環境下においては、少数株主の立場から自社の利益と経営への関与をいかに法的に保護し、国家機関と適切な対話を維持するかが事業戦略の最大の要となります。

モノリス法律事務所では、モンゴルにおけるビジネス展開やコーポレートガバナンスに関する複雑な法務課題について、幅広くサポートいたします。現地の最新の法改正動向や司法判断を踏まえた精緻な法的リスク分析から、少数株主の権利を最大化する合弁契約の策定、そして現地の法令に完全に準拠した取締役会規則の整備に至るまで、日本企業の皆様が不確実性を乗り越えて安心して国際ビジネスを推進できるようサポートいたします。

弁護士 河瀬 季

モノリス法律事務所 代表弁護士。元ITエンジニア。IT企業経営の経験を経て、東証プライム上場企業からシードステージのベンチャーまで、100社以上の顧問弁護士、監査役等を務め、IT・ベンチャー・インターネット・YouTube法務などを中心に手がける。

シェアする:

TOPへ戻る