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法律記事MONOLITH LAW MAGAZINE

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NASDAQ上場基準の定量的上場要件について弁護士が解説

NASDAQ上場

日本の証券市場と比較した場合、NASDAQ上場の最大の特徴は、「上場基準が明確である」という点だと思われます。日本の証券市場への上場の場合、もちろん「上場基準」は存在するのですが、実務上、「上場基準に適合していれば上場できる」とは、言えません。これに対してNASDAQの場合、上場基準に適合していれば上場できる・適合していなければ上場できない、というシンプルな構造になります。例えば後述するように、税引後利益が75万ドル以上あれば上場は、基本的に可能です。

ここでは、NASDAQに上場するための基準について解説します。

NASDAQ上場基準における定量的上場要件

NASDAQの上場基準は、「Rulebook – The Nasdaq Stock Market」という形で公開されています。

参考:Rules | The Nasdaq Stock Market

NASDAQ市場は3つの種類に分類されており、上場基準が厳しい順に「グローバル・セレクト・マーケット」「グローバル・マーケット」「キャピタル・マーケット」となっています。このうち、多くの日本企業は、最も基準が緩和されている「キャピタル・マーケット」に上場しています。

NASDAQキャピタル・マーケットへの上場を目指す場合、満たすべき要件は以下の2つに大別されます。

  • Rule 5100、5200、および5500シリーズで規定される「quantitative listing requirements(定量的上場要件)」(キャピタルマーケットにおいてこれらが参照される必要があることは、Rule 5005(a)(28)に記載)
  • Rule 5600シリーズで規定される「corporate governance requirements(コーポレートガバナンス要件)」(すべての企業がこれを遵守すべきであることは、Rule 5001に記載)

この記事では、この2つのうち、前者である定量的上場要件に焦点を当てて解説します。

なお補足として、キャピタル・マーケット以外の場合、グローバル・セレクト・マーケットには5500ではなく5300シリーズ、グローバル・マーケットには5400シリーズが適用されます。

資本基準・時価総額基準・利益基準

NASDAQキャピタル・マーケットに上場するためには、下記3つの基準のうち、少なくとも1つの基準を全て満たしている必要があります。

  • 資本基準
  • 時価総額基準
  • 利益基準

日本企業のNASDAQ上場では、上記のうち、利益基準が用いられることが、少なくとも現在は多いと言えます。そこで本記事では、利益基準から順に解説を行います。

キャピタルマーケット上場の「利益基準」

利益基準とは、単純に言うと、「直近会計年度の税引後純利益が75万米ドル以上であればよい」という基準です。詳細には、以下となります。

要件利益基準
株主資本400万米ドル
浮動株時価総額500万米ドル
事業継続期間
上場有価証券の時価総額
継続事業からの当期純利益75万米ドル
浮動株式数100万株
株主数(単位株主数)300
マーケットメイカー数3
入札価格または終値4米ドルまたは3米ドル

「継続事業からの当期純利益」は、直近会計年度または直近3会計年度のうちの2会計年度で足ります。つまり、大きく2パターンです。

  • 直近会計年度の税引後純利益が75万米ドル以上
  • 2期前と1期前の税引後純利益が75万米ドル以上、直近会計年度の税引後純利益は75万米ドル未満

その他、「株主資本」「浮動株時価総額」の概念は3基準共通であるため、資本基準・時価総額基準の方で解説します。

また、決算について、原則は3期分、EGCに該当する場合は2期分が必要となります。EGCとは、Emerging Growth Companiesの略で、直近会計年度の年間総収入が12億3500万ドル未満の会社はこれに該当します。EGCに該当すると、監査人による内部統制監査が原則として上場後5年間免除されるなどいくつかの優遇措置を受けることができ、その一つが、「決算が3期分ではなく2期分で足りる」というものです。

利益基準における「年度」の概念

利益基準が問題とする「年度」は、「12ヶ月365日」ではなく、あくまで「会計年度」です。したがって、決算期変更を用いて「基準に適合する状態」を作り出せる場合もあります。極端なことを言えば、以下のような方法も不可能ではありません。

  1. 会社を設立し、決算期変更を用いて1,2期目を1週間など極めて短期間で終わらせ、決算を行う
  2. 3期目を数ヶ月間(例えば3ヶ月間)行い、税引後純利益が75万米ドルを超えた時点で再度の決算期変更を行って決算を行う
  3. 3期目の利益を用いて利益基準での上場を行う

NASDAQ上場は、このように、「基準が明確に存在する」「その基準にさえ適合していれば上場が可能である」ということが特徴です。この点については、下記の記事でもいくつかの例を掲載しています。

参考:日本企業のNASDAQ上場に関するFAQを弁護士が公開

キャピタルマーケット上場の「資本基準」と「時価総額基準」

資本基準と時価総額基準は、単純に言うと、「(売上や利益ではなく)時価総額などに着目して上場を認める」という基準です。詳細には、以下となります。

要件資本基準時価総額基準
株主資本500万米ドル400万米ドル
浮動株時価総額1500万米ドル1500万米ドル
事業継続期間2年
上場有価証券の時価総額5000万米ドル
継続事業からの当期純利益
浮動株式数100万株100万株
株主数(単位株主数)300300
マーケットメイカー数33
入札価格または終値4米ドルまたは3米ドル4米ドルまたは3米ドル

株主資本が500万米ドル以上あり、事業の継続期間が2年以上である場合は資本基準を、そうでないが時価総額が大きい場合は時価総額基準を用いる、ということになります。

「浮動株時価総額」「上場有価証券の時価総額」の概念ですが、「浮動株時価総額」とは、上場時に調達する金額に他なりません。つまり、以下のような意味内容です。

  • 資本基準:上場時に1500万ドルを調達すれば良い(その際に株主資本が500万米ドルを超えることは必要)
  • 時価総額基準:上場時に1500万ドルを調達すれば良い。ただしその調達を行う際の時価総額が5000万米ドルを超えている必要がある。つまり、1500万÷5000万=30%以下の株式の放出で1500万米ドルを調達する必要がある

すなわち、先述の利益基準の場合は、これらと異なり浮動株時価総額が500万米ドルであるため、「利益基準を用いる場合は、(1500万米ドルではなく)500万米ドルさえ調達できれば、上場が可能である」ということになります。

NASDAQ上場における時価総額等の決定

NASDAQ上場における時価総額等の決定

このように、NASDAQ上場では、その企業の時価総額などが重要なファクターとなります。理論的に、以下のような計算となるからです。

  1. 時価総額が決定される:例えば5000万米ドルであると決定される
  2. 調達する金額(浮動株時価総額)を、用いる基準に合わせて設定する:例えば利益基準の最低ラインとして500万米ドルの調達を行うことを決定する
  3. それらより、放出する株式のパーセンテージが計算される:この例で言えば、500万÷5000万=10%の放出となる
  4. その浮動株が浮動株式数の基準を満たしていれば良い:500万÷4=125万であり、これは浮動株式数の基準である「100万」以上であるため、満たしている

そして、「時価総額がいくらであれば上場時の調達が可能そうであるか」は、アンダーライター等によって決定される事柄です。「アンダーライター」は、日本では馴染みのない言葉ですが、日本の証券市場への上場の場合の「主幹事証券会社」に近い概念です。時価総額の決定に失敗すると、「投資家が集まれば上場できるが、集まらないために上場できない」という事態になってしまうため、アンダーライターによる当該業務は非常に重要なものであると言えます。

グローバル・マーケットとグローバル・セレクト・マーケット

ここまではキャピタル・マーケットについて解説してきましたが、グローバル・マーケットとグローバル・セレクト・マーケットの場合も、大まかな考え方は共通です。ただ、それぞれ4種類の基準が存在します。詳細は以下となります。

グローバル・マーケット上場の4基準

グローバル・マーケットの場合、利益基準・資本基準・時価総額基準のそれぞれについて、キャピタル・マーケットよりも高い要求が行われ、また、「総資産及び収益基準」という、キャピタル・マーケットには存在しない4番目の基準も用意されています。これら4種類の基準の少なくとも1つの基準を全て満たす必要があります。

要件利益基準資本基準
株主資本1500万米ドル3000万米ドル
浮動株時価総額800万米ドル1800万米ドル
事業継続期間2年
上場有価証券の時価総額
継続事業からの当期純利益100万米ドル
総資産と収益の合計
浮動株式数110万株110万株
株主数(単位株主数)400400
マーケットメイカー数33
入札価格4米ドル4米ドル
要件時価総額基準総資産及び収益基準
株主資本
浮動株時価総額2000万米ドル2000万米ドル
事業継続期間
上場有価証券の時価総額7500万米ドル
継続事業からの当期純利益
総資産と収益の合計7500万米ドル
浮動株式数110万株110万株
株主数(単位株主数)400400
マーケットメイカー数44
入札価格4米ドル4米ドル

グローバル・セレクト・マーケット上場の4基準

グローバル・セレクト・マーケットの場合、利益基準はこれまで同様で、より高い要求が行われますが、それ以外に「キャッシュフロー及び時価総額基準」「収益及び時価総額基準」「総資産及び株主資本基準」と、合計4種類の基準が用意されています。そして、「直近●会計年度の合計が●以上で、各年度が全て●以上でなければならない」といった条件も登場します。例えば、キャッシュフロー及び時価総額基準のキャッシュフローに関する「直近3会計年度合計2750万米ドル 直近3会計年度各年度0米ドル」とは、「3会計年度の合計が2750万米ドル以上で、各年度それぞれ全てマイナスであってはいけない」という意味です。このように、内容がそれぞれ少し複雑です。

要件利益基準キャッシュフロー及び時価総額基準
株主資本
上場有価証券の時価総額直近12ヶ月の平均が5億5000万米ドル
継続事業からの当期純利益直近3会計年度合計1100万米ドル
各年度0米ドル
直近2会計年度各年度220万米ドル
収益直近会計年度1億1000万米ドル
キャッシュフロー直近3会計年度合計2750万米ドル
直近3会計年度各年度0米ドル
総資産
入札価格4ドル4ドル
要件収益及び時価総額基準総資産及び株主資本基準
株主資本5500万米ドル
上場有価証券の時価総額直近12ヶ月の平均が8億5000万米ドル1億6000万米ドル
継続事業からの当期純利益
収益直近会計年度9000万米ドル
キャッシュフロー
総資産8000万米ドル
入札価格4ドル4ドル

当事務所による対策のご案内

モノリス法律事務所は、IT、特にインターネットと法律の両面に高い専門性を有する法律事務所です。ベンチャー法務に経験と実績を有し、国際ネットワークと連携する法律事務所として、モノリス法律事務所は日本企業によるNASDAQ上場を全面的にサポートいたします。NASDAQ上場支援については、下記記事をご参照ください。

モノリス法律事務所の取扱分野:NASDAQ上場支援

弁護士 河瀬 季

モノリス法律事務所 代表弁護士。元ITエンジニア。IT企業経営の経験を経て、東証プライム上場企業からシードステージのベンチャーまで、100社以上の顧問弁護士、監査役等を務め、IT・ベンチャー・インターネット・YouTube法務などを中心に手がける。

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