低空域経済圏とは?ドローンビジネスに関連する法規制の最新動向を解説

近年、ドローンや空飛ぶクルマ(eVTOL:Electric Vertical Take-Off and Landing)の技術革新が進み、地上から高度1000メートル以下の「低空域」を活用した新たな経済活動、いわゆる「低空域経済圏」が注目を集めています。
特に、2025年の大阪・関西万博に向け、関連する法規制の整備が加速しています。
本記事では、ドローンビジネスを中心に、現在の法規制の概要や大阪万博に伴う規制改革の詳細について解説いたします。
この記事の目次
低空域経済圏とは
低空域経済圏におけるドローン物流や「空飛ぶ車」などの新たなサービスの実用化が期待されています。
低空域経済圏の定義
「低空域経済圏」とは、航空領域において、宇宙空間や航空機が航行する高度「1万メートル前後」の高度空域ではなく、地上から高度1000メートル以下の空域と、この領域での経済活動を意味する言葉です。
従来では、航空法の規制により空域の利用は厳しく制限されていましたが、ドローンや空飛ぶクルマの実用化を見据え、新たな規制緩和や制度整備が進められています。
低空域経済圏のビジネス
低空域経済圏の利用方法として、以下のようなビジネスが期待されています。
- 物流 :都市部の渋滞を回避するためのドローン配送
- 監視・点検:インフラ点検や警備業務
- 観光 :空飛ぶクルマによる新たな移動手段
- 災害対応 :被災地への迅速な支援物資輸送
- 農業 :精密農業におけるドローンの活用、農薬散布や作物の生育管理
- 医療 :緊急医療物資の輸送や遠隔医療への応用
ドローン飛行の法規制と許可・承認手続き

ドローンの飛行にはさまざまなルールがあり、許可や承認を得る必要があります。
ドローン飛行に関する主要な法規制
ドローンを飛行させる際には、主に以下の法律を遵守する必要があります。
- 航空法(国土交通省管轄):ドローンの一般的な飛行ルールを定めています。
- 小型無人機等飛行禁止法(警察庁管轄):重要施設周辺でのドローン飛行を禁止しています。
- 道路交通法(警察庁管轄):公道での離発着や飛行に関する規制があります。
- 電波法(総務省管轄):無線通信を利用するドローンの電波利用に関する規制があります。
また、100g以上のドローンは、法律により機体登録が義務付けられています。登録手続きはDIPS2.0(ドローン基盤システム)を通じて行い、所有者情報や機体情報を入力した後、本人確認を完了させ、手数料を支払うことで識別番号が発行されます。
発行された識別番号は機体に表示し、リモートID対応機であればオンライン送信も可能です。登録の有効期限は3年間で、継続して使用する場合は更新手続きが必要です。未登録のまま飛行させると罰則の対象となるため、必ず事前に登録を済ませておきましょう。
航空法に基づく飛行許可・承認手続き
以下の条件下でドローンを飛行させる場合に、国土交通大臣の許可や承認を取得する必要があることが航空法で定められています。
許可が必要なケース
以下の飛行禁止空域でドローンを飛行する場合は国土交通大臣の許可が必要です。
- 空港周辺(飛行場等の制限表面)
- 人口集中地区(DID地区)
- 地表または水面から150m以上の高さの空域
- 緊急用務空域
参考:国土交通省「無人航空機の空港周辺での飛行禁止空域の拡大について」
参考:総務省「人口集中地区境界図について」
承認が必要なケース
以下の方法で次に掲げる方法で無人航空機を飛行させようとする場合には、あらかじめ地方航空局長の承認を受ける必要があります。
- 夜間飛行
- 目視外飛行
- 人や物件から30m未満の距離での飛行
- 危険物の輸送
- 物件の投下
また、上記のような飛行空域、飛行方法、飛行させる場所に関わらず、無人航空機を飛行させる場合には、以下を遵守する必要があります。
- アルコールまたは薬物等の影響下で飛行させないこと
- 飛行前確認を行うこと
- 航空機または他の無人航空機との衝突を予防するよう飛行させること
- 他人に迷惑を及ぼすような方法で飛行させないこと
参考:国土交通省「無人航空機の飛行禁止空域と飛行の方法」
許可・承認の申請手続き

航空法において、国土交通大臣の許可や承認が必要となる空域及び方法での飛行(特定飛行)を行う場合は、基本的に飛行許可・承認手続きが必要になります。
なお、適切な許可・承認を取得せずに無人航空機を飛行させる等した場合は、懲役または罰金に科せられるので、適切に許可・承認の申請を行うことが必要不可欠です。
DIPS2.0(ドローン情報基盤システム) でオンライン申請をする
DIPS2.0には、ドローンの機体登録の際に取得したログインIDとパスワードを用いてログインが可能です。「飛行許可・承認申請」メニューから、以下の情報を入力します。
- 機体情報(メーカー・型式・登録記号)
- 操縦者情報(技能証明の有無)
- 飛行日時・場所・高度
- 飛行目的(例:測量、空撮、農薬散布など)
- 安全対策(フェールセーフ機能の有無、事故時の対応)
参考:ドローン情報基盤システム操作マニュアル(飛行許可・承認申請編)
添付資料の提出
申請内容によって、以下の書類を提出する必要があります。
- 飛行マニュアル(国交省の標準マニュアルを利用可能)
- 機体の性能証明書(該当する場合)
- 操縦者の経験証明(必要な場合)
- 飛行エリアの使用許可証(私有地の場合)
また、この際、申請書に不備があると、追加修正を求められるため、詳細な記載を心がけましょう。
申請期限
申請は、飛行開始予定日の少なくとも10開庁日(土日・祝日はのぞく)前までに行う必要があります。
申請内容に不備があった場合などには、追加確認に時間を要し、飛行予定日までに許可・承認が得られないことも想定されます。
審査には時間がかかるため、最低でも1ヶ月前には申請するように心がけましょう。
許可・承認後の手続き
許可や承認を得た後、実際に飛行させるまでに必要な手続きは以下のとおりです。
許可・承認書の受領
審査が通ると、DIPS2.0上で許可証が発行されます。
許可番号を控え、必要に応じてプリントアウトして携帯しましょう。
飛行計画の事前通報
飛行計画の事前通報とは、無人航空機を特定飛行させる者が、事前に当該飛行の日時、経路などの事項を記載した飛行計画を国土交通大臣に通報する制度です。
飛行計画の通報をせずに特定飛行をおこなった場合、航空法の定めにより、30万円以下の罰金が科せられることとなるため、注意が必要です。
飛行日誌の作成
無人航空機を特定飛行させる場合、飛行・整備・改造などの情報を遅滞なく飛行日誌に記載しなければなりません。
特定飛行を実施する際に飛行日誌を備えていなかったり、飛行日誌に記載すべき事項を記載しない又は虚偽の記載を行ったりした場合、10万円以下の罰金が科せられるため、注意が必要です。
小型無人機等飛行禁止法に基づく規制
小型無人機(ドローン等)の利用が拡大する一方で、重要施設周辺での飛行による事件も発生しています。これらの事件を踏まえ、重要施設の機能を保護するため、小型無人機等飛行禁止法は特定の場所における小型無人機等の飛行を規制しています。
小型無人機等禁止法に基づき指定される施設
小型無人機等飛行禁止法では、重要施設およびその周囲おおむね300mの上空における小型無人機等の飛行が禁止されています。
以下の施設が規制の対象となっています。
参考:警察庁「小型無人機等飛行禁止法関係」
- 国の重要な施設等
- 国会議事堂、内閣総理大臣官邸、最高裁判所、皇居等
- 危機管理行政機関の庁舎
- 対象政党事務所
- 対象外国公館等
- 対象防衛関係施設
- 対象空港
- 対象原子力事業所
参考:警察庁「小型無人機等飛行禁止法に基づく対象施設の指定関係」
参考:警察庁「小型無人機等飛行禁止法に関する警察からのお知らせ」
特措法に基づいて指定される施設
- 大会会場等
- 空港
小型無人機等飛行禁止法における「特措法」とは、正式名称を「特定重大事件等対処法」といい、小型無人機等飛行禁止法の対象施設に「大会会場等」を追加するための特別措置を定めた法律です。特措法は、特定の期間および場所における小型無人機等の飛行を一時的に規制することで、テロ等の犯罪行為の未然防止や、イベントの安全確保を目的としています。
具体的には、2019年に日本で開催されたラグビーワールドカップや、2020年に開催された東京オリンピック・パラリンピックなど、大規模なイベント会場とその周辺地域における小型無人機等の飛行を規制するために制定されました。
この特措法により、これらのイベント期間中には、対象となる施設の管理者やその同意を得た者、土地の所有者等を除き、小型無人機等の飛行が禁止されました。
飛行禁止の例外
上記の指定施設における飛行は原則として禁止されていますが、以下の場合、飛行禁止の規定は適用されません。
- 対象施設の管理者またはその同意を得た者による飛行
- 土地の所有者等が当該土地の上空で行う飛行
- 国または地方公共団体の業務を実施するための飛行
ただし、対象防衛関係施設及び対象空港の敷地または区域の上空においては上記の場合であっても、対象施設の管理者の同意が必要となります。
飛行禁止の例外に当たる場合に必要な通報手続き
飛行禁止の例外に該当する場合でも、対象施設およびその周囲おおむね300mの上空で小型無人機等を飛行させる場合は、都道府県の公安委員会等への通報が必要です。
参考:警察庁「小型無人機等飛行禁止法に基づく通報手続の概要」
道路交通法による規制
ドローンの使用にあたって、公道を利用する場合には道路交通法による規制を受けます。
公道上での離発着・走行は禁止されています。許可なく道路上でドローンを飛ばすことは違法です。また、公道を使用する場合、管轄の警察署に申請を行い、道路使用許可を受ける必要があります。
そして、車両や歩行者の通行を妨げる飛行は禁止されています。
電波法による規制
ドローンの使用のために、電波を発する無線設備を使用するためには、原則として総務大臣の許可が必要となります。もっとも、微弱無線局や小電力無線局に該当する場合は、無線局の免許及び登録は不要です。
微弱無線局とは、発射する電波が極めて微弱な無線設備です。主に産業用の農薬散布ラジコンヘリなどで用いられています。なお、技術基準を満たしている場合には微弱無線適合マーク(ELPマーク)が表示されています。
また、小電力無線局とは、特定の用途に使用される一定の技術基準を満たした無線局を指します。取り扱いにあたって免許や資格は不要ですが、技術基準適合証明等を受けた設備であることが必要です。証明を受けているか否かは、技適マークの有無で確認することができます。
もっとも、海外製ドローンの利用には注意が必要です。技適マークのないドローンは日本国内で使用できません。
さらに、技適マークがついた製品であっても、製品を改造した場合には、技適マークを抹消しなければならず、技適マークがついていない無線機を使用すると電波法違反となります。
不法電波を使用すると1年以下の懲役または100万円以下の罰金が科される可能性があります。
参考:総務省「ドローン等に用いられる無線設備について」
大阪万博に伴うドローンに関連の改革

大阪万博では、空飛ぶクルマが展示されます。残念ながら大阪万博での商業利用は見送られてしまいましたが、空飛ぶクルマ及びドローンビジネスの実現に向けた環境整備が推し進められています。
万博では、空域・ルートの周知や飛行計画の調整、モニタリングや情報提供などの交通管理が実施される予定で、ドローンに関連する管理体制の制度整備への積極的な効果が期待されています。
参考:大阪万博「空飛ぶクルマ」
ドローンにかかる法規制の課題
ここまで解説した通り、飛行申請手続きは複雑で相当の期間を要します。そのため、申請手続きの簡素化が検討されています。
カテゴリーⅡ飛行に関する検討事項
政府は、「規制改革推進に関する答申」(令和6年5月31日)のとおり、ドローンの事業化を促進するため、無人航空機の飛行申請に対する許可・承認手続き期間の1日化を目指しています。
そして、「カテゴリーⅡ飛行に関する許可・承認の審査要領」を改正(令和7年2月公布、3月施行予定)し、当該許可・承認の申請手続きの簡素化並びに審査の迅速化を行うことを公表しています。
カテゴリーⅡ飛行とは、特定飛行のうち第三者の上空を飛行しないものを指します。これによって、申請の短縮化が期待されています。
UTM(無人航空機の運行管理システム)の導入
低空域でのドローンと有人航空機の共存を実現するため、ドローンの運行管理システム(UTM:UAS Traffic Management)の導入が進められています。これにより、リアルタイム飛行情報の共有や衝突回避技術の確立、複数事業者の統合管理などの効果が期待されています。
これまでは、DIPSの機能を使用し、飛行計画が重複した場合には運航者に通知し、調整をメール等で行っていたため、余計な時間と手間がかかっていました。
しかし、今後航空局が認めたUTMプロバイダを利用することにより、飛行計画の調整支援を実施し、動態把握や経路逸脱時のアラート等を実施することで、同一空域内において複数の運航者がリスクの高い飛行を実現可能とすることが計画されています。
そして最終段階として、指定空域内において、全ての無人航空機が航空局が認めたUTMプロバイダを利用することで、飛行前から飛行中、飛行後に渡って一環した交通管理を行う環境を整備し、より高密度な運航を実現することが計画されています。
UTMの整備により期待される効果
今後、運送業や災害時の緊急物資輸送などの分野において、有人地帯での補助者なし目視外飛行(レベル4飛行)や、無人地帯における目視外飛行(レベル3.5)の需要が拡大することが予想されます。
関連記事:ドローンのレベル4飛行で活用範囲拡大 機体認証と技能証明の2つの制度を解説
今後UTMの整備が進み、複数のドローンの飛行計画や飛行状況、地図・気象情報等の共有がなされることにより、ドローンの目視外飛行についても安全かつ効率的な運航を可能にし、高密度な運航の実現が期待されます。
これによって、ドローンを利用した輸送ビジネスがより活発になると展望されています。
参考:国土交通省航空局無人航空機安全課「航空局における空飛ぶクルマ/ドローンの取組み」
まとめ:ドローンビジネスは法改正へのリアルタイム対応が必須
低空域経済圏は、日本の新たな成長産業の一つとして期待されています。運送業の2025年問題とも関連して、ドローンによる運送ビジネスは今後ますます需要が高まることが予想されます。
しかし、本記事で解説したように、大阪・関西万博を契機として、日々、低空域経済圏における法規制や管理体制の改革が進んでおり、行政の動向にリアルタイムで対応することが求められています。ビジネスチャンスを掴むためには、企業はこれらのルールを適切に理解し、ビジネス戦略を立てることが求められます。
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モノリス法律事務所の取扱分野:IT・ベンチャーの企業法務
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