弁護士法人 モノリス法律事務所03-6262-3248平日10:00-18:00(年末年始を除く)

法律記事MONOLITH LAW MAGAZINE

IT・ベンチャーの企業法務

ポーランドの医薬品・医療広告規制を弁護士が解説

ポーランドの医薬品・医療広告規制を弁護士が解説

ポーランド共和国(以下、ポーランド)におけるヘルスケアビジネス、とりわけ医薬品および医療機器の広告規制は、欧州連合(EU)加盟国の中でも特に厳格な基準で運用されています。その法的基盤は、EU指令を国内法化した「医薬品法(Pharmaceutical Law Act)」および2022年に全面改正された「医療機器法(Act on Medical Devices)」にあります。これらの法律は、消費者の健康と安全を最優先とし、専門知識を持たない一般市民が広告によって不適切な製品使用に至ることを防ぐため、極めて広範かつ詳細な禁止事項を定めています。

日本企業がポーランドへ進出する際に最も留意すべき点は、日本国内では一般的なマーケティング手法が、ポーランドでは違法行為として高額な罰金の対象となる可能性が高いことです。例えば、医師や薬剤師、あるいはそれらを装った俳優(白衣着用者)を広告に起用することは、一般用医薬品(OTC)であっても厳格に禁止されています。また、医療機関や薬局そのものの「広告」が原則として禁止されている点も、日本の医療広告規制とは大きく異なる特徴です。

しかしながら、この厳格な規制環境は現在、大きな転換期を迎えています。2025年6月に下された欧州司法裁判所(CJEU)の判決により、長年続いてきた「薬局広告の全面禁止」がEU法違反であると認定されました。この司法判断は、今後の法改正や実務運用に多大な影響を与えると予測されます。

本稿では、最新の法令および判決に基づき、ポーランドの広告規制の全容を解説するとともに、日本の「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律」(薬機法)との比較を通じて、実務的なコンプライアンスの指針を提供します。

ポーランド医薬品広告規制の法的構造と適用範囲

ポーランドにおける医薬品広告の定義は極めて広範であり、医薬品法第52条において「医薬品の処方、供給、販売、または消費を促進することを目的とした、情報提供、勧誘、または誘引のあらゆる活動」と規定されています。これは、テレビCMや雑誌広告といった典型的な媒体にとどまらず、医師向けの学術会議のスポンサーシップ、サンプルの提供、さらにはインフルエンサーによるSNS上の言及までもが含まれる包括的な概念です。

広告規制の適用にあたっては、対象となる医薬品のカテゴリー(処方箋医薬品か一般用医薬品か)およびターゲット(一般大衆か専門家か)によって、明確な線引きがなされています。最も重要な原則として、処方箋医薬品(Rx)の一般大衆向け広告は全面的に禁止されています。一般大衆に向けた広告が許容されるのは、一般用医薬品(OTC)のみですが、その場合でも、著名人や科学者、医療従事者の権威を利用することは固く禁じられています

以下の表は、広告対象と許容範囲の概要をまとめたものです。

対象カテゴリー一般大衆向け広告専門家(医師・薬剤師)向け広告備考
処方箋医薬品 (Rx)全面禁止許可専門誌や学会での情報提供に限られる。
一般用医薬品 (OTC)許可(制限あり)許可償還リスト(保険適用)にある医薬品と名称が同一のOTCは広告禁止の場合がある。
禁止成分含有薬全面禁止許可麻薬・向精神薬を含む製品は、OTCであっても一般広告は不可3

権威利用の禁止と「白衣」規制

日本のマーケティング担当者が特に注意を要するのは、OTC医薬品の広告表現に関する規制です。日本では「医師推奨」や「専門家のコメント」が信頼性の証として頻繁に利用されますが、ポーランド医薬品法第55条はこれを明確に否定しています。具体的には、公人、科学者、医師、薬剤師といった「権威」を持つ人物が広告に登場すること、あるいはそれらの人物による推薦を引用することは違法です。

さらに、この規制は実在の専門家だけでなく、「専門家を装うこと」にも及びます。いわゆる「ホワイト・コート・ルール(White Coat Rule)」により、俳優が白衣を着用したり、診察室のようなセットで撮影したりして、医療従事者であると示唆する演出も禁止されています。これは、専門家の権威を借りた広告が消費者の合理的判断を阻害し、不要な医薬品摂取(Overconsumption)を招くという考え方に基づいています。

義務的警告文の表示義務

すべての医薬品広告には、法律で定められた定型的な警告文を表示または読み上げることが義務付けられています。この警告文は、消費者が自己判断で使用する際のリスクを強調するものであり、日本における「使用上の注意をよく読んでください」といった表現よりも具体的かつ威嚇的な内容となっています。

必須警告文の内容(医薬品法):

使用前に添付文書を読むか、医師または薬剤師に相談してください。不適切に使用された医薬品はすべて、あなたの生命または健康を脅かすからです。

(ポーランド語原文:Przed użyciem zapoznaj się z treścią ulotki dołączonej do opakowania bądź skonsultuj się z lekarzem lub farmaceutą, gdyż każdy lek niewłaściwie stosowany zagraża Twojemu życiu lub zdrowiu.)

この警告文は、視聴者が明確に認識できる方法で提示されなければならず、早口で読み飛ばしたり、判読不能なサイズで表示したりすることは法令違反となります。

ポーランド2022年医療機器法による規制強化

ポーランド2022年医療機器法による規制強化

2022年4月に制定された新しい「医療機器法」は、それまで比較的緩やかであった医療機器の広告規制を抜本的に強化しました。この新法はEU医療機器規則(MDR)を補完するものであり、医療機器の広告を医薬品と同等の厳格な基準の下に置いています。

新法における最大の特徴は、広告主体の責任明確化と、一般向け広告における禁止事項の拡大です。広告を行うことができるのは原則として製造業者や正規代理店等の「経済事業者」に限られ、インフルエンサー等が広告を行う場合は経済事業者の書面による承認が必要となりました。

医療機器広告における具体的禁止事項

一般大衆(専門知識を持たない人々)に向けた医療機器の広告では、以下の表現や手法が新たに禁止されました。これにより、従来美容機器や健康器具の販促で多用されていた手法の多くが違法となっています。

禁止事項内容詳細
専門家用機器の広告医師や専門家による使用が意図された機器(インプラント、レーザー治療器等)を一般向けに広告することは禁止。
子供への訴求子供に対して直接購入を促す表現、または親に購入をねだるよう促す表現の禁止。
医療従事者の利用医薬品同様、医師や看護師等の画像使用、またはそれらを演じる俳優(白衣着用等)の使用禁止。
誤認惹起表現検査や手術、医療相談が不要になると示唆することや、100%の治癒を保証するような表現の禁止。

また、医療機器の広告においても、医薬品とは異なる独自の警告文を表示することが義務付けられました。この警告文は、「禁忌(Contraindications)」の有無によって2種類の文言が使い分けられます。

医療機器広告の必須警告文:

区分警告文言(日本語訳)
禁忌がない場合「これは医療機器です。安全のため、使用説明書またはラベルに従って使用してください。」
禁忌がある場合「これは医療機器です。安全のため、説明書またはラベルに従って使用してください。疑義がある場合は専門家に相談してください。この機器はあなたに適さない可能性があります。」

これらの警告文は、視覚的広告の場合、広告面積の一定割合(例:10%または20%以上)を占める必要があり、視聴時間等についても詳細な技術的要件が定められています。

ポーランド医療機関および薬局の広告禁止と最新判例

ポーランド医療機関および薬局の広告禁止と最新判例

ポーランドの規制において日本と最も対照的なのが、医療サービス提供者(病院・クリニック)および薬局に対する「広告の原則禁止」です。これは、医療や薬局業務は公共性の高いサービスであり、商業的な競争に晒されるべきではないという倫理的観点に基づいています。

医療機関・薬局に対する規制の現状

「医療活動に関する法律」および「医薬品法」に基づき、医療機関や薬局は、自らのサービスや店舗を「宣伝」することが禁じられています。許されているのは、所在地、営業時間、提供するサービスの種類といった客観的な情報の公開のみです。

主体許可される行為(情報公開)禁止される行為(広告)罰則(最大)
医療機関医師名、専門分野、学位、診療時間、連絡先、価格表の掲示。「最高の名医」「痛くない治療」等の形容詞的使用、割引キャンペーン、不安を煽る表現。拘留または罰金。
薬局所在地、営業時間の表示。ポイントカード、ロイヤルティプログラム、特定の医薬品の販促、店舗の宣伝文句。50,000ズウォティ(約190万円)。

欧州司法裁判所(CJEU)による歴史的判決(2025年6月)

長らく堅持されてきた薬局広告の全面禁止規制に対し、2025年6月19日、欧州司法裁判所(CJEU)は画期的な判決を下しました(事件番号 C-200/24)。

判決の要旨:

ポーランド医薬品法第94a条による「薬局広告の全面禁止」は、EU法(電子商取引指令および設立の自由・サービス提供の自由)に違反する。

判決の理由:

裁判所は、公衆衛生の保護という目的自体は正当であるものの、広告を「全面的かつ無差別に」禁止することは、その目的達成のために必要な範囲を超えており(比例原則違反)、EU域内の市場アクセスや競争を不当に阻害していると判断しました。特に、国外の事業者がポーランド市場に参入する際、広告なしには認知を得ることが困難である点が重視されました。

この判決により、ポーランドは薬局広告に関する法改正を迫られており、将来的には一定のルールの下で薬局によるプロモーション活動が解禁される見通しです。

日本法とポーランド法の比較および罰則規定

最後に、日本の薬機法および医療広告ガイドラインとの主な相違点と、違反時のリスクについて整理します。

日本とポーランドの規制比較

項目日本(Japan)ポーランド(Poland)
医師・白衣の利用条件付き許容。事実に基づき、誤認を与えない範囲での演出(特に化粧品や健康食品、医療機器の一部)では慣行的に行われることがある。完全禁止(OTC・医療機器含む)。医師等の起用、白衣を着た俳優の起用は違法。
医療機関の広告限定的解禁。ウェブサイト等は広告規制の対象だが、一定用件を満たせば治療詳細や症例写真(Before/After)の掲載が可能。原則禁止。客観的情報の公開のみ可。「説得的要素」を含む表現は一切不可。
インフルエンサーステルスマーケティング規制(景品表示法)等で規制。個人の感想としての発信は比較的自由。厳格規制。対価を得た発信は「広告」とみなされ、警告文表示や禁止事項(専門家を装う等)が適用される。

違反時の罰則

ポーランドにおける違反に対する制裁は、金銭的ペナルティが中心であり、その額は日本と比較しても非常に高額に設定される傾向があります。

  • 薬局広告禁止違反:最大50,000ズウォティ(約190万円)。ただし、前述のCJEU判決により、今後の適用には変化が生じる可能性があります。
  • 医薬品広告規制違反:具体的な違反内容によりますが、違法なインセンティブ提供等には高額な罰金が科されます。また、医薬品の供給条件違反等には最大500,000ズウォティ(約1,900万円)等の規定があります。
  • 医療機器法違反:最大2,000,000ズウォティ(約7,600万円)。さらに、使用者の健康や生命を脅かす可能性がある違反については、最大5,000,000ズウォティ(約1億9,000万円)の罰金が規定されています。

まとめ

ポーランドの医薬品・医療広告規制は、「消費者の合理的判断の保護」と「医療の非商業化」を柱とする厳格な体系を持っています。特に「白衣」を用いた演出の禁止や、医療機関・薬局の広告禁止は、日本のビジネス感覚とは大きく異なるため、進出企業の最大の躓き石となり得ます。

しかし、2025年のCJEU判決は、この堅固な規制に風穴を開けるものであり、市場の自由化に向けた重要な一歩となります。日本企業としては、現行の厳格な「国内法」を遵守しつつ、EU法主導による規制緩和の動向(特に薬局等のプロモーション解禁)を注視し、機動的にマーケティング戦略を調整していくことが求められます。

モノリス法律事務所では、最新のEU判例および国内法の改正動向を踏まえた、実践的かつ戦略的なリーガルサポートを提供いたします。複雑化する欧州ヘルスケア市場への参入と展開について、ぜひ当事務所にご相談ください。

弁護士 河瀬 季

モノリス法律事務所 代表弁護士。元ITエンジニア。IT企業経営の経験を経て、東証プライム上場企業からシードステージのベンチャーまで、100社以上の顧問弁護士、監査役等を務め、IT・ベンチャー・インターネット・YouTube法務などを中心に手がける。

シェアする:

TOPへ戻る