欧州へ事業展開する企業必見 EUの法律・法体系について要点を解説
EU法とはEU加盟国の一部がEUに委譲された政策分野をEUが代わって定めた法です。EU法は加盟国の憲法および法令に優先します。EU法は複数国で共通の法令が使われているのが大きな特徴です。
EU法の種類によっては、加盟国がEU法を国内法に置き換える場合もあります。EU加盟国間で同じ法を使うのか、各加盟国で国内法が存在して、国内法を適用するのかを確認し、適切に対処する必要があります。
ここでは、EU法やEUにおける法体系の基本について解説します。
この記事の目次
EUの歴史と加盟国の変遷
EUとは、欧州連合条約に基づき経済通貨同盟、共通外交安全保障政策、警察・刑事司法の協力など幅広く進めている政治・経済統合体です。
EUの活動の拠点となる本部が置かれているのはベルギーのブリュッセルです。EU加盟国間で1つの市場システムを形成するには共通通貨が必要不可欠です。1999年にEUの単一通貨ユーロが導入されました。
EU加盟国は現在27カ国となっています(2024年3月時点)。原加盟国は6カ国でしたが、第6次拡大までが行われて、現在のEU加盟国は27カ国になりました。
年代 | 加盟国 |
原加盟国(1952年) | ベルギー、ドイツ、フランス、イタリア、ルクセンブルク、オランダ |
第1次拡大(1973年) | デンマーク、アイルランド、イギリス |
第2次拡大(1981年) | ギリシャ |
第3次拡大(1986年) | ポルトガル、スペイン |
第4次拡大(1995年) | オーストリア、フィンランド、スウェーデン |
第5次拡大(2004年、2007年) | キプロス、チェコ、エストニア、ハンガリー、ラトビア、リトアニア、マルタ、ポーランド、スロバキア、スロベニア |
ブルガリア、ルーマニア | |
第6次拡大(2013年) | クロアチア |
2020年にはイギリスが離脱しています。また、アイスランド、セルビア、トルコ、マケドニア、モンテネグロが加盟国候補となっています。今日のEUは、ベルギー、ドイツ、フランス、イタリア、ルクセンブルク、オランダにより設立された欧州石炭鉄鋼共同体(ECSC)を母体として発展を遂げました。
従来のEUには「欧州共同体(EC)」「共通外交・安全保障政策(CFSP)」「警察・刑事司法協力(PJCC)」の3つがありました。現在は、EU憲法条約により、これら3つの構造が統一されています。ECはEUに吸収され、EUに1つの国際法人格が付与されています。EUで使われた共通体は全て連合に置き換えられ、EUの名で国際条約を調印できるようになりました。
日本とは大きく異なるEUの法体系
EUの法体系は、一次法、二次法、判例の3つから成り立っています。法区分ごとに内容を解説します。
法区分 | 内容 |
一次法 | EU設立に関する条約や改正条約などの基本条約。 |
二次法 | 一次法の基本条約から派生して制定された法令で、EU法と呼ばれる。 |
判例 | 判例には拘束力がありませんが、判例によりEU法が発展。独占権限を有したEU司法裁判所が一次法、二次法の解釈を行う。 |
一次法:EUを基礎づける条約
一次法とは、EU基本条約などのEUを基礎づけている条約です。全加盟国の政府が参加する会議の政府間協議において起草され、全加盟国の全会一致により、一次法が採択・制定されました。一次法は、全加盟国の批准手続きにより効力が発生します。EU法の一次法は日本だと憲法に該当します。
EU条約とEUの機能条約はリスボン条約で改正されて、現在の基本条約となりました。EU条約とEU機能条約の附属議定書、附属文書も基本条約です。欧州議会と欧州連合委員会はEUの立法機関なので、一次法を守る必要があります。一次法では以下の定めがあります。
- EUの目的、目標、諸原則
- 機構制度
- 立法手続
- 諸政策の重要事項
- EU市民の権利
上記の基本条約以外にも本条約と同等の法的価値を持つEU基本憲章、EU司法裁判所が依拠する法の一般原則が含まれます。一次法は、欧州共同体における人権法の発展に大きな役割を果たしました。
また、全ての国際組織は国際法に基づいて設立されているので、国際慣習法も一次法です。国際慣習法は、国際社会における守るべきルールのことを指します。EUでは大抵のことは明文化されたルールが存在するため、国際慣習法を一次法としない場合もあります。
二次法:基本条約をもとに制定された「EU法」
二次法とは、一次法の基本条約から派生して制定された法令で、EU法と呼ばれます。一次法に反した二次法は無効です。二次法を制定する際には立法趣旨を示さなければなりません。
立法趣旨を示さない場合や不十分な場合は重大手続要件違反に当たるとして無効を宣言されることがあります。各国の国内法が優先して適用され、企業活動に関係する内容も多いです。
二次法は規則、指令、決定、勧告、意見の5種類あります。適用範囲と法的拘束力の強弱によって分けられています。
規則
規則は、加盟国の国内法に優先して、加盟国の政府や企業、個人に直接適用されます。規則は全ての加盟国で即日効力を有する法の形態で、加盟国の国内立法を必要とせず、加盟国間の政府に対して直接的な法的効力を及ぼします。加盟国は直接的効力を妨げることが禁じられています。
規則は議会制定法とほぼ同等の効力があり、規則は欧州連合の法の数ある形態の中で最も強力なものの1つとされています。
規則の例として、REACH規則があります。REACH規則とは欧州の化学物質管理における法規制です。EU域内で製造・使用される化学物質は登録、評価、認可、制限の義務が課されます。
指令
指令は、加盟国の政府に対して直接的な法的効力を及ぼします。指令には政策目標と実施期限が定められており、採択されると各加盟国は期限内に政策目標を達成するために国内立法などの措置をとることが求められます。どのような措置をとるかは各加盟国に委ねられ、企業や個人には直接適用されません。
指令の例として、WEEE指令とRoHS指令などがあります。2003年2月にWEEE指令とRoHS指令が公布・施行されました。WEEE指令は電気・電子機器廃棄物に関するEU法で、再利用やリサイクルし、電気・電子機器廃棄物を削減することを目的に制定されました。
RoHS指令は人や環境に影響を与えないよう設けた、特定の有害物質の使用規制に関するEU法です。現在は10種類の物質が制限されてます。
決定
決定は、特定の加盟国政府や企業、個人に対して、直接的な法的効力を有します。決定は個別的かつ具体的な措置で、決定の採択の立法手続きは、扱われる政策分野によって決められます。既存のEU法、整合規格リストまたは欧州規格が改定される際に決定事項が盛り込まれます。
決定の例としては、RoHS指令の適用除外追加の決定です。RoHS指令では技術的に代替が不可能な使用用途について、危険物質の含有を許容する適用除外用途が定められています。
勧告
勧告は、加盟国の政府や企業、個人などに一定の行為や措置を取ることを期待する旨を欧州委員会がはっきりと示します。勧告には法的拘束力はありません。しかし政治的な影響力を有しています。加盟国間内に対して必要な法令の制定を企図するという間接的な効力を持っているのが勧告です。
意見
意見は、特定のテーマについて欧州委員会、欧州理事会、欧州議会の意思をはっきりと示すものです。意見には法的拘束力はありません。
まとめ:EU加盟国への事業展開はEU法に詳しい弁護士に相談を
日本は憲法を頂点として、憲法、条約、法律、政令、省令、条例の6つの法体系です。一方でEUは一次法、二次法、判例の3つが法体系で、日本と比較するとシンプルなのが特徴です。
日本は国内法のみを適用します。一方でEUでは各加盟国の国内法とEUで制定され、加盟国間で共通の法を適用するEU法が存在します。EU法は国内法に優先し、加盟国間で共通の法を適用する点も特徴です。
EU法の中でも、指令については各加盟国で国内法が定められています。加盟国ごとにその法令に差異があるので、特に指令を読むときは注意が必要です。
EU法は日本の法と異なる点が多いので、不明点があれば、専門家に質問することをおすすめします。法務におけるビジネスパートナーをお探しの方はモノリス法律事務所にお問合せください。モノリス法律事務所はIT分野のスペシャリストで、IT、知財法務、風評被害対策などに対応します。
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