ポルトガル共和国の法律の全体像とその概要を弁護士が解説

ポルトガルは大陸法系に属し、その歴史はローマ法やゲルマン法、そして19世紀にはフランス民法の影響を強く受けました。しかし、20世紀初頭以降はドイツ民法(BGB)の影響が支配的となり、1966年の民法典にもその影響が色濃く見られます。主要な法律には、憲法(1976年改正)、民法典(1966年改正)、刑法典(1982年改正)、労働法典(2003年改正)、商事会社法典(1986年改正)などがあります。
また、ポルトガルはEU加盟国であるため、その法制度はEU指令や規則の影響を直接的に受けます。これにより、資金決済、データ保護、AI規制といった特定の分野では、EU全体で統一された規制が適用されるか、その国内法化が進んでいます。
本記事では、ポルトガルの法律の全体像とその概要について弁護士が詳しく解説します。
この記事の目次
ポルトガルの司法制度
ポルトガルの司法制度は、日本と同様に大陸法系に属し、成文法を基盤としています。その構造は、大きく分けて民事・刑事事件を扱う「司法裁判所(Judicial Courts)」と、行政・税務事件を扱う「行政・税務裁判所(Administrative and Tax Courts)」の二つの独立した法域に分かれています。さらに、憲法裁判所(Constitutional Court)と会計検査院(Court of Auditors)も憲法上定められた特別な管轄権を有します。つまり、日本では行政事件も原則として一般の裁判所で扱われるのに対し、ポルトガルでは行政・税務事件を扱う独立した法域と裁判所体系が明確に分離されています。これは、フランスやドイツに代表される大陸法系の特徴です。
ポルトガルにおける会社設立とコーポレートガバナンス

ポルトガルで事業を展開する日本企業にとって、適切な会社形態の選択とコーポレートガバナンスの理解は極めて重要です。ポルトガル商事会社法典(Commercial Companies Code, Decree-Law No. 262/86, as amended)がこれらを規定しています。
主要な会社形態
ポルトガルには、主に二つの事業体構造があります。
有限責任会社(Sociedade por Quotas or Lda)は、フランスのSARLやドイツのGmbHに相当し、中小企業に特に適しています。最低資本金は不要ですが、各持分(quota)は最低1.00ユーロの価値を持つ必要があります。最低2名のパートナーが必要ですが、単独株主有限責任会社(Sociedade Unipessoal por Quotas, SUQ)として1名で設立することも可能です。この場合、会社名に「Unipessoal」を含める必要があります。パートナーの責任は、会社の資本金までと限定されます。経営は1名または複数のマネージャー(gerentes)が行い、通常はパートナーが兼任します。監査機関は、貸借対照表、売上、従業員数といった特定の財務基準を超えない限り義務付けられません。柔軟性があり、管理構造が比較的シンプルであるため、中小企業やスタートアップにとって魅力的な選択肢です。
公開有限会社(Sociedade Anónima or SA)は、大規模企業に適しており、より複雑なガバナンス構造と高いコンプライアンス要件が求められます。最低資本金は50,000ユーロです。最低5名の株主が必要ですが、単独株主が法人である場合や、国家が過半数の株式を保有する場合は、1名または2名での設立も認められます。株主の責任は、保有する株式の金額に限定されます。経営は取締役会または単独の管理者が行い、監査委員会や監査役会が監督します。上場企業の場合、取締役の責任は250,000ユーロ、その他の会社では50,000ユーロの保証または保険が必要です。
外国人投資家が会社を設立する際の具体的な手続きと要件
ポルトガルで事業を開始する外国人にとって、いくつかの重要な手続きと要件があります。
基本的な要件として、ポルトガルでの事業開始には、居住許可証または市民権、税務番号(NIF)、社会保障番号、ポルトガル国内の銀行口座が必要です。特にNIFは、ポルトガルでのすべての金融取引に必須となります。外国人取締役であっても居住要件はないものの、NIFの取得は必須です。NIFの取得が滞ると、銀行口座の開設など、その後の事業運営に支障をきたす可能性があるため、早期の対応が求められます。
会社名の選定では、ポルトガル政府が事前承認したリストから会社名を選択するか、独自の名称を希望する場合は名称承認証明書を申請します。この申請は通常、国立法人登記所(IRN)に3つまでの候補を提出して行われます。
定款の作成では、会社の基本原則を定める「定款(Articles of Association)」を作成します。これには、会社名、創業者名、事業目的、登録事務所の住所、会社の種類、株主名と初期投資額、株主の議決権と利益配分方法、総資本金、経営陣の任命方法などが含まれます。
商業登記は、商業登記所(Commercial Register)への登記が、会社が第三者に対して法的効力を持つために必要です。これには、会社名証明書、定款、現物出資がある場合は監査役報告書、不動産譲渡税の支払い証明書などが含まれます。登記完了後、政府の公式ウェブサイトに公示されます。
最終受益者情報の提出として、登記完了後30日以内に、会社の最終受益者情報をオンラインポータル「Registo Central do Beneficiário Efetivo」に提出する必要があります。これはポルトガル国内の銀行口座開設前に行う必要があります。
設立方法には、オンライン(Empresa Online)、オンザスポット(Empresa na Hora)、または伝統的な方法の3つの選択肢があります。オンラインやオンザスポットは迅速で、費用も220ユーロから360ユーロと比較的低額です。
支店設立の場合、ポルトガルに支店を開設する場合、国立法人登記所(IRN)への名称登録と商業登記所との連携が必要です。親会社の設立書類や取締役会の決定書などが必要となります。
コーポレートガバナンスの法的枠組みと機関設計
ポルトガルのコーポレートガバナンスは、商事会社法典(CSC)と証券法典(CVMob)によって規定されています。
ガバナンスコードの適用として、上場企業には、ポルトガル証券市場委員会(CMVM)が承認したコーポレートガバナンスコードまたは専門機関が発行したコードの採用が義務付けられており、「遵守または説明(comply or explain)」原則が適用されます。これは、透明性と投資家保護を重視するEU全体の傾向を反映するものです。
ガバナンスモデルでは、SA会社では、単一取締役会モデル、監査委員会を含む単一取締役会モデル、執行取締役会と総会・監督委員会からなる二層構造モデルの3つが選択可能です。
取締役の義務と要件として、取締役は、会社の利益のために行動し、株主の長期的な利益を考慮する忠実義務を負います。また、従業員を含む他のステークホルダーの利益も考慮する必要があります。取締役は株主である必要はなく、ポルトガル居住者である必要もありませんが、外国人取締役はポルトガル税務識別番号(NIF)の取得が必要です。
株主総会は、LdaおよびSA会社では、年次株主総会を会計年度末から3ヶ月以内に開催し、経営報告書と決算書の承認、利益配分、役員の評価・解任、役員の選任などを行います。
ポルトガルにおける海外資本からの投資規制
ポルトガルは、海外からの直接投資(FDI)に対して一般的に開かれた姿勢を示していますが、特定の「戦略的資産」に対する投資には政府による審査メカニズムが存在します。
FDI審査メカニズムの概要
ポルトガルFDI法に基づき、ポルトガル政府は、外国投資家による戦略的資産への直接的または間接的な支配を可能にする投資に異議を唱えることができます。この法的枠組みは2014年以降、大きな変更はありません。
強制的な届出義務は存在せず、ポルトガルFDI法はいかなる取引についても強制的な届出を義務付けていません。ただし、任意での事前確認申請は可能で、投資家は、異議決定が出されないことを事前に確認するため、任意で申請を行うことができます。この申請には、想定される取引条件の完全な説明を含める必要があります。政府が申請から30営業日以内に評価手続きを開始しない場合、異議なしの決定が黙示的に発行されたとみなされます。このため、ポルトガルでは、投資家が取引の確実性を高めるために、任意であっても事前確認を求めるインセンティブが強いと言えます。
職権による審査も行われ、事前確認が申請されない場合でも、政府は取引完了後または公に知られた日から30営業日以内に職権で審査を開始することができます。政府は、取引が国防、国家安全保障、および/または国家の利益に不可欠なサービスの供給の安全保障に現実的かつ十分に深刻なリスクをもたらす場合に、取引に異議を唱えることができます。
異議決定が発行された場合、当該取引に関連するすべての法的行為および取引は無効とみなされます。
「戦略的資産」の定義と投資審査の対象となる取引
「戦略的資産」は、国防および国家安全保障に関連する主要なインフラストラクチャおよび資産、またはエネルギー、運輸、通信分野における不可欠なサービスの提供に関連する資産と定義されています。一方で、投資の金融的閾値は設定されていません。
定義の不明確性があり、「国防および国家安全保障に関連する戦略的資産、またはエネルギー、運輸、通信分野における不可欠なサービスの提供」の定義は明確ではなく、これらの分野での取引審査の可能性に関して不確実性が生じています。この不確実性故のリスクを軽減するためには、任意であっても事前確認申請を行うことが実務上推奨されます。特にエネルギー、運輸、通信、防衛関連といった「戦略的資産」に該当し得る分野では、取引完了後の無効化リスクを避けるため、弁護士と連携して綿密なデューデリジェンスと事前確認申請の検討を行うべきです。
審査基準は、買収対象事業の性質と取引に関与する当事者に焦点を当てます。買収者の実績や、買収者が居住する国または関連する国が、民主的法治国家の基本原則を認識または尊重しない第三国との関連性がある場合など、国防・国家安全保障への脅威とみなされる状況が例示されています。FDI法における「直接的または間接的支配」の概念は、EUおよびポルトガルの競争法におけるそれと同一であるとされています。すなわち、FDI審査の対象となる取引を評価する際、競争法上の観点からも潜在的な問題を検討する必要があります。
ポルトガルにおける外国人による不動産取得

ポルトガルは、外国人による不動産購入に対して一切の制限を設けておらず、国籍や居住状況に基づく障壁はありません。これは、国際投資を誘致するポルトガルの戦略の一環です。
ただし、ポルトガル税務識別番号(NIF)の取得は、不動産購入に必須です。長期滞在を計画する場合はビザが必要となります。特に、ゴールデンビザプログラムが、一定額の不動産投資(最低50万ユーロ、または特定地域で35万ユーロ)と引き換えに居住権を提供しています。
購入プロセスは、まずNIFの取得、次に物件の選定、そして弁護士による法的デューデリジェンス(所有権の確認、債務の有無、許認可の確認など)を行います。そして、資金調達(ポルトガルの銀行は非居住者にも住宅ローンを提供しますが、居住者よりも融資比率が低い傾向にあり、通常、物件価値の最大70%までです)を経て、予備契約(”Contrato de Promessa de Compra e Venda” – CPCV)の締結と手付金(通常、購入価格の10-30%)の支払いを行います。この契約は、売買の条件を明記し、両当事者を拘束します。最後に、最終売買契約(”Escritura Pública de Compra e Venda”)の公証人面前での締結と所有権移転が行われ、残金が支払われ、新しい所有者の詳細が国家不動産登記簿に記録されます。
関連税金として、不動産譲渡税(IMT:物件価値に応じて1%から8%の累進課税、100万ユーロ超の物件は7.5%)、印紙税(購入価格の0.8%の固定税率)、公証人および登記費用(物件価格の約1-2%)、弁護士費用(購入価格の約1-2%)、年間固定資産税(IMI:物件の評価額に応じて0.3%から0.8%)などがかかります。
ポルトガルにおける広告規制
ポルトガルにおける広告規制は、主に不公正な商慣行の禁止を目的としており、EU指令(特に不公正商慣行指令2005/29/EC)に基づいて国内法化されています。これは、消費者の信頼を確保し、競争を促進し、越境取引を推進するために不可欠とされています。
不公正な商慣行の禁止と広告規制の枠組み
ポルトガルでは、取引関係の前後、最中を問わず、あらゆる不公正な商慣行が禁止されています。不公正な商慣行は、主に「誤解を招く商慣行(Misleading commercial practices)」と「攻撃的な商慣行(Aggressive commercial practices)」に分類されます。そして、不公正な商慣行によって締結された契約は、消費者が無効にすることができます。契約の無効化の代わりに、修正を求めることも可能です。執行機関として、経済・食品安全庁(Autoridade de Segurança Alimentar e Económica, ASAE)が、これらの規制の執行を担当します。
誤解を招く商慣行
誤解を招く商慣行には、誤解を招く行動と誤解を招く不作為があります。誤解を招く行動とは、虚偽の情報を含むか、または正確であっても消費者を欺く可能性のある情報(製品の存在、主要な特性、価格、サービスの必要性、事業者の性質、消費者の権利など)を提供する行為を指します。競合他社の製品、サービス、商標などとの混同を引き起こす行為(比較広告を含む)も該当し得ます。常に誤解を招くとされる具体的な行為には、以下があります。
- コードオブコンダクトに従っていると偽る
- 公的機関の承認を得ていると虚偽の主張をする
- 特定の価格で製品を提示しながら注文を拒否したり別の製品を宣伝するために欠陥品を提示したりする
- 製品やサービスが非常に限られた期間しか利用できないと偽り迅速な決定を迫る
- 無償・無料・同様の表現を使用しながら避けられない応答費用や配送費用以外に支払いを要求する
- 販売促進のために資金提供を受けたソーシャルメディアコンテンツを使用しながらその事実を開示しない
- 病気・機能不全・奇形を治療できると虚偽の主張をする
- 事業者が取引目的で行動していないと偽る、または消費者として振る舞う
誤解を招く不作為とは、消費者が情報を提供されなかったために、本来なら行わなかったであろう決定を下す原因となる商慣行を指します。これには、消費者が情報に基づいた決定を下すために重要な情報を省略、隠蔽、または不明瞭もしくは不適時に提供する行為、および商慣行の商業的意図を特定できない場合にその意図を特定しない行為が含まれます。消費者に提示すべき情報として、製品またはサービスの主要な特性、事業者の住所と身元、価格(税金、追加費用を含む)、支払い・配送・苦情処理の取り決め、契約解除権の有無などが挙げられます。
攻撃的な商慣行
攻撃的な商慣行(Aggressive commercial practices)は、ハラスメント、強制(物理的な力を含む)、不当な影響力によって、平均的な消費者の自由な選択を著しく損なうか、損なう可能性のある商慣行を指します。具体的には、消費者の住居を訪問して接触し、退去要求に応じない、または再訪しない(契約上の義務を強制するために正当化される場合を除く)、電話、FAX、メール、その他の電子的手段または遠隔メディアによる不要または一方的な連絡を執拗に行う(契約上の義務を強制するために正当化される場合を除く)、消費者に製品やサービスの即時または繰延支払いを要求したり、トレーダーから供給された未請求の製品を返却または保管するよう要求したりする、消費者が製品やサービスを購入しないと、トレーダーの仕事や生活が危うくなると明示的に伝えるといった行為が該当します。
これらの行為は、客観的な基準で判断しにくい主観的な要素(例:「執拗さ」、「不当な影響力」)を含むため、解釈が難しい場合があります。ポルトガルでの営業・販売活動においては、従業員に対し、ポルトガル法の「攻撃的な商慣行」に該当しないよう、具体的な行動規範を徹底させる必要があります。
ポルトガルの税法
ポルトガルの法人所得税率と中小企業向け優遇措置
ポルトガルの法人所得税(Corporate Income Tax, IRC)の通常税率は21%です。これに加えて、地方自治体による最大1.5%の地方追加税(municipal surcharge)が課される場合があります。さらに、利益が150万ユーロを超えると3%、750万ユーロを超えると5%、3500万ユーロを超えると9%の州追加税(state surcharge)が課されます。
中小企業(SMEs)向け優遇措置として、中小企業に認定された場合、課税所得の最初の50,000ユーロに対して16%の軽減税率が適用されることがあります。スタートアップ企業として認定される場合、この軽減税率は12.5%にまで低下する可能性があります。
簡易税制は、年間売上高が20万ユーロ未満の小規模事業者や個人事業主は、利益ではなく売上高に基づいて事業税を支払う簡易税制を選択できます。
税務申告は、法人税申告は毎年4月16日から5月16日の間に行われます。
不動産取得・保有に関する税金
不動産譲渡税(Imposto Municipal sobre Transmissões Onerosas de Imóveis, IMT)は、不動産取得時に課され、物件価値に応じて1%から8%の累進課税です。100万ユーロを超える物件には7.5%の税率が適用されます。印紙税(Imposto do Selo)は、不動産取得時に課され、購入価格の0.8%の固定税率です。年間固定資産税(Imposto Municipal sobre Imóveis, IMI)は、不動産の評価額に基づいて課される継続的な税金で、0.3%から0.8%の範囲です。VAT(付加価値税)は、不動産を資産として購入する場合、IMT、印紙税、VATが適用される場合があります。
暗号資産に対する課税の現状と特徴
ポルトガルは、以前は「暗号資産のタックスヘイブン」として知られていましたが、近年税制が進化しています。
キャピタルゲイン税は、365日以上保有された暗号資産のキャピタルゲインは、その活動がプロフェッショナルまたはビジネス関連とみなされない限り、非課税となる可能性があります。365日未満の短期保有のキャピタルゲインは、28%の固定税率で課税されます。
VAT(付加価値税)は、商品やサービスに対する暗号資産での支払いはVATが免除されます。
法人税は、暗号資産の取引やマイニングを行う企業は、所得税を支払う必要があります。暗号資産関連サービスを提供する企業は、28%から35%のキャピタルゲイン税の対象となります。
ポルトガルの労働法

ポルトガルの労働法は、労働者の権利保護に重点を置いており、特に雇用契約の終了に関しては厳格なルールが設けられています。これは、日本の労働法と比較して、解雇の難易度や手続きの面で重要な相違点があります。ポルトガルの労働法は、ポルトガル労働法典(Labor Code, Law no. 7/2009, as amended)に規定されています。
ポルトガル労働法の主要な規定
労働時間は、通常の労働時間は1日8時間、週40時間を超えてはなりません。残業を含む週平均労働時間は、4ヶ月の参照期間で48時間を超えてはなりません。
有給休暇は、従業員は年間22労働日の有給休暇を取得する権利があります。最初の1年間は1ヶ月あたり2日、最大20日を付与されます。6ヶ月未満の契約の場合、1ヶ月あたり2日が付与され、契約終了直前に利用可能です。休暇の代わりに金銭補償を受けることは禁止されています。
最低賃金は、2024年の最低賃金は月額820ユーロです。最低賃金の不払いは重大な違反とみなされ、罰金が科されます。
社会保障として、雇用主は従業員の賃金の23.75%を社会保障費として拠出し、従業員は11%を拠出します。
試用期間は、試用期間中の解雇にも通知期間が必要です。60日を超える試用期間では7日、120日を超える試用期間では15日の通知が必要です。
雇用契約の終了に関する厳格なルール
ポルトガルでは、雇用主は「正当な理由(just cause)」なしに一方的に雇用を終了することはできません。解雇は、客観的または主観的な理由に基づき、労働法典に定められた実体的および手続き的要件を遵守して行われる必要があります。
正当な理由(Just Cause)には、従業員の重大な非行(例:命令不服従、安全衛生規則違反、虚偽報告、会社の財務への重大な損害、同僚との紛争の繰り返し、職務遂行への関心の欠如、職場での暴力・侮辱、信頼の裏切り、故意のパフォーマンス低下、アルコール・薬物中毒など)や、客観的理由(冗長性、適応能力の欠如など)が挙げられます。
解雇予告期間(Notice Period)は、雇用主が解雇する場合、従業員の勤続年数に応じて以下の予告期間が必要です。1年未満の場合は15日、1年以上5年未満の場合は30日、5年以上10年未満の場合は60日、10年以上の場合75日です。試用期間が60日超の場合7日、120日超の場合15日です。労働契約または労働協約でこれより長い期間が定められている場合は、それに従います。
退職金(Severance Pay)は、客観的理由(冗長性など)による解雇の場合、従業員は退職金を受け取る権利があります。退職金は、勤続年数1年につき基本給+勤続手当の12日分に相当します。退職金算定の基礎となる月給は、最低賃金の20倍(2023年で15,200ユーロ)を超えることはできません。総退職金は、月給の12倍、または最低賃金の240倍(2023年で152,400ユーロ)を超えることはできません。退職金は、社会保障が管理する基金によって一部カバーされます。
懲戒解雇の場合、雇用主は補償を支払う義務がなく、予告期間も不要ですが、厳格な懲戒手続きに従う必要があります。
解雇手続きの厳格性として、雇用主は、解雇の理由を従業員に書面で通知し、労働当局にも通知する厳格な協議・通知プロセスに従う必要があります。従業員は解雇通知受領後5日以内に解雇停止の差止命令を求め、60日以内に裁判所で異議を申し立てることができます。手続きの不遵守は、解雇を違法とし、無効とされる可能性があります。
集団解雇は、3ヶ月以内に5人以上(従業員50人未満の企業では2人以上)を解雇する場合に集団解雇と定義され、特定の理由(会社の一部門の閉鎖、市場・構造・技術的理由による従業員数削減など)が必要です。労働組合や従業員委員会が協議プロセスに関与する場合があります。
従業員による退職の場合も、勤続年数に応じて30日または60日の予告期間が必要です。
まとめ
日本企業がポルトガル市場に展開する際には、多岐にわたる法的課題に直面する可能性があります。会社設立においては、Ldaのような柔軟な形態が迅速な市場参入を可能にする一方で、SAのような大規模企業向けの形態ではEU基準に沿った複雑なガバナンス体制の構築が求められます。海外資本からの投資規制では、特定の「戦略的資産」に対する審査メカニズムが存在し、強制的な届出義務はないものの、任意での事前確認申請がリスク軽減に繋がります。広告規制では、EUの不公正商慣行指令に基づく広範な規制が適用され、特に「攻撃的な商慣行」の解釈には注意が必要です。最後に、労働法は労働者保護に重点を置いており、解雇の厳格な要件や手続き、法定の退職金制度など、日本の労働法とは異なる重要な側面があります。
ポルトガル市場への進出の際には、こうした複雑な法的環境への対応が必要となります。日本企業の皆様がポルトガルでのビジネスを成功させるためには、早期に専門家と連携し、潜在的な法的リスクを最小限に抑えることが重要です。
関連取扱分野:国際法務・海外事業
カテゴリー: IT・ベンチャーの企業法務