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補助金不正受給に「協力」した外部業者が刑事責任を問われた新潟地裁平成28年7月8日判決

補助金や助成金の不正受給が社会問題となっています。不正受給はさまざまな手口で行われていますが、一つの類型は、支出金額を「水増し」した上で申請を行う手口です。これは、補助金の多くは、「実際に支出した金額の●%を補助する」といった仕組みになっているため、「実際に支出した金額」を水増しすることで、受給金額を水増しすることができてしまうためです。そして、このような不正受給は、多くの場合、外部業者の「協力」によって行われています。

ただ、こうした外部業者は、自分自身が(も)刑事責任を問われるリスクを負っています。

「事業主体に依頼された通りにやっただけ」「自社の売上を少し伸ばしたかっただけ」といった動機で補助金や助成金の不正受給に「協力」という形で加担してしまうと、それは「補助金等に係る予算の執行の適正化に関する法律(補助金適正化法)」違反の共同正犯として、拘禁刑を伴う重大な刑事事件として扱われます。

本記事では、実際に国の補助金を財源とする間接補助金を不正受給した刑事裁判の判決(新潟地判平成28年7月8日)を、不正に加担した「元請業者代表(被告人)」の視点から詳細に分析します。この事案では、2315万円の不正受給が認定され、元請業者代表に対して懲役1年、執行猶予3年という有罪判決が下されました。

重要なポイントとして、この裁判の被告人は、不正受給を受け取った事業者でも、その不正受給スキームを考案したコンサルタント等でもなく、不正受給に「協力」を行い、後述するように60万円の報酬を受け取った外部業者です。この立場の者も刑事責任を問われるというのが、補助金・助成金の不正受給の構造です。

補助金不正受給で外部協力者(元請業者)が「共同正犯」になるリスク

外部協力者(元請業者)が「共同正犯」になるリスク

不正受給における元請業者代表の役割

本件は、魚介類加工・卸売業を営む会社(事業主体会社)が佐渡市で行った水産物加工施設整備事業において、国の補助金を財源とする佐渡市農林水産業振興事業補助金(間接補助金等)を不正に受給した事案です。

不正の構図の中心にあったのは、事業経費を水増し申告し、真実交付されるべき額(2850万7000円)を大幅に超える5165万7000円を受領し、結果として2315万円を不正に受給した点です。この不正において、元請業者代表(被告人)は、事業主体会社の関係者(事業主体実質統括者、事業主体佐渡統括者など)と「共謀の上」犯行に及びました。

裁判所は、元請業者代表が単なる手伝いではなく、犯行において最も重要な役割の一つを果たしたと認定しています。具体的には、元請業者代表が経営する会社が本件事業の元請業者となり、以下の行為を実行したとされています。

被告人は、本件事業の元請業者となることを引き受け、金額を水増しした見積書や内容虚偽の領収書等といった、補助金の交付決定に当たって佐渡市が重要な判断資料とした書類を作成しており、本件犯行において重要な役割を果たしている。

新潟地裁平成28年7月8日判決

「依頼されただけ」でも共同正犯の責任を問われる

補助金不正事案の大きな特徴は、事業主体、その内部の人間、そして外部の協力業者を含む複数の当事者が「共同正犯」として扱われる点にあります。

元請業者代表は、事業主体会社の関係者と「共謀の上」不正行為を実行しました。たとえ事業主体から「経費を水増ししたいので協力してほしい」と依頼されただけであっても、不正受給という犯罪全体に対する責任を負うことになります。

裁判所が補助金不正受給の悪質性を判断した動機と手口

裁判所は、不正への加担が「計画的かつ巧妙で悪質な犯行である」と断罪する上で、元請業者代表(被告人)の具体的な行為と、犯行に至った動機を厳しく評価しました。

虚偽の領収証作成

不正行為の中心となったのは、虚偽の書類を作成し、経費を水増しした点です。特に、元請業者代表(被告人)が実行した以下の行為は、不正の意図を裏付ける決定的な証拠となりました。

真実は本件事業の工事の一部を請け負ったb社(元請業者会社)がa社(事業主体会社)から同工事代金の内金として現金3800万円を受け取った事実がないのに、「受け取ったとする内容虚偽のb社発行の領収証をファックス送信」した。

新潟地裁平成28年7月8日判決

補助金の実績報告においては、経費が実際に発生し、支払われたことを示す客観的な証拠(領収証や振込証明)が不可欠です。実際には金銭のやり取りがないにもかかわらず、虚偽の領収証を作成・提出した行為は、佐渡市を欺き、不正な交付を確定させた直接的な原因であり 、裁判所から「計画的かつ巧妙で悪質な犯行」と認定される根拠となりました。

「会社の売上」と「60万円の報酬」

「断れなかった」という経緯や動機は、裁判でどれほど考慮されるのでしょうか。元請業者代表(被告人)については、「共犯者らから本件事業への協力を執拗に迫られて本件犯行に加担したという側面」は認められました。

しかし、裁判所は、以下の事実を重視し、動機に多くを酌量することはできないと判断しています。

  • 自己の利益追求:「結局は自己が経営する会社の売上げを伸ばしたいと考えて本件事業の元請業者になることを引き受けた」。
  • 具体的な報酬の受領:犯行後には「60万円の報酬を受けている」。

外部からの圧力があったとしても、最終的に自己の金銭的利益(売上増と報酬)を得るために不正に加担した事実は、裁判では「共犯者」としての責任を追及される際の重い証拠となります。本件で元請業者が直接的に得た報酬はわずか60万円でしたが、結局、不正受給に協力することで会社としての売上を得ているという構図はあり、裁判所はこの点を認定しています。

補助金不正受給の判決が下した結論と執行猶予

判決が下した結論と執行猶予

この事案において、元請業者代表(被告人)に言い渡された判決の主文は以下の通りです。

被告人を懲役1年に処する。この裁判確定の日から3年間その刑の執行を猶予する。

新潟地裁平成28年7月8日判決

元請業者代表が執行猶予付き判決を得られたのは、刑事弁護における「情状酌量」を求める努力があったからです。特に評価されたのは、「被害の回復に努めており、反省の態度も認められる」という点でした。

  • 被害弁償の実行:被告人は「親族の援助により60万円の被害弁償金を市に支払って被害の回復に努めており」とされました。
  • 罪の早期認容:被告人は「当初から罪を認め」ていた。
  • 社会復帰環境の整備:「同居する妻や現在の雇用主が社会復帰後の被告人を監督する旨を証言した」ことが、早期更生が期待できる要素として考慮されました。

刑事弁護において、事実の否認は量刑上極めて不利に働きます。虚偽書類を作成し、不正に加担した事実を隠蔽せず、早期に事実を認め、誠実な反省の態度を示すことは、実刑回避のための必須条件です。また、家族や現在の雇用主による監督体制の証明は、再犯可能性の低さを示す客観的な証拠となります。

まとめ:補助金不正受給に関する相談は弁護士へ

本判決の教訓は、事業主体からの依頼や圧力があったとしても、虚偽書類の作成に加担した時点で、主犯と同じ「共同正犯」として懲役刑を問われるリスクがあるということです。

もし貴社が不正受給の事態に直面している、または捜査の兆候を感じ取っている場合、最も重要なのは、行政対応と並行して刑事弁護を迅速に進めることです。実刑を回避し、執行猶予を勝ち取るためには、以下の3点を一刻も早く実行する必要があると言えるでしょう。

  • 事実の早期認容と弁護士を通じた捜査への協力:虚偽答弁をせず、事実をすべて認め、反省を示すこと。
  • 被害弁償計画の策定と実行:自己の財力で可能な限り早期に被害弁償を開始し、反省の具体的な証拠とすること。
  • 社会復帰・更生環境の整備:家族や雇用主と連携し、再犯防止のための監督体制を整えること。

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モノリス法律事務所は、IT、特にインターネットと法律の両面に高い専門性を有する法律事務所です。当事務所では、東証プライム上場企業からベンチャー企業まで、ビジネスモデルや事業内容を深く理解した上で潜在的な法的リスクを洗い出し、リーガルサポートを行っております。下記記事にて詳細を記載しております。

弁護士 河瀬 季

モノリス法律事務所 代表弁護士。元ITエンジニア。IT企業経営の経験を経て、東証プライム上場企業からシードステージのベンチャーまで、100社以上の顧問弁護士、監査役等を務め、IT・ベンチャー・インターネット・YouTube法務などを中心に手がける。

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