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法律記事MONOLITH LAW MAGAZINE

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職務著作とは?争いになった裁判例・判例を解説

法人著作性が争われた事例を弁護士が解説

当サイトの別記事で解説しましたが、著作権法では、一定の要件を満たすときには、創作者を雇用している法人に著作権が帰属し、かつ当該法人が著作者になると定めています。これを、職務著作(または法人著作)といいます。

職務著作が成立するのは、以下の要件を満たす場合となります(著作権法第15条1項)。

・著作物の創作が、法人等の発意に基づくものであること
・法人等の業務に従事する者が職務上作成するもの
・その法人等の著作名義で公表するもの
・契約、勤務規則その他に別段の定めがないこと

要件を満たしているかどうかの判断によって、裁判では職務著作を認めない場合も多いのですが、それぞれの要件がどのように判断されているのかを、実際の裁判例で見てみましょう。

「法人等の発意に基づく」ものと認められなかった場合

著者が法人の社員であるからといって、その著作物の著作権が法人に帰属するとは限りません。

医療・福祉機関の経営指導・支援を行う株式会社が、退職した社員が在職中に出版した書籍について職務著作権を有するとして、出版、販売及び頒布の差止め等を求めた事例があります。

本件で問題となった書籍は、実務向けのマニュアル書籍等を発行する出版社であるアーバンプロデュースが在職中であった被告に対し執筆の依頼をした、病院の経営管理に関する書籍で、被告は他の従業員数人に、章の執筆を依頼しつつ、全体を執筆しました。

裁判所は、本件著作物は被告が原告の従業員として勤務していた期間に執筆した原稿を合わせたものであることを認めた上で、本件著作物が「原告の発意に基づき」、原告の従業員が職務上作成したものといえるか否かについて検討しましたが、

  • 本件書籍の執筆の依頼は、アーバンプロデュースから直接被告に対して行われたものである
  • 原告が被告書籍の出版を知るまで、被告以外に、原告内部において本件書籍に関してアーバンプロデュースと連絡を取った者はいない
  • 原告とアーバンプロデュースとの間において本件書籍の執筆についての契約書は作成されていない
  • 原告内部において、原告がアーバンプロデュースから本件書籍の執筆の依頼を受けたことを示す業務依頼書や業務受託報告書等の書類も作成されていない
  • 被告が原告を退職する際に、原告内部において本件書籍の執筆作業の今後の取扱いについて何らの決定もされておらず、その後、執筆作業は一切行われていない
  • 本件書籍は最終的に被告の著作名義の書籍として公表され、書籍の原稿料はアーバンプロデュースから被告個人に対して支払われている

等をあげ、

以上説示したところによれば、本件書籍の執筆がアーバンプロデュースから原告に対し依頼されたものと認めることはできず、かえって、本件書籍の執筆は、アーバンプロデュースから被告個人に対し依頼されたものであり、各執筆担当従業員は被告からの個人的な依頼に基づき執筆を行ったものと認めるのが相当である。そうである以上、本件書籍の執筆過程で作成された著作物である本件著作物は、原告の発意に基づき、職務上作成されたものであるということはできない。

東京地方裁判所2010年9月30日判決

とし、職務著作としての「法人等の発意に基づく」という要件を満たしておらず、必然的に職務上作成されたものとも認められないので、原告の職務著作物とは認められないとし、請求を却下しました。

著者が法人の社員であるからといって、その著作物の著作権が法人に帰属するとは限りません。「法人等の発意に基づく」を検討するに際しても、この裁判例のように、様々な事情が総合的に考慮されます。

「法人等の業務に従事する者」と認められなかった場合

フリーカメラマンが「法人等の業務に従事する者」とするには法人等の指揮監督下において労務を提供するという実態も重要です。

「法人等の業務に従事する者」について、原審と控訴審とで判断が分かれた事例があります。

フリーのカメラマンであり個人で写真事務所を経営している控訴人(一審原告)が、被控訴人(一審被告)に対し、控訴人が撮影して提供した、レース場で走行中のオートバイを被写体とする写真(本件写真)につき、被控訴人がA社を通じてB社にその電子データを提供し、B社が控訴人の承諾なく自らのホームページやポスターに掲載したことから、上記写真についての著作権(複製権、譲渡権)及び著作者人格権(公表権、氏名表示権、同一性保持権)の侵害を理由とする損害賠償を請求したところ、原審が被告による指揮命令の存在を認めて職務著作であるとして請求を棄却したことから、控訴人が控訴しました。

控訴審において裁判所は、「『法人等の業務に従事する者』に当たるか否かは、法人等と著作物を作成した者との関係を実質的にみたときに、法人等の指揮監督下において労務を提供するという実態にあり、法人等がその者に対して支払う金銭が労務提供の対価であると評価できるかどうかを、業務態様、指揮監督の有無、対価の額及び支払方法等に関する具体的事情を総合的に考慮して、判断すべきものと解するのが相当である」(最高裁判所2003年4月11日判決)という判例を引用しつつ、

上記見解に立って本件をみるに、前記のとおり、控訴人は被控訴人の被用者ではなく、フリーのカメラマンとして個人で写真事務所を経営しているものであること、本件各走行会において控訴人は、本件写真販売事業においては控訴人の一般的指揮の下に撮影を行ったが、撮影に当たってはプロのカメラマンとしてこれを実施した(中略)控訴人は基本的には被控訴人との契約に基づきプロの写真家として行動していた者であり、被控訴人の指揮監督の下において労務を提供するという実体にあったとまで認めることはできない。

知的財産高等裁判所2009年12月24日判決

として、「法人等の業務に従事する者」であったとして職務著作とする被控訴人の主張を否定し、原判決を取り消しました。

プロの写真家として行動している人を、法人の指揮監督の下において労務を提供するという実体にあったのだと裁判所に認めてもらうことは難しいので、あらかじめ契約書を取り交わし、著作権の帰属を明確にしておくべきだったといえます。

「職務上作成するもの」と認められなかった場合

「職務上作成するもの」と認められなかった場合の事例を挙げていきます。

被告が所長を務める特許法律事務所に在職中に執筆した原告の原稿を、被告が「〇〇知的財産研究所」の名称で他の1名と共著として出版した書籍において、原告の氏名を表示せずに掲載するなどしたことから、原告が、被告に対し、被告の行為は原告の著作者人格権(氏名表示権、同一性保持権、公表権)を侵害するものであるなどと主張して、損害賠償を求めた事例があります。

裁判所は、原告は被告の経営する本件特許事務所に在職中に弁理士の資格を取得し、被告との契約により被告から年俸を支給され、本件特許事務所の仕事に従事する者なので、原告と被告との間に雇用関係が認められる、とした上で、執筆に至る事情を検討したのですが、

  • 執筆者は本件特許事務所の職員の間で任意参加の形式で募集し、これに応じた者から選ばれた
  • 原稿作成作業については、本件特許事務所の勤務時間外に行うべきことが被告により指示され、本件原稿も、当該指示に従って勤務時間外に作成された
  • 本件原稿の記載内容についても、被告から具体的指示がされたものではない
  • 数回の執筆者会議が開かれたが、原稿の具体的記載内容を決定したものではない

等をあげ、

本件書籍の出版は本件特許事務所の本来的な業務内容に含まれるものではなく、また、本件書籍のための原稿執筆は本件特許事務所において原告が日常担当する業務に直接含まれるものでもない。そして、本件原稿の執筆の行われた状況やその際における被告の関与態様、本件書籍の体裁、公表態様等に照らしても、本件原稿が、著作権法15条1項にいう「職務上作成する著作物」に該当するとは、到底認められない。

東京地方裁判所2004年11月12日判決

とし、「職務上作成するもの」に当たらないとして職務著作物とは認めず、著作権者である原告に対する被告による著作者人格権(氏名表示権)の侵害を認めました。著者が法人の社員であるからといって、その著作物の著作権が法人に帰属するとは限りません。「職務上作成するもの」を検討するに際しても、やはり、様々な事情が総合的に考慮されます。

「法人等の著作名義で公表するもの」と認められなかった場合

「法人等の業務に従事する者が職務上作成するもの」であったとしても、その著作物の著作権が法人に帰属するとは限りません。

被告会社の従業員であった原告が、在職中に被告工業会主催の講習会に派遣されて講師を務めた際、講習資料として作成した資料「平成12年度計装士技術維持講習」につき、著作権侵害等の訴えを提起した事例があります。

原告は、原告退職後に被告会社が原告の後任として上記講習の講師を務めた従業員に、12年度資料の複製等を行って「13年度資料」・「14年度資料」を作成させ、講習会において各資料の写しを受講者に配布するなどして、共同して原告の著作権(複製権、口述権)及び著作者人格権(氏名表示権、同一性保持権)を侵害したなどと主張して、損害賠償金等の支払いを求めたのです。

原告が12年度資料を作成したことは当事者間に争いがなかったのですが、被告らは、原告が被告会社の発意に基づき、被告会社の業務に従事する者として職務上作成したものであり、職務著作としてその著作者は被告会社であると主張したので、裁判所は12年度資料の作成経緯、内容等について検討しました。

そして、12年度資料の作成が被告会社の発意に基づくものであり、業務に従事する原告が職務上作成したものであることを認め、その上で、被告会社名義で公表され、又は、公表されるべきものであったかを検討して職務著作として、被告会社が著作者となるか否かについて判断するとしましたが、

維持講習の講習資料集の体裁は、前記のとおりであり、これによれば、12年度資料には、講師名として原告の氏名が表示されるのみであり、著作名義については、その表示がなされていないか、あるいは、講習資料集の表紙に表示されている被告工業会の著作名義と解すべきであり、被告会社の著作名義で公表されたと認めることはできない。(中略)以上からすれば、12年度資料は、被告会社の発意のもと、被告会社の業務従事者である原告が、職務上作成したものであると認めることができるが、被告会社名義で公表されておらず、公表されるべきものであったということもできないから、被告会社の職務著作とはいえず、被告会社がその著作者となるとは認められない。

東京地方裁判所2006年2月27日判決

と、被告会社名義で公表されていないし、公表されるべきものであったということもできないとして、被告会社の職務著作とはいえず、被告会社がその著作者となるとは認められないとしました。

「著作物の創作が、法人等の発意に基づくもの」であり、「法人等の業務に従事する者が職務上作成するもの」であったとしても、その著作物の著作権が法人に帰属するとは限りません。職務著作は、冒頭にあげた要因を全て満たしたときにだけ、認められます。

まとめ

法人等の経済的な負担において作成された著作物を当該法人等が利用するに当たっては、著作物の権利関係を集中し、明確にしなければ、その円滑な利用に支障を来す場合が多いと考えられるので、職務著作の規定が採用されたわけですが、あらかじめ権利関係を明確にしておくことが必要です。

職務著作を主張できるのか否か、あるいは職務著作を主張されているのだが認めざるを得ないのか否か、判断が難しい問題です。経験豊かな弁護士にご相談ください。

弁護士 河瀬 季

モノリス法律事務所 代表弁護士。元ITエンジニア。IT企業経営の経験を経て、東証プライム上場企業からシードステージのベンチャーまで、100社以上の顧問弁護士、監査役等を務め、IT・ベンチャー・インターネット・YouTube法務などを中心に手がける。

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