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著作権法の引用とは?適法に行うための4要件を解説

著作権法の引用とは?適法に行うための4要件を解説

メディア運営において、記事やコンテンツが他者の著作権を侵害していないかどうかを確認することは極めて重要です。侵害が認められた場合、法的なトラブルや損害賠償に発展するおそれがあります。

そこで重要となるのが「引用」という考え方です。著作権法では、一定の要件を満たす場合に、他者の著作物を自身の著作物の中で利用することが認められています。

本記事では、著作権の4つの引用要件を詳しく解説します。安全なメディア運営のために、引用のルールを正しく理解しましょう。

著作権とは

著作権とは

まず、そもそも、「著作権」とは、著作物について、著作者に認められる権利のことをいいます。著作権については、特許権のように登録等の手続きを行わなくとも、著作をした時点で、何らの手続きを要することなく当然に発生します。著作権は、認められるために、手続きを要しないことから、無方式主義と言われます。

他人の著作物を、無断で利用することは、原則として、著作権法に違反することとなります。そのため、他人の著作物を利用する際には、著作権法に違反しないように気を付ける必要があります。他人の著作物を適法に利用する方法として、権利者から、著作物の利用について「許諾」を得るという方法があります。この「許諾」を得る契約については、一般的に、ライセンス契約といわれます。

許諾を得なくても他人の著作物を利用することができる方法

上記では、許諾を得て他人の著作物を利用する方法を紹介しましたが、許諾を得なくても他人の著作物を利用できる方法があります。例えば、以下のような関係では、許諾を得なくても他人の著作物を利用することが可能です。

  1. 私的利用・付随対象著作物の利用等
  2. 教育関係
  3. 図書館・美術館・博物館等の関係
  4. 福祉関係
  5. 報道関係等
  6. 立法・司法・行政関係
  7. 非営利・無料の場合の上演・演奏・上映・口述・貸与等の関係
  8. 引用関係
  9. 美術品・写真・建築関係
  10. コンピューター・ネットワーク関係
  11. 放送局・有線放送局関係

著作権の制限には、重要な意義があります。文化の発展には、過去の著作物からの学びや活用が欠かせません。過度な保護は、創作活動を妨げる懸念があるため適切なバランスが必要です。

ただし、無条件の利用は著作権者の利益を損ないます。そのため、利用範囲を制限することで、権利保護と文化発展の両立を図っています。

著作物を適法に利用することができる「引用」の要件とは

著作物を適法に利用することができる「引用」の要件とは

自社でメディアを運営する場合、他人の著作物を引用するケースがあります。「引用であれば許される」と漠然と考えている人もいますが、全ての引用が無制限に許されるわけではありません。著作権法に基づき、適法な引用の方法を守る必要があります。

文章であれ、YouTuberがアップする動画であれ、「誰かが何かを執筆した・言及した」といったことを取り上げ、それに対する意見論評などを掲載するケースがあります。こうしたケースに最も当てはまる、著作権者(つまりオリジナルの文章や発言を行った者)の許諾がなくてもなし得る著作物利用方法が、著作権法上の「引用」です。

著作権法第32条第1項では、引用は、以下のように規定されています。

公表された著作物は、引用して利用することができる。この場合において、その引用は、公正な慣行に合致するものであり、かつ、報道、批評、研究その他の引用の目的上正当な範囲内で行われるものでなければならない。

e-Gov法令検索|著作権法第32条第1項

他人の著作物の引用について、著作権法上の適法な引用として認められるためには、以下の要件を満たす必要があると考えられています。

すでに公表されている著作物であること(公表要件)

引用の対象となる著作物は、公表されている必要があります。未公表のものは、著作権者の意向が不明確であるため、原則として引用は認められていません。

公表とは、出版・上演・演奏・上映・公衆送信などにより、公衆(不特定または特定かつ多数の者)に提示された状態を指します。インターネット上にアップロードされた場合も、公表とされます。

報道や公式発表などで広く公開されている著名人の写真や出版された文献などは、公表済みであることが多いです。引用をする際は、事前にその著作物が公表されているかを確認する必要があります。

引用されていること(引用要件)

この要件は、下記のように、さらに2つに分けられます。

  1. 明瞭区分性:引用部分にカギ括弧をつけるなどして、引用部分と利用者が作成した部分とを、明瞭に区別できる必要があります
  2. 主従関係性(付従性):利用者の作成した部分が極めて少なく、ほとんどが他人の著作物であるような場合には、引用ということはできません。あくまで「引用する部分が従で、オリジナルの部分が主」という関係性が必要です。

このように、引用が認められるためには、引用部分と自身の著作物とを明確に区分し、自身の著作物が「主」引用が「従」となる関係性を保つ必要があります。中心となるのはあくまで自身の論述であり、引用はその補強や裏付けのために使われなければなりません。

なお、単に分量の多少だけで主従関係が判断されるわけではありませんが、引用が大半を占め自己のコメントがわずかである場合には、主従関係が崩れているとされることがあります。引用においては、明確な区別と主従関係の意識が重要です。

公正な慣行への適合性(公正慣行要件)

著作物を適法に引用するには、各分野で確立された「公正な慣行」に従う必要があります。これは、各分野で広く受け入れられている引用ルールに沿うことを意味します。

「絶対音感事件」(東京高等裁判所 平成14年4月11日判決)では、翻訳著作物を引用する場合には、原著作物だけでなく翻訳者名も明示すべきであると裁判所が判断しました。翻訳者名を記載しなかった被告の行為は、公正な慣行に反すると認定されたのです。

この判決が示す通り、適法な引用とするためには、単に引用部分を明確に区別するだけでは不十分です。著作物の種類に応じた適切な出所表示が必要であり、翻訳著作物の場合には原著者と翻訳者の両方を明記しなければなりません。

また、判決では出所の明示が不十分な場合、「公正な慣行」だけでなく、次に解説する「正当な範囲」も満たさないとされました。引用の適法性を確保するには、分野ごとの慣行を理解し、著作物の特性に応じた適切な対応が欠かせません。

参考:裁判例結果詳細|平成13(ネ)3677

事件番号平成13(ネ)3677
裁判年月日平成14年4月11日
裁判所名東京高等裁判所
権利種別著作権
訴訟類型民事訴訟

正当な範囲に属すること(正当範囲要件)

引用が適法と認められるには、引用の内容が正当な範囲内でなければなりません。正当範囲要件は、引用の目的や方法、引用する著作物の性質や量、さらに著作権者に与える影響などを総合的に考慮して判断されます。

具体的には、引用が必要とされる理由の有無や引用量の適正性、引用方法の適切性などです。これらは画一的に定められるものではなく、ケースごとに判断されます。

文章引用の注意点と著作権の引用要件

文章の引用について

他人の文章を引用する際には、上記の要件を満たしているかを確認する必要があります。特に、メディア運営等において気を付けなければならない要件は、上記正当範囲の要件です。メディア運営においては、引用を行わなくとも、自社で文章やコンテンツを作成することができるケースが多いと考えられます。また、ライターなどに依頼をし、文章やコンテンツを作成することができます。

たしかに、「報道、批評、研究」などでは、他人の文章を引用すべき必要性が認められる範囲は広いものと考えられますが、メディア運営においては、扱う内容にもよるものの、必ずしも引用が必要ではない場合も多いものと考えられます。そのため、正当範囲の要件を満たさないと判断される範囲も広いと考えられます。メディア運営において他人の文章を利用する場合には、著作権法上認められている「引用」の要件を満たしているかを確認するか、権利者の許諾を得るようにしてください。

関連記事:引用がNGとされる「著作権法」の事例について(文章・画像編)

画像利用時の注意点と著作権の引用要件

作品の画像等については、原則として、著作物となりますので、著作権者の承諾が必要となります。例外的に、著作権法上の「引用」にあたる場合には著作権者の承諾が不要となります。画像の場合に問題とされることが多いのは、引用要件の主従関係性です。例えば、他人の撮影した写真、描いた絵画、イラストなどをメインで掲載し、それに対するコメントを「オマケ」のように付け足すといったケースでは、「画像の方が主でコメントは従である」と判断され、適法な引用とは認められない可能性が高いと言えます。

ただ、「引用」にあたるかどうかの判断基準は明確なものではありません。明らかに引用にあたるといえない限り、引用元の表示に加え、著作権者の承諾を得ておく方がよいでしょう。画像データの元になるものが、作品自体ではなく、これを撮影した写真などである場合には、作品自体の著作者の承諾に加え、その写真の著作者の承諾も必要になることがありますので注意が必要です。

また、写真については、被写体が人物であれば肖像権やプライバシー権が認められる可能性があり、芸能人等の有名人であればパブリシティ権が認められる可能性があります。そのため、これらの権利との関係で権利者の許諾が必要となる可能性もありますので、著作権法上、引用の要件を満たしている場合でも、肖像権、プライバシー権及びパブリシティ権との関係で問題がないかを確認するようにしましょう。肖像権やパブリシティ権については以下の記事にて詳しく解説しています。

関連記事:肖像権侵害で損害賠償請求となる基準や流れを解説

関連記事:パブリシティ権とは?肖像権との違いや権利侵害になる場面を解説

動画内引用の適法性と著作権問題

また、最近では、例えばYouTube動画内で他のYouTube動画を引用する、何らかのメッセージを伝える動画を作成するために他人の作成した音楽をBGMなどの形で「引用」する、といった形で、動画内で行われる引用行為の適法性が問題となるケースも増えてきました。この点に関する裁判例は、以下の記事にて紹介しています。

関連記事:動画の引用が許される場合とは?著作権法上の要件と裁判例を解説

翻訳と要約の引用時に注意すべきポイント

翻訳と要約の引用時に注意すべきポイント

引用は原則として原文のまま行うべきとされていますが、翻訳や要約といった改変を伴う引用も、一定の条件を満たすことで適法と判断される場合があります。

翻訳による引用は著作権法で明確に認められており、翻訳者自身が翻訳したものであることを明記すれば問題は生じません。

一方、要約引用では、元の著作物における表現上の特徴が強く残る場合には「翻案」と判断され、著作権侵害となる可能性もあるため注意が必要です。ただし、過去の裁判例では、全文引用の必要性がないケースでは、要約による引用を適法とされた例もあります。

このように、翻訳引用は法律に基づいて明確に認められています。要約引用についても、状況次第では適法と判断される可能性がありますが、原文の趣旨を損なわないよう慎重な対応が必要です

「禁引用」表記でも著作権法の要件を満たせば引用が可能

著作物について、「禁引用」などと表記されていることがあります。このような記載がある以上、引用をすることは違法であると考える人がいます。しかし、この「禁引用」との記載は、事実上の意味を持つに過ぎず、法的な意味を持つものではありません。そのため、著作権法上の引用の要件を満たせば、「禁引用」の表記があったとしても引用をすることは適法となります。

言い換えれば、「著作権者の個別具体的な許可(ライセンス契約)を受けなくても、一般ルールとしての禁止(禁引用)が明記されていたとしても、それでもなお著作権法上の引用に該当すれば、適法にその著作物を利用することができる。

からこそ、「引用」はメディア運営にとって重要なのです。

まとめ:引用ルールを理解し、創作の幅を広げよう

以上、文章や画像を引用する際の正しいルールについて説明をしました。
著作権を侵害してしまうと、権利者から使用差止請求や損害賠償請求を受けるなどのリスクも考えられます。また、運営メディアの評価が下がるなどのレピュテーションリスクの問題もあります。そのため、軽い気持ちで著作権侵害を行わないように注意をする必要があります。著作物の引用については、本記事で紹介しているように、著作権法上規定されている要件を満たす必要がありますので、弁護士によるアドバイスを受けるということが望ましいといえます。

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モノリス法律事務所は、IT、特にインターネットと法律の両面に豊富な経験を有する法律事務所です。近年、著作権をめぐる知的財産権は注目を集めており、リーガルチェックの必要性はますます増加しています。当事務所では知的財産に関するソリューション提供を行っております。下記記事にて詳細を記載しております。

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弁護士 河瀬 季

モノリス法律事務所 代表弁護士。元ITエンジニア。IT企業経営の経験を経て、東証プライム上場企業からシードステージのベンチャーまで、100社以上の顧問弁護士、監査役等を務め、IT・ベンチャー・インターネット・YouTube法務などを中心に手がける。

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