メールアドレスのみの発信者情報開示請求は可能か?重要な裁判例を解説

インターネット上で誹謗中傷にあった場合、情報流通プラットフォーム対処法に基づいて、発信者(加害者)の情報開示請求が可能です。情報開示が認められれば、一般的には氏名、住所、電話番号やIPアドレスなどが特定できます。
ただし場合によっては、メールアドレスしか明らかにならないことがあります。具体的にはWebサイト作成のための会員登録時に、本人情報として、氏名などが提供されずメールアドレスだけが提供されるような場合です。このような場合、メールアドレスは、情報流通プラットフォーム対処法における発信者情報に該当するのでしょうか。
この問題に対する知的財産高等裁判所の2021年3月の、該当するという判断について、解説します。
この記事の目次
発信者情報開示請求の根拠となる情報流通プラットフォーム対処法とは
情報流通プラットフォーム対処法(正式名称:特定電気通信による情報の流通によって発生する権利侵害等への対処に関する法律)とは、インターネット上で名誉毀損や著作権侵害などの問題が生じた際の、プロバイダや掲示板管理者が問われる責任について規定した法律です。この法律では、管理下のインターネットサービスにおいて法や諸権利を侵害する悪質な書き込みがあった場合に、サービスを提供するプロバイダがその書き込みを削除できる権利や、書き込みについて管理責任を問われる範囲などが規定されています。
発信者情報開示請求における「発信者」の定義
情報流通プラットフォーム対処法第2条第5号では、発信者は、以下のように定められています。
情報流通プラットフォーム対処法第2条(定義)
5 発信者 特定電気通信役務提供者の用いる特定電気通信設備の記録媒体(当該記録媒体に記録された情報が不特定の者に送信されるものに限る。)に情報を記録し、又は当該特定電気通信設備の送信装置(当該送信装置に入力された情報が不特定の者に送信されるものに限る。)に情報を入力した者をいう。
と定義されています。つまり、発信者とは、ネット上に名誉毀損に該当する書き込みを行った者や、著作権を侵害する投稿を行った者のことをいいます。
発信者情報開示請求の対象となる「発信者情報」とは
情報流通プラットフォーム対処法第5条1項では、Webサイトなどによる情報の流通によって権利を侵害された者は、プロバイダなどに対して、権利を侵害する発信者についての情報開示を請求する権利を有しますが、総務省令(特定電気通信による情報の流通によって発生する権利侵害等への対処に関する法律施行規則)第2条が定める「発信者情報」には、以下のものがあります。
- 発信者その他侵害情報の送信に係る者の氏名又は名称
- 発信者その他侵害情報の送信に係る者の住所
- 発信者の電話番号(2020年8月31日改正省令により追加)
- 発信者の電子メールアドレス
- 侵害情報に係るIPアドレス、ポート番号
- 侵害情報に係る携帯電話端末・PHS端末からのインターネット接続サービス利用者識別符号
- 侵害情報に係るSIMカード識別番号
- 5~7の端末等から開示関係役務提供者の用いる設備に侵害情報が送信された年月日・時刻(タイムスタンプ)
氏名や住所はもちろんですが、メールアドレスも発信者情報に含まれます。
発信者情報開示請求における意見照会の仕組み
発信者のプライバシーなどが不当に害されるのを防止するため、情報流通プラットフォーム対処法では、プロバイダなどが発信者情報開示請求を受けたときは、発信者情報を開示するかどうかにつき、発信者の意見を聴取する義務を定めています。
情報流通プラットフォーム対処法第6条第1項
開示関係役務提供者は、前条第一項又は第二項の規定による開示の請求を受けたときは、当該開示の請求に係る侵害情報の発信者と連絡することができない場合その他特別の事情がある場合を除き、当該開示の請求に応じるかどうかについて当該発信者の意見(当該開示の請求に応じるべきでない旨の意見である場合には、その理由を含む。)を聴かなければならない。
発信者はこのときに、開示に対する意見を述べることができます。
発信者情報開示請求が認められるコンテンツ
発信者情報開示請求が認められるのは、法律上の要件を満たすコンテンツに限られます。
対象となるのは、不特定の者によって受信されることを目的とする電気通信(特定電気通信)であり、その流通による権利侵害が明らかで、かつ発信者情報の開示を受けるべき正当な理由がある場合です(情報流通プラットフォーム対処法第2条第1号、第5条第1項)。
具体的には、SNSや掲示板への投稿のように不特定の者が閲覧できる場での発信が該当し、メールやDMのような一対一の通信は、通常は対象外です。
そのうえで、以下のような権利侵害が生じている必要があります。
| 権利侵害の種類 | 権利侵害行為の例 | 成立・判断のポイント |
| 名誉権侵害 | 特定の人について投稿し、その社会的評価を低下させるおそれのある行為 | ・実名でなくても第三者が誰か特定できれば成立し得る ・内容が真実でも成立する場合がある ・公共性・公益目的があり真実(または真実と信じる相当理由)がある場合は違法性が否定されることがある |
| 名誉感情侵害 | 侮辱的表現により精神的苦痛を与える行為 | 社会通念上許される範囲を超える侮辱かどうかで判断される |
| プライバシー侵害 | 前科・逮捕歴など私生活上の情報を無断で公開する行為 | 私生活情報であり、公開が許される範囲を超えているかが判断基準 |
| 肖像権侵害 | 本人の写真や画像を無断で公開する行為 | 公開の必要性や態様が社会通念上相当かで判断される |
| 氏名権侵害 | 氏名の無断使用により本人と誤認されるおそれがある行為等 | 誤認のおそれや精神的苦痛が受忍限度を超えるかが基準 |
| 営業権侵害 | 営業を妨害する投稿など | 営業権侵害のみを理由に削除請求するのは原則困難、他の権利侵害と併せて検討が必要 |
| 知的財産権侵害 | 創作物の無断利用(著作権侵害) 商標の無断使用(商標権侵害) | 無断利用・無断使用の有無や態様により判断される |
サイトの利用規約やガイドラインに違反しているだけでは、通常、発信者情報開示請求の要件(権利侵害が明らかであること等)を満たしません。
規約違反については、まずはサイト管理者への通報により任意の削除が期待できる場合がありますが、管理者が応じないときは裁判で規約違反そのものを理由に削除を求めるのは難しいことがあります。
そのため、投稿が不特定の人に見られるものか、権利侵害が明らかといえるかを整理し、削除を求める場合は名誉権侵害などの法的な権利侵害として主張できるかを慎重に検討する必要があります。
発信者情報開示請求の手続きの流れ
発信者情報開示請求は、原則として2段階の手続きにより発信者を特定する仕組みです。誹謗中傷などの投稿について、最初の請求だけで氏名や住所まで判明することはなく、段階的に情報をたどる必要があります。
まず、SNSや掲示板などのサイト運営者に対し、投稿に用いられたIPアドレスやタイムスタンプなどの通信ログの開示を求めます。これらのログは保存期間が短いことが多いため、削除を防ぐ目的で裁判所の仮処分を利用するのが一般的です。
次に、開示されたIPアドレスをもとに、発信者が利用していた経由プロバイダを特定し、プロバイダに対して契約者の氏名や住所、メールアドレスなどの開示を求める本案訴訟の提起により、実際の発信者の身元を明らかにします。
なお、経由プロバイダがMVNO(移動体通信事業者から通信回線を借りてサービスを提供している事業者)である場合には、その回線元であるMNO(移動体通信事業者)への請求が必要となり、手続きが3段階になることがあります。
また、情報消去を防ぐためプロバイダに対してログ保存を求める仮処分を併せて申し立てることも必要があります。
このように発信者情報開示請求は、投稿先から通信契約元へと順に情報を遡りながら、最終的に発信者を特定していく流れとなっています。
なお、従来の手続きに代えて、裁判所を通じた発信者情報開示命令手続を利用することも可能です。詳しくは、発信者情報開示請求の新しい手続きについて解説したこちらの記事をご参照ください。
メールアドレスのみの場合の発信者情報に関する裁判事例

Webサイト上でメールマガジンを配信している原告が、自らのメールマガジンの内容が複製されて、サイト上で無断公開されているとして、被告である株式会社サイバーエージェントに対し、プロバイダ責任制限法(当時)に基づき、サイト開設者(以下、X)がサイトを作成するに当たって登録した情報の開示を求めました。
事案の概要
被告は、ブログその他インターネットを通じたメディア事業などを行っている法人であり、ドメイン「amebaownd.com」を保有し、だれでも無料でホームページなどのメディアを作成することができるサービス「Ameba Ownd」を提供しているプロバイダです。
このAmeba Owndに、氏名不詳のXが、サービスの提供を受けられる会員として登録し、Webサイトを開設しました。
ところが、このWebサイトに投稿された記事は、氏名不詳のXが原告作成のメールマガジンを複製し、不特定多数の者が閲覧できる状態に置いて公衆送信に供したものでした。そのことに対し、著作権(複製権、公衆送信権)が侵害されたとして、原告が発信者情報開示を求めました。その量は、A4判の用紙に印刷した場合、688頁にも及ぶ大量のものでした。
主な争点は、一般にメールアドレスは総務省令3号(当時)に見られるように、発信者情報となり得るということを前提として、Webサイトを開設するに当たって用いられた会員登録時のメールアドレス(登録時の本人情報として氏名などが提供されずに、メールアドレスなどが提供されるような場合のメールアドレス)が、発信者情報に該当するかどうかという点になりました。
1審は開示請求を棄却
1審は、前掲のプロバイダ責任制限法第2条4項(当時)で発信者を文言上明記した趣旨は、他人の権利を侵害する情報を流通過程に置いた者を明確に定義するためであり、第4条1項を受けた総務省令3号(当時)の発信者の電子メールアドレスの発信者についても、記録媒体に情報を記録し、又は送信装置に情報を入力した本人に限られるとして、登録時の本人情報として氏名などが提供されずメールアドレスなどが提供されるような場合には、登録者が真に本人のメールアドレスを提供したとすることには合理的疑いが残り、登録されたメールアドレスが本人のものであると認めることは困難であるから、この場合のメールアドレスは、発信者情報に該当しないと判断し、開示請求を棄却しました。
裁判所は、本件サービスの利用規約には、会員は本件サービスを利用する際に設定する登録情報に虚偽の情報を掲載してはならないと定められているが、登録情報の内容が当該会員本人の情報であることを確認するための方法を定めた条項はなく、かえって、登録情報に虚偽等がある場合や登録された電子メールアドレスが機能していないと判断される場合には、被告において、本件サービスの利用停止等の措置を講じることができるという定めが存在することからすると、本件サービスの会員ないし登録希望者が他人の情報や架空の情報を登録するおそれのあることがうかがわれる、としました。
また、本件サイトには、開設された時期以降に原告が創作したほぼすべてのメールマガジンが無断で転載されていることに照らせば、本件サイトはそのような違法な行為のために開設されたものであることがうかがわれるから、本件登録者が本件サイトを開設する際に他人の電子メールアドレスや架空の電子メールアドレスを登録した可能性は否定し難いともしています。
合理的疑いが残らないほどに、明確に発信者であると認められる場合にしか、情報開示は認められないという判断といえます。裁判所は、
原告は、インターネット経由プロバイダ等は投稿者を知り得ないから、「発信者」が厳密に投稿者であることを求めれば、「発信者のメールアドレス」が開示されることは法律上ほぼあり得ないこととなるとして、「発信者」には、厳密な意味での発信者に限られず、発信者である蓋然性のある者も含むべきである旨主張する。
しかし、省令3号の「発信者の電子メールアドレス」の意義については、前記説示のとおりであって、事柄の性質上、原告の上記指摘をもっても、「発信者」との文言につき法2条4項と離れた解釈を採用すべき合理的理由になるとはいえない。原告の上記主張は、独自の見解というべきであって、採用の限りでない。
東京地方裁判所令和2年6月25日判決
とし、発信者には「厳密な意味での発信者に限られず、発信者である蓋然性のある者も含むべきである」という原告の主張を、独自の見解であるとして、採用しませんでした。
なお、裁判所は、被告は本件登録者に意見照会を行っているが、仮に本件登録者にとって思い当たることがないのであれば、上記意見照会の結果としてそのような事情が得られていると思われるのに、そういった事情は一切現われていない、という原告の主張には、何も答えていません。

控訴審では真逆の判断
1審を不服として原告は控訴しましたが、控訴審は、Webサイトを開設するに当たって用いられた会員登録時のメールアドレスは発信者情報に当たると判断し、サイバーエージェントに対し、発信者の情報開示を命じました。
控訴審は、本件会員サービスへの登録の申請の際に必要となる情報は電子メールアドレス、任意のパスワード、生年月日及び性別などであり、本件登録手続者は上記登録に当たり、電子メールアドレスとして本件情報を入力して仮登録を完了し、当該アドレスに被控訴人から送信された本登録のための電子メールに記載されているURLをクリックして、本登録を完了するという手順を指摘しています。
また、本件サービスは、登録した会員において、登録時に設定したパスワードなどを入力しなければ利用できないサービスであるし、被控訴人(1審被告・サイバーエージェント)は、プロバイダ責任制限法第4条2項(当時)に基づく発信者への意見照会として、本件情報の電子メールアドレスに宛てて、意見照会のお知らせと題したメールを送信しているが、何ら返信はなく、送信エラーである旨の通知も受領していないのだから、本件会員サービスへの登録手続をした者と本件サービスの利用者とは、通常、同一人であると考えられるとしました。
被控訴人は、仮に本件サイトの開設当時には真に本件登録手続者本人の電子メールアドレスが登録されていたとしても、その後にID及びパスワードの譲渡などがされた可能性があると主張したのですが、控訴審は、これを抽象的な可能性をいうものにすぎず、具体的事情に基づく前記の認定判断を左右するものではない、ともしています。
これらの点を踏まえ、控訴審は、
本件登録手続者、本件会員及び本件投稿をした者は、いずれも同一人であると推認するのが合理的であり、この推認を覆すに足りる証拠はない。
したがって、本件情報が本件投稿をした者の電子メールアドレスであるということができ、本件情報は、法4条1項の「発信者情報」に当たるというべきである。
知的財産高等裁判所令和3年3月11日判決
とし、本件情報の開示を求める控訴人の本訴請求には理由があるとして、発信者情報の開示を命じました。
なお、被控訴人は本件サービスに関し、複数人による管理や更新の可能性についても主張していたのですが、これも抽象的な可能性をいうものにすぎず、本件の具体的事情に基づく認定判断を左右するものではないし、本件登録手続者が他の者と共同して本件投稿をした場合でも、そのことをもって本件情報がプロバイダ責任制限法第4条1項(当時)にいう発信者情報に当たらないとはいえない、としています。

まとめ:投稿者特定のための開示請求は弁護士に相談を
控訴審である知的財産高等裁判所の判断は、Webサイト作成のための会員登録時に、本人情報として、氏名などが提供されずメールアドレスが提供されるような場合でも、メールアドレスは、情報流通プラットフォーム対処法における発信者情報に該当するというものでした。
おおよそ同じ事情を認定していながら1審と控訴審とで判断が分かれたものであり、興味深い事例となりましたが、控訴審はより具体的な事情に基づいて判断を示したものであるといえ、今後同様の事例において参考になると考えられます。
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