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法律記事MONOLITH LAW MAGAZINE

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令和7年成立の「譲渡担保法」とは?譲渡担保・所有権留保、ABLとの違いを解説

経済活動が多様化・複雑化するなか、機械や在庫、売掛金といった「動産・債権」を担保にする取引が増えています。

例えば、企業が持つ機械設備や在庫などを担保として(法形式上は譲渡して)融資を受ける「譲渡担保」や、自動車ローンのように代金が完済されるまで売り主が所有権を持ち続ける「所有権留保」といった取引です。これらは従来から広く使われている一方で、取引ルールが明文化されておらずトラブルになる懸念がありました。

こうした背景から、令和7年5月に新たに「譲渡担保法」(譲渡担保契約及び所有権留保契約に関する法律)が成立しました。譲渡担保法は、「公布から2年6ヶ月以内」に施行されると定められているため、遅くとも令和9年(2027年)の12月までには施行されることになります。

本記事では、この譲渡担保法と、「譲渡担保」「所有権留保」の基本的な仕組み、そして従来のABL(動産・債権担保融資)との違いを分かりやすく解説します。

法律案成立の背景と概要

法律案成立の背景と概要

これまで日本では、譲渡担保や所有権留保は明文に関する法規が存在しないまま、実務慣行と判例によって運用されてきました。特に譲渡担保については、形式的には所有権の移転を伴う契約でありながら、実質的には担保の性質を持つという二面性が、利用のハードルとなってきました。ここでは、譲渡担保や所有権留保とは何かについて解説します。

 参考:法務省|「譲渡担保契約及び所有権留保契約に関する法律」(譲渡担保法)について

譲渡担保とは

譲渡担保とは、債権者が、債務者または第三者から目的物の「形式的な所有権」を譲り受けることで、担保的な効力を持たせる契約形態です。実務上では主に動産や債権を目的物とし、返済が完了すれば所有権は再び債務者に戻される形で運用されてきました。

譲渡担保は、質権と異なり、占有の移転が不要である点が特徴です。質権の場合、債権者が目的物を占有する必要がありますが、譲渡担保では債務者が目的物を引き続き使用・処分することが可能です。

このため、事業用資産を担保としながらも、事業活動を継続できるという大きな利点があり、特に中小企業の資金調達手段として重要視されてきました。一方で、所有権を形式的に移転するという構造から、所有権の所在、第三者対抗要件、優先順位等において法律的に不明確な部分が多く、紛争の原因にもなっていました。

所有権留保とは

所有権留保とは、売買契約において、売主が買主に商品を引き渡した後も、代金が全額支払われるまで「所有権」を売り主にとどめておく(留保する)契約形態です。実務では主に動産売買に利用され、特に割賦販売などで広く用いられてきました。

この契約では、買主が商品を占有し使用することができる一方で、完全な所有権は売主に留まるため、代金未払い時には商品を引き上げることが可能です。譲渡担保と異なり、所有権の留保を通じて担保的効力を持たせる点が特徴です。

所有権留保は、買主にとっては代金を分割で支払える柔軟性があり、売主にとっては回収不能リスクを軽減する手段として機能します。ただし、第三者に対する対抗要件の具備や、倒産時における取扱いなど、法的な整備が求められる点も多く、実務上の注意が必要です。

譲渡担保法の3つのポイント

令和7年改正の重要ポイント

本法では、これまでの判例理論を整理・明文化する形で、譲渡担保契約および所有権留保契約の法的性質や効力を定義しています。特に重要な改正ポイントは以下の3点です

 対抗要件及び他の担保権との優劣

契約は、当事者の間でのみ効力を有するのが原則ですが、契約の効力を、第三者に及ぼすためには、別途対抗要件が必要です。

従来は、譲渡担保権の対抗要件については、動産であれば引渡し(民法第178条)、債権であれば債務者への通知または承諾(民法第467条第1項)とされてきました。加えて、登記制度を活用すれば、引渡しがあったものとみなされます(動産・債権譲渡特例法第3条、第4条)。そして、他の担保権との関係では、対抗要件を備えた時点の先後で、担保権の順序が決定されることとなりました(同法第32条、第49条、第55条)。

しかし、占有改定による引渡し(民法第183条)は外形的にはわかりにくい(公示性が乏しい)ため、譲渡担保法では占有改定による対抗要件は他の担保権に劣後する(譲渡担保法第36条第1項)ことが定められました。また、同じ取引や関係から生じた関連性のある債務(牽連性のある債務)については他の債務より例外的に優先されることとなりました(同法第31条、第37条)。

複数順位の設定が明文上可能となったこと

従来は、譲渡担保における複数順位の設定は、判例上は認められていたものの(最判平成18年7月20日)、明文の法的根拠がなく登記制度も未整備でした。そのため、複数の譲渡担保権が設定された場合、優先順位の判断が困難で、紛争の原因となることがありました。このため、信託や私的契約で対応することとなり、法的安定性に欠けるのが実情でした。

上記のような事情から、これまでは、実務上、複数順位の譲渡担保権の設定は、避けられてきました。譲渡担保法により、​​「譲渡担保財産は、重ねて譲渡担保契約の目的とすることができる」とされ、譲渡担保においても複数順位の設定が可能となりました(第7条)。

この結果、譲渡担保権者が優先順位に応じて弁済を受ける仕組みが整備され、融資の柔軟性と予見可能性が向上し、企業の資金調達にも好影響が期待されます。

 譲渡担保の処分・実行のルールを明文化

債務不履行時の担保権実行方法、すなわち対象物の換価処分手続(競売、任意売却等)に関しても、一定の手続きを経ることが求められる旨が規定されています(第5条)。

第60条以下の規定により、これまでブラックボックス化していた譲渡担保の実務運用が透明化され、担保取引の安全性が高まることが期待されています。

譲渡担保とABLの関係性・資金調達における意義

譲渡担保や所有権留保が明文化されたことで、法的な位置づけが明確になりました。これにより、これらの担保を利用する取引の透明性や信頼性が向上し、企業にとってはより安定した形で資金調達に活用できるようになっています。

特に、中小企業やスタートアップにとっては、自社の動産や売掛債権などを担保として融資を受けやすくなるという点で、大きな意味を持つ改正と言えるでしょう。また、本改正によって、影響を受ける、アセット・ベースト・レンディング(Asset-Based Lending、以下「ABL」)について解説しましょう。

ABLへの活用

ABLへの活用

譲渡担保制度の明文化は、アセット・ベースト・レンディング(Asset-Based Lending、以下「ABL」)において、非常に重要な法的インフラを提供します。

ABLとは

ABLのスキームは、企業が保有する動産や債権などの資産を担保にして、金融機関から融資を受ける仕組みです。具体的には、まず企業が売掛債権、在庫、機械設備、不動産などを担保として提示し、金融機関はそれら資産の価値を査定します。担保資産の評価に基づいて融資枠が設定され、企業はその範囲内で資金を調達できます。

担保の対象となる資産は、変動することが多いため、金融機関は定期的にモニタリングを行い、融資枠の見直しを行います。また、売掛債権を担保とする場合には、債権の譲渡登記や通知などの手続きが行われ、確実に回収できる体制が整えられます。

ABLは、企業の信用力に依存しない資金調達手段として、中小企業や成長企業にも有効で、資産の活用度を高めるスキームとして利用されています。譲渡担保もABLも「資産を担保」にする点や「動産や債権」が対象になっている点で似ているように思えます。

ABLと譲渡担保

これまで、日本におけるABLの普及が進まなかった一因として、「譲渡担保」の法的位置づけの不明確さが挙げられてきました。金融機関にとっても担保価値の評価や権利実行のリスクが読みにくく、融資の障害となっていました。

譲渡担保法の成立により、譲渡担保の法的構造や対抗要件が明確になったことで、ABLの法的安定性が高まり、金融機関による活用が進むと予想されます。

譲渡担保・ABL活用の今後の展望

譲渡担保法の成立により、これまで明文の規定がないために譲渡担保の利用が避けられていた場面でも、法律上の根拠に基づいた契約設計や権利行使が可能となります。担保付き取引の透明性と予測可能性が格段に高まり、契約書面の整備や登記実務にも見直しが迫られることになるでしょう。

また、登記による優先順位の公示や、担保権実行における手続的安全性が確保されたことで、担保の価値を正面から評価した融資がより実現しやすくなります。これは、財務基盤が脆弱な中小企業にとって、資産を活かした資金調達の道を広げることに繋がります。

一方で、新たな制度導入によって、企業倒産時の担保処理にも変化が生じます。たとえば、企業の在庫や売掛金などのように日々内容が入れ替わる「集合担保」に関しては、一定の時点で担保効力が固定化され、それ以降に加入した資産に担保権が及ばないというルールが設けられました。

さらに、倒産手続の開始後に、過去に行われた担保権実行の効果を裁判所の命令により取り消せる制度も導入されています。これにより、担保権者と倒産手続の利害関係者との調整が法的に整理される反面、実務上の判断にはこれまで以上の慎重さが求められることになります。

まとめ:資産を担保にした資金調達は専門家に相談を

譲渡担保法の成立は、単なる担保制度の整備にとどまらず、日本における資金循環の効率化と、中小企業を含む幅広い事業者のファイナンス手段の拡充に直結する大きな意義を有しています。判例ベースの実務を法制化したことにより、法的安定性・予測可能性が高まり、今後の経済活動においてもその果たす役割はますます重要になると考えられます。

譲渡担保法を資金調達等に活かすにあたっては、これまでの判例法理等の流れを踏まえた本法の解釈が必要です。譲渡担保や所有権留保の利用にあたっては、専門的な知見を有する弁護士への相談をお勧めします。

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モノリス法律事務所は、IT、特にインターネットと法律の両面に高い専門性を有する法律事務所です。当事務所では、東証上場企業からベンチャー企業まで、さまざまなリーガルサポートの提供や、契約書の作成・レビュー等を行っております。詳細については、下記記事をご参照ください。

弁護士 河瀬 季

モノリス法律事務所 代表弁護士。元ITエンジニア。IT企業経営の経験を経て、東証プライム上場企業からシードステージのベンチャーまで、100社以上の顧問弁護士、監査役等を務め、IT・ベンチャー・インターネット・YouTube法務などを中心に手がける。

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