【令和7年5月施行】情報流通プラットフォーム対処法(改正プロバイダ責任制限法)の新制度を解説
![情報流通プラットフォーム対処法](https://monolith.law/wp-content/uploads/2025/01/a9a46b61818838fd41948f5ab82f72e4.jpg)
風評被害や誹謗中傷などのインターネット上の権利侵害は、深刻な社会問題となっています。こうした事態を受け、実効的な被害者救済を行うべく、令和7年(2025年)5月より「プロバイダ責任制限法」が「情報流通プラットフォーム対処法」へと名称変更され改正されることになりました。
改正法では、指定された大規模プラットフォーム事業者に対し、投稿の削除基準の策定、対応状況の公表制度などが義務付けられ、罰則も設けられました。
本記事では、規制の対象となる「大規模プラットフォーム事業者」の要件と、具体的な義務について改正法のポイントを解説します。
この記事の目次
「情報流通プラットフォーム対処法」とは
「情報流通プラットフォーム対処法(特定電気通信による情報の流通によって発生する権利侵害等への対処に関する法律)」は、平成13年(2001年)に「プロバイダ責任制限法(特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律)」が制定されて以来、2回目の大改正ですが、インターネット上の権利侵害情報が社会問題化していることを受け、被害回復が実効的になされるよう、「大規模プラットフォーム事業者」に対する新制度が導入され、名称変更されることになりました。
令和3年(2021年)には、多くの被害者が「発信者情報開示請求」を行うようになったことから、裁判手続きの負担の大きさが問題視され、迅速な被害者救済のため、発信者情報の開示を一つの手続で行うことを可能とする非訟手続が創設され、改正されました。しかし、「権利侵害の明白性要件」や、外国企業の利用規約が日本の法令や被害実態を考慮していないといった課題が指摘されており、必ずしも制度が十分には機能していない状況でした。
令和6年(2024年)の改正では、プロバイダが適切に運用されるための整備を自主的に求める形で制度設計され、指定された「大規模プラットフォーム事業者」に対し、削除基準の策定、対応状況の公表制度などが義務付けられ、罰則も設けられました。
改正点は、以下のとおりです。
- 法律名の変更
- 「大規模プラットフォーム事業者」の指定・届出(第20, 21条)
- 権利侵害情報への対応の迅速化の義務(第22条~25条)
- 運用状況の透明化の義務(第21条~第29条)
- 勧告・罰則の新設(第35条~第38条)
送信防止措置(削除)対象情報は、権利侵害情報・法令違反情報ですが、行政が関与することは適当ではない(検閲に相当、中立性の問題)ことに鑑み、実体法上の判断は「大規模プラットフォーム事業者」が主体的に行うことを前提として構成されています。
「プロ責法」の改正を表にすると、以下のようになります。
![「プロ責法」の改正](https://monolith.law/wp-content/uploads/2025/02/kaisei_provider-1-1024x258.png)
参考:総務省|情報流通プラットフォーム対処法の 省令及びガイドラインに関する考え方
大規模プラットフォーム事業者の要件
![「大規模プラットフォーム事業者」の要件](https://monolith.law/wp-content/uploads/2025/01/806f67152fa58bc248a32c7f51b7f54a.jpg)
情報流通プラットフォーム対処法で指定される「大規模プラットフォーム事業者」の要件は、以下の3つです。
- 月間発信者数(国内)1,000万件以上、月間延数(国内)200万件以上
- 侵害情報送信防止措置(削除)を講ずることが技術的に可能であること
- 権利の侵害が発生するおそれの少ないサービス(不特定の利用者間の交流を主たる目的としたものでないもの又は不特定の利用者間の交流を主たる目的としないSNSに付随的に提供されるもの)以外のものであること
外国企業含め、指定された「大規模プラットフォーム事業者」は、総務大臣に対する届出義務があります(第21条)。
権利侵害情報への対応の迅速化の義務
新制度では、「大規模プラットフォーム事業者」に対して課された義務は2つの系統に分けられており、権利侵害情報に対する削除対応の迅速化と、運用状況の透明化に関わる措置が義務付けられました。
以下、義務化された事項について、ポイントを解説します。
被侵害者からの削除申出を受け付ける方法の公表
被侵害者からの削除申出の受付窓口を設置し、公表する義務が課されました。考慮すべき点は、以下の項目です(第22条)。
- オンラインで申出が可能であること(日本語による申出を行うことができること)
- 申出者に過重な負担とならないこと
- 申出者に申出受付日時が明示されること
「過重な負担とならないこと」とは、例えば、削除申出フォームが見つけやすいこと、年齢制限によりアカウントを取得できない者であっても削除申出ができるようにすること、プライバシー等の権利を侵害しないよう配慮すること等が挙げられています。
「侵害情報調査専門員」の選任・届出
「大規模プラットフォーム事業者」は、被侵害者から侵害情報の削除申出があった時は、遅滞なく侵害情報に関わる必要な調査を実施しなければなりません(第23条)。
調査のうち法律の専門的な事務を適正に行わせるため、インターネットによって発生する権利侵害への対処に関して十分な知識経験を有する「侵害情報調査専門員」を選任しなければならないとされています。
「侵害情報調査専門員」の要件について、具体的には、弁護士等の法律専門家で、日本の文化・社会問題に十分な知識経験を有する者(自然人に限る)が適切としています。
侵害情報調査専門員の数は、「平均月間発信者数1,000万人以上につき1人、又は平均月間延数200万人につき1人以上選任しなければなりません。「侵害情報調査専門員」を選任又は変更した場合は、その旨総務省へ届出をしなければなりません。
削除の申出者に対する通知
「大規模プラットフォーム事業者」は、調査の結果に基づき侵害情報送信防止措置を講ずるかどうかを判断し、申出を受けた日から14日以内に、以下の事項を申出者に通知しなければなりません。
- 侵害情報を削除した時は、その旨
- 侵害情報の削除をしなかった時は、その旨及びその理由
期間内に通知ができない以下の正当事由がある場合は、遅滞なく通知をすることとしています。
- 調査のため侵害情報の発信者の意見を聴くこととした時
- 調査を専門員に行わせることとした時
- その他、やむを得ない理由がある時
運用状況の透明化の義務
![運用状況の透明化の義務](https://monolith.law/wp-content/uploads/2025/01/8ce0b36558c832911c8098be153127cb.jpg)
上述した通り、従来は「権利侵害の明白性要件」、外国企業の利用規約が日本の法令や被害実態を考慮していないといった課題や事業者による恣意的な削除も懸念されており、必ずしも制度が十分には機能していない状況でした。
これらの問題を防ぐためには、プロバイダが透明性のある削除基準を策定し、公平かつ一貫した対応を行うことが重要です。利用規約に基づく事業者の自主的な削除が、迅速かつ適切に行われるような法改正が必要とされました。
削除の実施に関する基準等の公表
上述したとおり、削除対象情報は、権利侵害情報・法令違反情報ですが、どのような情報(表現)を削除すべきかについての実体的な判断は、「大規模プラットフォーム事業者」の自律性に委ねています。
権利侵害情報・法令違反情報とは、刑法に相当する罪ですが、表現に違いがあります。そこで、自社の削除の対象となる具体的な判断基準を策定するよう義務付けられました。「削除の実施に関する基準」の内容は、次のいずれにも適合したものでなければなりません。
- 削除の対象となる情報の種類を、「大規模プラットフォーム事業者」が当該情報の流通を知ることとなった原因の別に応じて具体的に定めること
- 「サービス提供停止措置」を講ずることがある場合に、サービス提供停止措置の実施に関する基準を具体的に定めること
- 発信者や関係者が容易に理解できる表現を用いて記載すること
- 削除の実施に関する努力義務を定める法令との整合性に配慮すること
「大規模プラットフォーム事業者」は、自社が策定した削除基準について、自主的削除をすることができますが、例外的に以下の場合には、削除基準に明示されていなくても削除できます。
- 「大規模プラットフォーム事業者」が削除しようとする情報の発信者である時
- 不当な侵害情報を削除する義務がある場合、法令上の義務がある場合
- 緊急の必要により削除する場合であって、削除する情報の種類が、通常予測することができないものであるため、削除基準に明示されていない時
「削除の実施に関する基準」の事前周知期間は、削除の実施の2週間前までです。
そして1年に1回、当該基準に従って送信防止措置を講じた情報の事例のうち発信者その他の関係者に参考となるべきものを情報の種類ごとに整理した資料を作成し、公表しなければなりません。
一方、裁判による削除請求では、「権利侵害の明白性(第5条1項)」を立証しなければならず、請求者の負担となっています。
削除請求は、発信者情報の開示請求に比べ、ハードルは高くはありませんが、この「権利侵害の明白性」について、「開示請求側に不可能に近い立証まで強いることは相当でない。「損害賠償請求訴訟」における違法性阻却事由の判断と完全に重なるものではない。」として、権利侵害の明白性要件を肯定し、一審を覆した東京高裁(令和2年12月9日判決)の判例があります。
この裁判は、「発信者情報開示請求制度」における「権利侵害の明白性」の要件の解釈に、制度の趣旨を没却することまで要求されてはいないとした判決です。
削除を実施した場合の発信者に対する通知等
発信者の情報を自主的削除あるいは義務的削除した場合には、遅滞なく、その旨及びその理由(削除と削除基準との関係)を発信者に対して通知し、または発信者が容易に知り得る状態(内容が本人に認識される合理的かつ適切な方法)に置く義務が課されています。
削除の実施状況等の公表
「大規模プラットフォーム事業者」には、毎年1回(毎年度経過後2か月以内)、上記の各義務に基づき削除の実施状況を電子公告で公表する義務が課されています。
公表しなければならないものは、以下の項目です。
- 削除申出の受付状況
- 削除申出に対する通知の実施状況
- 削除した場合の発信者に対する通知の実施状況
- 削除の実施状況
- 上記事項についての自己評価
- 削除実施状況を明らかにするために必要な事項として総務省令で定める事項(自己評価項目に係る評価基準、評価基準を変更した場合には変更の内容及びその理由 )
情報流通プラットフォーム対処法における罰則
![罰則](https://monolith.law/wp-content/uploads/2025/01/8cc76997fe89c4f321068e11cdde0a14.jpg)
「大規模プラットフォーム事業者」が義務(第22条, 第24条~第28条)に違反した場合、総務大臣は、その違反を是正するために必要な措置を講ずべきことを勧告することができます。
勧告に係る措置を講じなかった時は、総務大臣は、措置命令ができるとされています(第30条, 第31条)。
この措置命令に違反した場合は、1年以下の拘禁刑又は100万円以下の罰金に処することとされています(第35条)。
なお、「大規模プラットフォーム事業者」には、両罰規定があり、法人に対しては、第21条, 第35条の違反をした場合、1億円以下の罰金が科されます(第37条)。
まとめ:情報流通プラットフォーム対処法により権利侵害対応の迅速化が期待
以上、改正された「情報流通プラットフォーム対処法」の新規制について、改正のポイントを解説しました。
大規模プラットフォーム事業者においては、発信者の「表現の自由」と、権利を侵害された「被害者の救済」に関して、バランスを考慮しながらインターネット環境を整備していく必要があります。
今回の改正により、ネットでの誹謗中傷・風評被害へのプロバイダ側の対応が迅速化されることが期待されています。誹謗中傷投稿の削除については、実績の豊富な弁護士にご相談ください。
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カテゴリー: IT・ベンチャーの企業法務