フィンランドの広告規制および消費者保護法を解説

グローバル化が進展する現代のビジネス環境において、北欧市場への進出を検討する日本企業は増加傾向にあります。中でもフィンランド共和国(以下、フィンランド)は、高度なデジタルインフラストラクチャとイノベーションを推進する土壌を有しており、魅力的な投資先として注目を集めています。しかしながら、同国において事業を展開するにあたり、日本企業の経営者や法務部員が最も留意すべき重大な法的課題の一つが、極めて厳格かつ広範に及ぶ広告規制および消費者保護法の存在です。
フィンランドの広告規制と消費者保護は、自国の独自規定に加えて欧州連合が定める各種の強行的な指令、とりわけ不公正取引慣行指令やデジタルサービス法などに完全に準拠する形で構築されています。そのため、日本の不当景品類及び不当表示防止法(景品表示法)や関連する各種ガイドラインと比較して、企業に課される義務の範囲が広範であり、違反時の制裁も極めて峻烈なものとなっています。
第一に、フィンランドの消費者保護法は不公正な商慣行を包括的に禁止しており、日本の景品表示法が特定の誤認表示を主に規制するのとは異なり、消費者の意思決定を不当に歪めるあらゆる行為や情報の欠如までもが厳しく取り締まられるという点が挙げられます。
第二に、オムニバス指令の導入により価格表示に関する規制が抜本的に強化され、割引表示を行う際には過去30日間の最安値を明記することが義務付けられています。この客観的かつ厳格な基準は、日本の二重価格表示ルールの運用よりもはるかに透明性を求めるものです。
第三に、デジタル広告およびインフルエンサーマーケティングの分野においては、広告の識別性が絶対的な要件とされ、ソーシャルメディアの投稿の冒頭での明確な広告表示が必須とされています。さらに、ブランド側とインフルエンサー側の双方に重い共同責任が課せられる点に大きな特徴があります。
第四に、環境配慮型広告、いわゆるグリーンウォッシュに対する監視が近年著しく強化されており、製品のライフサイクル全体に基づいた客観的な立証データを持たない曖昧な環境訴求は直ちに違法と判断されるリスクを孕んでいます。
第五に、消費者契約における権利保護が手厚く、通信販売における14日間の無条件契約解除権が法定されているほか、製品の瑕疵担保責任については、日本のように契約上の短い保証期間で免責されることはなく、その製品に客観的に期待される耐用年数を通じて販売者の法定責任が存続するという極めて消費者に有利な法理が採用されています。
最後に、これらの法規制に違反した場合、フィンランド競争・消費者庁や市場裁判所を通じて、企業の年間総売上高の最大4パーセントに相当する多額の制裁金が科される可能性があります。
以上の規定群から、現地の法制度に対する周到な準備とコンプライアンス要件に適合したマーケティング戦略の構築が、フィンランドでの事業成功の鍵となるということが言えます。本記事では、フィンランドにおける広告規制および消費者保護法制の全体像と実務上の留意点について、日本法との比較を交えながら詳細に解説します。
この記事の目次
フィンランドにおける広告規制の法的枠組みと基本原則
消費者保護法と欧州連合指令に基づく包括的な規制構造
フィンランドにおける広告およびマーケティング活動を規律する最も中心的な法令は、消費者保護法(Kuluttajansuojalaki, 38/1978)です。同法は消費者契約のあらゆる局面を網羅しており、特に第2章においてマーケティングおよび顧客関係における手続きを詳細に定めています。同法第2章第1条第1項は、消費者の観点から不適切またはその他の形で不公正なマーケティング行為は許可されないと明記し、不公正な商慣行を全面的に禁止しています。さらに同条第2項では、消費者の健康や経済的安全性に関して必要な情報を伝達しないマーケティングは常に不公正とみなされると規定されており、積極的な情報開示義務を企業に課しています。
加えて、第2章第2条においては、マーケティングにおいて虚偽または誤解を招く情報を提供することが明確に禁じられています。この国内法の背景には、欧州連合全体で適用されている不公正取引慣行指令(Directive 2005/29/EC)の存在があります。同指令は、企業と消費者間の取引において、取引の勧誘段階から契約締結後まで発生する可能性のある幅広い不公正なビジネス慣行を排除することを目的とした包括的な法的枠組みです。この指令に基づくフィンランドの法規制は、消費者を欺く行為だけでなく、攻撃的な販売手法や、消費者に不当な優位性を与えるあらゆる行為を対象としています。
日本の法令との比較において重要となるのは、規制の適用範囲とアプローチの根本的な違いです。日本の不当景品類及び不当表示防止法(景品表示法)は、商品の品質や内容に関する優良誤認表示や、価格や取引条件に関する有利誤認表示という特定の表示類型に焦点を当てて規制を行っています。つまり、明示された広告表現の真実性や妥当性が主な判断基準となります。
一方で、フィンランドの消費者保護法および欧州連合指令に基づく規制は、特定の表示内容の虚偽性のみならず、消費者が適切な情報に基づいて意思決定を行うために必要な情報を提供しない不作為の欺瞞をも同等の重みで規制しています。日本の法律とほぼ同じである積極的な虚偽表示の禁止という枠を超えて、消費者に対する情報の透明性と公正な取引環境の確保を企業の積極的な義務として位置付けている点に大きな特徴があります。
| 比較項目 | 日本の法律(主に景品表示法) | フィンランドの法律(消費者保護法およびEU指令) |
| 基本的なアプローチ | 特定の誤認表示(優良・有利誤認)の禁止を軸とした類型的な規制 | 消費者の意思決定を歪める不公正な商慣行全般を禁止する包括的な規制 |
| 情報開示の義務 | 積極的な虚偽表示が主な対象。不作為による誤認は一定の要件下で規制対象となる | 必要な情報を提供しない不作為自体が明確に不公正な行為として法律で禁止される |
| 適用範囲 | 主に広告やパッケージ等の明示的な表示内容 | デジタルインターフェースの設計、アルゴリズムによる推奨、取引成立後の対応まで包括的に適用 |
このように、フィンランド市場においてマーケティング活動を行う場合、自社の表現が嘘でないかを確認するだけでは不十分であり、消費者が取引の全体像を正確に理解するために必要な情報がすべて提供されているかという観点からの厳しい審査が求められます。この制度的背景から、進出企業はより高度な説明責任と透明性の確保を迫られるということが言えるでしょう。
フィンランドの価格表示および割引キャンペーンに関する法規制

オムニバス指令に基づく客観的な最安値表示の義務
小売業や電子商取引におけるセールスプロモーションは、マーケティング戦略の重要な柱ですが、フィンランドにおいては価格表示および割引表示に関して極めて厳格かつ客観的なルールが適用されています。この分野における近年の最大の法改正は、欧州連合のオムニバス指令の国内法化に伴うフィンランド消費者保護法の改正であり、2023年1月1日に施行されました。
改正された法令によると、事業者が製品の価格を割引または引き下げてマーケティングを行う場合、その価格引き下げが行われる直前の30日間に自社で適用されていた最安値を、マーケティング媒体において必ず明記しなければならないという強力な義務が課されました。この過去30日間の最安値は、消費者の注意を自然に惹きつける形で、明確かつ理解しやすい方法で提示される必要があり、消費者が特別なリンクをクリックするなどの操作を行わずとも、割引価格と同時に容易に確認できる状態でなければならないとされています。また、最大60日間続く段階的な価格引き下げキャンペーンにおいては、最初の価格引き下げの直前30日間の最安値を基準として表示し続けることが認められています。この厳格な表示義務の唯一の例外として規定されているのは、急速に劣化する生鮮食品などの一部の限られた品目のみです。
日本における二重価格表示の規制と比較すると、その厳格さは際立っています。日本の景品表示法に関するガイドラインでは、最近相当期間にわたって販売されていた価格を比較対照価格として用いることが求められており、実務上は過去8週間のうち過半の期間で販売されていた価格といった一定の幅を持った解釈基準が運用されています。しかし、フィンランドにおけるこの30日間ルールは、期間中の最も安かった価格を基準点とすることを法律で一律に強制しており、事業者側の裁量や解釈の余地を一切許さない客観的な基準となっています。これにより、短期間だけ高い通常価格を設定し、あたかも大幅な割引が行われているかのように装う意図的な価格操作は完全に封じられています。この義務を故意または過失により怠った事業者に対しては、後述する高額な制裁金が科されることとなります。
誤認を招く価格表示に関する消費者オンブズマンの厳格な姿勢と重要判例
価格表示の透明性に関するフィンランド競争・消費者庁および消費者オンブズマンの妥協のない姿勢を如実に示す代表的な事例として、大規模スポーツ用品小売企業であるエックスエックスエル・スポーツ・アンド・アウトドア社に対する一連の訴訟と市場裁判所の判決が挙げられます。
この事件は、同社が自社の価格が市場で最も手頃であるという実証されていない主張を行い、消費者を誤導したとして消費者オンブズマンから提訴されたことに端を発します。2014年の調査において消費者オンブズマンは、同社が大規模な価格保証キャンペーンを展開しているものの、その保証対象となる製品の約半数が他社では販売されていない同社独自の製品などであり、そもそも他店との価格比較が成立しない状態であったことを突き止めました。同社は自身のマーケティングを通じて、実際には存在しない可能性のある絶対的な安さという印象を消費者に植え付けていました。
同社が自発的な是正勧告に応じなかったため、消費者オンブズマンは市場裁判所に提訴しました。2015年11月24日の第一審において、市場裁判所は消費者オンブズマンの主張を一度退け、同社のマーケティングにおける価格保証の文言自体は消費者を誤導するものではないとの判断を下しました。しかし、消費者オンブズマンはこの決定を不服として最高行政裁判所へ上訴を行いました。
最高行政裁判所・2017年12月7日判決・当事者:消費者オンブズマン対エックスエックスエル・スポーツ・アンド・アウトドア社
最高行政裁判所は、事業者は自らの広告における主張が客観的に正確であることを証明する義務を負っているという重要な原則を再確認しました。その上で、市場裁判所の第一審判決は、同社のマーケティングが市場で最も安いプレイヤーであるというイメージ形成を通じて消費者を誤導する性質を十分に考慮していないと指摘し、第一審判決を破棄して市場裁判所に差し戻しました。
市場裁判所(差し戻し審)・2018年6月27日判決・当事者:消費者オンブズマン対エックスエックスエル・スポーツ・アンド・アウトドア社
最高行政裁判所の判断を受けた差し戻し審において、市場裁判所は一転して同社のマーケティング手法を厳しく非難する判決を下しました。同社が自らの主張する最も安い価格の真実性をすべての面において証明できていないと認定し、消費者保護法に違反する誤導的な主張であるとして、当該広告の差し止めを命じました。さらにこの決定では、同社が実際には適用されていないメーカー希望小売価格を基準にして極端に大きな割引率を算出して提示していたことや、短期間の限定オファーと宣伝しながらその期間終了後も同じ割引価格で販売を継続し、消費者に不当な切迫感(偽の緊急性)を与えていた手法も厳しく禁止されました。
この判決に関する公式なプレスリリースは、フィンランド競争・消費者庁の公式ウェブサイトで確認することができます。
この判例から、フィンランド市場においては当社が最安値であるといった最上級表現や、他店徹底対抗といった抽象的な価格優位性の主張を行う場合、事業者は自らその真実性を完璧に立証する重い責任を負っており、実体のない割引率の表示や偽の期間限定キャンペーンは法廷で直接的な制裁の対象になるということが言えるでしょう。
デジタル広告およびインフルエンサーマーケティングの包括的規制
広告の識別性とインフルエンサーに対する厳格なガイドライン
ソーシャルメディアや動画共有プラットフォームを通じたデジタルマーケティングは現代のビジネスに不可欠ですが、フィンランドの規制当局は消費者はいつ商業的に影響を受けているかを常に知る権利があるという原則を極めて厳格に適用しています。フィンランド競争・消費者庁および消費者オンブズマンが発行するガイドラインによれば、インフルエンサーマーケティングを含むすべての商業的なメッセージは、いかなる媒体であっても広告として即座に識別可能でなければならず、他の個人的なコンテンツの中に隠すことは一切許されません。
特に強調されている具体的な要件として、商業的な協力関係に基づくコンテンツは、投稿の一番最初に明確にラベル付けされなければならないというルールが存在します。例えば、InstagramやTikTokなどのプラットフォームにおいて、広告や商業的提携といった文言を、一目見て明確にわかるように背景から際立たせて配置する義務があります。また、動画コンテンツの中で製品やサービスを音声で紹介する場合、最初の音声トラックにおいて、提携先企業名とともに商業的な広告である旨を明確に読み上げることが求められます。プラットフォーム側が標準機能として用意している有料プロモーションを含みますといった一般的なタグ付けだけでは、広告主が具体的に誰であるかを明示していないため、フィンランドの法律下では要件を満たしていないとみなされます。
日本においてもインフルエンサーマーケティングの規制に関して、景品表示法に基づくステルスマーケティング告示が施行され、事業者の表示であることが不明瞭な広告が規制されるようになりました。しかし、フィンランドでは、投稿のテキストの末尾やハッシュタグ群の中に埋もれさせるような表示方法は明確に違法とされ、物理的に投稿の冒頭に明示しなければならないという実務面での厳しい縛りがあります。また、企業から金銭を受け取っていなくても、商品の無償提供やイベントへの招待を受けたインフルエンサーがその製品について投稿する場合、それらもすべて商業的利益を受けた広告として扱い、宣伝目的で受け取ったという明確なラベルと企業名の明示が義務付けられています。さらに、未成年の消費者が多く利用するプラットフォームにおいては、子供がエンターテインメントと広告を区別しにくいという特性を考慮し、より一層厳しい基準で広告の明確な分離が審査されます。
広告倫理委員会による裁定とブランドの共同責任
この厳格なルールの適用と、ブランド側の責任の重さを示す極めて重要な最近の事例として、フィンランド広告倫理委員会による裁定が存在します。
フィンランド広告倫理委員会・2025年5月裁定・当事者:セイム・ゴール社および対象インフルエンサー
本件では、約3万5千人のフォロワーを持つインフルエンサーが、アパレルブランドであるセイム・ゴール社の衣料品を宣伝する投稿を自身のInstagramアカウントで行いました。この投稿自体には商業的提携:セイム・ゴール・クロージングという開示が含まれていましたが、その表示はテキストの末尾に配置されており、閲覧者が投稿を見た瞬間に直ちに認識できる冒頭部分には記載されていませんでした。広告倫理委員会は、このような不十分な表示方法は消費者を商業的な性質について誤導するものであり、国際商業会議所のマーケティングコードおよびフィンランドの広告規制の原則に違反すると判断しました。
本裁定において日本企業が最も注目すべき点は、責任の所在に関する委員会の明確な見解です。審理の中でブランド側であるセイム・ゴール社は、インフルエンサーに対して広告開示の要件を事前に伝えており、広告作成時に注意を払うよう注意喚起していたと主張しました。しかし委員会はこの主張を退け、ブランドとインフルエンサーの双方が適切な広告開示を確保する共有された共同責任を負っていると宣言しました。ブランド側は、インフルエンサーがルールを知らなかった、あるいはインフルエンサーのミスであると主張することで責任を逃れることはできないと明示されたのです。
委員会は企業に対し、単にインフルエンサーの知識や自己管理に依存するのではなく、積極的なコンプライアンス管理を要求しました。具体的には、広告の開示方法や即時識別性の要件を詳細に定めた書面による契約をインフルエンサーと締結すること、そしてコンテンツが公開される前にブランド側が事前の審査と承認を行うプロセスを社内に構築することが不可欠であると指摘しました。
この裁定に関する詳細な解説記事は、現地の法務情報のウェブサイトで確認することができます。
デジタルサービス法によるオンラインプラットフォームの透明性義務
インフルエンサー個人の投稿に対する規制に加え、デジタル広告が配信されるプラットフォームそのものに対する包括的な規制も強化されています。欧州連合のデジタルサービス法が2024年2月よりフィンランド国内のオンラインプラットフォーム事業者に対しても全面的に適用開始されました。
同法により、オンラインプラットフォーム事業者は、ユーザーに対して表示される個々の広告について、高い透明性を確保する義務を負います。具体的には、ユーザーが広告を見た際に、それが広告であるという事実、広告主の正確な身元、広告主と資金提供者が異なる場合はその資金提供者の身元、そしてなぜその広告が当該ユーザーにターゲット表示されるに至ったかの主要なパラメータに関する情報を、リアルタイムで容易にアクセス可能な形で提供しなければなりません。フィンランドにおいては、データ保護オンブズマンおよび交通通信庁がこの規制の監視機関として指定されており、特にプロファイリングに基づくターゲティング広告の透明性確保と、未成年者をターゲットとした不当な広告の排除が強力に推進されています。
これらのことから、フィンランドでデジタルマーケティングを展開する企業は、単に自社の表現をチェックするだけでなく、起用するインフルエンサーの行動管理からプラットフォームの技術的要件への対応まで、包括的なデジタルコンプライアンス体制の構築が急務となっているということが言えるでしょう。
環境配慮型広告に対する監視と厳格な是正措置

環境志向型主張に関する極めて高い立証要件
近年の欧州市場において最も厳しい監視の目に晒されている分野の一つが、環境への配慮を訴求する広告、いわゆるグリーンウォッシュに対する規制です。フィンランドにおいては、環境保護に対する国民意識の高さと相まって、消費者オンブズマンがこの問題に対して極めて積極的な介入を行っています。
消費者オンブズマンが発行し2019年に改訂されたマーケティングにおける環境志向型主張の使用に関するガイドラインによれば、環境に関する主張は具体的で、理解しやすく、一切の曖昧さがないものでなければならないと厳格に定められています。企業が地球にやさしい、サステナブルな、エコなといった一般的で特定されていない抽象的な環境配慮の主張を用いることは原則として避けるべきであり、製品自体に明確で実証可能な環境に関連する事実上の特性がない場合は、一切の環境訴求を行ってはならないとされています。
さらに要求されるのが、極めて重い立証責任です。環境に関するいかなる主張を行う場合でも、その主張は製品の単なる一部の素材についてではなく、原料の調達、製造、輸送、使用、そして廃棄に至るまでのライフサイクル全体の環境影響を網羅した客観的な研究結果や科学的証拠によって裏付けられていなければなりません。そして、消費者がその証拠となる情報へ容易にアクセスできるように開示する義務があります。主張の一部が事実であったとしても、それが製品全体の環境影響のごく一部に過ぎず、全体として環境への貢献度を誇張したり、偏った印象を与えたりする場合は、消費者を誤導する違法な広告と即座に判断されます。
曖昧な環境訴求に対する是正措置と企業間訴訟の事例
環境配慮に関する曖昧な表現が法的な介入を受けた代表的な事例として、大手エネルギー企業に対する消費者オンブズマンの決定が存在します。
フィンランド競争・消費者庁による決定事例・当事者:フォータム社
フィンランドの主要エネルギー企業であるフォータム社は、母なる大地と題したテレビコマーシャルを放映しました。この広告内において同社は、よりクリーンな世界に向けてやクリーンエネルギーとリサイクルといった美しい表現と映像を使用し、自社が環境に配慮した企業であるというイメージを大々的にアピールしました。しかし消費者オンブズマンは、この広告表現に対して厳しい判断を下しました。同庁の評価によれば、この広告はフォータム社の環境への影響について過度に肯定的かつ一面的な図式を提示しており、全体的な印象として消費者を誤導する違法なものであると認定されました。
オンブズマンが問題視したのは、広告内において同社の事業手法の具体的な変更点や、環境負荷を実際にどのように削減しているかという詳細で客観的なデータによる説明が完全に欠如していた点です。よりクリーンな世界に向けてといった表現は、単なる漠然とした良い未来の約束に過ぎず、消費者が環境に優しい選択をするための真実の情報を提供していないと厳しく批判されました。結果としてフォータム社は当局の要求に応じ、実質的な情報を提供せずに環境への優位性を抽象的に主張するマーケティング活動を完全に中止する法的誓約を行うに至りました。
この決定に関する公式なプレスリリースは、フィンランド競争・消費者庁の公式ウェブサイトで確認することができます。
また、このグリーンウォッシュ規制は当局による取り締まりだけでなく、競合企業間での訴訟の武器としても使われています。例えば、建設資材のグローバルサプライヤーであるフィンランドのペイッコグループ社が、競合相手であるアンスター社に対して、自社製品の環境性能に関する虚偽の情報を広告で用いたとして、市場裁判所に提訴した事例も発生しています。これらの厳しい事象から、フィンランド市場において環境訴求をマーケティング戦略の核として利用する際は、抽象的なキャッチコピーの使用を厳に慎み、製品のライフサイクルアセスメント等の極めて厳格な科学的データに基づく社内審査プロセスを構築することが不可欠であるということが言えるでしょう。
消費者契約における権利保護と不公正な契約条項の排除
法律で保障された14日間の無条件契約解除権
フィンランドの消費者保護法は、広告表示に関する規制だけでなく、実際に契約が締結された後の消費者の権利保護に関しても非常に強力な規定を持っています。特に、遠隔販売および訪問販売において、消費者は原則として商品を受領した日、またはサービス契約を締結した日から数えて14日間の無条件の契約解除権を法律によって強行的に保障されています。
この権利を行使するにあたり、消費者は販売者に対して返品の理由を説明する必要は一切ありません。消費者が期間内に契約解除の意思表示を行った場合、販売者は商品の返品を受け付け、受領から30日以内に消費者が支払った全額を返金する法的義務を負います。ただし、消費者の個人的な要望に合わせて完全にカスタマイズされたオーダーメイド商品、急速に劣化する生鮮食品、衛生上の理由で封印されており開封された商品などは、この権利の例外とされています。
日本法における通信販売の規制と比較すると、この規定の強力さが浮き彫りになります。日本の特定商取引法においては、通信販売に対する法定のクーリングオフ制度は設けられておらず、事業者が広告上に返品不可や独自の返品条件を明記していれば、消費者は原則としてその条件に従わざるを得ません。しかし、フィンランドを含む欧州連合域内においては、この14日間の契約解除権は消費者の絶対的な基本権利として位置付けられており、事業者が自社の利用規約や契約条項でこれを排除したり、制限したりすることは法律上一切無効となります。
製品の欠陥に対する法定責任と客観的耐用年数の概念
日本企業の法務担当者がフィンランドでビジネスを行う際に、最も認識の転換を迫られるのが、製品の欠陥に対する販売者の法定責任と、事業者が独自に提供する保証の概念の根本的な違いです。フィンランドにおいて、企業が自社の製品に対して提供する保証は、あくまで自主的な追加的利益として厳格に定義されています。法律上、保証と呼べるものは、法定の権利をさらに上回る有利な条件を消費者に提供する場合に限られます。
最も留意すべき点は、事業者が提供した自主的な保証期間が満了したとしても、事業者の法的な欠陥責任が消滅するわけではないという強行的な法理の存在です。フィンランドの消費者保護法では、製品の潜在的な欠陥に対する法定責任について、日本のように不適合を知った時から1年以内といった一律の短い期限を設けていません。その代わり、個々の製品の性質に応じた客観的に期待される耐用年数を基準として販売者の責任期間を判断します。
例えば、通常の家庭環境で使用されるテレビや冷蔵庫といった大型家電であれば、社会通念上、数年から10年程度の耐用年数が客観的に期待されます。仮に事業者が設定した1年間の保証期間が切れた後の2年目や3年目に製品の根幹に関わる部品が故障した場合、それが消費者の明確な過失によるものでない限り、消費者は法的な欠陥責任に基づいて、無償の修理、代替品への交換、または価格の減額を事業者に要求する権利を持ち続けます。また、国境を越えて他の加盟国から平行輸入された製品であっても、フィンランド国内の販売者は製造者の保証およびこの法定責任から逃れることはできません。
| 項目 | 日本の法制と一般的実務 | フィンランドの法制 |
| 通信販売における契約解除権 | 法定のクーリングオフ制度なし。事業者の特約による返品拒否が可能 | 14日間の無条件の契約解除権が法定。事業者の特約で排除することは不可 |
| 製品欠陥に対する責任期間 | 契約不適合を知った時から1年等の期間制限。メーカーの1年保証で実務上終結することが多い | 保証期間満了後も、製品の客観的に期待される耐用年数が経過するまで法定責任が存続する |
| 自主的保証の位置付け | 販売上のサービスの一環。法定責任の特約として機能し得る | 消費者の法定権利を上回る追加的利益でなければならず、法定責任を制限する手段にはならない |
この法体系は、製品の寿命全体を通じた持続可能性と消費者の経済的利益の保護を両立させようとする欧州の強い意志を反映しています。したがって、日本企業がフィンランド市場に製品を投入する際には、国内市場向けとは根本的に異なる品質管理の基準と、長期間にわたるアフターサービスや部品供給にかかるコスト構造の抜本的な見直しが必須であるということが言えるでしょう。
不公正な契約条項の厳格な禁止と排除
さらに、消費者保護法第3章は、消費者契約において不公正とみなされる契約条項の使用を厳格に禁止しています。この規制は、契約の価格設定、期間、商品の引き渡し時期、支払方法、契約違反時のペナルティ、契約の終了条件など、契約のあらゆる側面に適用されます。具体的に不公正とみなされる条項の例としては以下のようなものが挙げられます。
製品やサービスの欠陥に対して、事業者よりも消費者に対して不当に高いレベルのリスクを負担させる条項。契約書に明記された正当な理由がないにもかかわらず、事業者が一方的に価格を改定したり、製品の仕様を変更したりする権利を留保する条項。消費者が契約上の義務を果たせなかった場合に、生じた実損害と比較して著しく過大な違約金や賠償金を要求する条項。継続的なサービス契約において、消費者が解約を希望する際に、数ヶ月という不当に長い事前通知期間を要求して実質的に解約を困難にする条項などです。
ある契約条項が不公正であると当局や裁判所に判断された場合、その契約全体が無効になるわけではありませんが、当該不公正な条項は無効化されるか、消費者にとって不利益とならない適正な内容へと強制的に修正されます。企業側が精緻な免責条項を設けていたとしても、それが消費者の基本的権利を不当に制限するものであれば、法的な保護盾としては全く機能しない点に注意が必要です。
規制当局の執行権限と違反時の高額な制裁金制度

消費者オンブズマンの監督権限と市場裁判所の役割
フィンランドにおける消費者保護関連法規の執行と市場の監視は、主にフィンランド競争・消費者庁に所属する消費者オンブズマンという独立性の高い機関が強力な権限を持って担っています。オンブズマンは、市場における広告活動や契約慣行を常時監視し、違法な疑いのある事業者に対しては調査を行い、是正のための交渉や指導を実施します。
事業者がオンブズマンの是正要求や指導に従わない場合、オンブズマンは直ちに市場裁判所に対して提訴し、違法なマーケティングの差し止め命令や不公正な契約条項の使用禁止命令を獲得する権限を有しています。市場裁判所は経済および市場取引に関する法律問題に特化した特別裁判所であり、消費者保護に関する迅速かつ専門的な司法判断を下します。
オムニバス指令による制裁金制度の大幅な強化
フィンランドの法令違反リスクの中で、経営陣が最も警戒すべきは、近年導入された莫大な制裁金制度です。前述した欧州連合のオムニバス指令の国内法化に伴い、消費者保護法等への重大な違反に対する制裁金の上限が抜本的に引き上げられました。事業者が広範な消費者に影響を与える不公正な商慣行を継続したり、裁判所やオンブズマンからの差し止め命令を無視したり、または透明性に関する義務を著しく怠った場合、市場裁判所は当該事業者に対して高額な罰金を科すことができます。
この制裁金の額は、違反の深刻さや期間、事業者が不当に得た利益の額、過去の違反歴などを総合的に評価して決定されますが、最も重要なポイントはその上限額です。法律により、制裁金の最大額は事業者の違反終了の前年度の総売上高の4パーセントに設定されています。万が一、事業者の正確な売上高情報が入手できない場合でも、最大200万ユーロの罰金が規定されています。
日本の景品表示法における課徴金制度は、違反対象となった特定の商品やサービスの売上額の3パーセントを基準として算定されます。しかし、フィンランドが適用する欧州連合基準の制裁金は、違反した対象商品の売上だけでなく、事業者の事業全体の総売上高に対して最大4パーセントという計算基準が設けられているため、制裁の規模が桁違いに大きくなる重大な経営リスクを孕んでいます。この制裁金制度の存在から、広告表現やマーケティング手法、そして各種契約条項に関する事前の厳格なリーガルチェックは、単なる法務部門のルーチンワークにとどまらず、企業の存続そのものを左右する極めて重要な経営課題であるということが言えるでしょう。
まとめ
本記事で詳述した通り、フィンランドにおける広告規制および消費者保護法制は、欧州連合指令という強固な基盤の上に構築されており、日本の法体系をはるかに凌駕する厳格さと広範な適用範囲を持っています。事業者は単に嘘をつかないという消極的な法令遵守にとどまらず、消費者が正しい選択を行えるよう、あらゆる情報を透明性をもって開示する積極的な義務を負っています。
価格表示においては、オムニバス指令に基づく過去30日間の客観的な最安値の明示義務が課され、意図的な二重価格の操作は完全に排除されています。また、ソーシャルメディアを通じたデジタルマーケティングやインフルエンサーマーケティングにおいては、投稿の冒頭での極めて厳格な広告識別表示の要件が定められ、インフルエンサーだけでなくブランド側にも重い共同管理責任が課せられます。さらに、環境意識の高い北欧市場においては、科学的根拠や製品のライフサイクル全体を網羅した客観的データを伴わない曖昧な環境配慮型主張に対する監視が厳格化されており、直ちに是正措置の対象となります。
契約関係に目を向ければ、通信販売における14日間の無条件契約解除権という強行規定や、企業の定めた保証期間に関わらず製品の客観的な耐用年数に依存して存続する瑕疵担保責任など、消費者の権利が手厚く保護されており、事業者の責任は長期かつ広範に及びます。これらの高度なコンプライアンス要件を軽視した場合、企業の年間総売上高の最大4パーセントに及ぶ莫大な制裁金という致命的なリスクに直面することになります。
モノリス法律事務所では、フィンランドを含む欧州市場への進出や新たな事業展開を検討される日本企業の皆様に対し、現地の高度な広告規制や消費者保護法に関する広範な法的要件への適合性評価から、デジタルマーケティング施策の適法性審査、現地の強行法規に準拠した利用規約や契約書面の抜本的なレビューに至るまで、事業の安全性を確保するための総合的なサポートいたします。現地の複雑な法規制に関する不安を解消し、コンプライアンスを完全に遵守した円滑なグローバルビジネスの展開に向けて、実務的な支援を提供いたします。
カテゴリー: IT・ベンチャーの企業法務

































