アイスランドの広告規制を弁護士が解説

アイスランド共和国(以下、アイスランド)は、人口約37万人という小規模な市場でありながら、高い購買力と先鋭的なデジタル環境を持つ北欧の島国です。日本企業の皆様が本件国への進出や製品の輸出を検討する際、最も注意を払わなければならないのが、欧州経済領域(EEA)協定に基づく「欧州標準のルール」と、本件国独自の「極めて厳格な公衆衛生保護規制」という二重の法的構造です。本件国はEU加盟国ではありませんが、EEA協定を通じてEU単一市場の一部を構成しており、不当表示や消費者保護に関してはEU法と調和した法制度を有しています。一方で、アルコールやたばこといった健康に影響を及ぼす製品に関しては、国民の健康を守るという国家の最高意思の下、EU諸国と比較しても類を見ないほど厳しい規制を敷いています。
本稿では、日本とは大きく異なるこれらの広告規制について、現地の具体的な法令や裁判例に基づき解説します。特に、全メディアで徹底されているアルコール広告の禁止措置、世界でも先駆的なたばこ製品の陳列禁止(ディスプレイ・バン)、そして「アイスランド」という国名そのものの使用をめぐる商標トラブルなど、ビジネスの現場で直面しうる法的リスクを詳述します。また、インフルエンサーを用いたマーケティングにおけるステルスマーケティング規制など、最新のデジタル広告に関する動向についても触れます。本件国の規制当局である消費者庁(Neytendastofa)は、違反に対して高額な過料を科す権限を持っており、知らなかったでは済まされない厳格な法執行が行われています。本記事が、貴社の安全かつ適法な市場参入の一助となることを目指します。
この記事の目次
アルコール飲料に対するアイスランドの包括的な広告禁止規制
本件国におけるアルコール規制は、単なるマナーや自主規制ではなく、アルコール法(Act on Alcohol No. 75/1998)に基づく強行法規です。日本においては、テレビCMの時間帯制限や「お酒は20歳になってから」という警告表示を行うことで広告が可能ですが、本件国では概念そのものが異なります。
アルコール度数2.25%の境界線と全面禁止の原則
アルコール法第20条は、アルコール飲料または特定の種類のアルコール製品のマーケティングを目的とした、いかなる種類の広告や商業的メッセージも禁止しています。ここで規制の対象となる「アルコール」とは、一般的にアルコール度数(ABV)が2.25%を超える飲料を指します。したがって、日本のビール(通常5%程度)やウイスキー、日本酒などの広告は、テレビ、ラジオ、新聞、雑誌、ウェブサイト、屋外看板など、あらゆるメディアにおいて全面的に禁止されています。
日本の経営者の方々から「アルコール度数が22%を超える強いお酒だけが禁止なのではないか」という質問を受けることがありますが、これは誤解です。22%という数字は、国営アルコール・たばこ専売公社(ÁTVR)による販売独占や課税区分における閾値であり、広告規制においては、2.25%を超える製品はすべて等しく広告禁止の対象となります。
擬似製品を用いた広告(Alibi Marketing)の禁止
さらに厳しい点として、本件国では「2.25%未満の飲料」であっても、そのパッケージや商標が強アルコール飲料と類似しており、消費者に混同を与える恐れがある場合には、広告が禁止されるという規定が存在します。これは、いわゆる「ノンアルコールビール」や「ライトビール(Pilsner)」の広告を通じて、間接的にメインブランド(通常は強アルコール)を宣伝する手法(Alibi Marketing)を封じるためのものです。
例えば、あるビールメーカーが、アルコール度数2.25%のライトビールを製造し、その広告を行ったとします。もしそのライトビールの缶のデザインが、同社の主力商品である強アルコールビールのデザインと酷似している場合、消費者庁はその広告を違法と判断し、撤去命令や過料を科すことができます。実際に、商品の外観が類似していることを理由に違法と判断された事例が存在します。
| 規制対象 | 日本の規制状況 | アイスランドの規制状況 |
| テレビ・ラジオCM | 自主規制(時間帯や内容)はあるが可能 | 完全禁止 |
| インターネット広告 | 年齢確認ゲート等の設置で可能 | 完全禁止(バナー、SNS含む) |
| 屋外広告・看板 | 可能 | 禁止 |
| ノンアルコール飲料 | 0.00%製品の広告は活発に行われている | 強アルコール製品とパッケージが類似している場合は禁止 |
判例にみるEEA法との関係:Hob-vín事件
本件国の厳しいアルコール規制が、EEA協定における「物品の自由移動」の原則と衝突した重要な判例があります。EFTA裁判所(欧州自由貿易連合裁判所)におけるHob-vín事件(Case E-2/12)です。
この事件では、輸入業者が販売しようとしたアルコール飲料に対し、国営専売公社(ÁTVR)が「パッケージが若者にアピールしすぎる」等の理由で販売を拒否しました。EFTA裁判所は2012年12月11日の判決において、公衆衛生の保護は正当な目的であるものの、販売自体を拒否することは過度な措置であり、比例原則に反すると判断しました。
この判決から、アイスランド政府といえども、公衆衛生を理由に無制限に貿易を制限できるわけではなく、商品の陳列場所を制限するなどの「より制限の少ない代替手段」を検討しなければならないということが言えるでしょう。
参考:EFTA裁判所公式ウェブサイト Hob-vín事件判決
たばこ製品に対するアイスランドの世界屈指の厳格な規制

たばこ製品に関しては、本件国は世界で初めて広告を全面的に禁止した国の一つであり、たばこ規制法(Tobacco Control Act No. 6/2002)に基づき、現在も極めて厳しい姿勢を貫いています。
広告および陳列の完全禁止(Display Ban)
たばこ規制法第7条は、たばこ製品および喫煙具のあらゆる形態の広告を禁止しています。これにはマスメディアだけでなく、販売促進を目的としたあらゆる情報提供が含まれます。日本のたばこ事業法では、販売店における製品の陳列や、成人識別機能付き自動販売機の設置が認められていますが、本件国ではこれらが一切認められていません。
特筆すべきは、販売店における陳列禁止(Display Ban)です。スーパーマーケットやコンビニエンスストアであっても、たばこ製品を顧客の目に見える場所に置くことは違法です。たばこは不透明な扉のついた棚やカウンターの下に隠して保管されなければならず、顧客は店員に銘柄を口頭で伝えるか、画像のない文字だけのリストを見て購入する必要があります。
| 項目 | 日本の規制 | アイスランドの規制 |
| 広告 | 一般メディアは禁止だが、喫煙所や販売店内は一部可 | 完全禁止(あらゆるメディア、店内含む) |
| 製品陳列 | レジカウンター後方等に陳列可能 | 禁止(客から見えない場所に保管) |
| 自動販売機 | taspo等により設置可能 | 禁止 |
電子たばこへの規制拡大
近年普及している電子たばこ(Vaping products)についても、2018年の法改正により、紙巻たばこと同様の規制が適用されています。電子たばこ本体やリキッドの広告は禁止されており、公共の場所での使用も制限されています。
アイスランドにおける不当表示と不公正な商取引の監視
アイスランドにおける一般的な広告活動、すなわちアルコール・たばこ以外の製品やサービスの広告については、商行為およびマーケティングの監視に関する法律(Act on the Supervision of Business Practice and Marketing No. 57/2005)が適用されます。この法律は、EUの不当商行為指令(UCPD)を国内法化したものであり、日本の景品表示法や不正競争防止法に近い機能を持ちます。
誤認惹起行為の禁止と実証責任
同法第6条は、消費者に誤解を与える可能性のある虚偽の情報や、重要な情報を省略した広告を禁止しています。ここで重要なのは、企業に対する実証責任(Substantiation)です。
法第6条第3項には、「企業は、広告に提示された主張の証拠を提出できなければならない」と明記されています。もし貴社が「業界No.1の耐久性」や「100%リサイクル素材」といった表示を行う場合、監督官庁である消費者庁(Neytendastofa)から求められれば、直ちに客観的な根拠資料を提出する義務があります。
実際に摘発された事例:自動車の環境性能表示
不当表示に関する消費者庁の厳格な姿勢を示す事例として、Toyota á Íslandi hf.(トヨタ・アイスランド)に関する決定(Decision No. 9/2018等)があります。
この事案では、トヨタ・アイスランドがハイブリッド車について「50%が電気で走行する」という趣旨の広告を行いました。これに対し、消費者庁は「外部充電ができないハイブリッド車の仕組みにおいて、50%電気走行という表現は消費者に誤解を与える」として、その根拠の提示を求めました。最終的に、十分な立証がなされない場合、そのような表示は消費者を欺く不当な商行為にあたると判断されるリスクがあります。
この事例から、技術的な仕様や性能に関する表示であっても、平均的な消費者がどのように受け取るかを基準に厳密な審査が行われることがわかります。
参考:アイスランド消費者庁:広告における価格の誤表示について (Neytendastofa / アイスランド語)
インフルエンサーによるステルスマーケティング規制
アイスランドでは、ソーシャルメディア上のインフルエンサーを用いたマーケティングに対する監視も強化されています。メディア法および不当商行為法に基づき、金銭的な対価だけでなく、物品の提供(ギフティング)やサービスの無償提供を受けた場合であっても、投稿には明確に「広告(Auglýsing)」と表示する義務があります。
消費者庁は、ハッシュタグの中に紛れ込ませたり、「もっと見る」を押さないと表示されない場所に記載したりする方法を不適切とし、多くのインフルエンサーに対して警告や処分を行っています。日本でも2023年10月からステルスマーケティング規制が導入されましたが、本件国ではそれ以前からEU基準での厳格な運用がなされています。
アイスランドの知的財産権と「ICELAND」商標問題

最後に、商標に関する重要なトピックとして、国名である「ICELAND」の商標登録をめぐる紛争を取り上げます。これは、本件国政府および企業が、英国のスーパーマーケットチェーン「Iceland Foods」に対して起こした異議申し立てです。
ICELAND商標無効審判
英国の小売企業Iceland Foods社は、「ICELAND」という文字商標をEU全域で登録し、本件国の企業が自国名である「Iceland」を商品に使用することを制限しようとしました。これに対し、アイスランド政府は「一私企業が主権国家の名称を独占することは不当である」としてEU知的財産庁(EUIPO)に提訴しました。
2022年12月、EUIPOの大審判部はアイスランド政府側の主張を認め、「ICELAND」という名称は地理的な原産地として認識されるため、特定の企業の商標として独占させるべきではない(識別力がない)として、同社の商標登録を無効とする決定を下しました。
参考資料:EU一般裁判所判決(Case T-105/23):商標「ICELAND」の登録無効について (InfoCuria / 英語)
この事例は、日本企業がアイスランドに関連するブランド名や商品名を検討する際、国名や地名の使用には慎重な検討が必要であることを示唆しています。「アイスランド風」といった表示であっても、実際に本件国で製造されていない場合、原産地誤認として不当表示に問われる可能性があります。
まとめ
アイスランドにおける広告規制は、EU法との調和を図りつつも、公衆衛生や消費者保護の観点から独自の厳しいルールを設けています。特にアルコール飲料の広告が、メディアの種類を問わず、またアルコール度数2.25%という低い基準から全面的に禁止されている点は、日本企業にとって大きな参入障壁となり得ます。また、たばこ製品の陳列禁止や、インフルエンサーマーケティングにおける厳格な開示義務など、日本とは異なる商慣習への適応が求められます。
これらの規制に違反した場合、消費者庁による製品の回収命令、広告の差止命令、そして日額単位で科される履行強制金などの重いペナルティを受けるリスクがあります。一方で、商標法の改正による不使用取消制度の迅速化など、知的財産権の保護環境は整備されつつあります。本件国市場への進出にあたっては、現地の最新の法令や判例に基づいた慎重なコンプライアンスチェックが不可欠です。
モノリス法律事務所では、こうした北欧諸国特有の法規制に関する調査や、現地当局への対応、契約書のリーガルチェックなどについて、皆様のビジネスをサポートいたします。現地の法制度に適応し、リスクを最小限に抑えた事業展開を実現するため、ぜひお気軽にご相談ください。
カテゴリー: IT・ベンチャーの企業法務

































