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法律記事MONOLITH LAW MAGAZINE

風評被害対策

ネット上での無断写真転載と著作者人格権

風評被害対策

ネット上での無断写真転載と著作者人格権

当サイトの別記事において解説しましたが、「商業写真や、明らかにプロが撮影したとわかる写真ならともかく、一般人が撮った写真であれば、著作権は問題にならず、無断引用しても著作権侵害にはならない」という考えは誤っています。素人の自撮り写真であっても、構図、光線、背景等には何らかの、それなりの独自性が表れるわけですから、著作物になり、これらを無許可でウェブ等に転載すると、著作権(複製権及び公衆送信権)侵害となる可能性があります。

プロが撮影した写真を無断引用すれば、もちろん著作権(複製権及び公衆送信権)侵害ですが、では、例えば、ブラウザの画像検索機能を用いて「ペンギン」と検索して見つかった2羽のペンギンの画像が気に入り、プロの写真家による商業写真らしいのですが、自分のプロフィール画像に使いたいと考えたとします。
まずダウンロードして、氏名表示があったのでこれを外して円形にトリミングし、行進する2羽のペンギンを1羽ずつにして2枚の画像にします。すると、プロフィール画像ですから小さく表示されるだけですし、画質も粗くなり、元の写真と2枚の画像はほとんど類似していないと思われるようになったので、安心してアップロードしました。

上のようなことを行っている人がかなりいると思われますが、これは、アウトです。著作権(複製権及び公衆送信権)侵害となるだけでなく、著作者人格権(同一性保持権)をも、侵害しています。

著作権と著作者人格権

著作権は特許権等の他の知的財産権とは異なり、申請手続をしなくても、著作物が創作された時点でその著作物を創作した人に、

  • 著作権
  • 著作者人格権

の2つが、自動的に発生します(無方式主義)。著作権は複製権、上演権及び演奏権、上映権、公衆送信権、口述権、展示権、頒布権、譲渡権、貸与権、翻訳・翻案権、二次的著作物の利用権といった財産的権利をその具体的内容としています(著作権法第21条~28条)。

一方、著作者人格権とは「公表権」、「氏名表示権」、「同一性保持権」の3つの権利の総称ですが、この3つの権利は、名称からも推測できるとおり名誉権とプライバシー権等の著作権版とも言えるものであり、著作権が著作者の財産的権利を保護するものであるのに対し、著作者人格権は著作者の人格的利益を保護するものです。

著作者人格権の内容とは

著作者人格権は、

著作権法
第18条(公表権)
著作者は、その著作物でまだ公表されていないもの(その同意を得ないで公表された著作物を含む。以下この条において同じ。)を公衆に提供し、又は提示する権利を有する。当該著作物を原著作物とする二次的著作物についても、同様とする。

第19条(氏名公表権)
著作者は、その著作物の原作品に、又はその著作物の公衆への提供若しくは提示に際し、その実名若しくは変名を著作者名として表示し、又は著作者名を表示しないこととする権利を有する。その著作物を原著作物とする二次的著作物の公衆への提供又は提示に際しての原著作物の著作者名の表示についても、同様とする。

第20条(同一性保持権)
著作者は、その著作物及びその題号の同一性を保持する権利を有し、その意に反してこれらの変更、切除その他の改変を受けないものとする。

の3つからなりますが、このうちの同一性保持権とは、クリエイターの名誉や、自分が制作した作品への思い入れを守る権利であり、努力して制作した作品を切り刻まれたり、内容又はタイトルを自分の意に反して勝手に改変されたりしない権利です。上であげた「2羽のペンギン」は、実際に裁判で「同一性保持権」侵害が争われた事例です。

写真の一部トリミングを無断公開した事例

写真家である原告が2羽のペンギンが行進している様子を撮影した写真をウェブサイト上にアップロードし、利用料金表が掲示されていました。被告は、原告に無断で、この画像をウェブサイトからダウンロードし、原告画像に存在した原告氏名表示を削除した上で、まず画面右側のペンギンのみを切り出すトリミング処理をし、次に画面左側のペンギンのみを切り出すトリミング処理をして、それぞれオンライン・カラオケサービスのアカウントの自己プロフィール画像1と2に設定して使用するために、アップロードする各侵害行為を行ってサーバに複製し、送信可能化しました。そこで、本件写真に係る複製権及び公衆送信権を侵害されるとともに、氏名表示権及び同一性保持権を侵害されたして、原告写真家が損害賠償を求めて、提訴したのです。

裁判所はまず、「本件写真は、写真家である原告が、2羽のペンギンが行進している様子を、構図、陰影、画角及び焦点位置等に工夫を凝らし、シャッターチャンスを捉えて撮影したものであるから、創作性があり、原告を著作者とする写真の著作物である」とした上で、被告が画像をダウンロードしてトリミング処理をし、原告氏名表示を削除した上でアップロードしたことを認め、「原告の本件写真に係る複製権及び公衆送信権を侵害するとともに、原告の氏名表示権及び同一性保持権を侵害した」として、被告による著作権及び著作者人格権の侵害を認めました。

被告は、「もともとインターネット上にあった各画像を利用したのであって、本件写真に依拠していない。本件写真の被写体は自然物たるペンギンであるから、被写体の選択等について創作性が発生する余地はなく、仮に創作性を認め得るとしても、撮影手法に限られる。そして、被告プロフィール画像は小さく表示され、画質も粗いことからして、もはや本件写真の表現上の本質的特徴を直接感得することができず、本件写真と被告各画像は類似しない」と弁明したのですが、ことごとく、判決において否定されました。

裁判所は、

被告は、原告画像から1羽のペンギンのみをトリミングしてアップロードし、被告プロフィール画像1が表示されなくなると、再び同様のアップロードをして、原告の氏名表示権及び同一性保持権を侵害したものであって、被告の各侵害行為は、原告に精神的苦痛を与えるものであり、当該画像が被告プロフィール画像として表示されていた期間も、前記のとおり、2年7か月余に及ぶ。 他方、被告は、営利目的で原告画像を用いたわけではなく、被告プロフィール画像を被告アカウントページに掲載することにより、原告のブランドが毀損されたとまでは認められないことは、前記判示のとおりである。

東京地方裁判所2019年5月31日判決

として、著作権侵害に基づく画像利用料相当額(16万2000円)+内容証明郵便費用(2226円)+本件仮処分申立費用(27万円)+保全執行費用(10万8000円)+弁護士費用(7万円)に、著作者人格権侵害に基づく慰謝料(10万円)を加え、合計71万2226円の支払いを、被告に命じました。

被告は、「もはや本件写真の表現上の本質的特徴を直接感得することができ」ないほどに改変し切り刻んだのだからいいのではないかと考えたのですが、著作者人格権の考え方からは、だからこそ同一性保持権を侵害しているのだということになり、著作者に更なる精神的苦痛を与えたことになります。

人物写真の場合

宗教団体Aの専属カメラマンBが、原告である宗教団体の発意に基づき、代表者Cの肖像写真を職務上作成し、原告の名義で同団体の機関紙上に公表しました。この写真を複製し一部切除するなどして作成した写真を、被告が自ら開設するホームページに掲載した行為が、複製権侵害、公衆送信権侵害、同一性保持権侵害に当たるとして、著作権を保持する宗教団体が損害賠償を求めた事例があります。

裁判所はまず「Bは、本件写真の撮影に当たり、背景、構図、照明、被写体であるCの表情等に工夫を加えて撮影していることが認められるから、本件写真にはBの個性が表現されている。したがって、本件写真は、Bの思想又は感情を創作的に表現したものということができ、著作物性を有する」とした上で、「本件写真は、Bが原告の発意に基づき、職務上作成した上、原告の名義で公表したものといえるから、著作権法15条1項の職務著作の要件を満たし、その著作者は原告と認められる」としました。

著作権法
第15条 
法人その他使用者(以下この条において「法人等」という。)の発意に基づきその法人等の業務に従事する者が職務上作成する著作物(プログラムの著作物を除く。)で、その法人等が自己の著作の名義の下に公表するものの著作者は、その作成の時における契約、勤務規則その他に別段の定めがない限り、その法人等とする。

そして、被告が無断転載した写真は、カラー写真を白黒にして上下左右の一部を切除して作られたものであり、原告やCを批判する様々な雑誌、機関誌、ホームページ等において、それまでにたびたびやや不鮮明な態様で使われてきたものであり、被告がこれらの不鮮明な複製物から写真をコピーし、そのままホームページに掲載したと認めました。

つまり、被告がコピーしたのは、最初に機関紙上に掲載された写真ではなく、同宗教団体を批判する様々な雑誌、機関誌、ホームページ等において、使い古されて不鮮明になってしまっていた画像だったのですが、被告としては、「どうせ皆がやっていることだ」「自分が白黒にしたり、切り取ったりする改変行為を行ったわけではない」と考えたのかもしれません。

しかし、裁判所は、

被告は、何人かが本件写真を白黒にし、上下左右の一部を切除して作成された被告写真をそのまま複製したものである。しかし、著作物を一部改変して作成された同一性保持権を侵害する複製物をそのまま複製し、本件のように、自らのホームページに掲載する行為も、客観的には、著作物の改変行為であり、著作権法20条1項の同一性保持権侵害行為に当たるというべきである。

東京地方裁判所2007年4月12日判決

とし、著作権(複製権,公衆送信権)侵害による慰謝料30万円、著作者人格権(同一性保持権)侵害による慰謝料5万円、弁護士費用5万円、合計40万円の支払いを、被告に命じました。

被告は、「きわめて目の粗い白黒写真である」し、「同様の写真が雑誌やインターネット等に氾濫していたのであるから,そのような状況下で被写体がCであるからといって本件写真の著作権が原告に帰属すると考えて然るべきであるなどとは到底いえない」と弁明したのですが、裁判所は、「被告は、その著作権が誰に帰属するか等を確認することなく被告写真をコピーして被告ホームページに貼り付けたものと認められるから、本件写真の著作権侵害(複製権侵害及び公衆送信権侵害)について少なくとも過失があることは明らかである」としました。

また、掲載された被告写真は、Cが自らの意思に基づいて積極的に撮影を許した写真を、Cないし原告に批判的な者がこれを無断でコピーして用いていることが一見して明らかである。そして、このような使用形態においては、元の写真を一部切除したりするなどの何らかの改変が加えられることはままあることであり、被告は、団体に批判的なホームページに掲載された被告写真が、元の著作物に改変が加えられているものか否かを確認することなく漫然と自己のホームページにコピーして掲載したのであるから、本件写真の同一性保持権侵害について、少なくとも過失があるものと認められる、と裁判所は判断し、複製権侵害,公衆送信権侵害及び同一性保持権侵害について過失があったものと認めました。

「きわめて目の粗い白黒写真である」し、「同様の写真が雑誌やインターネット等に氾濫していたのである」からこそ、著作権が侵害され、著作者人格権侵害が行われていると判断し、著作権が誰に帰属するか等を確認すべきだったといえます。

まとめ

他人が撮影した写真だがうまく切り取れば大丈夫だろう、皆が使っている写真だから自分も使っていいだろう等の考えは、著作権や著作者人格権の侵害となる可能性があります。他人が撮影した写真を切り取ったり、素材を加えたり、白黒にしたり等をすれば、著作権ばかりでなく、著作者人格権をも侵害することになる可能性があるからです。著作権や著作者人格権を侵害しているのではないか、侵害されているのではないか、という疑問を持たれたら、早いうちにこの問題に関する経験が豊富な弁護士に相談しましょう。

弁護士 河瀬 季

モノリス法律事務所 代表弁護士。元ITエンジニア。IT企業経営の経験を経て、東証プライム上場企業からシードステージのベンチャーまで、100社以上の顧問弁護士、監査役等を務め、IT・ベンチャー・インターネット・YouTube法務などを中心に手がける。

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