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法律記事MONOLITH LAW MAGAZINE

風評被害対策

名誉毀損と肖像権侵害の関係とは?事例や裁判例を紹介

風評被害対策

承諾なしに撮影・公表しても肖像権侵害にならない場合とは

肖像権とは、一言で言えば、承諾なしに自分の顔や容姿を撮影されたり、公表されたりすることを禁止する権利です。

この肖像権は、プライバシーの一つの現れであるとも説明されます。つまり例えば、ある日ある場所を歩いているときに無断で写真を撮影され、その写真をSNSなどで公開されてしまうと、知人から見て「あの人はあの日あの場所にいたのだ」と分かってしまうのであり、その写真の公開は、「その人がその日どこにいたのか」という、一種のプライバシーに関わる問題だからです。

ただ実務的感覚として、肖像権は、名誉毀損と同時に主張されるケースも多いものといえます。典型的には、「公人」とも「一般人」とも言い難い、例えばある大手企業の一定以上の地位の従業員が、週刊誌やウェブメディア上で、何らかのスキャンダルを掲載されてしまった場合です。

  • スキャンダルを公開されたことについて→名誉毀損の問題
  • その記事の中で顔写真を公開されたことについて→肖像権の問題

という主張が行われるケースがあるからです。

こうしたケースで、例えば、「名誉毀損ではないが、肖像権侵害である」という判断が行われるケース、逆に「肖像権侵害ではないが、名誉毀損である」という判断が行われるケースは、存在するのでしょうか?

名誉毀損認が認められず、肖像権侵害も認められない場合

名誉毀損・肖像権侵害も認められなかった事例についてあげていきます。

「週刊サンケイ」は私立歯科大教授がフィリピンで連日フィリピン女性と性行為に及び、かつ売春の上前をはねたかのような記事を掲載し、仮名を用いつつも当人の顔写真と現地ホテルでの写真を掲載しました。記事によれば、この私立歯科大教授は、知人のスナックマスターと共にフィリピンに行き、このマスターの経営する日本のスナックで働かせ、売春させるフィリピン人女性を選ぶために、多数の女性と次々に性行為をくり返して遊びまわり、選んだ二名の女性を観光ビザで日本に入国させて、スナックで働かせることに関与したというのです。

この記事を受け、当の私立歯科大教授は、「週刊サンケイ」と経営会社を名誉毀損と肖像権侵害で訴えました。当サイトの別記事でも説明しましたが、名誉毀損は、「公然と」「事実を適示し」「人の名誉を毀損する」場合に成立します。

この場合、仮名が用いられているにせよ、「○○歯科大学補綴学の教授(49歳)」と地位及び年齢が表示されているうえ、原告の顔写真を掲載しており、この人物が原告であることは、原告を知る者にとっては明らかです。また、スナックで働かせるフィリピン人女性を選ぶために多数の女性と次々に性行為をくり返して遊びまわり、選んだ2名の女性を観光ビザで日本に入国させて、スナックで働かせることに関与したという「事実」を、本件週刊誌に記載し、約45万部を全国に頒布したのですから、大学教授であつた原告の社会から受ける評価は当然低下したものと考えられ、その名誉が毀損されたということができます。

一方、「公共性がある」「公益性がある」「真実である」という条件を満たしている場合には、名誉毀損は成立しません。

裁判所は、原告は歯科大学において、将来日本の歯科医療の実践に携わる歯学部の学生に対し、歯科医師として社会的に要請される倫理を実践するベき指導者であり、公私を問わずその言動が歯学部学生の精神生活等に重大な影響を与えるばかりでなく、大学の歯学部教授、日本補綴歯科学会の理事としての地位を背景とした直接・間接の社会奉仕、教育及び研究の各活動等を通じ、社会一般に対しても少なからぬ影響を及ぼす立場にあつたと認めることができるとして、本件記事により扱われた事実は公共の利害に関する事実にあたると判断しました。

また、歯科大学の教授がフィリピン女性を違法に日本に入国させることに関与する行為を行っていたことは、あまりにもその社会的責任に反した行動であるとの考えより、事実を報道することにより一般市民の批判に訴え、歯科大学、さらには広く一般の大学の教授や関係者に対して警鐘を鳴らし、彼らに襟を正してもらうことが報道機関としての使命であると判断して本件記事を掲載したことを認めることができるとして、本件記事は、専ら公益を図る目的で公表・掲載されたものと認めました。

そして、本件記事中において、細部にわたっては、真実と認めうる証拠の存しない部分があったり、また、表現に誇張等があり適切でない部分があったりすることは否定できないが、本件記事の主要部分である原告の社会的に批判されるべき事実については、いずれも真実であると認め、名誉毀損に基づく損害賠償請求を退けました。

また、肖像権侵害については、原告が全裸で、下着をつけようとしているところの写真や、原告らがベッドの上で複数の女性と戯れている写真は、一般人が公表されることを欲しない写真であることが明白であり、原告がこのような写真を週刊誌上に公表することについて承諾を与えていたとは認められないのであるから、本件週刊誌にこれらの写真が掲載されたことにより、原告は、人格的利益を侵害されたというべきであるが、写真掲載の行為が違法性を欠くか否かにつき検討すると、

本件記事に掲載されている各写真は、写真だけで独自の意義を有するものではなく、むしろ、本件記事は記事の本文に報道の重点が存し、写真は記事本文の内容を補強し、これを明確化するためのもので右記事とは密接不可分の関係にあると認められ、また、右写真によつて補強される本件記事は、前記(二)で認定したとおりその内容からして公共の利害に関わるものであり、しかも、専ら公益を図る目的で掲載がなされ、かつ、その摘示された事実がその主要部分において真実と認められる。

東京地方裁判所1987年2月27日判決

として、週刊誌に原告の写真を記事補強のためとして掲載したことはその目的、必要性及び手段方法等からみて不法行為成立要件としての違法性を欠くものと判断することができるとし、肖像権侵害も認めませんでした。名誉毀損、肖像権侵害を認めないときの典型的な論理構成です。これは、記事や写真の公開がネット上で行われたときも、同様です。

名誉毀損が認められず、肖像権侵害が認められた場合

名誉毀損が成立しない報道記事においても、すべての写真や映像が認められるわけではありません。

肖像権侵害になるかどうかは名誉毀損等が成立するかどうかに連動している場合が多いのですが、名誉毀損が認められず、しかし肖像権侵害は認められた事例もあります。

偽造有価証券行使・詐欺未遂事件について、捜査機関が被疑事実や被疑者の氏名等について広報を行い、また、テレビ報道機関においても被疑者の氏名を報道し、その映像を放映したことに関し、事件の被疑者として逮捕、勾留され、後に不起訴処分となった元弁護士である原告が、東京都に対して広報による名誉毀損を、日本テレビ、朝日放送、東京放送に対して報道による名誉毀損、肖像権侵害及びプライバシーの侵害を理由として、損害賠償を請求しました。

裁判所はまず名誉毀損の成否について、本件に関する捜査機関の広報は、原告らを偽造有価証券行使・詐欺未遂事件の被疑者として逮捕、勾留した事実及び事件の概要等を内容とするものであるから、本件公報は、原告の名誉を毀損するものであることは明らかであるとしました。一方、公共の利害に関する事実についてのものであるということができ、かつ、専ら公益を図る目的の下に行われたものであると推認することができ、原告らの逮捕、取調べ、勾留及びその延長等の経緯に照らせば、真実であると信じるについて相当な理由があったものと認めることができるとして、名誉毀損を認めませんでした。

またプライバシーの侵害の成否については、かつて弁護士という社会正義を実現することを使命とする職業にあった者が、所属する弁護士会から除名処分を受けたというような経歴は、その者の名誉や信用に直接関わる事柄であって、一般人の感性を基準とすると公開を欲しない事柄であるといえるから、原則として、みだりに右の経歴等に関わる事実を公表されないことについて、法的保護に値する利益を有し、利益を侵害し、経歴等に関わる事実をみだりに公表する行為は、プライバシーの侵害として不法行為を構成するとしました。

しかし一方、ある者の経歴に関わる事実を公表することも、それが公共の利害に関する事実に密接に関係するなど、表現の自由の行使として相当と認められる範囲内においては、違法性を欠き、不法行為は成立しないとして、プライバシーの侵害を認めませんでした。ただ、放送されたもののうち、東京放送による映像は原告の許諾を得ずに隠し撮りしたものであり、

撮影された場所は、原告の自宅付近であると窺われ、未だ原告の私的生活における行動の領域に属する場所であると評価できること、これらの映像上、一見して原告がその姿を報道機関によって撮影されることを望んでいない様子が明らかであること、原告が他人との接触を前提としない普段着姿のまま撮影されているなど、これが一般に放映されることで原告が不快感を抱くものと容易に予測できる映像であること、「去年除名となった元弁護士」との音声部分と一体のものとして一般の視聴者の視覚に止まることにより、原告の右のような属性を必要以上に視聴者に強く印象付けかねないものである

東京地方裁判所2000年10月27日判決

として、東京放送に対しては、50万円の損害賠償を命じました。名誉毀損が成立しないような報道記事においても、すべての写真や映像が認められるわけではありません。これは、注意が必要なことです。

名誉毀損を認め、肖像権侵害を認めなかった事例

名誉毀損が認められたのに、肖像権侵害が認められなかった事例も あります。

上の例とは逆に、名誉毀損が認められたのに、肖像権侵害が認められなかった事例もあります。上の例とは対照的で興味深いので、ご紹介しましょう。どういう場合に肖像権侵害が認められないのかということの参考になるかもしれません。

NHK社会部長が自宅マンションの騒音問題で、建設省を通じて施工業者に圧力をかけた等の言動を内容とする記事が写真週刊誌「FOCUS」に掲載され、「異常なクレーマーと化し、企業や一般人を恐怖のどん底に突き落としている」と書かれた事例があります。建設省幹部まで動かした職権濫用と非難されたNHK社会部長は、名誉毀損、肖像権侵害に当たるとして損害賠償を求め、発行者を訴えました。

東京地方裁判所は、原告がNHK社会部長の地位を利用して、個人的問題であるにもかかわらず、建設省を通じて施工業者に圧力をかけるなどの職権濫用を行ったという事実はなく、真実と信じたことについて相当な理由があるとも認められないとして、本件記事は、原告の社会的評価を低下させ、名誉を毀損するものであると認めました。

そして、本来個人的な問題である階上の住人との間での騒音問題を大きく取り上げられて、異常行動や異常クレーマーという人格攻撃的な表現もされたため、本件記事によって、原告のみならず原告の家族も多大な精神的苦痛を被ったことが認められるとして、慰謝料500万円、弁護士費用50万円、合計550万円の支払いを、新潮社に命じました。

一方、肖像権侵害については、

本件写真は、原告の容貌が鮮明に写った全身写真であり、本件写真説明とあいまって、原告が被写体であることを明確に認識できるものである。そして、原告は、本件写真の撮影・公表について承諾していない。
しかし、本件記事が、公共の利害に関する関する事実に係り、専ら公益を図る目的に出たものであることは前記二で判示したとおりであり、本件写真は、そのような本件記事の一部を構成し、本件記事の内容を効果的に伝達する役割を果たしているものである。そして、本件写真は、背広姿の原告の全身写真であって(前記前提事実)、それ自体が原告に格別な羞恥、困惑等の不快感を与えるものではなく、撮影場所や撮影方法も、原告が居住する本件マンションの建物玄関から出るところを屋外から撮影したものであり、公道に準ずる公共性の高い場所での撮影であって、社会通念上不相当であるとまではいえない。

東京地方裁判所2001年12月6日判決

として、肖像権侵害は認めませんでした。上の、元弁護士の事件の場合と比較すると興味深い結果であることがわかります。

まとめ

週刊誌等においては、記事の一部を構成し、内容を補強し、内容を効果的に伝達する役割を果たしているものであるのなら、写真の撮影・公表について承諾していない場合でも、著作権侵害に当たらない可能性があります。ネット上において異なる判断をする理由はありませんから、ネット上の場合でも、同じであると考えることが可能です。また、普段着姿ではない背広姿等であって、格別な羞恥困惑等の不快感を与えるものではなく、公道に準ずる公共性の高い場所での撮影であるなら、著作権侵害に当たらない可能性がいっそう高まると言っていいでしょう。ネット上でどのような記事が許されないのか、どのような写真が著作権侵害に問われるのかは、上にあげた例からもおわかりでしょうが、微妙で、判断が難しい問題です。

ウェブサイトなどに書かれた記事が名誉毀損もしくはプライバシーの侵害にあたるかどうか、写真等が肖像権を侵害しているかどうか、経験豊かな弁護士に相談し、判断してもらいましょう。

弁護士 河瀬 季

モノリス法律事務所 代表弁護士。元ITエンジニア。IT企業経営の経験を経て、東証プライム上場企業からシードステージのベンチャーまで、100社以上の顧問弁護士、監査役等を務め、IT・ベンチャー・インターネット・YouTube法務などを中心に手がける。

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