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【令和6年8月】デジタル証券(ST)規制緩和へ その内容と影響を解説

デジタル証券

金融庁より、令和6年(2024年)8月にデジタル証券(セキュリティ・トークン、以下ST)の規制が緩和されることが発表されました。この規制緩和によって、国内のデジタル証券の普及を促進することが狙いです。2023年度の国内総発行額が1000億円に上り、注目が集まるデジタル証券業界において、今回の金融庁による規制緩和がどのような影響を及ぼすのでしょうか?

この記事では、「デジタル証券」とは何かや今回の規制緩和の内容と影響について解説していきます。

デジタル証券とは?

デジタル証券(セキュリティトークン、ST)の概要

デジタル証券とは、有価証券の権利をトークン化したものです。株や、債券、投資信託などと同じ有価証券で、その権利をブロックチェーン技術を利用して発行した証券です。これにより、従来の証券と同様の権利をデジタル形式で表すことができます。

デジタル証券の正しい呼称は「電子記録移転有価証券表示権利等」であり、令和2年(2020年)5月1日に施行された改正金融商品取引法及び関連政府令に規定されています。株や投資信託も券面が電子化されていますが、従来の有価証券とデジタル証券はどのような違いがあるのでしょうか。

関連記事:Web3に関する法律とは?参入企業が押さえるポイントについても解説

デジタル証券は従来の証券と何が違うのか

従来の証券との違い

1つ目に、有価証券と異なる点としては、発行企業から直接購入できるという特徴があります。有価証券を発行する企業は通常、販売を証券会社に委託しています。これは、一般的に証券が、「社債、株式等の振替に関する法律」により定義される「証券保管振替機構(ほふり)」という管理機関において一元管理されているのに対して、デジタル証券の場合はその適用を受けないように設計されるため「ほふり」での管理ではなく、ブロックチェーン技術などを活用した独自のインフラにて発行・管理され、取引が記録されているためです。

もう一つ、効率性という点が大きな違いとして挙げられます。

デジタル証券は、スマートコントラクトというプログラムにより取引や証券の発行プロセスの自動化が可能です。例えば、株式の配当金の支払いなどの際に第三者の金融機関などを介在させる必要がないため、費用においても時間的にも効率化を図ることができます。

一方、従来型の証券取引は多くの手続きや中間業者が介在し、複雑なプロセスが必要なことから、効率性には劣ります。

デジタル証券の特徴

デジタル証券の特徴として、小口化された多様な取引が可能であるという点があります。

例えば、不動産もデジタル証券によって取引可能です。不動産STでは、実際には分割できない土地や物件を、ブロックチェーン技術を利用して、少額による購入が可能な形に変化させることにより、小口での取引が可能となっています。

同様に、不動産の小口現金化が可能なREITとの違いとして、投資対象の違いが挙げられます。

不動産デジタル証券は1つの物件に投資しますが、REITは複数の物件を保有する法人の株式に投資します。そのため、デジタル証券は特定の物件に投資でき、投資対象がわかりやすいというメリットがあります。

また、価格の動きも異なります。デジタル証券は、評価額に基づいて取引されるのに対し、REITの価格は株式市場の動向に常に影響を受け、金利や大口投資家の取引によって価格が変動します。

さらに、流動性にも違いがあります。REITは株式市場で取引されるため、流動性が高く投資家が比較的容易に売買できます。一方、デジタル証券は証券会社への売却が主流で、取引場面が限られていました。

このように多くの優位性をもっているデジタル証券は、日本においても普及活動が進んでいます。

参考:東京都デジタル証券(セキュリティトークン)市場拡大促進事業補助金

日本におけるデジタル証券規制の現状とその背景

ここまで解説したように、デジタル証券は多くの優位性を有している一方で、様々な法規制の課題がありました。

デジタル証券の販売・勧誘に係る行為規制等

金融商品取引業者等が販売・勧誘を行うにあたっては、株式や社債等と同様に、金商法上の行為規制や、犯罪による収益の移転防止に関する法律上の取引時確認、金融サービスの提供に関する法律上の重要事項の説明等の義務等が課されます(ただし、STは、現状非上場有価証券であることに留意が必要です)。

また、株式や社債等の第一項有価証券と同様に、金商法上の行為規制や、犯罪による収益の移転防止に関する法律上の取引時確認、金融サービスの提供に関する法律上の重要事項の説明等の義務が課されます。

デジタル証券は、投資対象となる信託受益権や集団投資スキーム持分等の商品内容、投資リスク等の説明に加え、その保有態様、移転や決済等に関して、他の有価証券とは異なるリスクがあることから厳格な規制があります。

  • 適合性原則(取引開始基準)

管理業務等を行う際の分別管理業務等に関する方針の公表及び措置(業府令70条の2第5項)

  • 広告等の規制

広告を行う際、取り扱うデジタル証券の性質や保管・移転の仕組みについて誤認等させないようにすること(同78条)

  • デジタル証券の概要の説明(契約締結前交付書面)

デジタル証券の売買等において契約締結前交付書面を交付する場合、デジタル証券の性質に関する注意喚起をすること(同83条)

デジタル証券の分別管理の徹底等

まず、デジタル証券を取り扱う金融商品取引業者等に対し、分別管理の徹底および流出リスクへの対応措置等が求められています。

「金融商品取引業者等は、顧客から有価証券及び金銭の預託を受ける場合には、当該有価証券等を、確実にかつ整然と管理する方法により、自己の固有財産と分別して管理しなければならない」(金商法 43条の2) 

 さらに、デジタル証券としてトークン化された有価証券は、投資家は原則としてトークンの移転等を行うために必要となる秘密鍵(公開鍵暗号方式で使用される一対の鍵の組のうち、一般に公開されない鍵)が付与されることになります。金商業者等がデジタル証券の預託を受ける場合には、当該秘密鍵が第三者へ流出することを回避するため、通常、投資家から秘密鍵の預託を受け、法令上の分別管理に係る規定および社内規程等に基づき、自己または外部委託先において自身の固有財産等と分別して管理することとされています。

この場合、「顧客有価証券である電子記録移転有価証券表示権利等を表示する財産的価値を移転するために必要な情報を、常時インターネットに接続していない電子機器、電磁的記録媒体その他の記録媒体(文書その他の物を含む。)[いわゆるコールド・ウォレット]に記録して管理する方法その他これと同等の技術的安全管理措置を講じて管理する方法」で分別管理しなければならないとされています。(金商業等に関する内閣府令136条1項5号)。

参考:セキュリティトークンに関する現状等について

デジタル証券の規制緩和によって変わること

規制緩和によって変わること

今回の規制緩和は、大きく分けると以下の2つのポイントがあります。

  • 一つの金融グループでデジタル証券の発行から引き受け、販売までを行うことができる。
  • 金融機関が投資家に公表する項目の拡充。

 金融庁は、1つの金融グループ企業がデジタル証券の発行、引き受け、販売までを通して担えるようにして、商品数の増加を促進し、投資家が購入しやすいように内閣府令を改正する計画を発表しました。

規制緩和の対象となるのは、デジタル証券の全発行額のうちおよそ85%を占める不動産物件を裏付けとするデジタル証券で、具体的には商業施設、ホテル、大型マンションなどの不動産が裏付け資産に含まれています。

すでに解説したとおり、これまではこれらデジタル証券は分別管理の原則のもと、組成した信託銀行のグループ内の証券会社は、デジタル証券の引き受けに参加できませんでした。このため、デジタル証券を取り扱う証券会社が絞られ、24時間365日取引が可能であることや、資金調達の容易さなどのメリットが十分に発揮できずにいました。そこで今回の規制緩和で従来のルールを改定し、発行数増加や市場の拡大を狙います。

今回の規制緩和が実現すれば、発行体として1つの金融グループで発行から引き受け、販売までの収益を想定できるようになることに加え、商品数が増加することによって投資家も購入がしやすくなり、デジタル証券の発行増加や案件の増加につながる可能性があります。

また、規制緩和に合わせ、日本証券業協会が投資家保護のルールを整備する予定です。具体的には、金融機関が投資家に公表する項目を拡充することとしており、価格決定の透明性が保たれ、投資家が不利益を被る恐れを軽減するため、デジタル証券を発行する信託銀行が自社グループ以外の独立証券会社と進めた価格決定の協議の経緯や、支払った手数料の有無などを開示するようになります。

価格設定にあたっては不動産鑑定士や公認会計士による評価額を算出するのが適当だと規則に定め、独立証券会社の承認も条件となります。

デジタル証券の規制緩和で期待される効果

規制緩和で期待される効果について

デジタル証券市場の成長促進

国内のデジタル証券市場は拡大傾向にあり、2023年度の取り扱い額は約1000億円にのぼり、2024年度に1700億円に達する見通しで、今後の成長が見込まれています。一方で、金融商品取引法などの規制により、デジタル証券を取り扱うことができる証券会社に限りがあり、十分な流通窓口を確保できずにいたことや、ワンストップで発行から販売までを行えなかったこともあいまって、発行体としても見込まれる収益を具体的に予想しにくい状況が続いていました。こうした要因がデジタル証券の普及の妨げになっていました。

デジタル証券流通にあたり、従来は資産運用会社が保有する不動産から、信託銀行が小口化したデジタル証券を組成し、資本関係のない証券会社に引き受け、販売を任せるという一連の手続きが取られていました。しかし今回の規制緩和により、信託銀行のグループ会社の証券会社も引き受け販売が可能になることで、そもそものデジタル証券の発行数、流通数が増加し、これによって投資家の投資活動も促進されるという効果が期待されます。

国内外の投資家へのアピール

規制緩和により、国内流通するデジタル証券の絶対量が増加することにより、投資家にとって投資対象の選択肢が増えることが予想されます。

また、リスク対策のための分散投資という観点からも、デジタル証券の商品数が増加することは投資家にとって大きなメリットであると言えます。

特に、不動産にかかるデジタル証券は、REITと異なり、価格が市場の影響を受けにくいことや、実際に所有している所有感を強く感じることができる点も、投資家にとって大きな魅力であり、投資活動の促進に繋がると予想されます。

新しい資金調達手段の提供

今回の規制緩和により、デジタル証券の発行から販売が円滑に行うことができるようになると、STを発行することで資金を調達することができるSTO(セキュリティ・トークン・オファーリング)が活発になることが期待できます。

裏付け資産がないICO(イニシャル・コイン・オファリング)は詐欺的取引が横行したなどの問題点がありました。また、IPO(イニシャル・パブリック・オファリング)は証券取引所の上場基準を満たすべく、業績を維持しながら内部管理体制を構築していく経営が求められ、また膨大な申請書類の準備も必要で、数年がかりでの準備となるなど、資金調達までが複雑かつ困難です。

しかし、STOは事業・サービス開始前でも資金調達が可能であり、IPOほどは書類のボリュームや体制を要求されないことから、企業側の負担は軽いものとなります。

また、企業が保有するさまざまな資産等を証券化・ST化することにより、企業の資金調達手段の多様化を図ることができると期待されています。

関連記事:STOとICOの違いとは?セキュリティトークンの概念とSTOの意義について解説

デジタル証券の規制緩和の動き

金融機関や企業の反応

国内では、SBIグループや三井住友フィナンシャルグループが出資する大阪デジタルエクスチェンジ(ODX)が私設取引システムの「START(スタート)」を開設し、令和5年(2023年)12月にデジタル証券の売買を始めており、今回の金融庁による規制緩和により取引額が拡大する見込みです。

また、東京都では規制緩和に先駆けて、デジタル証券市場拡大促進のための事業募集や、補助金の募集が開始され、ますます注目を集めています。

参考:東京都「デジタル証券市場拡大促進 事業募集

参考:東京都「デジタル証券(セキュリティトークン)市場拡大促進事業補助金」

今後の市場動向と予測

ボストン・コンサルティング・グループは2022年に3100億ドルだった世界のデジタル証券の発行額は、2030年には16兆1000億ドルに膨らむと試算しており、世界的にも投資対象としての市場価値がますます高まっていくことが予想されています。

まとめ:デジタル証券規制緩和により市場拡大が期待される

今回金融庁から発表された規制緩和のポイントは大きく以下の2点です。

  • 発行手続きの簡素化
  • 投資家保護の強化

ここでは、金融庁が発表したデジタル証券の規制緩和について、デジタル証券そのものの解説から発表された規制緩和の内容について解説してきました。今回の規制緩和により、今後市場におけるデジタル証券の案件数は大幅に増加することが予測されます。

助成金や補助金、支援事業も拡大する中で、どのような手続きが必要なのかは慎重な検討が必要となります。

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弁護士 河瀬 季

モノリス法律事務所 代表弁護士。元ITエンジニア。IT企業経営の経験を経て、東証プライム上場企業からシードステージのベンチャーまで、100社以上の顧問弁護士、監査役等を務め、IT・ベンチャー・インターネット・YouTube法務などを中心に手がける。

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