コンタクトレンズの値引き販売の問題点は?医療機器販売の注意点を解説
2009年の薬事法施行令の一部改正によって、視力補正を目的としない「おしゃれ用カラーコンタクトレンズ (通称カラコン)」も健康被害の発生を防止する観点から視力補正用コンタクトレンズと同様に高度管理医療機器に加えられました。
この改正に伴い、カラコンも薬機法(医薬品医療機器法)の規制対象となり、販売方法や広告などにも注意が必要となりました。
今回は、カラコンの販売時に行われている「ポイントバック」や広告で使用する「原価カラコン」「仕入カラコン」などの適法性について詳しく解説します。
この記事の目次
ポイントバックによるカラコン販売をすることの適法性
ポイントバックは景品表示法に定める「景品類」に該当するか
ポイントバックの適法性について検討するには、最初に「景品表示法 (不当景品類及び不当表示防止法)」との関係を考えなければなりません。
第2条第3項
この法律で「景品類」とは、顧客を誘引するための手段として、その方法が直接的であるか間接的であるかを問わず、くじの方法によるかどうかを問わず、事業者が自己の供給する商品又は役務の取引に付随して相手方に提供する物品、金銭その他の経済上の利益であって、内閣総理大臣が指定するものをいう。
上記にある「内閣総理大臣が指定するもの」とは次の4種類を指します。
- 物品及び土地、建物その他の工作物
- 金銭、金券、預金証書、当選金付き証票及び公社債、株券、商品券その他の有価証券
- 供応(映画、演劇、スポーツ、旅行その他の催物等への招待又は優待を含む。)
- 便益、労務その他の役務
ただし、次の2つのケースに該当する場合には景品表示法の規制の対象外とされています。
- 正常な商慣習に照らして値引き又はアフターサービスと認められる経済上の利益
- 正常な商慣習に照らして当該取引に係る商品又は役務に付属すると認められる経済上の利益
ポイントバックが「正常な商慣習に照らして値引き」に該当するかが問題となりますが、消費者庁の「景品に関するQ&A」では次のように説明しています。
質問
景品に関するQ&A
当店では、ポイントカードを発行し、商品の購入者に対し、次回以降の買い物の際に支払いの一部に充当できるポイントを提供することを考えているのですが、景品規制は適用されるのでしょうか。
回答
景品に関するQ&A
取引通念上妥当と認められる基準に従い、取引の相手方に対し支払うべき対価を減額すること又は割り戻すことは、値引きと認められる経済上の利益に該当し、景品表示法上の景品類には該当しません。
上記の回答によれば、ポイントバックは景品表示法の景品類には該当しないことになりそうです。ただし、ポイントバックであっても、以下のケースに該当する場合には「景品類の提供」に該当することになるので注意が必要です。
- 懸賞でポイントバックの相手方を決定する場合
- ポイントの使途を限定(旅行など)する場合
- 景品類の提供と併せて行う場合
- 自店だけでなく他の店舗でも共通して支払いの一部に充当できるポイントを提供する場合
製品の販売価格に対するポイントバックの割合の上限
ポイントが「景品類」に該当する場合であれば、取引価格の20%を超えることはできませんが、「取引通念上妥当と認められる基準に従い、値引と認められる経済上の利益」に該当し、自己(販売者)の製品・サービスに対してのみ使用できるポイントを付与するのであれば「景品類」に該当せず、ポイント還元率の上限はありません。
しかし、販売価格の表示によっては「不当な価格表示」として禁止される場合がありますので注意が必要です。
不当な価格表示
景品表示法では、一般消費者に誤認を与え合理的な選択を阻害する価格表示を「不当な価格表示」として禁止しています。
第5条 (不当な表示の禁止)
事業者は、自己の供給する商品又は役務の取引について、次の各号のいずれかに該当する表示をしてはならない。
- (略)
- 商品又は役務の価格その他の取引条件について、実際のもの又は当該事業者と同種若しくは類似の商品若しくは役務を供給している他の事業者に係るものよりも取引の相手方に著しく有利であると一般消費者に誤認される表示であって、不当に顧客を誘引し、一般消費者による自主的かつ合理的な選択を阻害するおそれがあると認められるもの
上記の第5条を整理すると「不当な価格表示」は次の2つのケースに分けられます。
- 自己が供給する商品又は役務の販売価格について、実際の販売価格よりも著しく有利であると一般消費者に誤認される表示
- 自己が供給する商品又は役務の販売価格について、競争事業者の販売価格よりも著しく有利であると一般消費者に誤認される表示
比較対象価格を示す広告について
景品表示法では、「定価」や「市場価格」を示した上で、それより安い製品価格を表示する二重価格表示についても規制しており、表示価格からポイント還元率を用いた表示を行う場合には、同一商品を相当期間「定価」で販売した実績があること、または「市場価格」として正しいものであることを確保する必要があります。
「景品表示法における二重価格表示」について詳しく知りたい方は、以下の記事で詳述しています。
値引き販売の際に「原価カラコン」「仕入カラコン」「割引カラコン」などの名称使用に対する適法性
医療機器としての規制
高度管理医療機器「カラコン」の名称に関する原則は、「薬機法」及び「医薬品等適正広告基準」などで定められています。
薬機法 第66条 (誇大広告等)
何人も、医薬品、医薬部外品、化粧品、医療機器又は再生医療等製品の名称、製造方法、効能、効果又は性能に関して、明示的であると暗示的であるとを問わず、虚偽又は誇大な記事を広告し、記述し、又は流布してはならない
医薬品等適正広告基準 第4 (基準) 1名称関係
(1) 承認又は認証を要する医薬品等の名称についての表現の範囲
医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律(条項は省略)の規定に基づく認証を受けた名称又は一般的名称以外の名称を、別に定める場合を除き使用してはならない。ただし、一般用医薬品及び医薬部外品においては、共通のブランド製品の共通部分のみを用いることは差し支えない。
例え「おしゃれ用」であっても高度管理医療機器としてのカラコンの名称は「承認を受けた名称 (販売名)」または「一般的名称」を使用するのが原則ですが、広告には長すぎたり若い世代に伝わりにくかったりするため、「略称」及び「愛称」を使用するケースも多く見られます。
「略称」の使用について
広告の前後の関係等から総合的にみて医薬品等の同一性を誤認させるおそれがない場合に、ブランド名等の販売名の共通部分のみを用いることは可能で、例えば次のようなものがあります。
- 販売名「シードEye coffret 1day UV-M」⇨ 略称「アイコフレ」
- 販売名「フレッシュルック デイリーズ イルミネート」⇨ 略称「Freshlook」
上記のように「略称」を使用する場合には、必ず「販売名」を付記するなどして明示することが条件です。なお、名称の表現については明確に行うものとし、名称と判断できないような小さな字句等で表現することは認められません。
「愛称」の使用について
広告の前後の関係等から総合的にみて、同一性を誤認させるおそれがない場合には「愛称」の使用は可能です。ただし、販売名に使用することができないものを「愛称」に使用することはできません。
また、「愛称」を広告に使用する場合は、「販売名」または「一般的名称」を付記するなどして明示することが条件となります。
「原価カラコン」「仕入カラコン」「割引カラコン」などの名称使用について
この場合、「販売名」として使用するか、「愛称」として使用するかによってチェックポイントは異なります。
「販売名」として使用するケース
「原価カラコン」などを「販売名」として届出する場合、承認する際に行政側が可否の判断をすることになりますが、その場合、次の2点がポイントとなります。
- 性能等に誤解を与え保健衛生上の危害を発生するおそれがない名称であること
- 医療機器としての品位を保つ名称であること
「愛称」として使用するケース
この場合は、事後的に行政側による指摘が入る可能性がありますが、留意しなければならないポイントは3つあります。
- 医薬品等の品位を損なう又は信用を傷つけるおそれのある「広告」でないこと
- 景品表示法における「不当な価格表示」に該当しないこと
- 「価格の安さを強調する表示」に該当しないこと
消費者庁では「価格の安さを強調する表示」についての考え方を公開しています。
小売業者の取り扱う全商品又は特定の商品群を対象に、これらの商品の販売価格の 安さを強調するために、販売価格の安さの理由や安さの程度を説明する用語 (例えば、 安さの理由を説明する「倒産品処分」、「工場渡し価格」等の用語、安さの程度を説明する「大幅値下げ」、「他店より安い」等の用語)を用いた表示が行われることがある。販売価格が安いという印象を与えるすべての表示が景品表示法上問題となるものではないが (中略) 実際と異なって安さを強調するものである場合には、一般消費者に販売価格が安いとの誤認を与え、不当表示に該当するおそれがある。
不当な価格表示についての景品表示法上の考え方
「原価」「仕入」「割引」という言葉はいずれも「販売価格の安さの理由や安さの程度を説明する用語」に該当すると考えられます。
この場合、重要なのは販売価格が通常時等の価格と比較してほとんど差がなかったりすると「不当表示」に該当する可能性がありますので、「原価カラコン」「仕入カラコン」「割引カラコン」から一般消費者がイメージするような値引き額になっているかどうかがポイントとなります。
「薬機法や景品表示法に基づく規制及び罰則」について詳しく知りたい方は、以下の記事で詳述しています。
「品位」や「信用」の点で「原価」「仕入」「割引」あるいは「ポイントバック」のようなワードが使用禁止であるとは即断はできませんが、医療機器であるカラコン自体の名称ではなく、「月額サブスクサービス」の名称や「広告のキャッチコピー」等にこれらのワードを用いることによって薬機法などの広告規制適用はおおむね回避できるものと考えられます。
まとめ
今回は、①ポイントバックによるカラコン販売をすることの適法性、②値引き販売の際に「原価カラコン」「仕入カラコン」「割引カラコン」などの名称使用に対する適法性、について関係法令などを紹介しながら詳しく解説してきました。
薬機法及び関係法令や景品表示法などを読み込むのは、専門知識だけでなく多くの時間と労力が必要となります。
ですから、高度管理医療機器である「カラコン」の販売や広告の方法を検討する場合には、独自に判断するのではなく専門的な知識や経験が豊富な弁護士に事前に相談することをおすすめします。
カテゴリー: IT・ベンチャーの企業法務