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デンマークの海外資本からの投資規制(FDI Act)詳細解説

デンマークの海外資本からの投資規制(FDI Act)詳細解説

デンマーク王国(以下、デンマーク)は、国際的な自由貿易と投資を歓迎する国として知られていますが、2021年9月1日以降、国家安全保障と公共秩序の保護を目的とした厳格な外国直接投資(FDI)審査制度を導入しています。この制度の中核をなすのが「デンマーク投資審査法」(Danish Investment Screening Act, FDI Act)です。本法は、日本の外国為替及び外国貿易法(外為法)とは異なり、「特に機微な分野」への投資に対して、10%という低い閾値で強制的な事前承認を義務付けており、承認を得るまで取引を完了できない「スタンドスティル(停止)義務」が課されます。

日本の経営者や法務部員にとって特に重要なのは、デンマークFDI Actが、単なる株式保有率だけでなく、特定の長期契約や、重要決定に対する拒否権といった契約上の支配力も厳しく審査対象としている点です。さらに、強制承認の対象外であっても、非EU/EFTA投資家による投資は、完了後最長5年間にわたり遡及的に当局の調査を受け、投資の解除を命じられるリスクが残ります。このリスクを回避し、事業の法的確実性を確保するため、任意届出制度の戦略的活用が求められます。デンマークの規制当局は、罰金ではなく、投資の強制処分や議決権の剥奪という、事業継続に致命的な影響を与える措置を執行手段としているため、投資計画の初期段階から厳格なコンプライアンス体制を構築することが不可欠です。

本記事では、このFDI Actの二つの審査制度の詳細と、特に機微な5分野における強制承認の具体的な要件、そして違反時の厳格な執行措置について、日本企業が留意すべき実務的な対応策を含めて解説します。

この記事の目次

デンマークにおけるFDI規制の導入背景と法的枠組み

規制の目的と「デンマーク投資審査法」(FDI Act)の概要

デンマークにおける海外資本からの投資規制は、2021年9月1日以降に締結された外国直接投資(FDI)および特定の「特別金融契約」に適用される「デンマーク投資審査法」(Danish Investment Screening Act, FDI Act)が主要な法的枠組みとなっています。本法の目的は、外国投資や契約がデンマークの国家安全保障または公共秩序に対して潜在的な脅威をもたらすことを未然に防ぐことにあります。

この規制の導入は、欧州連合(EU)がFDI審査枠組みの協力メカニズムを強化する流れを受けたものであり、ヨーロッパ全体で、防衛、重要技術、重要インフラなど、戦略的に重要なセクターへの外国資本の支配を制限する動きが強まっていることを反映しています。デンマーク当局は、投資や契約が国家安全保障や公共秩序に影響を与えるかどうかについて、常に具体的かつ個別的な評価を行うとしています。

日本の外国為替及び外国貿易法(外為法)との根本的な構造的差異

デンマークFDI Actは、日本の外為法に基づく対内直接投資規制とは、その構造において重要な差異があります。この点を日本の投資家が正しく理解することが、コンプライアンス戦略を構築する上で最も重要です。

日本の外為法は、特定の重要セクターへの投資について事前届出を義務付けていますが、これは通常、届出後30日間の待機期間(しばしば短縮可能)を経て取引実行が可能となる「届出・待機型」が中心です。

これに対し、デンマークFDI Actは二つの審査メカニズムを採用しており、特に強制承認制度において極めて厳格なアプローチをとっています。

  1. 強制承認制度 (Mandatory Authorisation Regime):特定の「特に機微な分野」への投資は、デンマークビジネス庁(DBA)の承認を得るまで取引の完了が停止されます。これは「承認・停止型」または「スタンドスティル(Standstill)義務」と呼ばれ、日本の外為法における「届出」の性質を超え、実質的に「許可」に近い性質を持つものです。
  2. 任意届出制度 (Voluntary Notification Regime):機微な分野以外の投資であっても、国家安全保障上のリスクがある場合、任意で届出を行うことができます。届出が行われなかった場合、当局は取引完了後、最長5年間にわたり遡及的に調査を開始し、介入する可能性があるため、任意届出は事実上のリスク回避手段となります。

さらに、デンマークのFDI Actは、単に株式の取得だけでなく、「特別金融契約」(Special Financial Agreements)も対象としています。これには、特定の供給契約、運営契約、サービス契約、および研究開発契約が含まれます。特に、2023年の法改正により、デンマーク北海に建設される「エネルギーアイランド」に関連する契約も、投資家の所有構造に関わらず、FDI Actの適用対象に明示的に含められました 6。この点から、本法は、単なる資本支配だけでなく、デンマークの重要インフラや技術エコシステム内での日本の事業者の「機能的な支配」や「長期的な依存関係」の形成も規制対象としていることが読み取れます。M&Aを伴わない長期的な戦略的提携やアウトソーシング契約も審査の対象となりうるため、日本企業は契約形態によらず、広範なコンプライアンスチェックが必要です。

デンマーク強制承認制度(Mandatory Authorisation Regime)の厳格な適用要件

デンマーク強制承認制度(Mandatory Authorisation Regime)の厳格な適用要件

強制承認制度は、以下の三つの要件がすべて満たされた場合に、非EU/EFTA投資家(日本企業を含む)だけでなく、全ての外国投資家に対して適用されます。

外国投資家の定義と支配基準

強制承認の対象となる「外国投資家」の定義は広範です。非デンマークの企業や個人はもちろんのこと、デンマークに本拠を置く企業であっても、外国企業がその株式または議決権の25%以上を直接的または間接的に支配している場合、そのデンマーク企業は「外国投資家」とみなされ、投資規制の対象となります。

したがって、日本企業が、25%以上を支配するEU内の子会社を通じてデンマーク企業に投資する場合でも、その投資は「外国投資家による取引」として強制承認制度の対象となり得ます。

支配の開始点:「適格保有」(Qualifying Holding)の取得

強制承認が必要となる「適格保有」(qualifying holding)の取得閾値は、日本の制度と比較しても非常に低い水準に設定されています。

10%の低い閾値と段階的な追加申請義務

強制承認の最初の引き金となる閾値は、対象企業の所有権または議決権の10%以上を直接的または間接的に保有または支配することです。

一度承認を受けた後も、その後の保有比率が以下の閾値に増加するたびに、外国投資家は再度、DBAへの承認申請を行う必要があります。これらの追加の申請が必要となる閾値は、20%、33.3%、50%、66.6%、100%と定められています。

株式保有率を超えた「その他の手段による同様の支配」の重視

デンマークFDI Actの最も特徴的かつ実務上注意すべき点は、株式保有率や議決権の取得に限定されず、「その他の手段による同様の支配」の獲得も強制承認の対象としていることです。これは、日本の投資家が合弁事業(JV)や戦略的提携契約を締結する際に、投資比率が10%未満であっても規制に服する可能性があることを示します。

「その他の手段による同様の支配」の具体例として、以下の契約上の支配が含まれます。

  • 他の投資家との合意に基づき、株式または議決権の少なくとも10%に相当する議決権を支配すること。
  • 法令または契約に基づき、経営、運営、財務、開発に関する重要な決定を行う権限を持つこと、あるいはそれらの決定に対する拒否権を持つこと。
  • 取締役または上級管理職の少なくとも1名を任命または解任する権利。
  • 長期かつ非解約型の融資契約を通じた支配、あるいは企業資産の全部または重要な部分の取得、または長期リース契約を通じた資産支配など。

この「同様の支配」の定義は、日本のベンチャーキャピタル(VC)投資や、戦略的少数株主が事業の保護のために設定する標準的な保護条項(特定の重要事項に関する拒否権など)までを捕捉し得る広がりを持っています。したがって、日本企業が支配権を目的としない戦略的少数株主として参加する場合でも、特定の重要決定(予算、経営計画、役員人事など)に対する拒否権を持つ場合、それは「同様の支配」と見なされ、強制承認の対象となる可能性が非常に高くなります。外為法では通常、株式保有率が主要な焦点となりますが、デンマークでは「契約内容」の精査が、コンプライアンス上不可欠となります。

適用対象となる「特に機微な分野」(Particularly Sensitive Sectors)の詳細分析

強制承認制度が適用されるには、投資対象企業が以下の5つの「特に機微な分野」のいずれかで活動している必要があります。

1. 防衛分野

EU共通軍事リストに記載された軍事用途の兵器、弾薬、技術を開発または製造する企業が対象です。加えて、上記の対象外であっても、デンマーク国防省の運用にとって特に重要なサービスを提供する企業も含まれる場合があります。ただし、デンマークの「軍需品法」(War Material Act)の対象となる投資は、FDI Actの対象外となりますが、特別金融契約に関するFDI Actの規則は、軍需品法が適用される企業にも適用されます。

2. 機密情報のIT保護または処理

機密情報を保護または処理するために使用されるIT製品およびコンポーネントを開発または製造する企業、または機密情報を処理するための製品やサービスを提供する企業が該当します。これには、対象企業のサプライヤーまたは下請け業者も含まれます。

3. 「デュアルユース」品目の製造

軍民両用(デュアルユース)品目とは、民生用と軍事用の両方に使用できる製品を指します。理事会規則 (EC) No 428/2009(現行は2021/821)の附属書Iに該当するデュアルユース品目を製造するすべての企業が対象となります。このリストは、核物質、特殊材料、エレクトロニクス、コンピューター、通信、航空宇宙など10のカテゴリーに分かれており、技術開発に合わせて年に一度更新されます。日本の精密機器メーカーや素材産業の企業は、自社の製品がこのリストに該当しないかを確認する必要があります。

4. 重要技術(Critical Technology)

この分野は、従来の軍事・デュアルユース規制では捕捉しきれない、国家安全保障上重要な新興技術を網羅するために設定されています。以下の11の技術を開発または製造する企業が対象です。

重要技術の具体的な11の分野

技術分野 (11項目)対象となる活動の例
1. 人工知能 (AI)自律船舶、生体認証、位置データ分析、人間模倣のための機械学習
2. 高度産業用ロボット技術生産ロボット、医療分野のロボット、高度ドローン技術
3. 半導体集積回路に使用される半導体、製造を支援する技術
4. サイバー・情報セキュリティ技術ITシステムの機密性・完全性の保護、IT攻撃に対する防御技術
5. 宇宙技術衛星打ち上げ、関連する通信技術、人員輸送技術
6. 産業用エネルギー技術エネルギー貯蔵、変換、輸送技術
7. 量子技術量子コンピューター、量子センサー、暗号、通信
8. 原子力技術医療分野での利用を除く全般の原子力技術
9. ナノテクノロジー高度なグラフェン素材を含む
10. バイオテクノロジー合成生物学
11. 3Dプリンティング産業部品製造のための3Dプリンティング

ただし、上記11の技術については、開発または製造された技術が、消費者向け製品に組み込まれることを目的としている場合、あるいは実際に消費者製品であり、広く一般に入手可能である場合(例:家庭用の玩具など)、強制承認の適用対象から除外されます。

5. 重要インフラ(Critical Infrastructure)

重要インフラは、「社会的に重要な機能を維持・回復するために必要な施設、システム、プロセス、ネットワーク、技術、資産、サービス」と定義されます。この定義は非常に広く、対象企業がインフラを直接所有・運営するだけでなく、契約に基づいて運営する企業、規制責任を持つ企業、またはインフラを構成する技術を開発・製造する企業も含まれます。インフラ提供者へのサプライヤーやサブサプライヤーも含まれる可能性があり、規制の範囲はサプライチェーン全体に及びます。

重要インフラは、以下の11の社会的に重要な部門に区分され、部門内の特定の機能が対象となります 。

  • エネルギー(電力、ガス、熱、石油製品の生産・輸送・貯蔵)。
  • ICT(公衆通信、中央データストレージ、マスターデータ、危機管理通信)。
  • 運輸(中央交通管制、主要港湾・空港、道路・鉄道ネットワーク)。
  • ヘルスケア(病院システム、ワクチン・医薬品の流通、感染症監視)。
  • 飲料水・食料(飲料水の抽出・供給、食品安全の監視)。
  • 金融・経済(決済ソリューション、金融市場インフラ、銀行・保険)。

なお、特に機微な分野におけるグリーンフィールド投資(新規設立)も強制承認の対象となりますが、設立後3会計年度の外国投資家の総資本注入額がDKK 7,500万(デンマーククローネ)を超えない場合は免除されることがあります。

強制承認制度と任意届出制度の比較

日本企業が取るべき行動を明確にするため、二つの制度の核心的な違いを以下の表にまとめます。

強制承認制度と任意届出制度の比較

項目強制承認制度 (MAR)任意届出制度 (VCNR)
対象投資家外国投資家(EU/EFTA内外問わず) [Query data]非EU/EFTA投資家のみ
対象企業/分野「特に機微な分野」(5分野)の企業機微な分野以外の全分野
取得閾値10%以上の適格保有または支配25%以上の株式、議決権、または支配
取引完了義務承認取得まで取引停止(スタンドスティル)届出後、承認前に完了可能(リスクあり)
事後調査リスク承認後の介入は原則なし届出がない場合、完了後5年間遡及調査リスクあり

デンマーク任意届出制度(Voluntary Cross-Sectoral Notification Regime)の戦略的意義

強制承認制度の対象とならない投資であっても、デンマークの国家安全保障または公共秩序に脅威をもたらす可能性があると判断された場合、当局が介入する可能性があります。

任意届出の適用範囲

この制度は、主に以下の条件が満たされる場合に適用されます。

  1. 投資家:非EU/EFTA投資家であること(日本企業が該当)。
  2. 対象企業:「特に機微な分野」以外のデンマーク企業。
  3. 閾値:株式または議決権の25%以上、または同様の支配を取得すること。
  4. リスク:その投資が国家安全保障または公共秩序に脅威をもたらす可能性があること。

遡及調査リスクの回避と法的確実性の確保

任意届出制度は「任意」ではありますが、実務上、長期的な事業の安定性を確保するために極めて重要な法的機能を持っています。デンマークビジネス庁(DBA)は、任意届出制度の対象となる投資が未届出であった場合、その取引完了後、最長5年間にわたり調査を開始し、国家安全保障上の脅威があると判断すれば、その投資の解除を命じる権限を有しています。

任意届出を行うことの最大の利点は、この5年間の潜在的な遡及調査リスクを排除し、DBAが事後に介入しないという法的確実性(full legal certainty)を得られることです。

日本の投資家が、現在の規制では機微とされていなかった一般セクター(例:大規模なデータセンター、特定の消費者向け技術、食品供給チェーンなど)で25%以上の支配を取得する場合、長期的な視点から任意届出を検討すべきということが言えるでしょう。なぜなら、任意届出制度は、投資時点では機微とされていなかった分野が、将来の情勢変化や危機的状況(例:パンデミック、国際紛争)により、突如として国家安全保障上の重要性を帯びるリスクに対応しているためです DBAは、対象企業が「重要インフラセクター内で活動しているか」「機密情報や機微な個人データへのアクセスがあるか」「重要原材料の供給(エネルギー、食品安全を含む)に関わっているか」などを考慮し、動的にリスク判断を行います。このような動的なリスク判断を前提とすると、投資価値の毀損を避けるため、法的確実性を早期に確保する戦略が推奨されます。

デンマークの審査手続き、取引実行における義務、および実務的な対応策

デンマークビジネス庁(DBA)による審査フロー

FDI Actに基づく審査は、デンマークビジネス庁(Danish Business Authority, DBA)が管轄し、多くの国際的な審査と同様に二段階の審査プロセスが採用されています 6

フェーズ1審査(Phase 1 Review)

DBAが申請を完全と宣言した日から45暦日以内に完了することが目標とされています。ほとんどのケースは、この初期段階で結論に至り、安全保障上の懸念がない場合は承認または認可が発行されます。

フェーズ2審査(Phase 2 Review:詳細調査)

フェーズ1で国家安全保障または公共秩序に脅威をもたらす可能性があるとDBAが判断した場合、フェーズ2の詳細調査が開始されます。この詳細調査は、開始された日から125暦日以内に完了する必要があります。

フェーズ2審査の結果、承認、投資家との条件交渉(緩和措置の適用)、または産業・ビジネス・金融問題大臣への最終決定の提出のいずれかとなります。特に注意すべき点として、大臣による最終決定プロセスには、法律上の正式な期限が設定されていません。重大な案件では、この大臣決定期間がM&Aのクロージングを長期にわたり遅延させる実務上のリスクとなります。

強制承認制度における「スタンドスティル」義務の厳格性

強制承認制度の対象となる取引においては、厳格な「スタンドスティル(Stand-still)」義務が課されます。これは、DBAの正式な承認が得られるまで、取引の実行または完了をしてはならないという法的義務です。

この義務は、日本の外為法における届出後の待機期間と比較して非常に重く、審査期間全体(フェーズ1で45日、フェーズ2で最大125日、大臣決定は無期限)にわたりクロージングが停止されることを意味します。この厳格な停止義務の存在は、M&A契約におけるクロージング条件(Closing Condition)を設定する際に、FDI承認を最も重要な先行条件の一つとして位置づける必要性を示しています。

事前スクリーニング申請(Pre-screening Request)の活用

投資対象企業が「重要技術」または「重要インフラ」の定義に該当するかどうかの判断が難しい場合、投資家はDBAに対し事前スクリーニング申請を行うことが可能です。

実務的な観点から、事前スクリーニングは非常に有効なリスクヘッジツールです。DBAは、特定の投資や契約が強制承認の対象となるか否かについて決定を下し、通常、この手続きは2~3週間程度で完了します。これにより、本格的な申請(フルフィルング)が必要かどうかの法的確実性を、比較的迅速に得ることができます。事業内容がグレーゾーンにあるデンマーク企業を買収する場合、M&A契約の締結前に事前スクリーニングを活用することが、取引の確実性を高める上で推奨されます。

規制違反に対する執行措置と日本企業が負う実務的リスク

デンマークのFDI Actは、規制違反に対する執行措置として、金銭的罰則よりも、投資自体を無効化する措置を主な制裁として用いる点に、その厳格さが現れています。

金銭的罰則の欠如と重大な強制措置

FDI Actには、届出義務を怠ったことに対する罰金(fines)の規定はありません。これは、違反時に罰金や懲役が課される日本の外為法とは異なる構造です。

しかし、罰金がない代わりに、違反や国家安全保障上の脅威に対する強制措置は極めて厳格で、投資家にとってより致命的です。

  • 株式投資に対する制裁:
    • 外国投資家に対し、投資を強制的に処分(売却)するよう命令する。
    • または、代替手段として、外国投資家の保有する株式の議決権を剥奪する。
    • 状況によっては、対象のデンマーク企業が解散させられる可能性もあります。
  • 特別金融契約に対する制裁:契約が無効(null and void)とされる可能性があります。
  • 最終手段としての収用:産業・ビジネス・金融問題大臣は、FDI Actに基づく予防措置を実施するために必要な場合、私有財産の収用(expropriation)を開始する可能性があります。

罰金が存在しない一方で、投資の強制処分、議決権剥奪、さらには収用の可能性まで規定されているという構造は、デンマーク当局がFDI Actを「規制遵守による収益確保」の手段としてではなく、「国家安全保障上の脅威の確実な排除」のための手段として捉えていることを強く示しています。日本の投資家にとっては、コンプライアンスミスが単なる罰金で済まず、M&A取引自体が破綻するか、投資価値がゼロになるという、より致命的なリスクに直結します。

規制強化を示す具体的な事例(2023年/2024年)

デンマークのFDI Actは、実効性をもって運用されています。2023年には、産業・ビジネス・金融問題大臣が、FDI Actの下で初めて外国投資を阻止(ブロック)する決定を下しました。注目すべきは、この投資が、同じ時期にドイツ、イギリス、アメリカといった主要同盟国の規制当局では承認されていたにもかかわらず、デンマークで阻止されたという事実です。この事例から、デンマークは独自の国家安全保障上の利益に基づき、他国とは独立した判断を下す可能性があるということが言えるでしょう。

しかしながら、この2023年に阻止された案件は、2024年に入り、新しい申請プロセスと構造の再調整を経て最終的に承認されました。このことは、当局が初期に懸念を示した場合でも、適切な緩和措置(mitigation measures)取引構造の調整を通じて、最終的に承認を得ることが可能であることを示唆しており、当局との対話の重要性を強調しています。

まとめ

デンマークでの事業展開を検討する日本企業は、FDI Actが日本の外為法と比較して、規制の適用閾値が低い(10%)こと、また、株式保有率だけでなく、契約上の支配力(長期ローン、拒否権、取締役選任権など)も厳しく審査の対象となる点を、最も重要なリスクとして認識する必要があります。

強制承認制度の対象となる取引においては、審査完了までのスタンドスティル義務を厳格に遵守することが絶対条件です。また、任意届出制度の対象となる取引であっても、事後5年間にわたり投資を解除されるリスクが存在するため、投資の法的確実性を得るために任意届出を戦略的に活用することが推奨されます。金銭的罰則がない代わりに、投資自体が無効化されるという最も厳しい制裁が用意されているため、投資計画の初期段階におけるデューデリジェンスと、当局との正確なコミュニケーションが、事業の成否を分けます。

このような複雑で専門的な規制環境において、モノリス法律事務所は、デンマークFDI Actの遵守、取引ストラクチャーの評価、事前スクリーニング申請のサポート、および当局との交渉に関するアドバイスを通じて、お客様のデンマークにおける事業展開をサポートいたします。

弁護士 河瀬 季

モノリス法律事務所 代表弁護士。元ITエンジニア。IT企業経営の経験を経て、東証プライム上場企業からシードステージのベンチャーまで、100社以上の顧問弁護士、監査役等を務め、IT・ベンチャー・インターネット・YouTube法務などを中心に手がける。

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