モンゴル国の労働法と外国人雇用に関わる労働移動法

モンゴルは、労働者の権利保護を重視し、国際的な労働基準との整合性を図るため、近年、労働関連法規の大幅な改正を行ってきました。特に、2021年7月2日に可決され、2022年1月1日に施行された改正労働法と、2021年12月24日に可決され、2022年7月1日に施行された、外国人従業員の雇用に関する規律を行う労働移動法は、モンゴル国内で事業を行う企業に多大な影響を与えています。
本記事では、モンゴルの労働法規における、労働契約の締結から労働時間、賃金、社会保険、差別禁止、安全衛生、そして労働契約の終了と紛争解決までの各規定を解説します。モンゴルでの事業展開を検討している、または既に展開している企業は、こうした労働法規を正確に理解することが必要です。
モンゴルにおける労働関係は、労働法に加え、労働移動法、社会保険に関する一般法、社会保険基金からの給付に関する法、社会福祉法、職業技術教育法など、複数の法令によって包括的に規定されています。
この記事の目次
モンゴル労働法の概要
モンゴル国における労働関係は、主に労働法によって規定されています。この労働法は、労働者保護と公正な労働条件の確保を目的としており、国際的な労働基準との整合性を図るために頻繁に改正が行われてきました。特に、2021年7月2日に可決され、2022年1月1日に施行された改正労働法は、モンゴルの労働市場において非常に重要な改正と言われています。
法的枠組の概要
モンゴルの労働法は、労働者と雇用主双方の権利と義務を明確に定めることで、公平な扱い、安全な労働環境、そして明確な雇用関係の手続きを保障しています。この法的枠組みは、憲法、労働法、社会保険に関する一般法、労働移動法、社会保険基金からの給付に関する法、社会福祉法、職業技術教育法など、多岐にわたる法令で構成されています。
近年の法改正は、国際労働機関(ILO)の基準との整合性を高めるため、モンゴルが労働市場の現代化と労働者保護の強化に取り組んでいることによるものと言われています。例えば、新しい労働法は、有期契約の利用制限、非標準的雇用形態の保護、父性休暇の導入、集団解雇に関する追加規定、退職金増額など、労働者保護を強化する多くの変更を導入しており、国際基準との整合性が高まっています。これは単なる規制強化ではなく、モンゴルが国際社会における労働基準の遵守を通じて、より安定した投資環境を構築しようとしているという、より大きな政策的意図の表れと言えるでしょう。
外国人企業への適用範囲
モンゴル国内で外国籍市民や無国籍者が行う労働および役務提供に関する雇用関係は、モンゴル労働法によって規制されます。これは、外国企業がモンゴルで従業員を雇用する際、一般的な労働法規に加えて、外国人雇用に特化した労働移動法の規定も遵守する必要があることを意味します。労働許可を持つ外国籍の労働者は、労働移動法に拘束され、労働許可の取得が義務付けられます。労働許可を持つ外国籍者のビザおよび居住許可に関する関係は、外国籍者の法的地位に関する法律によって規制されます。
労働法と労働移動法の両方が外国人従業員に適用されるという明示的な規定は、外国企業が二重のコンプライアンス義務を負うことを意味します。労働法に基づく雇用契約の違反が、労働移動法に基づく労働許可の取り消し理由となる可能性も考えられ、一方の法律の不遵守が他方の法律の違反にもつながる可能性があり、結果として罰金、労働許可の取り消し、事業運営の停止といった重大な結果を招く可能性があります。したがって、外国企業は、人事および法務部門が両方の法律の最新の要件を常に把握し、統合的なコンプライアンス戦略を策定する必要があるといえます。
モンゴル国における外国人従業員の雇用と労働許可制度

モンゴルにおける外国人従業員の雇用は、労働法に加えて労働移動法によって厳しく規制されており、特定の許可と手続きが求められます。これは、モンゴル政府が国内労働市場の保護と外国人材の適切な管理を両立させようとする政策の現れです。
労働許可証およびビザの取得プロセス
外国籍者がモンゴルで働くためには、労働許可証の取得が必須です。このプロセスは、入国前と入国後の二段階に分かれており、合計で約6週間を要する場合があります。まず、海外のモンゴル大使館でシングルエントリーの就労ビザを取得し、モンゴルに入国します。その後、モンゴル入国から21日以内に移民局への登録が義務付けられており、この期間内に登録を怠ると、100万MNT(約290.40米ドル)の罰金が科せられます。
労働当局は、雇用主に対し、外国人従業員を招致するための許可を3ヶ月間付与し、これは一度だけ3ヶ月間延長可能です。この招致許可を得た後、雇用主は労働当局に外国人従業員の労働許可証の申請を行います。労働許可証は、職位と雇用契約の期間に応じて最大1年間付与され、延長も可能です。労働許可証には、外国人従業員の氏名、国籍、雇用主名、勤務地、有効期間が明記されます。労働当局は、外国人市民の招致許可および労働許可の付与に関連するサービスに電子システムを利用する場合があります。
外国人従業員の労働許可取得プロセスは、複数の機関が関与し、厳格な期限が設定された多段階の官僚的な手続きを伴います。特に、入国後21日以内の移民局登録義務とその不履行に対する罰金は、外国企業が従業員の入国後の初期段階で迅速かつ正確な手続きを行うことの重要性を示しています。これは、オンボーディングプロセスにおける法的コンプライアンスの重要性を強調しており、人事部門が綿密な計画と現地でのサポート体制を構築する必要があることを意味します。
外国人従業員の職位分類と雇用枠
労働移動法では、外国人従業員の職位が初めて管理職、執行職、アシスタント職に分類されました。雇用主は、特定の職位(の原文では番号9-12の職位とされているが、詳細なリストは提供されていない)について、雇用登録データベースに求人広告を掲載し、14営業日経過しても適切な現地候補者がいないと判断した場合に、外国人従業員の招致許可を申請できます。
モンゴル政府は、外国人従業員の総数にクォータ(割当)を設定しており、これは産業や従業員数に応じて総従業員の10%から70%の間で変動します。例えば、従業員が5人から20人の一般民間企業では、事業内容にかかわらず1人の外国人従業員が許可されます。一方、政府レベルの協定に基づいて設立された企業や、国際プログラムの下で研修を行う外国投資企業は、総従業員の70%まで外国人労働者を雇用する権利があります。鉱業・採掘部門では、外国人従業員の割合は10%から50%とされています。
外国人従業員の給与下限は、国内の最低賃金の2倍と定められています。また、鉱業ライセンス保有者が適切な外国人・現地従業員比率を超えて雇用する場合、月額で最低賃金の10倍に相当する手数料を支払う必要があります。
ただし、外国投資企業の個人(法人ではない)株主や登録された執行役員は、モンゴルで働くために労働許可を保有する必要がありません。これらのカテゴリーの従業員は、国家登録局から投資家カード(Bタイプビザと長期居住許可が付属)を取得でき、職場手数料の支払いも免除されます。アシスタント職の外国人従業員の継続雇用期間は、5年を超えることはできません。
クォータ制度と外国人従業員に対する職位分類、現地候補者探索要件、給与下限、そしてクォータ超過時の手数料は、モンゴル政府が現地雇用の促進と外国人材の戦略的活用を意図していることを明確に示しています。例えば、アシスタント職の5年制限は、継続的な人材ローテーション計画や現地人材育成への投資を促すものです。外国企業は、これを単なる規制としてではなく、長期的な人材計画と採用戦略に組み込む必要があります。
表: 外国人従業員の職位分類と雇用枠の概要
項目 | 管理職 | 執行職 | アシスタント職 | 特記事項 |
主な特徴 | 経営・監督的役割 | 専門的・技術的役割 | 補助的・支援的役割 | 特定職位では現地候補者探索(14営業日)が必要 |
雇用期間制限 | 規定なし | 規定なし | 継続雇用は5年を超えない | 長期的な人材計画に影響 |
最低賃金基準 | 国内最低賃金の2倍以上 | 国内最低賃金の2倍以上 | 国内最低賃金の2倍以上 | 外国人従業員に一律適用 |
雇用枠(クォータ) | 産業・従業員数に応じ10-70% | 産業・従業員数に応じ10-70% | 産業・従業員数に応じ10-70% | 一般企業(5-20人)は1人、政府間協定企業は70%までなど |
クォータ超過時の費用 | 鉱業ライセンス保有者は月額最低賃金の10倍の手数料 | 鉱業ライセンス保有者は月額最低賃金の10倍の手数料 | 鉱業ライセンス保有者は月額最低賃金の10倍の手数料 | 鉱業部門に特有の費用 |
特記事項 | 投資家カード保有の個人株主・執行役員は労働許可不要、職場手数料免除 | 投資家カード保有の個人株主・執行役員は労働許可不要、職場手数料免除 |
労働契約の締結と多様な雇用形態
モンゴルにおける雇用関係は、労働契約の適切な締結から始まり、その形態は多岐にわたります。
労働契約の必須記載事項
モンゴルにおける雇用契約は、従業員を雇用する際の基本的な要件です。契約には、職位または役職名、職務内容、報酬額、労働条件、勤務地といった主要な条件を明確に記載する必要があります。これらの必須記載事項は、労働関係の透明性を確保し、将来的な紛争を未然に防ぐ上で極めて重要です。外国企業は、他の法域で慣習となっている契約の詳細度とは異なる場合があるため、モンゴルの法的要件に完全に準拠した契約書を作成することが不可欠です。契約にこれらの要素が欠けている場合、法的有効性が問われたり、紛争発生時に不利な解釈を受けたりする可能性があります。
期間の定めのない契約と有期契約
労働契約は、特定の種類の業務を除き、原則として期間の定めがないものとされています(労働法第50.1条)。有期契約が許容されるのは、研修生、試用期間、季節労働、職務が維持されている従業員の代替、一時的な業務、期間、範囲、資金が限定された活動といった特定の例外的な場合に限られます(労働法第50.1条)。
特に重要なのは、有期契約の総期間が2年を超えた場合、その契約は期間の定めのない雇用契約とみなされるという規定です(労働法第50.4条)。これは旧法にはなかった大幅な変更であり、外国企業にとって重要なコンプライアンス上の注意点です。有期契約の管理を怠ると、意図せず期間の定めのない契約に転換され、解雇権や解雇手当に関する義務が変化し、雇用主の法的責任が増大する可能性があります。このため、契約期間の厳格な管理と、更新または転換に関する明確な戦略が求められます。
試用期間、パートタイム、リモートワーク、在宅勤務
モンゴルの労働法は、多様な雇用形態に対応するための規定を設けています。
試用期間: 雇用主は、新しい従業員の適性を確認するために、最大3ヶ月間の試用期間を設けることができます(労働法第64条)。この期間は、双方の合意によりさらに3ヶ月間延長することが可能です。ただし、季節労働、職務が維持されている従業員の代替、または一時的な業務については、試用期間を設けることは禁止されています(労働法第64.4条)。試用期間中の従業員の基本給は、その職務の基本給を下回ってはならず、追加給与、ボーナス、手当も労働法に従って支払われる必要があります(労働法第64.3条)。
非標準的雇用形態: 新しい労働法は、パートタイム、リモートワーク、在宅勤務といった非標準的な雇用形態に関する規定を導入しました。これは、柔軟な働き方への世界的な傾向を反映したものであり、外国企業にとっては効率的な人材配置の機会を提供します。
- パートタイム: パートタイム従業員は、フルタイム従業員よりも短い時間働く者と定義され、週の労働時間は32時間を超えてはなりません(労働法第66.1条、第86条)。特段の定めがない限り、パートタイム従業員はフルタイム従業員と同様の権利と責任を有し、労働法令、団体協約、団体交渉協約、内部労働規範の適用を受けます。年次有給休暇は、年間総労働時間に基づいて付与されます(労働法第99.7条)。
- 在宅勤務・リモートワーク: 従業員は、雇用主の管理・監督の下、自身の設備や原材料を使用して自宅で働く契約を締結できます(労働法第67条)。在宅勤務者は、雇用主の職場で働くフルタイム従業員と同様の権利と責任を有します(労働法第67.4条)。同様に、雇用主は、従業員が電子ネットワークを通じて恒久的または部分的にリモートで職務を遂行することを許可し、リモートワーク契約を締結できます(労働法第68条)。テレワーカーも、他の同様の職務を遂行する従業員と同様の権利と責任を有します(労働法第68.3条)。
- 家事労働者・アシスタント牧畜業者等: 新しい労働法では、「雇用主」の定義に国内または外国の事業体や組織に加えて、個人も含まれることが明確化されました(労働法第4.1.1条)。これにより、家事労働者やアシスタント牧畜業者といった従業員も個人雇用主と労働契約を締結し、労働法の下で問題を解決できるようになりました(労働法第71条)。従業員が雇用主の自宅または敷地内で居住し働く場合、雇用主は差別、ハラスメント、暴力、性的ハラスメントのない通常の生活および労働条件を提供しなければなりません(労働法第71.3条、第71.4条)。
これらの非標準的雇用形態の正式な認識と規制は、現代の労働市場の多様化への適応を示しています。外国企業は、これらの新しい規定を理解し、それぞれの雇用形態に応じた契約を慎重に作成することで、法的明確性を確保し、コンプライアンスを維持しながら効率的な人材戦略を実行できます。
契約形態 | 特徴 | 法的根拠(労働法) | 留意点 |
期間の定めのない契約 | 終了日が定められていない一般的な雇用契約 | 第50.1条(原則) | 労働関係の基本形態 |
有期契約 | 特定の業務や期間に限定される契約。研修生、試用期間、季節労働、代替業務、一時的な業務、限定された活動に限定される。 | 第50.1条(例外) | 総期間が2年を超えると期間の定めのない契約に転換される(第50.4条)。慎重な期間管理が必要。 |
試用期間契約 | 従業員の適性評価のための期間。最大3ヶ月、相互合意でさらに3ヶ月延長可能。 | 第64条 | 季節労働、代替業務、一時的な業務では禁止(第64.4条)。基本給は職務の基本給を下回ってはならない(第64.3条)。 |
パートタイム契約 | フルタイムよりも短い時間働く従業員。週最大32時間。 | 第66.1条、第86条 | 原則としてフルタイム従業員と同等の権利と責任を有する。年次有給休暇は総労働時間に基づく(第99.7条)。 |
在宅/リモートワーク契約 | 自宅または遠隔地で電子ネットワークを通じて職務を遂行する。 | 第67条、第68条 | 職場勤務の従業員と同等の権利と責任を有する。 |
モンゴル国における労働時間、休憩、休日、および賃金

モンゴルの労働法は、労働時間、休憩、休日、賃金に関する詳細な基準を定めており、外国企業はこれらの規定を厳格に遵守する必要があります。
法定労働時間と残業規制
モンゴルにおける標準的な労働時間は、通常、週40時間で、5日間(1日8時間)にわたって設定されます(労働法第84.1条、第84.2条)。新しい労働法では、週の最大労働時間を56時間、1日の最大残業時間を4時間と明確に定めました(労働法第84条)。これは旧法にはなかったより厳格な制限であり、外国企業は労働時間を厳密に管理し、違反を避けるための対策を講じる必要があります。
残業は、国家防衛、人命や健康の維持、自然災害や事故の防止・復旧、不可欠なサービスの停止防止といった特定の緊急の場合を除き、雇用主が従業員に要求することは禁止されています(労働法第91条)。また、妊娠中の女性や3歳未満の子供を持つ従業員に対しては、本人の同意なしに残業を要求することはできません(労働法第91.4条)。18歳未満の未成年者には、残業を要求することは一切禁止されています(労働法第91.5条)。これらの厳格な残業規制は、労働者の健康と福祉を保護するというモンゴル政府の強い意図を示しており、企業はこれらの例外規定を正確に理解し、適用する必要があります。
休憩、休日、年次有給休暇
労働者は、労働日の間に最低12時間の休憩時間、そして週に最低48時間の連続した休憩(通常は土曜日と日曜日)が与えられます(労働法第96.1条)。業務の性質上、土曜日と日曜日を休日とできない場合でも、雇用主は代わりに連続した2日間の休日を提供しなければなりません(労働法第96.2条)。祝日は有給休暇とされ、残業が認められる場合を除き、祝日や週末に労働を要求することは違法です(労働法第98条)。妊娠中の女性、3歳未満の子供を持つ者、または永続的な介護を必要とする16歳未満の障害を持つ子供を持つ者に対しては、本人の同意なしに祝日や週末の労働を要求することはできません(労働法第98.2条)。
年次有給休暇は、従業員の勤続年数に応じて期間が増加します。義務的な年次有給休暇の期間は15労働日です(労働法第99条)。従業員は、雇用契約締結後6ヶ月間勤務すれば年次有給休暇の権利を得ます(労働法第99.2条)。年次有給休暇を分割して取得する場合、その期間は連続した10労働日を下回ってはなりません(労働法第99.8条)。業務上の必要性により従業員が年次有給休暇を取得できなかった場合、従業員の平均賃金の1.5倍に相当する金銭的ボーナスが推奨されています(労働法第110.2条)。これらの詳細な規定は、正確なスケジュール管理と休暇管理を必要とし、外国企業は人事方針をこれらの具体的な権利に合わせて更新し、従業員の不満や法的請求を回避する必要があります。
特殊な労働時間規定と割増賃金
モンゴルの労働法は、通常の労働時間以外にも、夜間勤務、オンコール勤務、ローテーション勤務といった特殊な労働形態に対する詳細な規定と、それらに対する割増賃金のルールを定めています。
夜間勤務は、午後10時から午前6時までの労働と定義されています(労働法第88.1条)。18歳未満の未成年者は夜間勤務が禁止されており(労働法第88条)、妊娠中の女性は本人の同意なしに夜間勤務を要求されることはありません(労働法第88.5条)。定期的に夜間勤務を行う従業員に対しては、雇用主の費用負担で予防的な健康診断を提供することが義務付けられています(労働法第88.3条)。
オンコール勤務についても新しい法的規定が追加されました。通常の労働時間外にオンコールで過ごした時間は労働時間としてカウントされ、報酬が支払われます(労働法第89.1条)。特定の場所で待機する場合、雇用主は基本給の50%以上を、その他の場合は30%以上を支払わなければなりません。雇用主は、オンコールを要求する24時間前までに従業員に通知する必要があり、月に8回を超えるオンコールを要求することはできません(労働法第89.3条)。
ローテーション勤務は、新しい労働法で導入された概念で、主に鉱業・採掘部門において、従業員が恒久的な居住地から遠隔の場所に配属される場合に適用されます。ローテーション勤務の従業員は、14日間の労働と14日間の休憩を繰り返す必要があります(労働法第92.4条)。ローテーション勤務における1日の労働時間は12時間を超えてはならず(労働法第92.3条)、ローテーション勤務のための移動時間も労働時間としてカウントされます(労働法第92.6条)。労働時間、休暇時間、および追加報酬は、団体協約および団体交渉協約によって決定されます(労働法第92.8条)。
割増賃金: 時間外労働、週末労働、夜間労働に対しては、平均時給の1.5倍(またはそれ以上)の賃金が支払われなければなりません(労働法第109条)。祝日における労働には、平均時給の2倍(またはそれ以上)の賃金が要求されます(労働法第109条)。時間外労働、週末労働、祝日労働が夜間に行われる場合、夜間手当が追加されます。夜間労働の賃金は、旧法では契約によって決定されていましたが、新法では平均賃金の少なくとも1.2倍と規定されています(労働法第109条)。平均賃金の計算は、従業員の過去3ヶ月の平均給与(基本給、特別手当、追加給与、年次休暇手当、ボーナスを含む)に基づいて行われます。これらの詳細な規定は、特に鉱業のような特定の産業において、正確な給与計算と業界固有のコンプライアンスの必要性を強調しています。不遵守は、重大な金銭的罰金や評判の損害につながる可能性があります。
最低賃金制度と賃金支払い
モンゴルでは、全国的な最低賃金が設定され、定期的に見直されています。2011年に施行された最低賃金法は、雇用契約およびその他の契約における最低基本時給を規制しています。雇用主は、労働法第7条に基づき、最低賃金を下回る基本賃金を支払ってはなりません。最低賃金は、国の最低生活水準を下回ってはならず、隔年で設定または調整される必要があります(最低賃金法第4条、第5.4条)。
最低賃金の設定と調整は、国家労使社会合意三者委員会によって、生活費、労働生産性、社会保障給付、経済成長、雇用率に基づいて行われます(最低賃金法第4.2条)。新しい労働法第5.3条では、部門別または部門間協定により、より高い最低賃金を設定することが可能とされています。この隔年での調整と三者委員会の関与は、賃金環境が経済的および社会的要因によって動的に変化することを示しています。外国企業はこれらの調整を常に監視し、団体協約がより高い最低賃金を設定する可能性を考慮に入れる必要があり、これは財務計画と労使関係戦略に影響を与えます。
賃金は、少なくとも月に2回支払われる必要があり、支払日は内部労働規則または雇用契約に明記されなければなりません(労働法第104.1条)。
社会保険制度と従業員福利厚生
モンゴルでは、従業員の社会保障を確保するため、包括的な社会保険制度が整備されており、雇用主と従業員双方に義務的な拠出が課せられています。
社会保険制度の概要と負担率
モンゴル法は、雇用主が従業員のために社会保険基金に拠出することを義務付けています。この拠出は、年金、健康、失業、労災・職業病保険の複数の分野をカバーしています。拠出率は従業員の給与の一定割合として計算されます。失業保険制度は、契約に基づいて雇用されている全ての者(国籍を問わず、企業規模にかかわらず)および公務員に義務付けられています。
各種休暇と保護
モンゴルの労働法は、従業員に対する様々な休暇と特別な保護を提供しており、特に家族関連の福利厚生が強化されています。
- 産前産後休暇: 女性従業員は120日間の産前産後休暇を取得する権利があり(労働法第137.1条)、双子を出産した場合は140日間に延長されます(労働法第137.2条)。出産手当の受給資格は、産前産後休暇前少なくとも6ヶ月間を含む12ヶ月以上の保険料拠出期間がある場合に発生します(1994年年金・給付法第19条(1))。
- 父性休暇: 新しい労働法によって父性休暇が導入されました。雇用主は、新生児の世話のために父親に少なくとも10労働日の有給休暇を与える必要があります。この期間の賃金は平均賃金に相当します(労働法第137.5条)。
- 育児休暇: 3歳未満の子供を持つ母親または父親が要求した場合、雇用主は育児休暇を付与しなければなりません(労働法第139条)。この期間中の給付については、適用される法令、団体契約、団体協約、雇用契約、内部労働規則によって規定されます。育児休暇後、雇用主は従業員を元の職務に復帰させる義務があり、元の職務が廃止されたり人員が削減されたりした場合は、類似の職務に復帰させなければなりません(労働法第139.2条)。
- 雇用保護: 雇用主は、妊娠中の女性や3歳未満の子供を持つシングルマザーまたはシングルファーザーの雇用を、雇用主の都合で終了させることを禁止されています(労働法第135条)。
モンゴル国における労働関係における差別禁止と安全衛生
モンゴルの労働法は、職場における差別を厳しく禁止し、労働者の安全と健康を確保するための雇用主の義務を定めています。
雇用における差別禁止
モンゴル法は、雇用における差別を、人種、民族、国籍、性別、年齢、社会的出自や地位、婚姻状況、財産状況、労働組合や政党への所属、宗教や信条、健康状態、性的指向、障害といった保護される特性に基づいて禁止しています。雇用主は、採用、昇進、研修、その他全ての雇用側面において平等な機会を提供することが義務付けられています。
直接的および間接的な差別は禁止されています(第6.1項)。新しい労働法は、職場における性別に基づく差別、暴力、性的ハラスメントを明確に禁止しており、同価値労働同一賃金の原則も明確に規定されています。さらに、雇用主は、職務に関連しない限り、雇用開始時や雇用期間中に、従業員の妊娠、医療、精神疾患、HIV検査に関する質問をしたり、情報を収集したりすることを禁止されています。
モンゴルの包括的な差別禁止法は、性別に基づく暴力や性的ハラスメントに対する明確な禁止規定を含め、国際的な人権基準と整合しています。外国企業は、法的リスクを軽減し、倫理的な雇用主としての評判を保護するために、強固な差別禁止方針、研修、苦情処理メカニズムを実施する必要があります。特に、雇用前の特定の質問(例:妊娠、HIV)の禁止は、コンプライアンス上の具体的な注意点となります。
労働安全衛生に関する雇用主の義務
雇用主は、従業員のために安全で健康的な労働環境を確保する法的義務を負っています。これには、危険源の特定と軽減、必要な安全設備の提供、安全研修の実施、事故防止と対応のための手順の確立が含まれます。
雇用主の主要な責任は以下の通りです。
- リスクアセスメントの実施
- 安全対策と管理の実施
- 個人用保護具(PPE)の無償提供
- 機械および設備の安全性の確保
- 応急処置設備の提供
- 職場での事故および職業病の調査
- 安全衛生関連記録の維持
労働安全衛生に関する雇用主の責任が重視されていることは、リスクアセスメントや個人用保護具の提供といった予防的措置を含め、労働者の福祉に対する強力な規制上の焦点があることを示しています。外国企業は、事故、法的責任、事業運営の中断を回避するため、安全インフラ、研修、コンプライアンスプログラムに適切に投資する必要があります。労働監督官は、これらの義務の遵守を監視し、違反に対して罰則を課す権限を有しています。
モンゴル国における労働契約の終了と紛争解決メカニズム

モンゴルにおける労働関係の終了は厳しく規制されており、紛争が発生した場合には明確な解決メカニズムが用意されています。
労働契約終了の要件と退職金
雇用契約は、相互合意、有期契約の満了、従業員の申し出、雇用主の申し出、またはその他法律で定められた理由といった特定の状況下で終了することができます。雇用主が解雇を開始する場合、それは重大な不正行為、職務違反の繰り返し、組織変更(人員削減)といった有効な理由に基づいている必要があります。
解雇の際には、従業員の勤続年数に応じた特定の予告期間が義務付けられています。
- 勤続6ヶ月未満: 2週間
- 勤続6ヶ月以上5年未満: 1ヶ月
- 勤続5年以上: 2ヶ月
退職金は、通常、人員削減または従業員の過失によらない雇用主都合の解雇の場合に義務付けられ、その額は従業員の勤続年数によって異なります。改正労働法に基づく退職金の支払事由には、雇用主による所有権の恒久的移転、雇用主の事業体またはその支店・部門の解散、職務または役職の廃止、従業員数の削減、専門的資格やスキル不足または健康上の理由による職務要件不適合、および他の職務への異動が不可能な医療上の理由による職務遂行不能などが含まれます。また、兵役招集、事業体の解散・廃止、人員削減、資格不足・健康上の理由、60歳に達し年金受給資格がある場合など、特定の解雇事由では、少なくとも従業員の1ヶ月分の「平均賃金」に相当する手当を支払う義務があります。
新しい労働法では、集団解雇に関する規定も追加されました。雇用主は、集団解雇の場合、解雇の少なくとも30日前に地方労働当局に書面で通知する義務があります。集団解雇の際には、従業員の代表(労働組合または従業員総会で選出された代表)が、従業員の空き職位への異動、新しい職務の創出、他の専門職への研修といった可能性について交渉しなければなりません(労働法第81.2条、第81.3条)。
雇用契約の終了は高度に規制されており、特定の予告期間、退職金要件、および保護される事由が定められています。集団解雇に関する新しい規定や従業員代表との交渉義務は、手続きをさらに複雑にします。外国企業は、費用のかかる不当解雇の請求を回避し、組織変更時の円滑な移行を確保するために、法的プロセスを綿密に遵守する必要があります。
労働紛争解決メカニズム
モンゴルでは、職場での紛争を解決するために、内部解決、労働紛争委員会、労働監督機関、裁判所制度など、いくつかのメカニズムが利用可能です。
労働権利紛争は、労働法令、団体協約、雇用契約、内部労働規範の実施または解釈に関連する意見の相違と定義されます(労働法第4.1.16条)。
- 労働権利紛争解決委員会: 従業員が20人以上の事業体には、労働権利紛争を解決するための常設委員会を設置することが義務付けられています(労働法第156.1条)。従業員が20人未満の企業では、これは任意です(労働法第156.2条)。委員会は、雇用主と労働組合または選出された従業員代表から同数の代表者で構成されなければなりません(労働法第156.3条)。
- ソム・地区労働権利紛争解決委員会: 委員会がない企業や個人間の紛争の場合、当事者はこの委員会に申請することができます(労働法第154.2条)。申請は、解雇、異動、職務変更に関する雇用主の決定を受けてから30日以内、その他の労働権利紛争については90日以内に行わなければなりません(労働法第154.2.1条、第154.2.2条)。
- 不服申立て: 紛争当事者が三者解決委員会の決定に同意しない場合、10労働日以内に民事裁判所に訴訟を提起することができます。
- 直接訴訟: 労働権利紛争解決委員会での事前調停を必要としない特定のケース(例:委員会決定に対する従業員の不服、財産損害に対する雇用主の請求、労働法に違反する団体協約に関する従業員の苦情、決定の不遵守)については、直接裁判所に提訴することが許可されています(労働法第158条)。
労働利益紛争は、団体交渉協約、団体協約、または雇用契約の締結または改正から生じる意見の相違と定義されます(労働法第4.1.1条)。当事者はまず交渉を通じて解決を図る必要があります(労働法第147条)。合意に至らない場合、紛争は労働調停人に付託されます。調停が不調に終わった場合、紛争当事者は正式な労働仲裁のために三者労使社会パートナーシップ委員会に申請することができます(労働法第151.1条)。委員会は3労働日以内に3人の仲裁人パネルを設置し、その決定は最終的であり、不服申立てはできません(労働法第151.1条)。
労働組合は、従業員の権利と法的利益を代表し保護するために結成されることがあります。労働組合への加入の有無にかかわらず、従業員が差別されることはありません。「従業員の代表」とは、労働組合、その代表、または労働組合が存在しない場合に従業員総会で選出された従業員を意味します(労働法第4条)。
労働監督とコンプライアンス: 家族・労働・社会保障省(MLSP)は労働問題に関する中央機関であり、専門検査総局(GASI)が労働法の実施と執行を担当します。労働監督官は、労働条件、労働者の権利、労働時間、賃金、労働安全衛生、社会保障、児童労働、差別、ハラスメント、暴力、性的ハラスメントに関する労働法の実施を監督します(労働法第161条)。検査は、GASIのリスク評価と年間スケジュールに基づく計画的なものと、苦情に対応する計画外のものがあります。しかし、国家検査法が事前通知なしの検査を禁止している一方で、新しい労働法は労働監督官に事前通知なしで事業所へのアクセス権を付与しており、この矛盾が執行を制限し、ILO条約と整合していないという課題があります。苦情に基づく検査(労働安全衛生を除く)は、苦情申し立て者の氏名開示を要求するため、報告を躊躇させる要因となっています。違反に対する罰則として、雇用主には罰金が課せられます(例:残業規制違反で150万MNT、賃金規制違反または最低賃金以下の支払いで500万MNT)(侵害法第10.16条)。
多段階の紛争解決システムは、特に大規模な企業における内部委員会の設置義務や不服申立ての期限など、外国企業に明確な内部紛争管理プロトコルを確立することを求めます。また、検査規則の矛盾や苦情申し立て者の氏名開示要件は、執行上の課題を提起する一方で、積極的なコンプライアンスがリスクを軽減できる領域を示しています。外国企業は、明確な内部苦情処理手順を確立し、正式な紛争解決プロセスに備える必要があります。
まとめ
モンゴルの労働法規は複雑かつ動的であり、その解釈と適用には専門的な知識が不可欠です。モノリス法律事務所は、雇用契約書の作成・レビュー、人事ポリシーの策定支援、労働許可・ビザ取得手続きの代行、労働時間・賃金計算に関するコンプライアンス監査、紛争解決における代理人業務、労働安全衛生に関する助言、そして最新の法改正に関する情報提供と研修など、多岐にわたるサービスを通じて、貴社のモンゴルでの安定した事業運営を強力に支援いたします。どうぞお気軽にご相談ください。
モノリス法律事務所の取扱分野:国際法務・モンゴル国
カテゴリー: IT・ベンチャーの企業法務