フィンランドの税法を弁護士が解説

北ヨーロッパに位置するフィンランド共和国(以下、フィンランド)は、充実した社会保障制度と質の高い公共サービスを維持するために、高負担かつ高福祉を基本理念とする税体系を構築しています。この国家モデルを財政的に支えるため、同国の税法は個人所得に対する累進課税や、2024年9月に約25.5パーセントへと引き上げられた一般消費税(付加価値税)など、広範な国民に対して相対的に高い税負担を求める構造となっています。一方で、国家の経済成長を牽引する企業部門に対しては、国際的な競争力を高めるための戦略的な税制が採用されています。法人税率は一律20パーセントという北欧諸国の中でも低水準に抑えられており、さらに研究開発を促進するための特例措置として、多額の追加控除制度が整備されています。
個人向けの所得税は、国税と地方税の二層構造に分かれています。このうち地方税は各自治体が定める固定税率によって地域ごとに異なる負担額が設定される一方、国税は所得水準の増加に伴って税率が上昇する厳格な累進制を採用しており、給与からの源泉徴収を基本として確実な徴収が行われます。
第一に法人課税においては、一律20パーセントという低い法人税率が適用され企業の内部留保や再投資を促進する反面、外国法人がフィンランド国内に拠点を設ける際の「恒久的施設」の認定基準が厳格に運用されており、予期せぬ申告義務や推計課税のリスクが生じる可能性に留意する必要があります。
第二に、企業の研究開発を後押しする追加控除制度は、費用の総額や増加額に基づく複数階層の控除を認めており、日本法人の進出において強力な財務的インセンティブとなります。
第三に、消費税については、25.5パーセントという高税率への移行に加えて、2025年から2026年にかけて段階的に実施される軽減税率の品目再編が、企業の価格設定や統合基幹業務システムに多大な影響を及ぼします。
第四に、個人所得税と社会保険料の分野においては、日本とは異なり地方税率が自治体ごとに異なる点や、雇用主と従業員が負担する社会保険料の算定基準に違いがある点に特徴があります。しかし、高度な専門知識を持つ外国人駐在員に対しては長期間にわたる特別な定率課税制度が用意されており、人材配置の観点から非常に有利な環境が提供されています。
最後に、国際課税の領域では、日・フィンランド租税条約による源泉徴収税の軽減が適用されるだけでなく、欧州連合の基本原則である資本移動の自由を根拠とした最新の司法判断が外国投資家の権利保護を強化しています。
本記事では、フィンランドにおける税法の全体像と最新の改正動向について、具体的な法令や判例を交えながら詳細に解説します。日本の経営者や法務担当者がフィンランドでのビジネス展開を検討するにあたっては、日本の税体系と表面上は似ている部分があるものの、税率の適用方法や法令の運用実態において実務上極めて重要な違いが存在することを深く理解しておく必要があります。
この記事の目次
フィンランド税法の基本理念と日本法との比較構造
高負担高福祉を支える税体系と法人税の優位性
フィンランドの税制は、国家が主導する包括的な社会福祉モデルを財政的に維持するための基盤として機能しています。その最大の特徴は、消費と個人の所得に対する相対的に高い税負担にあります。この体系は、日本の消費税や所得税の仕組みと外形的な枠組みにおいては類似性を持ちますが、適用される税率の水準や控除の適用範囲において両国間には大きな隔たりが存在します。
日本の税制では、国税である法人税に加えて地方法人税、法人住民税、法人事業税など複数の税目が複雑に絡み合い、結果として法定実効税率がおよそ30パーセント前後に達する構造となっています。これに対し、フィンランドにおける法人の所得課税は国税としての単一の法人税のみで構成されており、地方自治体による法人に対する独自の所得課税は存在しません。この単一かつ低水準の法人税率は、企業収益を内部留保や設備投資に向けやすくする環境を意図的に作り出しており、北欧市場全体への事業展開の拠点としてフィンランドを位置づける外国企業にとって極めて強力な誘因として機能しています。
同時にフィンランドは、経済協力開発機構や欧州連合が主導する租税回避防止に関する国際的な枠組みを、国内法に迅速かつ厳格に取り入れる傾向があります。特に多国籍企業に対するグローバルな最低課税水準を確保するためのルールについては、欧州連合指令に準拠する形でいち早く法制化が進められています。具体的には、所得合算ルールや適格国内最低トップアップ税は2023年12月31日以後に開始する事業年度から、軽課税所得ルールは2024年12月31日以後に開始する事業年度からそれぞれ適用が開始されています。日本の親会社がフィンランドに子会社を設立し事業を展開する場合、こうした国際的な課税ルールの国内法化の速度や、法の透明性を重んじる厳格な法適用の実態について、事前に綿密な対策を講じておく必要があります。
フィンランド法人課税の仕組みと留意すべき法的リスク

一律の法人税率と恒久的施設に関する課税基準
フィンランドにおける法人の所得に対する課税は「業務所得課税法(Laki elinkeinotulon verottamisesta 360/1968)」によって詳細に規定されています。この法律に基づき、フィンランドの居住法人である内国法人は全世界所得に対して課税され、適用される法人税率は一律20パーセントと定められています。この税率は、日本の法人課税における複雑な実効税率と比較して極めて低く、かつ構造が単純であるため、進出企業にとって税務上の予測可能性を高める役割を果たしています。
特筆すべき相違点として、フィンランドでは法人に対する地方税が存在しない一方で、一定の基準を満たす法人に対しては公共放送を財政的に支援するための「公共放送税」が課される点が挙げられます。この税は、課税所得が50,000ユーロ以上の企業に対して課され、年間最大3,000ユーロを上限として計算されますが、法人の課税所得計算上は損金への算入が法的に認められています。
日本企業がフィンランドにおいて支店等の物理的な拠点を設ける場合、あるいは代理人を通じて継続的な事業活動を行う場合、フィンランド国内に税務上の「恒久的施設」を有するか否かが極めて重大な法的リスクとなります。外国法人がフィンランド国内に恒久的施設を有すると認定された場合、その施設に帰属する全世界の所得に対して、内国法人と同様にフィンランドの法人税が課されます。フィンランドの税務実務において恒久的施設とみなされる要件は多岐にわたり、管理の場所、支店、工場、作業所などが明示されているほか、建設や据付工事の現場についても、日・フィンランド租税条約などの規定に基づき、通常12ヶ月を超える期間継続する場合に恒久的施設とみなされます。日本法人の視点から特に警戒すべきは、従業員が継続的にフィンランド国内の自宅からリモートワークを行うような勤務形態であっても、事業の性質や継続性によっては当該従業員の自宅が企業の恒久的施設を構成するとフィンランド税務当局によって認定されるリスクが存在することです。
自社の活動が恒久的施設を構成すると判断される場合、あるいはその解釈に疑義がある場合、外国法人は事業年度終了の月の末日から4ヶ月以内に「Form 6U」と呼ばれる外国法人用の所得税確定申告書をフィンランド税務行政局に提出する法的義務を負います。仮に恒久的施設を構成しないと企業側が独自に判断した場合であっても、税務当局から事業内容の報告を求められる場合があり、この申告義務を不当に怠った場合には推計課税や加算税の対象となる法的リスクが直ちに顕在化します。
この申告要件や様式に関する詳細な公式の手引きは、フィンランド税務行政局の公式ウェブサイトで確認することができます。
参考:フィンランド税務行政局
移転価格税制とハイブリッドミスマッチに関する判例動向
多国籍企業グループ内の取引価格を規律する移転価格税制については、フィンランドの国内税法のみならず経済協力開発機構の移転価格ガイドラインに準拠した厳格な運用が行われています。しかし、取引の法的な形式と経済的な実態のどちらを優先して評価するかを巡っては、税務当局と納税者との間で法廷闘争に発展する事例も存在します。関連する極めて重要な判例として、フィンランド最高行政裁判所が2014年7月に下した判決(KHO 2014:119、当事者:A Ab対フィンランド税務当局)が挙げられます。
この事案における事実関係として、フィンランドの居住法人であるA Ab社は、ルクセンブルクに所在する親会社から総額1,500万ユーロのグループ内貸付を受け入れていました。この貸付金は、国際財務報告基準においては資本として扱われるハイブリッド金融商品の性質を持ち、年利30パーセントという高金利が設定されていました。A Ab社はこの貸付に対する巨額の支払利息を損金に算入して申告しましたが、フィンランド税務当局は、取引の経済的実態を重視する立場から、この貸付の法的形式を否認し「資本への出資」として再分類を行うことで、利息の損金算入を全面的に否認しました。
これに対し最高行政裁判所は、フィンランドの国内移転価格税制や租税条約の規定は、取引価格が独立企業間価格の原則に合致しているかを事後的に調整するための枠組みであり、金融商品の法的性質そのものを負債から資本へと根本的に再分類する権限を税務当局に付与するものではないと判示し、納税者である企業側の主張を全面的に認める判決を下しました。この判決から、フィンランドの税務裁判所は法の文理解釈と租税法律主義を極めて厳格に適用し、税務当局による過度な拡大解釈を強く牽制する傾向があるということが言えるでしょう。
日本企業にとっても、フィンランド子会社に対するグループ内の資金提供スキームを設計する際、法的要件を明確に満たした契約を締結していれば国内法による事後的な再分類リスクをある程度低減できる反面、独立企業間価格に基づく適正な利率の設定には引き続き細心の注意を払う必要があることを示す重要な先例となっています。
フィンランドにおける研究開発活動を促進する税制優遇措置
一般追加控除と増加額に基づく特別追加控除の構造
フィンランドにおける技術革新推進策の中核を担うのが、2023年に新たに施行された「研究開発活動の費用に基づく追加控除に関する法律(Laki tutkimus- ja kehittämistoiminnan menoihin perustuvista lisävähennyksistä verotuksessa 1298/2022)」に基づく恒久的な税制優遇措置です。この制度は、日本の研究開発税制が算出された法人税額そのものを直接減額する税額控除方式を主体としているのとは大きく異なり、課税標準となる所得金額から費用の一定割合を追加で差し引くことを認める「所得控除」方式を採用している点に根本的な構造の違いがあります。
同法に基づく優遇措置は、二つの独立した追加控除枠を組み合わせた構造となっています。第一の柱となるのは、企業が自らの事業に関連する研究開発活動のために支出した給与や外部サービスの購入費用の50パーセントを、通常の経費処理とは別に所得から追加控除できる「一般追加控除」です。この一般追加控除は、事業年度ごとに最低5,000ユーロから最大500,000ユーロまでの範囲で適用可能であり、対象となる研究開発活動は、創造的かつ体系的であり、新しい知識の獲得や応用を目的とするものに厳密に限定されています。
第二の柱は、前事業年度と比較して研究開発費用が増加した場合に、その増加額の45パーセントをさらに追加で控除できる「特別追加控除」であり、これは2024年の課税年度から適用が開始されました。この特別追加控除にも年間最大500,000ユーロの控除上限が設定されていますが、適用にあたっての最低金額の制限は設けられていません。
さらに、この恒久的な法律に基づく措置とは別に、2021年から2027年までの時限措置として、大学や公的な研究機関との共同研究に伴う外注費を対象とした150パーセントの特例追加控除も並行して存在しています。実務上の極めて重要な留意点として、これらの控除制度は併用が可能であるものの、同一の支出費用に対して複数の追加控除を二重に適用することは法律によって厳格に禁止されています。また、国家からの直接的な補助金等を受給している事業に係る費用については、いずれの追加控除の対象からも除外されます。
日本企業がフィンランドで研究開発拠点を立ち上げる際、これら複数の控除制度の複雑な要件を精査し、社内のプロジェクト管理体制と会計システムを連動させて正確な証憑を税務行政局へ提示できる仕組みを構築することが、投資対効果を最大化するための絶対条件となります。
研究開発控除の詳細な計算要件と法規制の解説は、フィンランド税務行政局の以下の公式文書で確認することができます。
参考:フィンランド税務行政局
フィンランド付加価値税法の最新改正と企業に求められる対応

標準税率の引き上げと軽減税率の再編
フィンランドにおける消費税制の中核をなす「付加価値税法(Arvonlisäverolaki 1501/1993)」は、国家の財政再建を目的とした政府の強力な方針により、近年極めて大きな構造的変革を経験しています。日本の消費税率が標準10パーセントおよび軽減税率8パーセントにとどまるのに対し、フィンランドの付加価値税は欧州連合の中でもトップクラスの負担水準を国民および企業に要求します。
特に実務上多大な影響を及ぼしたのが、2024年9月1日に施行された付加価値税法第84条の改正です。この改正により、標準税率が従来の24パーセントから25.5パーセントへと、異例の小数点以下の単位を伴う形で引き上げられました。この25.5パーセントという新たな標準税率は、酒類、タバコ、衣類、化粧品といった日用品から、一般の企業間取引におけるビジネス向けサービスに至るまで、極めて広範な商取引に一律に適用されます。
さらに、同法第85条等に規定される軽減税率の適用範囲についても、2025年から2026年にかけて段階的かつ複雑な再編が予定および実施されています。現行制度の下では、軽減税率として主に14パーセントと10パーセントの二つの税率が運用されていますが、法改正により多くの品目が異なる税率区分へと移動することになります。
| 対象となる品目または役務 | 現行の付加価値税率 | 改正後の税率および施行予定時期 |
| 一般的な商品・サービス | 24% | 5% (2024年9月より施行済) |
| 菓子類、チョコレート | 14% | 5% (2025年中に施行予定) |
| 書籍、医薬品、旅客輸送、宿泊 | 10% | 14% (2025年以降に変更) |
| 食料品、レストランでの飲食提供 | 14% | 5% (2026年1月より施行予定) |
| 新聞および雑誌(定期刊行物) | 10% | 10% (変更なし) |
このように、菓子類などが標準税率へと大きく引き上げられる一方で、食料品全体の軽減税率は14パーセントから13.5パーセントへと僅かに引き下げられるなど、政策的な意図に基づく細かな調整が行われています。フィンランド市場において事業を展開する日本企業にとって、これほど短期間かつ細分化された税率変更に適法に対応するためには、統合基幹業務システムや販売管理システムの税率マスターをリアルタイムで改修し、商品の「納品日」や役務の「提供完了日」を基準とした厳格な経過措置の適用判断を行う体制が不可欠です。特に継続的な役務提供契約において、旧税率と新税率のいずれを適用すべきかの判断を誤った場合、事後の税務調査によって多額の追徴課税や延滞税を課されるリスクが著しく高まります。
ファクタリング取引に係る付加価値税の判例
金融サービスに対する付加価値税の適用範囲に関しても、フィンランド最高行政裁判所は実務に直結する重要な判断を示しています。2022年に言い渡された判決(KHO 2022:124)において、企業が保有する売掛債権をファクタリング会社に譲渡または担保提供する取引から生じる各種の手数料について、付加価値税の課税対象となるか否かが鋭く争われました。
日本の消費税法においては、金銭債権の譲渡や融資の利子に相当する部分は基本的に非課税取引として扱われます。しかし、本判決においてフィンランド最高行政裁判所は、欧州連合司法裁判所の確立された判例法理に厳格に従う形で、ファクタリング取引の本質は単なる資金の貸し付けではなく「債権回収という単一かつ不可分な役務の提供」であると認定しました。その結果、付加価値税法が非課税として認めている「資金提供」の例外規定の適用範囲を極めて狭く解釈し、ファクタリング会社が顧客から収受する全ての手数料が原則として付加価値税の課税対象となると判示しました。この判決から、フィンランド国内で金融サービスや高度な決済スキームを提供する企業は、自社が提供する役務の経済的実態が欧州連合指令および国内法の非課税例外規定に正確に合致するかどうかを、事前に専門家を交えて詳細に法的検証しなければならないということが言えるでしょう。
フィンランドの個人所得課税と社会保険料の枠組み
累進課税の国税と固定税率の地方税による二重構造
フィンランドにおける個人の所得課税は「所得税法(Tuloverolaki 1535/1992)」を根拠法令とし、国家によって徴収される所得税(国税)と、地方自治体によって徴収される住民税(地方税)の二層構造によって成り立っています。国税としての個人所得税は、所得水準が一定の基準を超えるごとに段階的に高い税率が適用される累進課税制度を採用しています。
2025年の税制における勤労所得に対する国税の税率区分は以下の通り設定されています。
| 課税所得の範囲(ユーロ) | 下限額に対する税額(ユーロ) | 超過部分に対する適用税率(%) |
| –,200 | 0 | 64% |
| 22,000 –,600 | 2,780.80 | 00% |
| 32,600 –,100 | 4,794.80 | 25% |
| 40,100 –,100 | 7,063.55 | 25% |
| 52,100 超 | 11,053.55 | 50% |
一方、地方税は日本の住民税の仕組みと基本的な概念を共有していますが、日本の住民税が原則として全国一律10パーセントで運用されているのに対し、フィンランドの地方税は各自治体が独自に税率を決定できるため、概ね4.70パーセントから10.90パーセントの範囲で地域差を伴う固定税率が適用されます。さらにこれに加えて、納税者が所属する宗教団体に応じた教会税(1パーセントから2.25パーセント)や、年間所得が15,150ユーロを超える個人に対して課される公共放送税(最高160ユーロ)が合算され、雇用主による給与からの源泉徴収を通じて厳格に徴収される仕組みとなっています。
なお、株式の配当や不動産の賃貸収入などのキャピタルゲインを含む投資所得に対しては、勤労所得とは切り離され、国税として30パーセント(年間30,000ユーロを超える部分については34パーセント)の分離課税が適用されます。
労使双方が負担する社会保険料の仕組み
高い税負担に加えて、フィンランドの包括的な社会福祉制度を直接的に支える社会保険料の設計も、進出企業の人件費を左右する極めて重要な要素となります。フィンランドの法定社会保険料は、日本の制度が原則として労使折半を採用しているのとは異なり、雇用主と従業員それぞれの負担割合や算定の基準となる指標に明確な違いが設けられています。
2025年および2026年における主要な社会保険料の負担構造は以下の通りです。
| 保険料の種類 | 雇用主の負担率 | 従業員の負担率 |
| 年金保険料(2025年) | 約17.38%(平均的な基準率) | 15%(53歳未満等)~8.65%(53-62歳) |
| 年金保険料(2026年) | 約17.10%(平均的な基準率) | 30%(全年齢層で統一予定) |
| 失業保険料(2025年) | 20%(給与総額2,455,000ユーロ以下の部分) 80%(給与総額2,455,000ユーロ超の部分) | 59% |
| 失業保険料(2026年) | 31%(給与総額2,509,500ユーロ以下の部分) 23%(給与総額2,509,500ユーロ超の部分) | 89% |
このように、雇用主が負担する年金保険料が従業員の負担率を大きく上回っているほか、失業保険料においては企業が支払う給与総額の規模に応じて二段階の傾斜した負担率が設定されています。進出企業はこれらの複雑な料率構造を正確に自社の給与計算システムに反映させ、毎月遅滞なく関係機関へ納付する厳格な法的責任を負います。
外国人専門家向けの特別な税制優遇
日本の経営層や高度な技術を持つ専門家がフィンランドの子会社へ赴任する場合、前述の高い累進税率と社会保険料がそのまま適用されると、個人の手取り額が著しく減少するという深刻な問題が生じます。この問題に対処し、優秀な外国人人材の誘致を促進するため、フィンランドは特定の要件を満たす外国人に対して「外国人専門家税制」と呼ばれる非常に有利な特例措置を設けています。
この制度は、フィンランドでの現金による月額給与が5,800ユーロ以上であり、かつ特殊な専門知識や技能を有する外国人(または過去5年間にフィンランドでの居住歴がないフィンランド国籍の帰国者)に対して、通常の累進税率を適用せず「一律25パーセント」の源泉分離課税のみを適用するというものです。日本における居住者への所得税および住民税の最高税率が合計で55パーセントに達し、かつこうした長期の定率優遇措置が存在しないことと比較すると、この特例は赴任者にとって極めて魅力的な条件となります。さらに、この特例措置の適用期間は最長で84ヶ月(7年間)と法律で保障されており、企業が長期間にわたって優秀な日本人駐在員を現地の重要なポストに安定して配置するための強力な財務的インセンティブとして機能します。
日・フィンランド租税条約と国際課税上の留意点

配当や利子に対する源泉徴収税率と多国間条約の影響
日本企業がフィンランド子会社から事業利益の還流を受ける際、あるいはフィンランド企業へ高度な技術ライセンスを供与する際に不可避となるのが、両国間での二重課税の問題です。この複雑な問題を解決し、円滑な経済交流を促進するため、日本とフィンランドの間には「所得に対する租税に関する二重課税の回避及び脱税の防止のための日本国とフィンランドとの間の条約(日・フィンランド租税条約)」が締結されています。
フィンランドの国内税法においては、非居住者である外国法人に対する配当、利子、使用料(ロイヤルティ)の支払いに対して、原則として20パーセントの源泉徴収税が課されます。しかし、租税条約の適用を正式に受けることにより、この税率は大幅に軽減される仕組みとなっています。具体的には、日本法人がフィンランド法人から受け取る配当に対する限度税率は原則として15パーセントに軽減され、利子および使用料に対する限度税率は10パーセントへと軽減されます。さらに、一定の持株割合の要件を満たす直接投資による配当や、政府機関等が関与する特定の利子の支払いについては、税率が0パーセントから10パーセントの間でさらに軽減または完全に免除される特例規定が存在します。
また両国は、経済協力開発機構の枠組みに基づく「税源浸食及び利益移転を防止するための租税条約関連措置を実施するための多国間条約(MLI)」を批准しており、既存の二国間租税条約に対してこの多国間条約が上書きされる形で法的な効力を持っています。これにより、租税の回避を主たる目的とする人為的な取引に対しては条約の恩恵を付与しないとする「主要目的テスト」などの濫用防止規定が導入されています。日本企業がグループ内での知的財産の移転や戦略的な配当政策を実行する際には、その取引の背後に合理的な事業目的や経済的実態が存在することを詳細に文書化し、税務当局からの疑義に対して明確に立証できる体制をあらかじめ整えておく必要があります。
欧州連合の資本移動の自由と源泉徴収税免除に関する最新判例
国際課税の分野においてフィンランド最高行政裁判所が近年示した極めて注目すべき判断として、2025年3月25日に言い渡された判決(KHO 2025:22、当事者:外国中央銀行対フィンランド税務行政局)が挙げられます。
この事案における事実関係として、欧州連合および欧州経済領域の域外に位置する非居住者たる外国の中央銀行が、フィンランド国内の投資案件から得た配当所得に対する源泉徴収税の免除を求めて、税務当局の決定を不服として提訴しました。フィンランドの国内税法では「フィンランド銀行(中央銀行)」を明示的に非課税主体として規定し優遇していましたが、外国の中央銀行に対する免除については明文の規定が存在していませんでした。しかし最高行政裁判所は、欧州連合機能条約に明確に定められた「資本移動の自由」の原則を適用し、非EU加盟国の中央銀行であってもフィンランド銀行と客観的に比較可能な公的機関である限り、国内機関と全く同様に非課税の恩恵を受ける正当な権利があると判示しました。そして、税務行政局に対して源泉徴収税のゼロ税率を適用した税務証明書の発行を命じる決定を下しました。
この画期的な判決は、フィンランドの国内税法が外国法人に対して不当に不利な取り扱いを定めている場合、EU法の優位性という強力な法的根拠を用いることで、非EU圏に属する日本を含む外国の投資家であっても、自らの権利の保護と不利な課税の是正を法廷で勝ち取ることができるということを明確に示しています。進出企業としては、二国間の条約やフィンランド国内法の字面のみにとらわれず、上位規範であるEU法やそれに関連する最新の司法裁定を射程に入れた、極めて高度な国際税務戦略を構築することが有益であるということが言えるでしょう。
まとめ
これまで詳述してきた通り、フィンランドの税法は、25.5パーセントに及ぶ高水準の付加価値税や累進性の高い個人所得税によって強固な社会福祉財源を国民全体から確保する一方で、20パーセントという国際的な競争力のある低い法人税率や、研究開発活動に対する二段構えの追加控除(一般追加控除および特別追加控除)を通じて、外国資本の積極的な誘致と技術革新を強力に牽引するハイブリッドな制度設計となっています。
日本の経営者や法務部員にとって、こうしたフィンランドの税体系は欧州市場進出に向けた魅力的な財務的インセンティブを提供する反面、恒久的施設の認定基準を巡る税務当局との見解の相違による予期せぬ課税リスク、短期間に頻繁に行われる付加価値税率の変更と厳格なインボイス対応、さらには多国間条約適用後の移転価格や経済的実態要件の厳格な審査など、極めて高度な法令遵守の管理が要求される領域でもあります。特に最高行政裁判所の近年の判例が明確に示しているように、法定要件の文理に基づく厳格な法解釈と、欧州連合法の基本原則に基づくダイナミックな判断が実務を大きく左右するため、進出前の段階から現地の法解釈の動向を見据えた精緻な税務プランニングと契約内容の検証を行うことが不可欠です。
モノリス法律事務所では、日本企業の皆様が海外市場において直面するこれら複雑な国際税務リスクの分析や、新規進出に伴う現地特有のコンプライアンス体制の構築、さらには関連する契約実務について、多角的な視点から皆様のビジネス展開をサポートいたします。現地市場での法的安定性を早期に確保し、事業の確実な成功を後押しするため、ぜひ事前の検討段階からご相談をご検討ください。
カテゴリー: IT・ベンチャーの企業法務

































