脱毛の医療広告と法規制 医療法を弁護士が解説
昨今、テレビや新聞、インターネットで頻繁に医療広告を目にするようになりました。こうした医療広告は「医療法」で規制の対象になっています。2018年6月には、改正医療法が施行され、それまで対象外だったウェブサイトなどについても規制対象となりました。
使用する機器や施術者・場所などによっては医療行為となる「脱毛」の広告も、同様に改正「医療法」が適用されます。
そこで、今回は医療法が適用される「医療脱毛」とそれ以外の脱毛に関する広告について、適用される法規制と注意ポイントについて分かりやすく解説します。
この記事の目次
脱毛の法律的な定義とは(医療脱毛、美容脱毛、セルフ脱毛)
一口に脱毛といっても実際には「医療脱毛」「美容脱毛」「セルフ脱毛」の3つに分類され、それぞれ①脱毛方法及び効果、②施術者及び場所、③料金の面で違いがあります。
医療脱毛とは
①脱毛方法及び効果
医療脱毛は、レーザー光線又はその他の強力なエネルギーを有する光線を毛根部分に照射し、毛乳頭、皮脂腺開口部等を破壊することによって脱毛します。
レーザー光線などの照射は、毛根及び周辺の発毛組織の破壊を伴うため、医療脱毛の効果は他の方法よりも長く持続することで「永久脱毛」と呼ばれることもあります。
日本では永久脱毛の明確な定義がないため、米国のFDA(米国食品医薬品局)あるいはAEA(米国電気脱毛協会)の定義を参考にしていますが、どちらも永久に毛が再生しないわけではなく、脱毛状態が一定の期間継続するとしています。
②施術者及び場所
医療脱毛は医療行為に該当するため、施術は医師免許を持った医師や看護師がクリニックや病院などの医療機関で行います。一人一人の肌質や肌の状態に合わせた施術が可能で、痛みが強い場合やトラブルが起こった場合にすぐに対応できるところがメリットです。
③料金
美容脱毛やセルフ脱毛に比べて1回あたりの施術料は高額になりますが、脱毛効果が高く少ない回数で期待する仕上がりが得られるため、総額では美容脱毛とあまり変わらない部位もあります。
美容脱毛とは
①脱毛方法及び効果
美容脱毛は、医療脱毛に比べて照射力が弱い光脱毛器を使用し、毛根細胞の周辺組織を破壊せずに体毛の成長を遅らせるもので、刺激や痛みが少ないので、肌が弱い人でも短い間隔で施術することができます。
美容脱毛といっても脱毛効果はなく、毛の成長を抑制し細く目立たなくする「抑毛効果」や、新しく生えてくる毛を抑制する「減毛効果」が期待できます。
②施術者及び場所
医療行為ではない美容脱毛には施術するための資格は必要なく、エステサロンのエステティシャンなどが行います。使用する光脱毛器の照射力が弱いため肌トラブルは起こりにくいのですが、もし肌にトラブルが発生したときには医療機関ではないので対応は難しくなります。
③料金
医療脱毛と比べて1回の施術に必要な料金はかなり安価ですが、効果が弱く持続期間も短いため施術回数が多くなり、総額では範囲の広い全身脱毛以外はそれほど大きな差はないと思われます。
セルフ脱毛とは
①脱毛方法及び効果
セルフ脱毛は(ワックス脱毛・テープ脱毛は除く)は、市販の家庭用光脱毛機を使用しますが、エステサロンなどの光脱毛機に比べ出力は低いため脱毛効果は弱く持続期間も短くなります。
②施術者及び場所
セルフ脱毛は自分自身で光脱毛機を操作するため家庭内で行うのが一般的ですが、光脱毛機を備え時間制で料金を支払うセルフ脱毛サロンなどの利用も可能です。
③料金
光脱毛機の購入費用はかかりますが、脱毛費用はほとんど必要ないので、医療脱毛や美容脱毛と比べると非常に安価と言えます。ただし、部品交換や修理が必要な場合には自己負担となります。
医療脱毛の広告規制表現
医療脱毛の広告を行う場合には、次の(ア)から(オ)までの項目に該当するかどうか、どのような点に注意しなければならないかを事前に確認する必要があります。
(ア) 医療広告に該当しないか
医療脱毛の広告が以下の2点を満たす場合は医療広告に該当します。
①患者の集客を目的としているようにみえるか(誘引性)
②医者や病院・クリニックなどの医療機関が特定できること(特定性)
医療広告に該当するもの
- 特定の医療機関に関する広告
- 「これは、取材に基づく記事であり、患者を誘引するものではありません。」などと記載されていても、医療機関名が記載されているもの
- 「医療法の広告規制のため、具体的な病院名は記載できません。」として医療機関名の表示がなくても、住所、電話番号、URLなどで医療機関が特定できるもの
- 治療法などの紹介であっても記載されている連絡先に連絡すると、特定の医療機関をあっせんするもの
- 特定医療機関のホームページ内における広告
- その他、①・②の要件を満たすもの
医療広告に該当しないもの
- 医療脱毛を取り扱うすべての医療機関を強調せずに掲載しているもの
「おすすめの脱毛クリニック〇〇選」「おすすめの脱毛クリニックランキング」などの複数の医療機関を紹介する内容であっても、特定の医療機関を強調している点で医療広告に該当します。
- 学術論文、学術発表等
学術論文等を装いつつ、不特定多数にダイレクトメールで送るなどして、実際には特定の医療機関に対する集客を目的としていると認められる場合には、「誘引性」を有すると判断しされます。
- 新聞や雑誌等での記事
新聞や雑誌などの記事は「誘引性」の要件は満たさないとされていますが、医療機関が集客のために広告料などを支払って記事の掲載を依頼する場合は「誘引性」があると判断されます。
- 患者等が自ら掲載する体験談、手記等
患者などが自分の体験に基づいて特定の医療機関を推薦する手記を公表しても「誘引性」の要件に該当しませんが、執筆者が医療機関の依頼、または金銭などの謝礼を受けている場合には「誘引性」があると判断されます。
上記の他、院内掲示、院内で配布するパンフレットなどや医療機関の職員募集に関する記事は医療広告に該当しません。
(イ) 広告可能事項のみ記載されているか
医療広告に該当する場合は、広告できる事項が医療法第6条の5第3項で細かく規定されています。具体的には以下に紹介する事項を含めて14項目の「広告可能事項」があります。
- 医師又は歯科医師である旨
- 診療科名
- 病院又は診療所の名称、電話番号及び所在の場所を表示する事項並びに病院又は診療所の管理者の氏名
- 診療日若しくは診療時間又は予約による診療の実施の有無
- 法令の規定に基づき一定の医療を担うものとして指定を受けた病院若しくは診療所又は医師若しくは歯科医師である場合には、その旨
(以下、省略)
広告可能事項について詳しく知りたい方は、下記記事にて詳述していますので、本記事と合わせてご覧ください。
(ウ) 広告可能事項以外の情報を記載するための要件を満たしているか
医療法では「広告可能事項」以外の医療広告は禁止されていますが、以下の①・②(自由診療は①〜④)を全て満たす場合には限定解除が認められ広告が可能となります。
① 医療に関する適切な選択に必要な情報であり、患者などが自ら求めて入手する情報を表示するウェブサイトその他これに準じる広告であること
「患者等が自ら求めた情報」であることが重要で、メルマガやパンフレットなども該当しますが、患者等の意思にかかわらず表示されるバナー広告やSNS上の広告は本要件を満たしません。
② 表示される情報の内容について、患者などが容易に照会できるよう、問い合わせ先を記載・その他の方法で明示すること
「容易に照会できる」ことが重要なので、極端に小さい文字などの分かりづらい表示は本要件を満たすとは言えません。また、「問い合わせ先」には、電話番号、Eメールアドレス、お問い合わせフォームのURLなど該当します。
③ 自由診療に関し通常必要とされる治療等の内容、費用等に関する事項について情報を提供すること(※自由診療の広告の場合)
「治療等の内容、費用等」については、治療等の名称・不十分な治療内容の説明・費用だけでは本要件を満たせないので、通常必要とされる治療の内容、標準的な費用、治療期間及び回数を掲載し、患者等に対して適切かつ十分な情報を分かりやすく提供することが必要です。
④ 自由診療に関する治療等に係る主なリスク、副作用等に関する事項について情報を提供すること(※自由診療の広告の場合)
利点や長所のみが強調され、その主なリスク等についての情報が不十分な場合は本要件を満せないので、主なリスクや副作用などの情報を分かりやすく掲載し、適切で十分な情報を提供しなければなりません。また、分かりづらい表示やリンクを張った先のページへ掲載することは本要件を満たさないものとなります。
(エ) 医療法及び施行規則で禁止されている項目
医療法及び医療法施行規則では、医療広告において以下の事項に該当する広告は禁止されています。
- 内容が虚偽の広告(虚偽広告)
- 他の医療機関と比較して優良である旨の広告(比較優良広告)
- 人を誤認させる誇大な広告(誇大広告)
- 公の秩序又は善良の風俗に反する内容の広告(公序良俗に反する内容の広告)
- 患者などの主観又は伝聞に基づく、治療等の内容・効果に関する体験談の広告
- 治療等の内容・効果について、患者等を誤認させるおそれがある治療等の前又は後の写真等の広告
- 品位を損ねる内容の広告、他の法令等で禁止される内容の広告
(オ)景品表示法・特定商取引法等に該当する表現がないか
景品表示法における禁止事項
- 優良誤認表示
商材・サービスの品質、規格、その他の内容について、実際のものよりも著しく優良であるという表示、あるいは事実に相違して同業者よりも著しく優良であるという表示。
- 有利誤認表示
商材・サービスの品質、規格、その他の内容について、実際のものよりも著しく有利であると誤認される表示、あるいは同業者よりも著しく有利であると誤認される表示。
- 内閣総理大臣が指定する表示
商品・サービスの取引に関する事項について、一般消費者に誤認されるおそれがあると認められ内閣総理大臣が指定する表示
上記の内閣総理大臣が指定する表示の中では、脱毛との関係では、次のような「おとり広告」に関する表示が問題となります。
- 提供できる準備ができていない場合の商品・サービスの表示
- 提供できる数量などが限定されているにもかかわらず限定内容が明瞭に記載されていない場合の商品・サービスの表示
- 合理的な理由がないのに取引を妨げられる場合、および実際には取引する意思がない場合の商品・サービスの表示
特定商取引法における禁止事項
- 虚偽広告
商材・サービスの品質、規格、その他の内容に関し、事実と異なる表示
- 誇大広告
商材・サービスの品質、規格、その他の内容に関し、実際のものよりも著しく優良・有利であると人を誤認させる表現
誇大広告について詳しく知りたい方は、下記記事にて詳述していますので、本記事と合わせてご覧ください。
美容脱毛の広告規制表現
(ア)医療行為又は医療行為の誤認の恐れがある記載に該当する表現がないか
医療脱毛にしか使用できない「レーザー脱毛」「医療用脱毛機」「永久脱毛」などの用語や、「治療」「療法」「医学的」「医療」などの医療行為であるとの印象を与える表現はできません。
(イ)景品表示法・特定商取引法等に該当する表現がないか
医療脱毛と同様に、景品表示法や特定商取引法等における禁止事項の表現はできません。
セルフ脱毛の広告規制表現
(ア)効能効果に関して誤認の恐れがある記載がないか
美容脱毛と同様に、医療脱毛にしか使用できない「レーザー脱毛」「医療用脱毛機」「永久脱毛」などの用語や、「治療」「療法」「医学的」「医療」などの医療行為であるとの印象を与える表現はできません。
また、「脱毛」「毛乳頭を破壊する」「毛が生えてこなくなる」など、医療脱毛の効能効果と誤認される表現は禁止です。
(イ)景品表示法・特定商取引法等に該当する表現がないか
医療脱毛と同様に、景品表示法や特定商取引法等における禁止事項の表現はできません。
まとめ
脱毛の広告掲載を行う場合には、対象とする脱毛が「医療脱毛」「美容脱毛」「セルフ脱毛」のいずれに該当するかを確認し、それぞれの禁止事項に該当しないよう注意深く進めなければなりません。
脱毛の広告には「医療法」「医療法施行規則」「景品表示法」「特定商取引法」など多くの法律が関わるため実際に行おうとする際には、独自に判断するのではなく専門的な知識や経験が豊富な弁護士に事前に相談することをおすすめします。
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カテゴリー: IT・ベンチャーの企業法務
タグ: ビジネスモデルの適法化