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法律記事MONOLITH LAW MAGAZINE

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医療広告ガイドラインのポイントついて弁護士がわかりやすく解説

病院・クリニック、診療所などに関する、宣伝や情報提供、口コミや体験談などのコンテンツをウェブなどに掲載する場合に問題となるのが、医療広告に関する法規制です。

こうした医療に関する広告には、医療法や医療広告ガイドラインによる厳しい広告規制が存在します。また、こうした広告規制は、なかなか複雑でわかりにくいのが現状です。

例えば、「体験談の広告」は禁止されていていますが、患者が自らの意思で、例えば自分のブログ上で、

「●●クリニックで●●の治療を受けてきたけど、とても良かった」

といった日記を書くことは禁止されていません。

インターネット上において公開され得る、「結果として、あるクリニックにとって一定の宣伝効果を有するであろうコンテンツ」にはかなりの幅があります。

医療法・医療広告ガイドラインが難しい理由の一つは、そうした「広範なパターン」のそれぞれについて、どのように適法性を判断すべきかを、理解する必要があるからです。

ですが、下記のフローチャートを用いて考えることで基礎的な部分については理解可能でしょう。

医療広告ガイドラインのフローチャート

では早速フローチャートを見ていきましょう。

医療広告ガイドラインのフローチャート

3つのポイントで分岐が発生していますが、ポイントそれぞれで法的解釈を含み、どのような表現が可能かが変わるため、複雑です

分岐1:医療広告の該当性

最初に問われるのは、そもそも当該記事(や記事内の表現など)が「医療広告」に該当するか、という点です。

医療広告の該当性は、

  • 誘因性:患者の受診等を誘引する意図があること
  • 特定性:医業・歯科医業を提供する者の氏名・名称、病院・診療所の名称が特定可能であること

の2点より判断されます。これらが2点とも認められれば医療広告に該当します。

体験談と誘因性の判断

そして、特に、この誘引性の該当性判断が難しいのが、体験談です。

この点に関しては、平成30年8月付の「医療広告ガイドラインに関するQ&A」にて、

「医療機関の体験談に誘引性がある場合には、広告規制の対象となる」

【PDF】平成30年8月作成「医療広告ガイドラインに関するQ&A」

という基本的な考え方の下、以下のような例が示されています。

  • 医療機関が患者やその家族に(有償・無償を問わず)肯定的な体験談の投稿を依頼した場合→誘因性あり
  • 医療機関からの影響を受けずに患者やその家族が行う推薦に留まる場合→誘因性なし

後者に関して、患者(やその家族)自身が、自身の運営するウェブサイトやSNS、いわゆる病院口コミサイト等に感想を投稿するケースが、これに該当します。ただし、特に病院口コミサイト等の場合ですが、

  • ウェブサイトの運営者が、体験談の内容を改編したり、否定的な体験談を削除したり、又は肯定的な体験談を優先的に上部に表示するなど体験談を医療機関の有利に編集している&それが医療機関からの依頼によって行われたものである場合→誘因性あり
  • 仮に医療機関の依頼により行われたものではないとしても、事後的に医療機関がそのように編集されたウェブサイトの運営費を負担する場合→誘因性あり

という例も示されています。

ただ、こうしたサイトにおける「体験談」の適法性は、上記の「運営費」の「負担」といった概念との関係で、非常に複雑です。下記記事にて詳述しています。

一般論などを述べる建付の記事と特定性の判断

また、特定性に関して、

  • 「これは広告ではありません。」との記述があるが、病院名等が記載されている場合
  • 治療法等を紹介する書籍、冊子及びウェブサイトの形態をとっているが、特定(複数の場合も含む。)の病院等の名称が記載されていたり、電話番号やウェブサイトのアドレスが記載されていることで、一般人が容易に当該病院等を特定できる場合

も、特定性は否定されません。

医療法が適用されない場合(パターン1)

そして、医療広告に該当しない場合、医療法・医療広告ガイドラインの適用がなされません。したがって、医療法に基づく規制はなく、原則的にどのような記事でも公開できることになります

ただし、広義に医療に関連する法規制には、以下のようなものもあります。

  • 医薬品・医療機器等の名称や、効能・効果、性能等に関する虚偽・誇大広告の禁止(医薬品医療機器等法66条1項)
  • 承認前の医薬品・医療機器についての名称、効能・効果、性能等についての広告の禁止(同法68条)
  • 食品として販売する物に関する健康増進の効果等についての虚偽、誤認広告の禁止(健康増進法31条1項)
  • 競争事業者よりも事実に相違して優良である旨の表示等の禁止(景品表示法5条1項)
  • 誤認を与える広告、虚偽広告の禁止(不当競争防止法21条2項)

こうした広告は、「医療法や医療広告ガイドラインが適用されない」としても問題になるため、注意が必要です。

分岐2:禁止事項の該当性

医療広告に該当する場合、以下のような記載は、「禁止事項」として違法となります(法6条の5第1項、第2項、規則1条の9)

(ⅰ)虚偽広告
(ⅱ)比較優良広告
(ⅲ)誇大広告
(ⅳ)公序良俗に反する内容の広告
(ⅴ)患者その他の者の主観又は伝聞に基づく、治療等の内容又は効果に関する体験談の広告
(ⅵ)治療等の内容又は効果について、患者等を誤認させるおそれがある治療等の前又は後の写真等の広告

これらは「禁止事項」という名称の通り、「医療広告に該当してしまった場合は、絶対に記載できない事項」ということになります。

禁止事項について問題になるケースが多いのは、最後の「治療等の前又は後の写真等」、つまりいわゆるbefore/after画像の掲載の可否です。こうした画像は特に美容医療などで使われがちなのですが、「患者等を誤認させるおそれ」という要件について、難しい法的判断が問われます。この点に関しては下記記事にて詳述しています。

そして、これらに違反してしまうと、

  • 広告中止や内容の是正を求める行政指導
  • 報告命令又は立ち入り検査(法6条の8第1項)
  • 中止命令又は是正命令(法6条の8第2項)
  • 刑事告発
  • 懲役や罰金の罰則(法87条1号、89条2号)
  • 管理者変更命令(法28条)
  • 病院又は診療所の開設の許可の取り消し又は閉鎖(法29条1項4号)
  • 公表

といった罰則等に服することになってしまいます。

分岐3:限定解除要件の該当性

禁止事項に該当しなかった場合、次に問われるのが、「限定解除要件」の該当性です

この「限定解除要件」というのは少し分かりにくい概念なのですが、病院やクリニック等に関する記事・投稿を公開する際に、これら要件を満たす必要は、必ずしもありません。ただし後述するように

  • 限定解除要件を満たす場合→医療広告に該当しない場合と同様、原則的に何でも記載可能
  • 限定解除要件を満たさない場合→後述するように「広告可能事項」のみを記載可能

となります。そして限定解除要件は、以下の通りです。

  1. 医療に関する適切な選択に資する情報であって患者等が自ら求めて入手する情報を表示するウェブサイトその他これに準じる広告であること
  2. 表示される情報の内容について、患者等が容易に照会ができるよう、問い合わせ先を記載することその他の方法により明示すること
  3. 自由診療に係る通常必要とされる治療等の内容、費用等に関する事項について情報を提供すること
  4. 自由診療に係る治療等に係る主なリスク、副作用等に関する事項について情報を提供すること

3、4は、自由診療の場合のみ必要な要件であり、保険診療の場合は1、2のみで足ります。

限定解除要件を満たす場合(パターン2)

この場合は、上記のように禁止事項を記載できないことは前提ですが、その他の点においては、パターン1と同様、原則的にどのような記事でも公開することができ、ただし、他の法律が適用されなくなるわけではないので、

医薬品・医療機器等の名称や、効能・効果、性能等に関する虚偽・誇大広告の禁止(医薬品医療機器等法66条1項)
承認前の医薬品・医療機器についての名称、効能・効果、性能等についての広告の禁止(同法68条)
食品として販売する物に関する健康増進の効果等についての虚偽、誤認広告の禁止(健康増進法31条1項)
競争事業者よりも事実に相違して優良である旨の表示等の禁止(景品表示法5条1項)
誤認を与える広告、虚偽広告の禁止(不当競争防止法21条2項)

これらの規制には気を付ける必要がある、ということになります。

限定解除要件を満たさない場合(パターン3)

この場合、広告可能事項のみを記載可能です

そして広告可能事項とは、医療法第6条の5 第3項各号に記載されている通り、下記のとおりとなります。

端的に言えば、「法律が、こうした情報なら記載しても問題ない」と指定している、実際問題としてほぼ集客効果などが見込めないような単なる情報のみが記載可能である、というような建付です。

1. 医師又は歯科医師である旨
2. 診療科名
3. 当該病院又は診療所の名称、電話番号及び所在の場所を表示する事項並びに当該病院又は診療所の管理者の氏名
4. 診療日若しくは診療時間又は予約による診療の実施の有無
5. 法令の規定に基づき一定の医療を担うものとして指定を受けた病院若しくは診療所又は医師若しくは歯科医師である場合には、その旨
6. 第5条の2第1項の認定を受けた医師である場合には、その旨
7. 地域医療連携推進法人(第70条の5第1項に規定する地域医療連携推進法人をいう。第30条の4第12項において同じ。)の参加病院等(第70条の2第2項第2号に規定する参加病院等をいう。)である場合には、その旨
8. 入院設備の有無、第7条第2項に規定する病床の種別ごとの数、医師、歯科医師、薬剤師、看護師その他の従業者の員数その他の当該病院又は診療所における施設、設備又は従業者に関する事項
9. 当該病院又は診療所において診療に従事する医療従事者の氏名、年齢、性別、役職、略歴その他の当該医療従事者に関する事項であつて医療を受ける者による医療に関する適切な選択に資するものとして厚生労働大臣が定めるもの
10. 患者又はその家族からの医療に関する相談に応ずるための措置、医療の安全を確保するための措置、個人情報の適正な取扱いを確保するための措置その他の当該病院又は診療所の管理又は運営に関する事項
11. 紹介をすることができる他の病院若しくは診療所又はその他の保健医療サービス若しくは福祉サービスを提供する者の名称、これらの者と当該病院又は診療所との間における施設、設備又は器具の共同利用の状況その他の当該病院又は診療所と保健医療サービス又は福祉サービスを提供する者との連携に関する事項
12. 診療録その他の診療に関する諸記録に係る情報の提供、第6条の4第3項に規定する書面の交付その他の当該病院又は診療所における医療に関する情報の提供に関する事項
13. 当該病院又は診療所において提供される医療の内容に関する事項(検査、手術その他の治療の方法については、医療を受ける者による医療に関する適切な選択に資するものとして厚生労働大臣が定めるものに限る。)
14. 当該病院又は診療所における患者の平均的な入院日数、平均的な外来患者又は入院患者の数その他の医療の提供の結果に関する事項であつて医療を受ける者による医療に関する適切な選択に資するものとして厚生労働大臣が定めるもの
15. その他前各号に掲げる事項に準ずるものとして厚生労働大臣が定める事項

医療法第6条の5第3項

まとめ

このように、医療法や医療広告ガイドラインは、全体像としてはかなり複雑なのですが、ただ、上記のフローチャートに即して考えていけば、ある程度は理解することができます。

こうしたフローチャートの上で、どのような記載を行うか、ユーザーなどにどのような投稿を行わせ、それをどのようにコントロールするか考える、というのが、病院やクリニック等のサイトを作る場合、それらに関する口コミサイトなどを設計する場合の考え方になります

ただ、本記事で紹介したのは、あくまで基本的な部分のフローチャートであり、実際には、各部分の判断や規律一つ一つが、かなり専門性の高いものです。こうした広告規制が問題となるようなウェブサイト、ウェブサービスなどを作る際には、医療法や医療広告ガイドラインに関する知識やノウハウのある法律事務所に相談するのがベストでしょう。

弁護士 河瀬 季

モノリス法律事務所 代表弁護士。元ITエンジニア。IT企業経営の経験を経て、東証プライム上場企業からシードステージのベンチャーまで、100社以上の顧問弁護士、監査役等を務め、IT・ベンチャー・インターネット・YouTube法務などを中心に手がける。

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