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法律記事MONOLITH LAW MAGAZINE

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日本企業や経営者によるブラジル連邦共和国における会社設立の方法

ブラジルでは、近年では特に、テクノロジー、アグリビジネス、エネルギーといったセクターが急速な成長を遂げており、投資の対象として注目されています。ブラジル政府は、近年の政治的安定、財政改革への取り組み、民主主義へのコミットメント、そして持続的な経済成長と社会進歩を背景に、外国投資に有利な環境を整えていると国際的に評価されています。

ブラジルは、日本にとって重要なパートナーとしての地位を確立しており、両国間の経済関係は近年も強化されています。ブラジルには日本国外で最大の日本系人口(200万人以上)が存在し、一方、日本には5番目に大きなブラジル人コミュニティ(21万人)があります。2025年には日伯外交関係樹立130周年を迎えるなど、両国は歴史的・文化的に深い結びつきを持ち、これがビジネス基盤としても機能しています。

ただ、ブラジルの投資環境には、複雑な側面も存在します。例えば、ブラジルは広大な経済規模と多様な市場を持つと評価される一方で、煩雑で複雑な税制、官僚的な遅延、インフラの未発達、厳格な労働法制といった潜在的なリスクも指摘されています。

本記事では、ブラジルにおける会社設立とその方法について解説します。

ブラジルにおける外国投資の法的枠組みと規制

ブラジルには、外国投資を統一的に規律する法律は存在せず、金融機関や保険会社を除けば、外国投資は一般的に政府の承認や認可を必要としません。また、最低投資額や現地資本比率に関する一般的な要件もありません。しかし、国家の戦略的利益や公共の福祉を保護するため、特定のセクターでは外国投資が制限または禁止されています。

外国投資の制限および禁止分野

外国投資が禁止されている分野には、原子力エネルギー、石油・天然ガス(特定の法的状況を除く、探査・精製・輸送など)、医療サービス(特定の法的状況を除く)、放射性鉱物とその副産物の探査・採掘・加工・工業化・販売などが含まれます。

一方、制限のある分野としては、以下が挙げられます。

  • マスメディア(新聞、雑誌、ラジオ、テレビネットワークを含む): 株式の70%以上をブラジル居住者が直接的または間接的に所有する必要があり、外国投資家の所有は最大30%に制限されます。
  • 金融機関: ブラジル連邦政府による事前の承認が必要です。
  • 鉱物資源: 特に国境地域での採掘活動には制限が課されます。
  • 農村不動産: 外国資本に支配されるブラジル法人は、国立植民地化農地改革院(INCRA)またはブラジル議会の事前の承認が必要です。
  • 海上輸送: 外国投資家の株式保有は最大49%に制限され、経営陣の過半数はブラジル居住者である必要があります。
  • その他、航空宇宙産業、電気通信、保険、郵便・電信サービスなどもセクター別のライセンス制度の対象となります。

ブラジルが全体として外国投資を歓迎し、規制を緩和する方向にある一方で、国家安全保障、公共の福祉、または特定の国内産業の保護といった戦略的な観点から、一部のセクターには依然として厳格な規制を維持していると言えます。インフラ、通信、金融などの分野は、ブラジルで規制対象となる可能性があるため、初期段階での専門家によるデューデリジェンスが不可欠です。

ブラジル中央銀行(BACEN)への登録義務

外国直接投資および対外信用取引は、ブラジル中央銀行(BACEN)への登録が義務付けられています。この登録は、外国投資家への利益送金、自己資本利息(juros sobre capital próprio)の送金、ブラジルに投資された外国資本の本国送還、および利益・自己資本利息の再投資を合法的に行うために不可欠です。 登録には、外国投資家とブラジル企業の両方がBACENに登録する必要があります。

2022年12月31日以降に施行された新しい規制(Resolution 278)により、10万米ドル以上の投資(または他の通貨での同等額)は登録が義務付けられています。この金額未満の投資の場合、登録は義務ではありませんが、企業記録の追跡や将来的な資金移動の円滑化のために自主的な登録が推奨されます。すなわち、少額投資であっても、事業が拡大し利益が蓄積された際に、スムーズな資金移動を保証するためには、初期段階からの適切な登録を行うべきです。投資が行われた日から30日以内に、投資を受けたブラジル企業(対象企業)がBACENの申告システム(SISBACEN)に外国投資を登録する義務があり、登録が遅延したり、登録を怠ったりした場合、罰金が科される可能性があります。

会社設立の主要な形態と特徴

会社設立の主要な形態と特徴

ブラジル法は、外国企業が直接ブラジルで事業を行うことを許可していません。したがって、外国企業はブラジルに会社を設立するか、または、支店を開設する必要があります。ブラジルで会社を設立する際には、いくつかの主要な法人形態から選択することになります。

リミターダ(Sociedade Limitada – Ltda.)

リミターダは、ブラジルで最も一般的な法人形態であり、特に中小企業や外国投資家に人気があります。その構造は、米国LLC(Limited Liability Company)に最も近いとされています。

各出資者(quotaholder)の責任は、その出資額に限定される「有限責任」が原則です。ただし、資本金が完全に払い込まれていない場合、すべての出資者が未払い部分について連帯責任を負います。また、税務、労働、社会保障関連の負債については、出資者の責任が限定されない場合があるため、注意が必要です。

設立には、定款(Articles of Association)の作成と、事業を行う州の商業登記所(Junta Comercial)への登録が必要です。一般的に、法人設立に際しての法定最低資本金要件はありません。しかし、特定の事業活動(取引活動、外国人管理者/取締役の雇用)や、外国人がブラジルで労働ビザを取得するためには、十分な初期資本が推奨される場合があります。

定款はポルトガル語で作成され、出資者、管理者、会社名、事業目的、資本金、利益損失の分配、管理者の責任に関する情報を含める必要があります。事業目的は、税務上の正しい分類のためにできるだけ詳細に記述することが求められます。通常、独立した法定監査は義務付けられていません(特定の規模を超える「Super Limitada」を除く)。また、財務諸表の官報や主要新聞での公開義務もありません。

単独株主制(Sociedade Limitada Unipessoal – SLU)

2019年の経済自由化法(Economic Freedom Law)の施行により、Ltda.は単独の出資者(個人または法人、ブラジル人または外国人)によって設立できるようになりました。以前のEIRELI(Empresa Individual de Responsabilidade Limitada – Individual Limited Liability Company)は廃止され、SLUに置き換えられました。これにより、個人事業主も有限責任の恩恵を受けられるようになり、起業のハードルが大幅に下がりました。

Ltda.がブラジルで最も一般的であり、外国投資家に人気があるのは、その管理の容易さと責任の限定が主な利点であるためです。SLUの導入は、小規模な投資家や個人事業主がブラジル市場に参入する際のハードルを大幅に下げ、より多くの外国資本を呼び込むことを目的としていると考えられます。これにより、初期段階でのパートナー探しや複雑な共同事業契約の必要性がなくなり、迅速な事業開始が可能になりました。

ソシエダーデ・アノーニマ(Sociedade Anônima – S.A.)

ソシエダーデ・アノーニマ(S.A.)は、米国法人(US corporation)に類似した形態で、多数の投資家から大規模な金融資源を集める事業に適しています。Ltda.と比較して、より複雑で、追加の形式と規制が必要です。

株主の責任は、引き受けた株式の金額に限定されます。最低2名の株主(ブラジル人または外国人、個人または法人)が必要です。資本金は直ちに全額払い込む必要はありませんが、現金で引き受けられた株式の発行価格の少なくとも10%は、ブラジル銀行の口座に預け入れられる必要があります。

取締役会(Board of Directors)と監査委員会(Audit Committee)が原則的に必要です。少なくとも2名の役員(officers)が必要で、ブラジル居住者である必要があります。非居住者も取締役会のメンバーになることは可能です。定款、株主総会議事録、役員会の議事録、年次報告書、貸借対照表、その他の財務諸表のほとんどは、官報および広く流通している新聞に公開する義務があります。S.A.は、上場会社(S.A. aberta)と非上場会社(S.A. fechada)の2種類に区別され、上場会社は証券取引委員会(CVM)に登録が必要です。また、年間純利益の少なくとも5%を法定準備金として積み立てる必要があり、これは資本金の20%に達するまで続きます。

支店設立

支店開設には、ブラジル連邦政府(経済省のDREI – Department of Business Registration and Integration)からの承認が必要です。これは子会社設立とは異なる重要な要件です。以前は大統領令が必要でしたが、現在はDREIの承認で数日以内に取得可能になりました。

支店の場合、ブラジル国内での法的責任は親会社に直接帰属します。支店開設は、子会社設立よりも手続きが複雑で、費用も高くなる傾向があります。

必要書類には、親会社の定款、ブラジルでの支店開設承認を含む株主総会議事録(支店の住所、活動内容、ブラジルレアルに換算した資本金換算額の記載)、株主リスト、ブラジルにおける代理人の任命承認議事録、代理権を付与する委任状、代理人の受諾宣言、最新の貸借対照表などが必要です。これらの書類は、アポスティーユ認証(ハーグ条約加盟国の場合)または領事認証、およびポルトガル語への宣誓翻訳が必要です。

支店も、ブラジルに永住する法定代理人を任命する必要があります。この代理人は、ブラジル市民、帰化ブラジル人、または永住ビザを持つ外国人である必要があります。外国企業は、支店の財務諸表だけでなく、グローバルな活動の財務結果もブラジルの官報および支店所在地の州の官報に公開する必要があります。支店は、親会社が許可されていない活動を行うことはできず、ブラジル市民に制限されている活動を行うこともできません。

支店形態は特定の戦略的ニーズ(例:一時的なプロジェクト、親会社との緊密な統合が必要な場合、または税務上の特定のメリットがある場合)に限定されるべきであり、一般的な事業展開においては、有限責任の恩恵を受けられる子会社(特にLtda.)が推奨されます。

会社設立の具体的な手順と必要書類

会社設立の具体的な手順と必要書類

ブラジルで会社を設立するプロセスには多くの段階があり、各ステップに異なる機関が関与します。外国企業が関与する場合、追加的な時間と書類が必要となるため、事前の準備が不可欠です。

事業計画と法人形態の決定

ブラジルでの事業登録の最初のステップは、自社の事業目標、資金調達能力、許容する責任レベルを考慮し、最も適切な事業構造(法人形態)を選択することです。この段階で、事業アイデアを具体化し、財務予測、市場戦略、運営モデルを含む詳細な事業計画を作成することが不可欠です。

法人税務番号(CNPJ)の取得

CNPJ(Cadastro Nacional da Pessoa Jurídica – Corporate Taxpayer Number)は、ブラジルで合法的に事業を運営するために必須の税務IDであり、日本の法人番号に相当します。連邦歳入庁(Receita Federal)のオンラインシステムを通じて申請・取得が可能です。

CNPJの申請時に、会社の事業活動を特定する特定のCNAEコード(Classificação Nacional de Atividades Econômicas – National Classification of Economic Activities)を選択する必要があります。外国法人は、申請の正確性と完全性を確保するために、ブラジル国内の法的代理人を必要とする場合があります。CNPJは、法人銀行口座の開設、請求書の発行、従業員の雇用、各種許認可の申請に不可欠な基盤となります。外国の株主(個人)は、ブラジル連邦歳入庁に納税者登録(CPF: Cadastro de Pessoas Físicas – Individual Tax ID)を完了する必要があります。

商業登記所(Junta Comercial)への登録

すべての事業は、事業を行う州の商業登記所(Junta Comercial)に登録する必要があります。この登録により、事業は正式に法人化され、法的な存在を得て、請求書を発行できるようになります。

このプロセスでは、定款(Articles of Incorporationまたはbylaws)を提出し、希望する会社名が重複していないかを確認する「Availability Consultation test」が行われます。登録が承認されると、NIRE(Número de Inscrição no Registro de Empresas – Business Registration Identification Number)が発行されます。

必要書類には、署名済みの定款(Ltda.の場合はブラジルの弁護士によるレビューと署名が必要)、株主の身分証明書と法人書類の認証コピー、ブラジルでの事業所の住所証明、公式登録フォーム、登録料の領収書などが含まれます。

地方自治体・州レベルでの登録と許認可

事業の性質と所在地に応じて、地方自治体または州レベルでの追加登録と特定の許認可が必要になります。

  • 州登録(Inscrição Estadual): 物品販売、工業、都市間・州間輸送サービスを行う企業に義務付けられます。ICMS(Imposto sobre Operações relativas à Circulação de Mercadorias e sobre Prestações de Serviços de Transporte Interestadual e Intermunicipal e de Comunicação – 商品・サービス州税)の登録が必要です。
  • 市登録(Inscrição Municipal): サービス提供者に義務付けられます。市税(ISS: Imposto Sobre Serviços de Qualquer Natureza – サービス税)の支払いに必要です。
  • 営業許可(Alvará de Funcionamento – Permit to Operate): 地方自治体から取得する必要があります。これには、CNPJカード、定款のコピー、住所確認のための事前照会などが求められます。
  • 特定の許認可: 事業の種類によっては、健康許可(ANVISAが管轄する食品、医療、美容サービスなど)、環境許可(IBAMAが管轄する環境影響のある産業)、消防署の証明書(公共施設、保管リスクのある場所)などの特定のライセンスが必要です。これらの許認可は、事業活動の開始前に取得することが法的に義務付けられています。

ブラジル居住の法定代理人の選任

ブラジル法では、外国投資家はブラジルに居住する法定代理人(legal representative)を任命し、法的文書の受領および外国法人を代表して行動する権限を正式に付与することが必須とされています。この代理人は、ブラジル市民、帰化ブラジル人、または永住ビザを持つ外国人である必要があります。代理人は、ブラジル連邦歳入庁、中央銀行、金融機関とのやり取り、訴訟対応など、外国法人に代わって重要な財政的および法的義務を負います。この委任状は、外国法人がCNPJに登録する前に発行される必要があります。

銀行口座の開設と資本金の払い込み

ブラジル法では、CNPJを取得する前に、事業の初期資本を現地銀行口座に預け入れる必要があります。一部の銀行では、出資者の対面での確認が必要です。外国投資は、場合によってはSISBACEN(ブラジル中央銀行の電子申告システム)に登録する必要があります。銀行口座開設には、会社登録書類、CNPJ、住所証明、株主および取締役の身分証明書など、複数の書類が必要です。

まとめ

ブラジルは、その広大な市場と経済成長の可能性を背景に、日本企業にとって魅力的な投資先ですが、ブラジル市場への進出は、特定のセクターにおける外国投資制限、中央銀行への登録義務、複雑な会社設立プロセスといった、乗り越えるべき課題も伴います。

これらの課題に対処し、ブラジルでの事業を成功させるためには、綿密な計画と、適切な法人形態の慎重な選択が不可欠です。Ltda.(特に単独株主制のSLU)は、その柔軟性と有限責任の特性から、多くの日本企業にとって最適な選択肢となるでしょう。一方で、支店形態は、親会社への直接的な責任帰属や複雑な承認プロセスを考慮すると、特定のニーズに限定して利用されるべきでしょう。

モノリス法律事務所の取扱分野:国際法務・ブラジル連邦共和国

弁護士 河瀬 季

モノリス法律事務所 代表弁護士。元ITエンジニア。IT企業経営の経験を経て、東証プライム上場企業からシードステージのベンチャーまで、100社以上の顧問弁護士、監査役等を務め、IT・ベンチャー・インターネット・YouTube法務などを中心に手がける。

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