免許なしの人材紹介は違法?有料職業紹介の許可が必要な場合とは

採用活動の手法が多様化するなかで、リファラル採用やマッチングサイトなど、従来の人材紹介会社を介さない採用スタイルが広がっています。これらの仕組みを設計する際には、どこからが「有料職業紹介事業」に該当するのかを正しく理解しておかなければなりません。
職業安定法では、求人者と求職者の間に立ち、雇用関係の成立をあっせんする行為を「職業紹介」と定義しています。無許可で職業紹介を行えば、1年以下の拘禁刑または100万円以下の罰金という重い罰則の対象となる恐れがあり、注意が必要です。
本記事では、許可が必要な行為と不要な行為の違いを整理し、リファラル採用やマッチングサービスを運営する際に注意すべき法的リスクについて解説します。
この記事の目次
有料職業紹介事業とは
有料職業紹介事業とは、求人者に求職者を紹介し、求人者から紹介手数料を受け取る事業のことをいいます。紹介手数料は「紹介料」と呼ばれ、厚生労働省が定めるルールのもとで上限が決められています。一般的には、紹介された人材の想定年収の30〜40%程度が相場です。
重要なのは、法律上の「職業紹介」の定義です。職業安定法第4条では「求人及び求職の申込みを受け、求人者と求職者との間に雇用関係の成立をあっせんすること」とされています。
有料職業紹介事業は「仲介して雇用関係を成立させる行為」と「報酬を得る仕組み」がセットになった事業形態であり、厚生労働省の許可を得て初めて合法的に運営できる点が大きな特徴です。
有料職業紹介事業許可が必要な場合

前述の通り、有料職業紹介事業の許可が必要になるのは、求人者と求職者の間に雇用関係を成立させるよう仲介し、その対価として報酬を受け取る場合です。
例えば、人材紹介会社のエージェントが求人票を提示して応募を勧めたり、面接日程を調整したりする行為は「あっせん」です。この場合は厚生労働省の許可が必要です。
逆に、単に求人情報や求職者情報を公開するだけで、個別のマッチングや条件調整に関与しない場合は「職業紹介」に当たらず、許可は不要とされています。
なお、無許可で有料の職業紹介を行うと、1年以下の拘禁刑または100万円以下の罰金という重い罰則が科されます。そのため、事業を始める前に自らのサービス内容が「職業紹介」に該当するかどうかを確認することが重要です。
なお、出向・派遣・準委任・請負など職業紹介以外の人材活用に関しては、下記の記事にて解説しています。
有料職業紹介事業許可が必要ない場合

有料職業紹介事業の許可が不要となるのは、求人者や求職者から提供された情報を、そのままのかたちで掲載し、運営者が仲介行為をしない場合です。
例えば、Wantedlyのようなサービスでは、求職者が検索条件を入力すると、それに当てはまる求人をすべて表示する仕組みを採用しています。運営者が個別の求職者に合わせて求人を選んだり、面接日程を調整したりすることはなく、あくまで情報提供に徹しているため、このようなケースでは許可は不要です。
逆に、次のような行為をすると「職業紹介」に当たる可能性が高まります。
- 求人や求職者の情報にコメントや宣伝文句を付け加える
- 面接の日程調整や連絡の代行を行う
- 応募文面を修正するなど、通信内容に手を加える
- 運営者が情報を取捨選択し、特定のユーザーに提供する
参考(厚生労働省の公表):グレーゾーン解消制度の活用実績|厚生労働省(募集情報等提供において各求職者毎に募集記事の表示順序をパーソナライズするサービス)
このように、掲載された情報に運営者の意図や判断が追記されるか否かが、職業紹介における許可の必要性に影響を及ぼします。
業務委託のあっせんに伴う有料職業紹介事業許可
上記のとおり、雇用関係の成立のあっせんでなければ、職業安定法上の職業紹介には該当しません。
したがって、雇用関係ではなく、業務委託関係の成立をあっせんする場合には、有料職業紹介事業許可を取得する必要がないことになります。
しかし、雇用関係の成立のあっせんに該当するか否かは、事業の実態から実質的に判断されるため、業務委託と称していても実質的には雇用であると判断されるような場合は、有料職業紹介事業の許可が必要となります。
有料職業紹介事業許可を取得しない場合の注意点

Wantedlyなどと同様に、有料職業紹介事業許可を取得せずに、求人者・求職者のマッチングサービスをメインとした事業を始めたいという場合には、特定の文言の記載や特定のサービスなどにより、有料職業紹介事業許可を取る必要が生じるので気をつける必要があります。以下では、ポイントとなる点を具体的に説明します。
有料職業紹介事業許可を取得しない場合にやってはいけないこと
運営するサービスのウェブサイト等に以下の記載をしたり、以下のサービスを提供したりすると、「職業紹介」にあたると判断される可能性があります。
したがって、有料職業紹介事業許可を取得しない場合には、以下のことを行わないように気を付けましょう。
- 求人情報・求職者情報に、運営者が紹介文句や宣伝文句を付したり、運営者の判断により求人情報・求職者情報をカテゴライズしたりすること
- 求人者・求職者間の面談の日程調整を行う等の便宜を図ること
- 運営するウェブサイト上で求人者・求職者が意思疎通するとき、通信内容を加工すること
- 運営者が、求人情報・求職者情報を選別して、個別の求人者・求職者に向けて提供すること
求人情報・求職者情報の作成
上記1について、マッチングサービスとして運営するウェブサイト上に求人情報や求職者情報を掲載する場合に、求人者・求職者に代わって、運営者が求人情報・求職者情報を作成すると「職業紹介」に該当するとして、有料職業紹介事業許可を取得する必要が出てきます。
したがって、求人情報は求人企業自身に自らの責任において登録してもらう仕組みとする必要があります。求職者の情報も同様に、求職者自身が登録しなければなりません。
また、求人情報や求職者情報を求人企業又は求職者自身に登録してもらう場合でも、マッチングサービス運営者が宣伝文句やアピールポイント等のコメントを追加することが「職業紹介」に該当すると判断されるおそれがあります。
したがって、有料職業紹介事業許可を取得しないのであれば、登録された求人情報・求職者情報への加筆はすべきではありません。
まとめると、求人者と求職者の間に、マッチングサービス運営者の意図や判断を伴う行為の介在があるか否かがポイントとなります。求人者・求職者によって登録された情報をそのままウェブサイト上で公開するといった、単純な情報提供に徹することが重要といえます。
求人者と求職者の意思疎通

上記3に記載のとおり、求人企業に対して求職者が問合せや応募をする場合など、求人者・求職者が意思疎通を行う際に、通信内容をマッチングサービス運営者が加工すると「職業紹介」にあたり、有料職業紹介事業許可の取得が必要となってしまいます。
例えば、
- 求人企業に向けたサービスとして、求職者に対する連絡用のテンプレートを作成すること
- 求職者が求人企業に応募する際に、応募の文面を求人企業の受けがいいように修正するようなサービスを行うこと
などは、「職業紹介」にあたると判断されることがあります。
したがって、有料職業紹介事業許可を取得しないのであれば、このようなサービスを行うことはできません。
以上から、ウェブサイトを通じて求人企業と求職者が連絡を取り合えるようなシステムを設けたとしても、両者の連絡内容には関与せず、ただ連絡用ツールを提供するのみであれば、マッチングサービス運営者の意図や判断が介在することにはならないため、職業安定法上の問題は生じないと考えられます。
近年増えている「リファラル採用」の違法性
リファラル採用は、社員が知人や友人を会社に紹介する制度で、採用コストの削減やミスマッチ防止につながる手法として注目を集めています。しかし、紹介に対してインセンティブを支払う仕組みを誤ると、職業安定法違反となるリスクがあります。
具体的には、職業安定法第30条は「有料職業紹介」を厚生労働省の許可制と定めており、紹介行為に報酬を伴う場合は許可が必要です。また、第40条では、労働者の募集に従事する者に対し、企業が報酬を与えることを禁止しています。違反すると6か月以下の拘禁刑または30万円以下の罰金が科される可能性があります。
つまり、リファラル採用を行う際に、報酬を「紹介料」として社員に支払うと違法に該当する恐れがあります。適法に制度を設計するためには、インセンティブを「給与」として就業規則に明記し、労働基準監督署への届出を済ませておくことが重要です。
まとめ:人材紹介トラブルでお悩みなら弁護士へご相談を
もともと、Wantedlyのような求人企業と求職者のマッチングサービスは、IT業界を中心に利用されるようになりましたが、最近では他の業界へも拡大しています。働き方の多様化に伴い、今後は同種のサービスの需要の高まりが期待されます。
もっとも、人材紹介に関しては労働者保護の要請が強いため、職業安定法により厳しいルールが定められています。このため、同種のサービスの展開を検討している場合には、事前に法的な問題がないか必ず検討する必要があります。
なお、IT業界での人材ビジネスでは偽装請負も問題になりやすいので、併せて確認しておくと良いでしょう。IT業界の偽装請負に関しては、下記記事で解説しています。
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