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ポーランドの会社形態と機関設計を弁護士が解説

ポーランドの会社形態と機関設計を弁護士が解説

ポーランド共和国(以下、ポーランド)は、中欧最大の経済規模を誇り、欧州連合(EU)市場への重要なゲートウェイとして多くの日本企業が進出しています。ポーランドにおけるビジネス展開において、最も頻繁に選択される法人形態は「有限責任会社(Spółka z ograniczoną odpowiedzialnością、以下『Sp. z o.o.』)」ですが、その法的な実態は日本の会社法における概念とは大きく異なる点があり、誤解が生じやすい領域です。特に、Sp. z o.o.は日本の「合同会社(GK)」と比較されることが多いものの、ガバナンス構造においては所有と経営の厳格な分離が求められ、取締役会(Zarząd)の設置が義務付けられるなど、実質的には日本の株式会社に近い、あるいはそれ以上に厳格な規律が存在します。

本稿では、2000年制定の商事会社法典(Kodeks spółek handlowych、以下「KSH」)および近時の法改正、重要な判例に基づき、ポーランドの会社形態と機関設計について詳説します。特に、日本企業が現地法人を設立する際に直面する「機関設計の義務」や、現地取締役が負う「第三者に対する個人的責任(KSH第299条)」という特有のリスクに焦点を当て、日本の法制度との比較を交えながら実務的な解説を行います。ポーランドでの事業運営においては、法の形式的な理解に加え、現地特有の厳格な責任追及リスクへの対策が不可欠です。

ポーランド会社法の基本構造と主要な会社形態

ポーランドの企業法制の基盤となるのは商事会社法典(KSH)であり、ドイツ法の影響を色濃く受けています。日本企業が進出する際に検討すべき主要な会社形態は、主に以下の3つの資本会社と、法人格を持たない拠点形態です。最も一般的なSp. z o.o.は、最低資本金が低く設定されている一方で、ガバナンスの柔軟性には一定の制約があります。

主な会社形態の比較は以下の通りです。

形態現地名称最低資本金特徴
有限責任会社Spółka z ograniczoną odpowiedzialnością (Sp. z o.o.)5,000 PLN最も一般的な形態。日本の合同会社に似た閉鎖性を持つが、機関設計は厳格。
株式会社Spółka Akcyjna (S.A.)100,000 PLN大規模事業や上場向け。設立手続きが複雑で維持コストが高い。
単純株式会社Prosta Spółka Akcyjna (P.S.A.)1 PLN2021年導入。スタートアップ向けで、柔軟な機関設計が可能だが採用例は限定的。
支店Oddziałなし法人格なし。親会社が直接無限責任を負うため、リスク遮断の観点から不利1

特に株式会社(S.A.)の最低資本金については、商事会社法典第308条に基づき100,000 PLNとされていますが、株式合資会社(S.K.A.)の50,000 PLNと混同しないよう注意が必要です。

ポーランド有限責任会社(Sp. z o.o.)の機関設計

ポーランド有限責任会社(Sp. z o.o.)の機関設計

Sp. z o.o.の機関設計において、日本の合同会社(GK)と決定的に異なるのは「所有と経営の分離」の原則です。たとえ株主が1名の完全子会社であっても、株主とは独立した業務執行機関の設置が必須となります。

取締役会(Zarząd):業務執行の専任機関

Sp. z o.o.において、取締役会は必須の常設機関であり、会社の業務執行と対外的な代表権を独占します(KSH第201条)。

  • 構成:1名以上の自然人で構成されます。日本のように法人が取締役になることは認められていません。したがって、日本親会社が直接取締役になることはできず、必ず現地の駐在員などの個人を選任する必要があります。
  • 権限:定款に別段の定めがない限り、会社のあらゆる業務を執行します。複数の取締役がいる場合、代表権の行使方法(単独代表か共同代表か)は定款で定められます。

監査役会(Rada Nadzorcza):設置義務の基準

監査役会の設置は原則として任意ですが、会社が一定の規模を超えると設置が法的義務となります。KSH第213条に基づき、以下の2つの要件を同時に満たす場合、監査役会または監査委員会(Komisja Rewizyjna)を設置しなければなりません。

  1. 資本金:500,000 PLN(約1,900万円)を超える場合。
  2. 株主数:25名を超える場合。

多くの日系現地法人は、資本金要件を満たしていても株主数が少数(親会社のみなど)であるため、この設置義務の対象外となることが一般的です。しかし、2022年の法改正により監査役会の権限(情報請求権や独自のアドバイザー選任権など)が強化されたため、親会社によるモニタリング機能を高める目的で任意設置するケースも増えています。

ポーランドの有限責任会社(Sp. z o.o.)と日本の合同会社(GK)との構造的比較

Sp. z o.o.は「ポーランド版合同会社」と紹介されることがありますが、そのガバナンス構造は日本の合同会社とは大きく異なります。以下の表は、両者の法的な相違点を整理したものです。

比較項目ポーランド有限責任会社 (Sp. z o.o.)日本の合同会社 (GK)
法的性質資本会社(所有と経営の分離)持分会社(所有と経営の一致が原則)
業務執行者取締役会 (Zarząd)
株主総会で選任された自然人のみ。
業務執行社員
出資者(社員)自身が業務を行う(法人も可)。
機関設計法定の機関(取締役会)が必須。
規模により監査役会も必須。
定款自治により自由に設計可能。
監査役は任意の機関。
役員の責任KSH第299条による第三者への責任あり。
破産申立て遅延による個人資産での弁済リスク。
業務執行社員は第三者に対し責任を負うが、
構造や要件が異なる。

日本の合同会社では、出資者である法人がそのまま業務執行社員となり、職務執行者を選任して経営を行うことが可能です(会社法第598条)。しかし、ポーランドのSp. z o.o.では法人が取締役になることはできず、必ず「個人」が取締役として法的責任を負う体制をとらなければなりません

ポーランド取締役の対外責任とリスク管理:KSH第299条

ポーランド取締役の対外責任とリスク管理:KSH第299条

ポーランドでビジネスを行う上で、取締役(駐在員など)が最も警戒すべき法的リスクが、商事会社法典(KSH)第299条に基づく責任です。これは、会社の債務について、取締役個人が連帯して責任を負うという強力な規定です。

責任発生のメカニズム

KSH第299条第1項により、会社に対する強制執行が「無効(bezskuteczna)」となった場合、つまり会社に資産がなく債権回収ができない場合、取締役は債権者に対して個人的に全額の支払義務を負います

免責事由と「適時」の申立て

取締役がこの責任を回避するためには、以下の免責事由(Exonerating circumstances)を自ら立証する必要があります(KSH第299条第2項)。

  1. 適時の破産申立て:債務超過または支払不能の状態になってから30日以内に、裁判所へ破産申立てを行ったこと。
  2. 無過失:破産申立てを行わなかったことに過失がないこと(例:重病など)。
  3. 損害の不存在:申立てを行わなくても債権者の回収額に変わりがなかったこと。

関連する重要判例

ポーランドの最高裁判所は、この責任規定を厳格に運用しています。

  • 最高裁判決 2011年6月17日 (II CSK 571/10):取締役は、在任中に発生した債務の原因について責任を負うとし、退任後に支払期限が到来した債務であっても責任を免れないと判示しました。
  • 最高裁判決 2019年6月27日 (III CSK 8/19):債務が履行期になくても、その「原因」が存在していれば責任の対象となるとし、後任者が選任されても前任者の責任は直ちに消滅しないとしました。
  • 最高裁判決 2023年4月17日 (II CSKP 1000/22):KSH第299条に基づく請求においては、事前の催告(wezwanie)は必須要件ではなく、取締役への責任追及の手続き的ハードルを低くする判断を示しました。

このように、現地の取締役は、会社の財務状況が悪化した際に「親会社の支援を待つ」だけでは不十分であり、法的期限内に自ら破産申立てを行うか否かのシビアな判断を迫られます。

ポーランドでの設立実務と2022年会社法改正の影響

S24システムと電子署名の壁

会社設立には、公証人を介する伝統的な方法と、S24システム(オンライン)を使用する方法があります。S24システムは迅速(数日)かつ安価ですが、定款の内容が定型的なものに限られます。

重要な実務上の課題として、S24を利用するためには、取締役となる者が「PESEL番号(ポーランド国民識別番号)」を取得し、ePUAP(信頼できるプロフィール)または適格電子署名を持っている必要があります。2025年以降、外国人のPESEL取得に関する本人確認要件が厳格化され、本人の出頭が求められる傾向にあります。これは、日本から渡航せずに設立手続きを完了させることの難易度が高まっていることを意味します。

ビジネス・ジャッジメント・ルールの導入

2022年のKSH改正により、「ビジネス・ジャッジメント・ルール(経営判断の原則)」が明文化されました(KSH第293条第3項)。取締役が「合理的な経済的リスクの範囲内で」「適切な情報に基づいて」「忠実に」意思決定を行った場合、結果的に会社に損害が生じても、その責任を問われないことが明確化されました。これにより、取締役は十分な情報収集と専門家の助言を得た上での決定であれば、過度な萎縮効果を避けて経営判断を行うことが可能となりました。

まとめ

ポーランドの有限責任会社(Sp. z o.o.)は、日本の合同会社とは異なり、所有と経営の厳格な分離と、取締役に対する重い法的責任を特徴とする会社形態です。特にKSH第299条による取締役の個人責任は、日本法にはない強力な債権者保護規定であり、現地経営陣にとっては最大のリスク要因となります。進出にあたっては、形式的な会社設立だけでなく、取締役のリスクを最小化するための適切な機関設計、定款の整備、そして有事の際の迅速な対応体制の構築が不可欠です。

モノリス法律事務所では、貴社の現地法人設立から、ガバナンス体制の構築、取締役の責任リスク管理、複雑化する電子署名・登録手続きに至るまで、トータルにサポートいたします。現地の法的リスクを適切にコントロールし、安全な事業展開を実現するために、ぜひ弊所にご相談ください。

弁護士 河瀬 季

モノリス法律事務所 代表弁護士。元ITエンジニア。IT企業経営の経験を経て、東証プライム上場企業からシードステージのベンチャーまで、100社以上の顧問弁護士、監査役等を務め、IT・ベンチャー・インターネット・YouTube法務などを中心に手がける。

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