モンゴルの広告規制を弁護士が解説

近年著しい経済成長を遂げデジタル化が急速に進展するモンゴル国(以下、モンゴル)において、新たな市場開拓を目指す日本企業が増加しています。モンゴルにおけるビジネス展開を成功に導くためには、現地の法制度、とりわけ消費者に直接アプローチするための広告規制を正確に理解し遵守することが不可欠です。モンゴルの広告規制は、日本の景品表示法(不当景品類及び不当表示防止法)や薬機法(医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律)と目的を共有する部分が多いものの、独自の厳格な禁止事項や具体的な要件が法定されており、日本のビジネス慣行をそのまま持ち込むと予期せぬ法的リスクに直面する可能性があります。
モンゴル広告法(Law on Advertisement)は、広告の真正性、明確性、倫理性を極めて重視しており、不当な広告や消費者を誤解させる表示だけでなく、国家の象徴や歴史的偉人を貶める非倫理的な広告、無意識に働きかけるサブリミナル広告などを多岐にわたって網羅的に禁止しています。さらに、デジタルマーケティング領域においては、事前の許可なく他者が所有するインターネットサイトに広告を掲載することが明確に禁止されており、インフルエンサーマーケティングやアフィリエイト広告を展開する際に日本とは異なる慎重な事前許諾プロセスが求められます。また、テレビやラジオといった伝統的メディアにおいても、ニュース番組中での広告放送が禁止されているなど、媒体や対象視聴者に応じたきめ細かい規制が敷かれています。
第一に、モンゴル広告法は広告主のみならず広告制作者や配信者にも重い法的責任を課す包括的な枠組みを有していることが挙げられます。第二に、違法広告は不当広告、非真正広告、非倫理的広告、サブリミナル広告の4種類に厳格に分類され、とりわけ文化や国家の象徴に対する非倫理的表現の禁止規定は日本法にはないモンゴル特有の強い法的要請です。第三に、インターネット広告においては掲載先の事前許可や広告主の連絡先明記が義務付けられており、近年施行された個人情報保護法との関連からもデジタルデータの取り扱いに細心の注意を払う必要があります。
第四に、医薬品や医療機関、さらには未成年者を対象とする広告には公衆衛生および倫理的観点から極めて厳しい制限と事前承認手続きが存在し、近年ではオンライン賭博に関する広告が刑法レベルで全面的に禁止されるなど規制の強化が続いています。最後に、これらの法令違反に対しては公正競争・消費者保護庁(AFCCP)による厳格な執行が行われており、違反企業に対しては巨額の制裁金が課される実例も存在するため、進出企業は事前の法務確認を徹底しなければなりません。
本稿では、モンゴルへの進出を検討する日本の経営者および法務担当者に向けて、モンゴル広告法の全体像、日本法との重要な相違点、デジタル広告および媒体別の特有の規制、そして違反時の法的責任について、具体的な法令の規定や判例を交えながら詳細に解説します。
この記事の目次
モンゴル広告法の目的と適用範囲
モンゴルにおける広告活動の基盤となるモンゴル広告法(2002年制定、その後複数回の改正を経る)の最大の目的は、モンゴル領内における広告の制作、配置、普及、および管理に関する関係を包括的に規制することにあります。同法第1条第1項は、公正な競争を阻害し、消費者を混乱させ、誤解を与え、その利益を害する可能性のある広告を明確に禁止することを規定しています。これは、一般消費者の利益を保護し、事業者間の公正な競争を確保することを目的とする日本の景品表示法や不正競争防止法と基本理念において共通しています。
同法第2条によれば、この法律はモンゴル領内で制作、配置、または配信されるあらゆる広告に適用されます。ただし、商業活動に関連しない政治的広告や宗教的広告、単なるニュースや情報の伝達については適用除外とされています。日本の景品表示法が主に事業者が自己の供給する商品やサービスの取引を誘引するための「表示」を行い、その主体である事業者を規制の対象としているのに対し、モンゴル広告法は広告の「制作(Production)」「配置(Placement)」「普及(Dissemination)」という各プロセスに関与するすべての主体を規制の対象として包括的に定義している点が特徴的です。
具体的には、同法第3条において、広告を注文する「広告主(Subscriber)」、広告を準備する「広告制作者(Producer)」、そしてメディアツールを使用して広告を配置・配信する「広告配信者(Disseminator)」のそれぞれの役割が定義されています。さらに第22条では、広告制作者に対する厳格な義務が定められています。広告主からの要求事項が広告法制の違反につながる場合、広告制作者は適時にその事実を広告主に通知する義務を負い、通知にもかかわらず広告主が要求や注文を変更しない場合、広告制作者はその広告の制作を拒否しなければなりません。この規定から、モンゴルにおいて広告業務を委託・受託する当事者双方が相互に法的コンプライアンスを監視する義務を負っているということが言えるでしょう。
モンゴル広告法の英訳テキストは、モンゴルの国家法務研究所が運営する統合法律情報システムで確認することができます。
参考:モンゴル広告法(原文) – モンゴル国統合法律情報システム
モンゴルの広告に対する一般的要件と禁止事項

モンゴル広告法第6条は、すべての広告が満たすべき一般的な基本要件を定めています。広告は、その内容、形式、普及手段に関わらず、事実に基づいて真正(Authentic)であり、一般大衆にアクセス可能で、何よりもそれが「広告であること」が明確に認識できるものでなければなりません。ステルスマーケティング(消費者に広告であることを隠して行われる宣伝活動)に対する法規制が日本でも景品表示法の指定告示によって強化されていますが、モンゴルでは法律の基本原則として広告の明瞭性が古くから厳格に要求されています。
特筆すべきは、統計データ、研究結果、各種文書を広告内で使用する場合の厳格な法的要件です。日本の景品表示法における不実証広告規制では、表示の裏付けとなる合理的な根拠を示す資料を消費者庁から求められた場合に提出できなければ不当表示とみなされる事後的な実証要請の仕組みが採られていますが、モンゴル広告法では、広告を掲載・配信するその時点において、関連する情報源(ソース)を広告内に直接明記することが法律上義務付けられています。したがって、日本企業が自社製品の優位性や機能性を客観的データを用いて訴求する場合、日本向けのクリエイティブをそのまま翻訳して流用するだけでは違法となるリスクが高く、必ずデータの出典元を消費者が視認できる形で広告内に明記するようデザインを修正する必要があります。
また、同法は特定の活動や製品に関する広告を厳しく禁止しています。モンゴル国内の法律において特別なライセンスが必要とされる活動についてライセンスを取得せずに広告を行うこと、製造や取引および輸入が禁止されている製品の広告、必須とされる標準規格・品質認証・衛生認証を受けていない製品の広告などは全面的に禁止されています。許可を必要とする活動の広告を行う場合には、当該ライセンスを発行した権限機関の名称とライセンスのシリアル番号を広告内に含めなければならないと規定されており、消費者が合法的な事業者であることを容易に確認できる設計が求められます。さらに、市民を暴力やポルノに扇動する内容や、人命、健康、安全に危険をもたらす可能性のある広告も固く禁じられており、公共の秩序と道徳の維持が図られています。
モンゴルにおける違法広告の類型と日本法との比較
モンゴル広告法第7条は、法律に違反する広告(不法広告)を「不当広告」「非真正広告」「非倫理的広告」「サブリミナル広告」の4つのカテゴリーに明確に分類し、それぞれについて詳細な禁止事項を定めています。以下の表は、モンゴルにおけるこれら4つの違法広告の類型と、それに対応する日本の主要な関連法規を比較したものです。
| モンゴル広告法(第7条)の分類 | 違法広告の主な定義と内容 | 日本における類似の法規制・対応する概念 |
| 不当広告 (Improper) | 他者の製品を模倣する行為、他者の名誉や事業上の評判を傷つける行為、消費者の知識不足に乗じて誤解させる行為。 | 不正競争防止法(周知表示混同惹起行為、著名表示冒用行為、営業誹謗行為)、消費者契約法(不利益事実の不告知)。 |
| 非真正広告 (Unauthentic) | 製品の特性、原産地、価格、追加費用、公的な賞の受賞などに関して事実と異なる情報を提示し消費者を誤解させる表示。 | 景品表示法(優良誤認表示、有利誤認表示)、不正競争防止法(誤認惹起行為)。 |
| 非倫理的広告 (Unethical) | 国家象徴、歴史上の有名人、宗教を中傷する行為。人種、性別、社会的地位等に基づく差別的表現や侮辱的な比較を用いる行為。 | 直接的な法律による禁止事項としては希薄であり、主に放送倫理・番組向上機構(BPO)や日本広告審査機構(JARO)などの自主規制基準に委ねられている。 |
| サブリミナル広告 (Subliminal) | 消費者の無意識の領域に働きかけ、認識させずに影響を与える表示。 | 法律上の明文禁止規定はなく、日本民間放送連盟(民放連)の放送基準など業界の自主ガイドラインによって規制されている。 |
不当広告(Improper advertisement)
不当広告には、他者の製品を模倣した自社製品の広告、他者の名誉、功績、事業上の評判を不当に傷つける広告、そして消費者の知識不足や経験不足、信頼性を利用して誤解させる広告が含まれます。他者の製品のパッケージやデザインの模倣、あるいは競合他社の名誉毀損的な比較表示は、日本では主に不正競争防止法によって事業者間の民事的な差し止め請求や損害賠償請求の対象として扱われることが多いですが、モンゴルでは一般の広告法制の中で明確な禁止規定として組み込まれており、行政庁による取り締まりや制裁の対象にもなり得ます。消費者の無知に付け込む広告の禁止は、情報格差を利用した搾取を防ぐという点で強力な消費者保護機能を有しています。
非真正広告(Unauthentic advertisement)
非真正広告とは、事実と異なる虚偽の情報を提示することで消費者を客観的に誤解させる広告を指します。具体的には、製品の目的、組成、製造方法、特性、品質保証、数量、原産地などに関する虚偽または誤解を招く表示がこれに該当し、これは日本の景品表示法における「優良誤認表示」に直接的に相当する概念です。さらに、広告掲載時における製品の実際の価格や追加の支払い条件、アフターサービスの条件に関する誤解を招く表示も非真正広告とされ、これは日本の「有利誤認表示」に相当します。モンゴル広告法の特徴として、公的な賞や表彰(公式な賞、メダル、認定など)の獲得に関する虚偽の表示もこの条項において明示的に言及されており、権威付けによる消費者の誤信を強く警戒していることが伺えます。
非倫理的広告(Unethical advertisement)
非倫理的広告の規定は、日本の広告規制と比較してモンゴル独自の文化、歴史観、および国家観が最も強く反映されている部分です。他者の製品を貶める表現が禁止されていることはもちろんですが、モンゴルや他国の国家象徴(国旗や国章など)、歴史上の有名人(例えばチンギス・ハーンなど)、通貨、宗教を中傷する広告が明確に禁じられています。また、特別国家機関の象徴や制服を商業的に誤用することも禁止されており、国籍、言語、人種、出自、社会的地位、年齢、性別、職業、教育、宗教、信条を侮辱する表現や比較を使用することも厳格に排除されています。日本において、歴史上の人物のパロディを広告のユーモアとして用いることは表現の手法として珍しくありませんが、このような表現アプローチからモンゴルでは重大なコンプライアンス違反に直面するということが言えるでしょう。日本企業は、現地の歴史や文化に対する深い敬意と理解を持った上でクリエイティブの制作と審査を徹底する必要があります。
サブリミナル広告(Subliminal advertisement)
モンゴル広告法は、広告であることを認識させずに消費者の無意識の領域に影響を与えるサブリミナル広告を、法律上の明文規定をもって全面的に禁止しています。日本ではサブリミナル的表現の排除は主に放送業界の自主規制ルールに委ねられている側面が強いですが、モンゴルでは第7条第5項において不法広告の一形態として法定されています。映像作品やデジタルコンテンツの制作においては、瞬間的な画像の挿入や潜在意識に訴えかけるような音声の編集などがこの規定に抵触しないよう、制作プロセスの段階から厳格な品質管理が求められます。
ネット広告とデジタルマーケティングにおけるモンゴル特有の規制

日本企業がモンゴルにおいてデジタルマーケティング戦略を立案・実行する際、最も注意を払うべきなのが、モンゴル広告法第12条に規定されるインターネット広告に関する特有の要件です。この領域には日本の商慣行やプラットフォームの自動化された仕組みとは大きく異なる厳格なルールが存在します。第12条第1項は、広告配信者が事前の許可なく他者が所有するインターネットサイトに広告を掲載することを明確に禁止しています。日本を含む多くの国では、ウェブサイトの所有者がアドネットワークやアフィリエイトプログラムに参加することで、自動的に第三者の広告が配信される仕組みが広く普及しており、広告主側が掲載先の各サイト運営者から個別の事前許可を書面等で得るという概念は運用上希薄です。
しかし、モンゴルのこの規定によれば、インフルエンサーに商品のPRを依頼するインフルエンサーマーケティングや、第三者のブログやSNSアカウントを活用したアフィリエイト広告などを展開する場合、プラットフォーム側やサイト所有者との間で広告掲載に関する事前の明確な同意や契約関係が法的に確保されているかを厳密に確認する必要があります。ユーザー生成コンテンツ(UGC)を活用したバイラルキャンペーンなどが、事前の許可を得ていない第三者のプラットフォーム上での違法な広告配置とみなされた場合、法律違反に問われる法的リスクが生じます。
さらに、第12条第2項により、インターネットを通じて配信されるすべての広告には、広告配信者の名称、住所、連絡先電話番号、その他消費者が連絡を取るために必要な情報を必ず含める必要があります。日本の特定商取引法でも通信販売等に関する事業者情報の表示義務(特定商取引法に基づく表記)がありますが、それらは通常ランディングページやウェブサイト内の別ページに記載されます。しかしモンゴルでは、インターネット「広告」そのものに連絡先の明記が直接的に求められます。バナー広告やSNSプラットフォーム上の短い動画広告であっても、広告表示の視認できる範囲内にこれらの情報をどのように組み込むか、あるいはワンクリックで即座に明瞭な情報源に到達できる設計にするなど、コンプライアンスを満たすための工夫と技術的対応が必要です。
また、第12条第3項は、広告が掲載されているサイトへのアクセスに特別な支払い(課金)が必要な場合、消費者がそのサイトにアクセスする前に、その旨を視認可能な形で明確に通知しなければならないと定めています。これは予期せぬ請求から消費者を保護するための重要な規定であり、サブスクリプション型のコンテンツ配信サイトや有料のオンラインコミュニティへ誘導する広告を設計する際に厳守すべき事項です。
インターネット広告を展開する際には、モンゴルの「個人情報保護法(Law on Personal Data Protection)」との関係にも留意が必要です。同法は、個人の遺伝的データや生体認証データだけでなく、市民の登録番号や電子的識別子などの収集と処理を厳格に規制しています。消費者の個人情報をマーケティング目的で処理(収集、保存、公開など)する場合、データ主体からの明確な書面による同意が必須とされています。この同意要件を満たさずにターゲティング広告などの目的で個人データを不正に利用した場合、個人の場合は50万トゥグルグ、法人の場合は500万トゥグルグの罰金が科される可能性があり、デジタルマーケティングにおけるデータ取得プロセスの透明性確保は極めて重要です。
モンゴルの媒体別および対象者別の詳細な広告規制
モンゴル広告法は、一般的な禁止事項に加えて、広告が配信されるメディア媒体の特性や、広告がターゲットとする対象者(特に子供や患者など脆弱な立場にある者)に応じた個別の規制要件を詳細に定めています。
テレビおよびラジオ放送における規制(第11条)
放送メディアに関する規定も非常に厳格です。劇映画、ドキュメンタリー、ラジオドラマの放送中に広告を挿入して作品を中断する場合、著者または著作権者の事前の許可が必要となります。これは著作権者の人格権および作品の同一性を保護する観点からの規定であり、無断での広告挿入は著作権侵害と広告法違反の双方に問われる可能性があります。
また、通常のニュース番組中における広告の放送は全面的に禁止されています。日本ではニュース番組の途中でスポンサー企業のコマーシャルが流れることは日常的な光景ですが、モンゴルではニュース報道の客観性、中立性、および独立性を担保するために、報道コンテンツと商業広告の混入が厳格に排除されています。さらに、子供向け番組の放送中には子供向け製品の広告のみが許可されており、一般向け製品や大人向けのサービスの広告を流すことは禁止されています。教育プログラム中の広告についても、5分間につき30秒に制限されるなど、視聴者の利益を害さないための厳密な時間制限が設けられています。
医薬品および医療分野の規制(第13条)
医薬品や医療関連の広告については、国民の生命と健康に直結するため、公衆衛生の観点から極めて高度な制限が設けられています。モンゴルにおいて、一般大衆向けのメディアで広告が許可されるのは処方箋を必要としない医薬品(OTC医薬品)に限られており、処方箋薬の広告や情報は医療関係者向けの専門的なチャンネルや出版物に厳格に限定されています。さらに、医薬品が国家登録されていない段階での広告は完全に禁止されています。
医薬品の広告を配信する際には、モンゴル保健省の管轄下にある人間用医薬品評議会の薬理学小委員会(Pharmacological subcommittee of the Human medicine’s council)による事前の内容審査を受け、許可を取得する必要があります。この広告許可の有効期間は1年間と定められており、継続して広告を行う場合は有効期限の1ヶ月前までに更新手続きを行わなければなりません。広告内で医薬品を取り上げる際は、使用上の注意書きや説明書を読むよう必ず視覚的に促す必要があり、副作用や禁忌事項を隠蔽したり、効果を事前に絶対的に保証するような表現は固く禁じられています。
また、病院や医療機関に関する広告内容も、施設の場所、提供するサービスの範囲、所属する医師の氏名といった客観的な情報提供に限定されています。他院と比較して自院を不当に「称賛」したり、医療サービスの利用を「強く勧誘」するような感情的な訴求を用いた広告は禁止されており、医療の公共性が強く守られています。医薬品の広告許可に関する関連法規および手続きの詳細は、モンゴル保健省傘下の医療機関のウェブサイトで確認することができます。
参考:医薬品および生物学的に活性な製品の広告許可発行に関する規制手順(モンゴル医薬品・医療機器規制庁)
ギャンブルおよびオンライン賭博の広告の全面禁止
近年、モンゴルではギャンブル依存症や関連する経済犯罪への対策として、法規制の劇的な強化が行われました。2024年3月26日、モンゴル議会は「ライセンス法(Law on Licensing)」および「刑法(Criminal Code)」の政府主導による改正案を可決し、あらゆる形態の有料の予測ゲーム、賭博、およびオンラインギャンブルを完全に禁止しました。
この法改正により、公共の場やオンラインで利益目的の賭博ゲームを組織することは刑法上の犯罪として分類されることになりました。これに伴い、有料の予測ゲーム、賭博、またはギャンブルを「宣伝(Promote)」したり「勧誘(Solicit)」したりする広告活動を行った個人および法人は、「違反法(Law on Administrative Violations)」に基づく違法広告として行政罰の対象となります。刑法上の違反を伴う場合、初犯であっても450から5,400の基本単位(Basic units)に相当する罰金、240時間から720時間の社会奉仕活動、あるいは6ヶ月から1年の懲役といった極めて重い刑罰が科される可能性があります。
日本企業がエンターテインメントやゲーム関連のアプリケーションをモンゴル市場に展開する場合、そのゲーム内の課金システムやランダム型アイテム提供方式(いわゆるガチャなど)が、モンゴル法の下で禁止される「賭博」や「有料の予測ゲーム」に該当しないか、またそのプロモーション活動が違法なギャンブル広告とみなされないかについて、極めて慎重な法務調査が不可欠です。
未成年者の保護に関する規制(第16条)
子供を対象とする、あるいは子供を利用する広告活動に対する保護規定も詳細に法定されています。親や保護者の権威や評判を貶める表現は禁止されています。また、子供に対して特定の製品を買うよう親や他人に要求することを促したり、直接的にそそのかしたりする表現は禁止されています。
さらに、特定の製品を持っていることが持っていないことと比較して、他の子供に対して優位に立てるという誤った優越感や劣等感を植え付けるような表現も禁じられています。映像や音声の演出面においても、子供を危険な場所や状況に置いている様子を描写することは安全教育上の理由から禁止されています。これらの多岐にわたる規定から、未成年者の心理的未熟さや集団内での承認欲求を過度に煽るようなマーケティング手法は、モンゴル市場においては法的に排除されるべきであるということが言えるでしょう。
モンゴルにおける広告監視の執行機関と法的責任および判例

モンゴルにおける広告規制の監視と法執行を担う主要な行政機関は、公正競争・消費者保護庁(Authority for Fair Competition and Consumer Protection:AFCCP)です。同機関は、市場における不公正な競争行為を監視し、消費者の権利を保護するための強力な調査権限と処分権限を有しています。モンゴル広告法や関連する消費者保護法制に違反した場合、違反者は行政的または刑事的な制裁を受けることになります。制裁の根拠となる主な法律は前述の「違反法(Law on Infractions)」や「刑法(Criminal Code)」です。広告法違反に対するペナルティは多岐にわたり、AFCCPによる違法な広告の即時配信停止命令、問題のある表示の是正命令、違反によって得た不当な利益の没収に加え、悪質な事案においては関連する事業に対する営業ライセンスの停止や取り消しが関係省庁に勧告されることもあります。
AFCCPによる法執行の厳格さと、裁判所がそれを支持する傾向を示す重要な事例として、直接的な広告内容の違反事案ではありませんが、競争法違反(カルテル)に関してモンゴル最高裁判所が下したランドマーク的な判決(2020年2月19日判決、当事者:M LLC 対 AFCCP)が存在します。この事件では、製造業者であるM LLCが小売店やスーパーマーケットと契約を結び、エンドユーザー向けの小売価格を全国的に統一して設定した行為が問題となりました。AFCCPは、この行為がモンゴル競争法第11条の1で禁止されている「公正な競争を制限することを意図した価格設定の合意」に該当し、違法な価格カルテル(垂直的カルテル)を形成していると認定しました。その結果、AFCCPはM LLCに対し、前年度の売上高の最大6%という法定基準に基づいて算出された約12億968万トゥグルグ(MNT,209,682,136)という巨額の制裁金を課す決定を下しました。
M LLCはこの決定を不服とし、制裁金処分の取り消しを求めて行政紛争第一審裁判所に提訴しました。第一審裁判所はM LLCの主張を認め、AFCCPの決定を覆しましたが、AFCCPはこれを不服として控訴しました。最終的に、行政紛争控訴裁判所および最高裁判所は、第一審の判決を破棄し、M LLCが実際にカルテルを形成し競争法に違反したと結論付け、AFCCPの巨額の制裁金処分を適法として全面的に支持しました。
この最高裁判決から、AFCCPが市場の公正性維持のために法令を厳格に適用し、企業の事業規模に応じた大規模な制裁金を課すことを辞さない積極的な執行態勢をとっているということが言えるでしょう。また、最高裁判所が行政側の判断を支持したことは、公正な市場競争と消費者保護を重視するモンゴルの司法の姿勢を明確に示しています。不当な広告表示を通じて消費者を欺瞞し、競争上の優位に立とうとする不公正なマーケティング行為に対しても、AFCCPは同様に厳格な監視の目を光らせており、違反が発覚した場合には甚大な経済的損失とレピュテーションの低下をもたらす法的制裁が下されるリスクが高いことは疑いありません。
まとめ
モンゴルにおける広告活動は、単なるマーケティング施策の枠を超え、高度な法的コンプライアンスと文化的配慮が同時に要求される極めて重要な経営課題です。日本国内で合法とされ、日常的に用いられているプロモーション手法であっても、モンゴル広告法の観点からは、事前の掲載許可の欠如、データ出典元の明記漏れ、歴史的国家象徴に対する配慮不足などにより、予期せず重大な違法行為とみなされる危険性が潜んでいます。特に急速に拡大するデジタルマーケティング領域においては、第三者のプラットフォームを利用する際の法的な事前許諾ルールの存在を正確に把握し、現地の個人情報保護法等の関連法規にも適合した運用体制を構築することが急務となります。さらに、医薬品や未成年者向け広告に対する特有の制限、ギャンブル関連広告の全面禁止など、分野ごとのきめ細かい規制にも対応しなければなりません。
モノリス法律事務所では、モンゴルへのビジネス展開や越境EC事業を検討されている日本企業の皆様に対し、現地の法律に準拠した広告クリエイティブのリーガルチェック、各種デジタルマーケティング施策の適法性評価、および現地の競争当局の執行動向を踏まえた包括的なコンプライアンス体制の構築についてサポートいたします。ビジネスの確実な成功と現地におけるブランドの信頼を守るため、事業展開前の事前の綿密な法的検討を強く推奨いたします。
カテゴリー: IT・ベンチャーの企業法務

































