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法律記事MONOLITH LAW MAGAZINE

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ポーランド共和国の法律の全体像とその概要を弁護士が解説

ポーランド共和国の法律の全体像とその概要を弁護士が解説

中東欧地域における経済大国として、ポーランドは日本企業にとって非常に魅力的な投資先であり続けています。2004年の欧州連合(EU)加盟以来、堅調な経済成長を遂げ、多様化した産業構造と安定したマクロ経済基盤を背景に、多くの外国企業を惹きつけてきました。2023年10月時点で367社の日系企業が進出しており、特に輸送用機器や一般機械といった分野で日本との間に強固な貿易関係が築かれています。 

ポーランドの法制度は、日本と同様に、法典化された成文法を主たる法源とする大陸法(シビル・ロー)の伝統に根差しています。民法典や商法会社法典といった基本的な法律の枠組みは、日本の法務担当者にとっても比較的馴染みやすい構造と言えるでしょう。しかし、その一方で、日本の法制度には存在しない、極めて重要な特徴があります。それは、EU加盟国であることに由来する「EU法の優位性」です。ポーランドの法源は、国内法だけでなく、EU規則(Regulations)やEU指令(Directives)といったEU法によって構成されており、憲法上、批准された国際条約は国内法に優先して適用されると定められています。この原則は、個人情報保護(GDPR)、競争法、消費者保護、そして近年注目されるAI規制など、事業活動のあらゆる側面に深く浸透しています。したがって、ポーランドの法律を理解するためには、国内法とEU法という二層構造の視点が不可欠です。

本記事では、このポーランド法体系の全体像を俯瞰し、会社設立やコーポレートガバナンスといった実務的な側面から、M&Aや外国投資規制、さらには労働法や広告規制など、日本企業が直面する可能性のある主要な法分野について、日本法との比較を交えながら、その特徴と留意点を解説します。

ポーランドの法体系と裁判所制度の構造

ポーランド共和国は、1997年4月2日に制定された現行憲法を最高法規とする民主共和制国家です。権力分立の原則に基づき、立法権は二院制の議会(セイムとセナト)、行政権は大統領と閣僚評議会、司法権は裁判所と法廷にそれぞれ帰属しています。ポーランドは単一国家であり、地方行政は16の県(voivodships)に分かれています。

ポーランドの法源は、国民全体を拘束する「普遍的拘束力を持つ法」と、内部機関のみを拘束する「内部法」に大別されます。普遍的拘束力を持つ法には、最高法規である憲法、議会が制定する制定法(ustawa)、批准された国際協定、そして省令(rozporządzenie)などが含まれます。特筆すべきは、批准された国際協定が制定法に優越する旨が明確に規定されている点です。これは、EU加盟国としてEU法が国内法に優先して適用される原則を示しており、後述する広告規制の判例など、実務上の具体的な影響を伴います。

ポーランドの裁判所制度は、日本の司法制度とは構造的な違いが見られます。日本の裁判所制度は最高裁判所を頂点とする単一のヒエラルキーを持つ構造であるのに対し、ポーランドの司法権は「裁判所(sądy)」と「法廷(trybunały)」に分かれています。

大多数の事件を扱うのは普通裁判所(sądy powszechne)で、民事、刑事、労働事件などを管轄します。その他に行政事件を扱う行政裁判所(sądy administracyjne)や軍事裁判所(sądy wojskowe)も存在します。

一方、法廷(trybunały)は、憲法法廷(Trybunał Konstytucyjny)国家法廷(Trybunał Stanu)の二つに分かれています。憲法法廷は、制定法や国際協定が憲法に適合しているか否かを判断する違憲審査権を専門的に行使し、違憲と判断した法令は無効となります。この機能は日本の最高裁判所が持つ権限と類似しますが、専門の法廷として独立している点が構造的な差異です。また、国家法廷は、閣僚など国家の最高幹部に対する弾劾や職務上の犯罪を専門的に扱います。

ポーランドでの会社設立とコーポレートガバナンス

ポーランドの主要な会社形態

ポーランドの会社形態は、基本的に、最も一般的な形態である有限責任会社(Spółka z ograniczoną odpowiedzialnością, Sp. z o.o.)と、株式会社(Spółka akcyjna, SA)の二種類です。

日本の合同会社に相当するSp. z o.o.は、外国人起業家に最も人気のある会社形態です。その理由は、設立手続きが比較的容易であること、そして最低資本金がわずか5,000ポーランド・ズウォティ(PLN)と非常に低額であることが挙げられます。一方、日本の株式会社(K.K.)に相当するSAは、より大規模な事業や株式公開を目指す場合に適しており、近年最低資本金が100,000PLNから50,000PLNに引き下げられました。

会社設立の手順

ポーランドで会社を設立するには、主に二つの方法があります。伝統的な公証人を通じて手続きを行う方法と、S24と呼ばれるオンラインシステムを利用する方法です。どちらを選択するかは、設立のスピード、コスト、そして定款のカスタマイズ性の必要度によって決まります。 

伝統的な方法は、公証人の面前で定款(Articles of Association)を作成・署名し、登記手続きを進めるものです。この方法の最大の利点は、定款の内容を自由に設計できることです。例えば、複数のパートナーと合弁会社を設立する場合、株主間の権利(拒否権、ドラッグアロング権など)や複雑なガバナンス構造、特別な配当方針などを定款に詳細に盛り込むことができます。手続きには、定款の作成、公証人による認証、資本金の銀行口座への払込み、そして国家裁判所登録簿(Krajowy Rejestr Sądowy、略称:KRS)への登記申請が含まれます。通常、登記が完了するまでに数週間を要します。

これに対し、S24システムは、有限責任会社(Sp. z o.o.)の設立を迅速かつ低コストで行うためのオンラインプラットフォームです。このシステムを利用すると、司法省が提供する標準化された定款のテンプレートに必要事項を入力し、電子署名(ePUAPトラステッドプロファイルなど、事前の取得が必要)で署名するだけで設立手続きが完了します。公証人の関与が不要なため費用が安く、登記も通常1~数営業日以内に完了するという大きなメリットがあります。また、資本金の払込みは登記後7日以内に行えばよいとされており、手続きが簡素化されています。

コーポレートガバナンス

ポーランドの資本会社(Sp. z o.o. および S.A.)のコーポレートガバナンス構造は、日本の株式会社のそれとは根本的に異なります。日本の株式会社が取締役会という単一の機関に業務執行と監督の機能を持たせる「一元的取締役会(単層型)」を基本とするのに対し、ポーランドでは業務執行を担う「経営役員会(Zarząd)」と、その活動を監督する「監査役会(Rada Nadzorcza)」が明確に分離された「二元的取締役会(二層型)」が採用されています。

経営役員会(Zarząd)は、会社の日常業務の執行および対外的な代表権を持つ、執行機関です。株主総会または監査役会によって選任される1名以上の自然人の役員(member of the management board)で構成され、会社の経営責任を負います。日本の代表取締役や業務執行取締役に相当する役割を担いますが、個々の取締役ではなく「会(Board)」として一体的に機能する点が特徴です。 

一方、監査役会(Rada Nadzorcza)は、経営役員会の活動全般を監督する機関です。株式会社(S.A.)では設置が義務付けられており、有限責任会社(Sp. z o.o.)では、資本金が500,000ズウォティを超え、かつ株主が25名を超える場合に設置が義務化されます(それ以外の場合は任意で設置可能)。監査役会の主な権限は、会社の帳簿や書類を閲覧し、経営役員会から報告を求め、年次の財務諸表や経営報告書を審査して株主総会に意見を提出することです。また、定款の定めにより、経営役員会の役員の選任・解任権を持つこともあります。しかし、最も重要な点は、監査役会は原則として経営役員会に対して業務執行に関する具体的な指示を出すことはできないという点です。これにより、執行と監督の機能が制度的に明確に分離されています。 

企業グループ法による親子会社のガバナンス

コーポレートガバナンスの分野では、ポーランドは近年、企業グループに対する新たな法的枠組みを導入しました。2022年10月の法改正により導入された「企業グループ法」は、親会社が子会社に拘束力のある指示を出すことができる権限を規定しています。この新法は、親会社と子会社が共通の経済目標を追求するという定義を導入し、子会社の取締役会が親会社からの指示に従うことを原則としました。

日本の会社法には、企業グループ全体を規律する包括的な法令は存在せず、親子会社間の関係は契約に基づいて規律されるのが一般的です。ポーランドの新法は、グループ経営の明確な法的枠組みを提供することで、親会社によるガバナンスを強化する一方で、子会社の取締役や監査役の責任、および少数株主や債権者に対する親会社の賠償責任も規定しています。

M&Aと外国直接投資(FDI)規制

M&Aの法的手続

ポーランドにおけるM&Aの法的手続は、主に株式譲渡、事業譲渡、そして合併の三つの形態に大別されます。

いずれの形態においても、契約締結前に徹底したデューデリジェンス(DD)を実施することが標準的な実務です。DDの範囲は、法務、財務、税務といった伝統的な分野に加え、近年では環境・社会・ガバナンス(ESG)、ITセキュリティ、データ保護(GDPR遵守状況)なども重要視される傾向にあります。

また、M&A取引が一定の売上高基準を超える場合、事前に競争・消費者保護庁(Urząd Ochrony Konkurencji i Konsumentów、略称:UOKiK)長官に届け出て、競争法上のクリアランス(承認)を得る必要があります。この届出を怠ると取引が無効となる可能性があるため、取引の初期段階で届出要否を確認することが不可欠です。 

外国投資家が注意すべきFDI規制

ポーランドでのM&Aを検討する日本企業が、競争法と並んで最も注意を払うべきなのが、外国直接投資(FDI)規制です。ポーランドは、「特定投資の管理に関する法律」に基づき、国の安全保障や公序良俗に関わる戦略的な企業への外国投資を審査する、厳格なFDI審査制度を導入しています。この制度は当初、新型コロナウイルス感染症のパンデミックへの対応として時限的に導入されましたが、その後の法改正により恒久化され、ポーランドの投資環境における重要な規制上のハードルとなっています。

この規制の主な対象は、EU、欧州経済領域(EEA)、および経済協力開発機構(OECD)域外の投資家です。日本はOECD加盟国ですが、この規制の特定の条項下では審査対象となる可能性があるため、個別の確認が必須です。審査の対象となるのは、「保護対象事業体」への投資です。これには、過去2会計年度のいずれかで国内売上高が1,000万ユーロを超え、かつ特定の戦略的分野で事業を行うポーランド企業が含まれます。戦略的分野のリストは非常に広範で、電力、ガス、燃料といったエネルギー分野、防衛、化学、医薬品といった伝統的な安全保障関連産業に加え、電気通信、重要インフラ向けのソフトウェア開発、データ処理(クラウドサービス)、さらには食肉・牛乳・穀物・果物・野菜の加工といった食品加工業まで含まれています。また、事業分野に関わらず、ワルシャワ証券取引所に上場している全ての公開会社も保護対象となります。 

届出が必要となるのは、対象企業の株式、議決権、または利益分配権の20%または40%以上を取得する「重要な関与」や、支配権の取得に該当する場合です。審査は前述の競争・消費者保護庁(UOKiK)長官が行い、公の秩序、安全、または公衆衛生を理由に取引を禁止する権限を有しています。事前の届出と承認なしに実行された取引は法的に無効とされ、最大1億ズウォティの罰金や禁固刑といった極めて厳しい制裁が科される可能性があります。

ポーランドの労働法

ポーランドの労働関係は、労働法典(Kodeks Pracy)およびEUの関連規制によって包括的に規定されており、従業員の権利保護が手厚いことが特徴です。雇用契約には、日本の雇用契約に相当する労働契約が主要な形態で、無期雇用、有期雇用、そして試用期間契約が存在します。

無期雇用契約の解雇に関しては、日本の解雇権濫用法理と同様に、「正当な理由」が必要であり、雇用主がその理由を立証する責任を負います。労働法典は具体的な解雇理由を列挙していませんが、非行、職務怠慢、あるいは人員削減などの雇用主側に帰属しない理由が解雇事由となり得ます。また、従業員の重大な義務違反による「懲戒解雇」(summary dismissal)も可能ですが、これは非常にリスクの高い手段であり、実務上は稀なケースとされています。これは日本の懲戒解雇の要件とも類似しており、安易な解雇が訴訟リスクを高めるという点で、両国の法務実務に共通する課題です。

特に注意すべきは、法定の通知期間と退職金制度です。無期雇用契約の解雇には、従業員の勤続年数に応じた法定の解雇通知期間が義務付けられています。勤続6ヶ月未満の場合は2週間、6ヶ月以上3年未満で1ヶ月、3年以上で3ヶ月の通知期間が必要です。また、人員削減を理由とする解雇の場合、勤続年数に応じた法定の退職金支払いが義務付けられています。勤続2年未満で1ヶ月分、2年以上8年以下で2ヶ月分、8年超で3ヶ月分の給与が退職金として支払われます。

ポーランドの広告規制と薬事法

広告規制と消費者保護

ポーランドにおける広告活動は、「不正競争防止法」および「不公正市場慣行防止法」によって主に規制されています。これらの法律は、消費者を誤認させるような広告や、競争事業者を不当に誹謗するような広告を禁止しており、日本の景品表示法や不正競争防止法と共通する理念を持っています。 

特に、消費者を欺く「誤解を招く広告(misleading advertising)」は厳しく禁じられています。商品の品質、価格、原産地などについて、消費者の判断を誤らせるような表示は違法となります。また、「比較広告(comparative advertising)」については、客観的な事実に基づき、公正に行われる限りは認められていますが、競合他社の商標や評判を不当に貶めたり、ただ乗りしたりするような比較は禁止されています。

近年、ポーランドの規制当局である競争・消費者保護庁(UOKiK)が特に注力しているのが、インフルエンサーマーケティングを含むデジタル広告の分野です。UOKiKは2022年に、インフルエンサーがソーシャルメディア上で広告コンテンツを投稿する際の表示に関する詳細なガイドラインを公表しました。このガイドラインは、金銭的な報酬だけでなく、商品の無償提供(PRギフト)など、何らかの対価を受け取って行う投稿はすべて「広告」として、消費者が明確に認識できるように表示することを義務付けています。 

この規制は、日本のステルスマーケティング規制よりも一歩踏み込んだ、非常に具体的なものです。例えば、「#協力」といった曖昧なハッシュタグは不十分とされ、「#reklama(広告)」や「#materiałsponsorowany(スポンサードコンテンツ)」といった明確なポーランド語での表示が求められます。また、表示は投稿の冒頭など、消費者が容易に視認できる場所に配置する必要があり、多数のハッシュタグの中に埋もれさせたり、判読しにくい小さなフォントを使ったりすることは不適切とされています。重要なのは、この表示義務の遵守責任はインフルエンサーだけでなく、広告主である企業や広告代理店も負うという点です。UOKiKは実際に、不適切な表示を行ったインフルエンサーと広告主企業の両方に対して多額の罰金を科すなど、厳格な法執行を行っています。したがって、日本企業がポーランドでインフルエンサーマーケティングを実施する際には、現地のガイドラインを深く理解し、インフルエンサーとの契約において明確な表示義務を定め、その遵守状況を監督する体制を構築することが不可欠です。 

医薬品・医療広告の特殊性

ポーランドの広告規制と薬事法

ポーランドの広告規制の中でも、医薬品および医療に関する分野は、国民の健康に直接関わるため、特に厳格な規制が敷かれています。その根幹をなす法律は「医薬品法(Pharmaceutical Law Act)」であり、日本の薬機法や医療広告ガイドラインに相当しますが、その内容は多くの点で日本よりも厳しいものとなっています。

最大の特徴は、処方箋医薬品の一般大衆向け広告が全面的に禁止されていることです。これは、専門家である医師の判断を介さずに、患者が特定の処方薬を求めることを防ぐための措置です。一般用医薬品(OTC医薬品)については、一般向けの広告が許可されていますが、その内容には厳しい制限があります。特に、著名人、科学者、あるいは医師や薬剤師といった医療専門家、またはそう見せかける人物を広告に起用することは固く禁じられています。これは、専門家の権威を利用して消費者の購買意欲を不当に煽ることを防ぐためです。さらに、全ての一般用医薬品の広告には、「使用前に添付文書を読むか、医師または薬剤師に相談してください」といった内容の、法律で定められた警告文を必ず表示しなければなりません。

2022年に制定された新しい医療機器法により、医療機器の広告規制も強化されました。医薬品と同様に、医師を装った俳優などを広告に登場させることが禁止され、製品が医療機器であることや使用上の注意に関する特定の警告表示が義務付けられています。また、医療機関(病院やクリニック)自体も、そのサービス内容を「広告」することは原則として禁止されており、提供できるのは所在地、診療時間、サービス内容といった客観的な情報に限られます。

この分野では、EU法との関係も複雑です。例えば、欧州司法裁判所は、ポーランドにおける薬局の活動に関する一切の広告を禁止する国内法が、EUの電子商取引指令やサービス提供の自由に違反するとの判決を下しています。これは、国内の厳格な規制と、EUが保障する市場の自由との間で緊張関係が生じる典型例であり、EU法優位の原則が実務に与える影響の大きさを示しています。日本企業がヘルスケア関連製品でポーランド市場に参入する際には、これらの極めて厳格かつ複雑な規制体系を十分に理解し、専門家のアドバイスを求めることが不可欠です。 

この判決に関する公式なプレスリリースは、欧州司法裁判所の公式ウェブサイトで確認することができます。

参考:欧州司法裁判所の公式ウェブサイト

ポーランドの個人情報保護とGDPRの法的リスク

ポーランドの景品表示法と消費者保護

ポーランドはEU加盟国であるため、個人情報保護に関する主要な法源は、EUの一般データ保護規則(GDPR)です。GDPRはポーランド国内法として直接適用され、日本の個人情報保護法(APPI)と比較して、より厳格なデータ主体の権利(忘れられる権利やデータポータビリティの権利など)を規定し、違反時の罰則もはるかに高額です(最大2,000万ユーロまたは全世界年間売上高の4%)。

ポーランドのデータ保護監督機関であるポーランド個人情報保護庁(UODO)は、GDPR違反に対して積極的に罰金を科しており、以下のような具体的な事例も存在します。

  • ING Bank Śląskiに対する罰金:2025年、UODOは、アンチマネーロンダリング(AML)法上の義務を超えて、顧客の身分証明書を不必要にスキャン・保存したとして、ING Bankに対して1,840万PLN(約430万ユーロ)の高額な罰金を科しました。この事例は、単に法令を遵守しようとした行為が、より上位のGDPR原則である「データ最小化」に違反し、結果的に罰則につながるという、企業が直面しうる複雑なリスクを浮き彫りにしています。
  • マクドナルド・ポーランドに対する罰金:従業員データを含むファイルが意図せず公開されたデータ漏洩事案において、UODOは技術的・組織的措置の不備を理由に罰金を科しました。
  • 医療機関に対する罰金:医師の車が盗難に遭い、車内にあった患者の個人情報が漏洩した事案で、不十分なリスク分析とデータ保護の不備を理由に32,832PLN(約8,985ドル)の罰金が科されました。

これらは、GDPRの核心原則である「データ最小化」と「プライバシー・バイ・デザイン」が厳格に適用されている事例と言えるでしょう。

ポーランドの不動産法

ポーランドで事業を展開する上で、オフィスや工場、店舗などの不動産を確保することは重要なステップです。ポーランドの不動産法において、外国企業が留意すべき最も重要な点は、「外国人による不動産取得に関する法律」に基づく取得許可制度です。

この法律では、欧州経済領域(EEA)加盟国およびスイス連邦以外の国の国民および法人(以下「非EEA外国人」)が、ポーランド国内の不動産(土地の所有権や永久使用権)を直接取得する場合、原則として内務・行政大臣の許可が必要と定められています。この許可要件は、不動産そのものを購入する場合だけでなく、ポーランド国内に不動産を所有する会社の株式や持分を取得する場合にも適用されるため、M&Aの際には特に注意が必要です。

許可を得るためには、その不動産取得が国防、国家の安全保障、または公序良俗を脅かすものではないこと、そして、申請者である外国人がポーランドとの間に一定の結びつきがあることを証明する必要があります。事業目的で不動産を取得する場合には、その事業内容から見て、当該不動産の取得が客観的に必要であることが求められます。

しかし、この厳格な許可制度には、実務上、広く用いられている合法的な回避策が存在します。それは、非EEA外国人投資家が、まずポーランド国内に100%出資の子会社(通常は有限責任会社 Sp. z o.o.)を設立し、そのポーランド法人に不動産を取得させるという方法です。ポーランドの法律上、この子会社は、その株主が外国人であっても「ポーランド法人」として扱われるため、不動産取得にあたって内務・行政大臣の許可は不要となります。この手法は、手続きの煩雑さと不確実性を伴う許可申請を回避できるため、日本企業を含む多くの非EEA圏の投資家にとって、ポーランドでの不動産取得における標準的なスキームとなっています。ただし、この方法を採る場合でも、会社設立や維持に関するポーランドの会社法や税法の遵守が当然に求められることになります。 

ポーランドの景品表示法と消費者保護

ポーランドでは、日本の景品表示法に相当する消費者保護のための広告規制が設けられています。主な法規は「不公正な商慣行の防止に関する法律」(Act on counteracting unfair commercial practices)「不公正競争防止法」(Unfair Competition Act)です。

「不公正な商慣行の防止に関する法律」は、消費者の市場行動を著しく歪める可能性のある行為を禁止しています。特に、「誤解を招く商慣行」(misleading commercial practices)と「攻撃的な商慣行」(aggressive commercial practices)が不当な商慣行として明記されています。誤解を招く商慣行には、製品の成分や原産地などについて虚偽の情報を提供する行為が含まれ、重要な情報を不明瞭な方法で隠蔽することも該当します。一方、攻撃的な商慣行は、消費者の自由な選択を著しく損なうような不当な影響力を行使する行為を指し、自宅への執拗な訪問などが例として挙げられています。

「不公正競争防止法」は、より広範な「違法な広告」(illegal advertising)を規律しています。これには、法律、良俗、人間の尊厳に反する広告、顧客を誤解させる広告、恐怖心を煽る広告、中立的な情報に見せかけた広告などが含まれます。さらに、「比較広告」についても、誤解を招くものでないこと、客観的基準に基づいて比較可能であること、および同一のニーズを満たす製品・サービスを比較することなど、厳格な要件が定められています。

ポーランドの税法

ポーランドの税制は、法人所得税(CIT)付加価値税(VAT)が主要な柱となっています。

法人所得税(CIT)については、日本の法人税と同様に、ポーランドに本社または経営拠点を置く企業は全世界所得に対して課税されます。一方、非居住者企業はポーランド国内源泉所得にのみ課税されます。CITの標準税率は19%ですが、売上高が200万ユーロ以下の小規模事業者には9%の優遇税率が適用されます。これは、日本の中小企業に適用される軽減税率(通常15%)と比較して、より低い水準の税率でビジネスを開始できる可能性があることを示しています。また、外国企業の支店も法人格がないにもかかわらず、原則としてポーランド源泉所得に対してCITが課税されます。

付加価値税(VAT)は、日本の消費税に相当する間接税です。VATの標準税率は23%で、特定の物品やサービスには8%、5%、0%の軽減税率や非課税が適用されます。ポーランドでは、年間売上高が20万PLNを超える事業者はVAT登録が義務付けられています。日本の消費税のように、仕入れ時に支払ったVAT(Input VAT)は、売上時に受け取ったVAT(Output VAT)から控除することができます。特筆すべきは、日本の税制にはない「スプリット・ペイメント」制度が導入されている点です。これは、取引金額が15,000PLNを超える特定の取引において、買主が支払う代金を「本体価格」と「VAT分」に分けて、VAT分を売主の専用VAT口座に直接入金する仕組みです。

まとめ

ポーランドは、その力強い経済成長と欧州市場への戦略的なゲートウェイとしての地位から、日本企業にとって引き続き大きな可能性を秘めた国です。本記事で概観したように、その法制度は、日本と同じ大陸法の基盤を持ちつつも、EU加盟国としての独自の法秩序を形成しており、事業展開にあたっては、この二重構造を深く理解することが必要です。

ポーランド法の特徴的な要素を改めて要約すると、第一に、あらゆる法分野の根底に存在する「EU法優位の原則」です。個人情報保護におけるGDPRの直接適用から、競争法、消費者保護、AI規制に至るまで、EUのルールが国内法に優先し、企業のコンプライアンス体制の根幹をなします。第二に、日本の単層型とは異なる、執行と監督を明確に分離した「二層型のコーポレートガバナンス構造」です。経営役員会と監査役会の権限と責任の違いを理解することは、効果的な子会社管理に不可欠です。第三に、特に非EU/EEA圏の投資家を対象とした、広範かつ厳格な「FDI審査制度」の存在です。エネルギーやITだけでなく、食品加工業なども含む戦略的分野への投資には事前の承認が必要であり、M&A戦略の初期段階からの検討が求められます。さらに、医薬品やインフルエンサーマーケティングなどにおける厳格な広告規制、外国人による不動産直接取得の際の許可制度(およびSPVによる回避策)など、日本法との差異が大きい分野が数多く存在します。

関連取扱分野:国際法務・海外事業

弁護士 河瀬 季

モノリス法律事務所 代表弁護士。元ITエンジニア。IT企業経営の経験を経て、東証プライム上場企業からシードステージのベンチャーまで、100社以上の顧問弁護士、監査役等を務め、IT・ベンチャー・インターネット・YouTube法務などを中心に手がける。

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